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『がァっ……!? この野郎、式神を領域の中に忍ばせていたってのか!?』
「ご名答……しかし面白くない術式を付与しているものだ」
必中設定するだけで必殺になるとは、何の面白みもない領域だ。もっと跡切みたいに芸術点を稼ぐ仕様を考えろよ。押し合い対策については光るものを感じたがな……。
「確かに、雷を必中術式に設定すれば、領域内の対象は悉く感電するだろう。即死だ。領域対策を張ってなければまず死ぬだろうな。
だが……それなら必中設定をする必要があるか? そもそも雷を回避することなどできないんだ。必中にする必要は無い。
現に私や佳子の領域対策で術式を防がれているだろう。設計思想が一貫していないからそうなる。白い靄による押し合い対策は見事だったのに、どうして此処が雑になるかな」
『チッ……うるせェな。結界の構成要件なんかそう簡単に調整できるわけねェだろ。羂索みてェなこと言い出しやがって』
食い取った右腕が泡立つように再生していくのを眺めながら、私は佳子と一緒に一旦距離を取る。
……「
『それに……俺が操っているのは、白い靄じゃねェ。「雲」だ』
……! 術式の開示……!! もう展延外で「
『周辺にある水……目に見えないほど微小な水をも集めて作り出した「雲」を起点にして、天候を操る。それが俺の術式効果だ』
「雲」……「天候」。
なるほど、神泉苑が水で半壊になっていたのは豪雨を、先ほどの電撃は雷を操っていたというわけだな。
『「
雲を起点にしているということは、雪や霰も使えそうだな……。雨を使った後に雷で大量感電というような手も使えそうだ。……必中設定の雷ではなくデフォルトで雷を撃たれたら、佳子は厳しいな。
……先ほどの戦闘で存在感を出してしまった以上、おそらく次は敵も佳子から狙って来るだろう。佳子を庇いつつ特級の領域が解除されるまで粘る、か……。
「尊。私のことは気にしないでいいですよ」
そこで、佳子は私の心配を振り払うかのようにそう言い添えた。
「天才の佳子さんがあんな単細胞呪霊の見え見えの電撃なんて食らう訳ないじゃないですか。ふふん」
やけに自信満々な佳子だが、確かにさっきからずっと、アイツの電撃の予兆を見切ってるんだよな……。六眼の力で呪力の起こりでも見極めているんだろうか。
何にせよ、心配が要らないというのは間違いないと見ていいだろう。……余計な心配だったな。
「了解しました。じゃあ、援護は任せます」
佳子のことを気にしなくていいのであれば、私も大分やりようはある。
両拳に呪力を集中させる形で、私は攻撃姿勢に入る。展延と同時に呪力操作をやるのは、大分呪力量の消耗が激しいが……。
……ヤツは、「
その弱腰を……狙う!!
『チッ、「雲外蒼天」!!』
滂沱の両手に、「雲」が生み出される。
佳子からの警告は……ないな。雷ではないらしい。とすると、次に来るのは雨か……? 私の接近を妨げたいのなら、雪を降らせて目潰しにしてくるという可能性もある。
だが、いずれにせよ──
『「白魔」!!』
ドッ!! と、私の予想通り、大量の雪が「雲」から放たれる。液体の雨や電気の雷と違い、固体の雪は領域展延で散らしたとしても、すぐに散らばってしまうわけじゃない。下手に形を持っている分、展延ぎりぎりの部分で滞留し私の視野を埋めかねない。
ただし──それが最初から分かっているのなら、跳躍して雪の「上」を取ってしまえばいい。
「お前の術式は、雲から直線状にしか天候を操作できない。……先ほどから雷しか使っていなかったのは、その弱点に気付かせない為の策略だな」
だが、気付ける要素は最初からあった。
そもそも雲を起点にした天候というのは、「雲から降る」ものである。雲の横から天候が放たれるというのは、感覚的に納得がいかない情景だ。ただし、アレが「横向きにした雲から
そして、先ほど私が吹っ飛ばした際に「雲」を先回りさせた途端吹っ飛ばされる勢いが止まった件。
「「降る」ことを優先させた結果、か。その「雲」の延長線上では、雨が落ちる方向すら変わるのだろう?」
つまり、ヤツの術式には二つの段階があったのだ。
一段階目で、「雲」を発現。さらに発現した際に「雲」の向きを決める。この時に決めた向きが「雲」にとっての"下"になり、重力の向きが変化する。
