私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

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呪毒進運編
第14話 天才娘


 その後。

 平安京に戻った私は、これから生活するという邸に入って、とりあえず客間で待たされていた。晴明翁は私の所属のことで叔父上と話すことがあるとかで、今は不在だ。

 此処には、先ほど晴明翁の傍にいた少女がいる。

 

 どうも晴明翁が管理しているこの屋敷は現代で言うところの五条家のような組織らしく──有体に言うと、晴明翁が拾ってきたと思しき粒揃いの呪術師がごろごろいる。……案外、こういうところから名家っていうのは生まれるのかもな。今でもなんか「ひとつの安倍家」みたいな連帯感を感じるし。

 

 

「改めて、挨拶しますね。わたしは晴明の一番弟子、佳子(かこ)です!」

 

「はぁ」

 

 

 白髪の女の子は、正座したまま胸を張る。私としては「そりゃ六眼ならそうでしょうね」という感想なので頷くほかないのだが……。

 

 

「なんです? その反応は。……まぁいいです。そういえば、アナタの名前をちゃんと聞かせてもらっていませんでしたね。佳子さんはちゃんと覚えてますけどね! 天才ですので!」

 

「尊です。よろしくお願いしますね、佳子さん」

 

 

 鼻持ちならないガキだなー……と思うものの、推定六眼で晴明翁の弟子ならそりゃあ鼻持ちならなくもなるというものだ。

 多分術式も凄いのだろうし、戦闘力でいえばまず現時点の私は超