二段階目で、「雲」から雨なり雷といった気象が発生する。この際に出力は調整できても、方向は変化させた重力の向きの通りにしか放てないというわけだ。
先程吹っ飛ばされた滂沱が空中で静止したのは、吹っ飛ぶ方向と真逆の方向に重力を働かせたから。そういうことなのだろう。
これまで、滂沱の術式を一度もモロに食らっていないから気付けなかった。あるいは、領域の外であれば巻き込まれた物質が落下したことで気付けたかもしれないが──領域の中での戦いだったことで、障害物の類が少なかったからな。
『だが──「雲」の向きはいつでも変えられるがなァ!?』
滂沱がそう叫ぶと、言葉の通り吹雪の方向がぐいっと上に向き直される。当然、その射程は私を捉えている。足先から全身にかけてを吹雪の射程に入れられたことで、一時的に私は雪に呑み込まれた。
……展延のお陰で吹雪をモロに受けたわけじゃないが、散ったとしても雪が消えるわけじゃない。さっき考えた通り、目隠しとしてはちゃんと機能してしまうのだ。
とすると次は──
「尊!! 右です!!」
……本当に助かるよ、天才……!!
佳子の指示に応じて、私は大雑把に右方向へ向き直り、防御を固めた。すると次の瞬間、滂沱の拳が私のガードに突き刺さる。
『これも防ぐか……! 面倒くせェ!!』
数メートルほど後ろに吹っ飛んで衝撃を殺しつつ、私は拳を構え直す。──態勢を整えたのもつかの間、滂沱は間髪入れずに吹雪の中から飛び込んで来た。
それを迎え撃つように、掌底。しかし滂沱はそれを左拳で弾くと、残る右拳を振りかぶり、
「尊!!」
「心配要らない!!」
私の顔面を殴打した──が、これは呪力で防御する。
……痛いな。口の中が切れたのを感じるが、骨や脳には異常はない。視界も良好だ。これなら──カウンターが決まる!
『な』
私は
突如現れた己の術式の産物に、滂沱は驚愕で一瞬動きが強張った。
──「領域展延・深」が散らすのは、あくまでも必中命令や術式効果のみ。そして滂沱が生み出した気象現象は、元は通常の物質。つまり、重力圏から出て操作を失った水や雪は単なる物質であり、ただ私の周囲に展開された領域の中に入っていくのみとなるのだ。
つまり先程の目潰しは、そもそも受けることが私にとっては既定路線。あえて最初に回避したのは、その可能性を滂沱に考えさせない為だった。
佳子が攻撃方向を教えてくれたのは想定外の幸運だったが、まぁそれでも一撃くらいは必要経費のつもりでいた。リスクを取らねば、特級の領域から生還することなどできないからな。
「「
「
展延の中にいる「
今回も細切れにしたし、時間稼ぎについては十二分。当然、虚を突かれた滂沱は毒液を浴び──しかし、「縛り」により腐食は始まらない。
そして。
「──ようやく、本来の用法ができるよ」
ピッ、と。
ビー玉を指ではじくように、私は呪力を弾いて毒液にぶつける。直後。
ドボアッッ!!!! と、毒液に含まれていた呪力が一斉に
炸裂したのはボディ──いいものが入ったと思ったが、領域はまだ解除されていない。ということは、防がれたか!!
即座に判断して両腕を交差すると、カウンター気味に振るわれた右フックが私の腕に突き刺さった。
私が毒液をぶつけたのは、腹のあたりだが……そこには、「雲」が僅かに散り散りになって残っていた。やはり防御していたか。四肢で防御する暇はなかったから、咄嗟に「雲」を作り出して防いでいた訳だ。……領域内ならではだな。
だが……今のを防いだんだ。おそらく瞬間的にかなり膨大な量の「雲」を使ったはず。……この領域内での必中命令を介さない術式の行使は、領域に使った「雲」から一部を切り取って使用しているはず。あまり切り取りすぎれば、領域の維持すら危うくなっていくだろう。
じり貧だが、悪くない。……このまま「雲」を削りながら戦っていく路線も、まだありえる。ただ……。
「……以前の特級戦より、呪力量が、上がってる……?」
と。
私の戦闘を見ていた佳子が、ぼんやりと呟く。私はその言葉を聞いてすぐに、
「それは質問ですか!?」
「えっいや、違いますけど……」
「ならいいです!!」
呪力量については、まぁまぁ張り合えている。
だが、肝心の呪力出力とそもそもの格闘能力に雲泥の差がある……! 搦め手の毒液も「雲」で防がれてしまうとなると、私一人の力ではどう足掻いてもじり貧……! 「雲」切れを狙うにしても、佳子との連携が必要不可欠だ!
私は一旦、佳子の近くまで下がる。
すると佳子も私の意を汲んでくれたのか、すぐに近場まで駆け寄ってくれた。
そして、
「……ねぇ、尊。私の分の対領域防御も肩代わりしてくれませんか?」
などと無茶苦茶なことを言い出した。
いやお前、シン・陰流の「簡易領域」とかならいざ知らずな……。
「はぁ? 何を……」
「作戦があるんです。……尊も、このままじゃじり貧だって分かってるでしょう? 此処でやらなきゃ、私達二人とも此処で死にますよ!」
……チッ。確かに、虎の子の毒液も防がれたのは事実……。何か新しい一手が欲しかったところではある……! ある、が……!
「…………無茶を、言ってくれますね……! いいでしょう!!」
だが一方で、私が佳子の領域対策を肩代わりできれば、佳子を戦わせることができる。
私の技術は結界術に寄っている。接近戦に関しては、六眼を持つ佳子の方がはるかに適性があるからな。適材適所でいえば、佳子が前衛に回る方が正しいのだ。
そもそも、彌虚葛籠にしろ領域展延にしろ、この時代の領域対策は「自分の身体」に限定した対策が主流なのだ。「簡易領域」のように周囲の空間全体に広げて、かつ気軽に使えるような技術はどこにも存在しない。
存在しない技術を使って援護せよとは、本当に一体どういう了見なのだろうか。私は天の神様じゃないんだぞ。無茶振りも程々にしてほしい。
「彌虚葛籠……!」
私は展延を解いて、彌虚葛籠を発動する。さっきまで展延の中にしまっていた黒焦げの「
そしてすかさず、掌印を追加。
……やるしか、ないだろう。この場で、彌虚葛籠を改良する……!!
彌虚葛籠本来の掌印である外縛印からの内縛印から、日輪印に。そこからさらに隠形印を組む。
外縛印は愛染明王を、内縛印は聖観音を、日輪印は弥勒菩薩を、隠形印は文殊菩薩を意味する掌印だ。聖観音もまた菩薩の一種であり、一つの明王と三つの菩薩を重ねたこの掌印の意味は──悟りに至るまでの修行の場、つまり隔絶した領域。さらに、
「"漆" "赤土" "蘆矢の鏃"……!」
呪詞の詠唱も追加だ!
「"蜷局の大蛇"──"広げ・延ばし" "研ぎ・薄めよ"!!」
我流 「簡易領域」……!!
呪詞の詠唱が完了すると、無事に私の足元を起点として、楕円形状に簡易的な領域が展開される。……もちろん、本物の領域の前には時間稼ぎ程度にしかならない代物だが……!
で、オーダーをした佳子はというと、目を丸くしながら、
「尊、こんなことできたんですか!? なら最初からやってくださいよ!」
こ、このクソガキ!?
「たった今我流で組んだんだよ!! お陰で掌印も詠唱もガタガタだ……!!」
「えぇ……」
思わず素が出たが、もうそんなことを取り繕っていられる余裕などない。こちとらオリジナルの結界術をぶっつけ本番アドリブで実行しているのだ。こんなに肝の冷える経験は早々ない。それをこのガキ、最初からやってくださいとか……! ……後で泣かす!
「掌印と呪詞の追加に加えて、掌印の維持と私がこの場を一歩も動かない「縛り」で展開した簡易的な領域だ! 言っておくが、長くは持たないぞ!!」
「十分です!」
ニッと笑みをこちらに向けた佳子は、それから滂沱に向き直り、
「この天才なる佳子さんの術式──「
ちなみに、尊が自覚する前にもちょこちょこ素は出ています。
尊は気付いていませんが、佳子は何気にそのことを認識していてほんのり喜んでます。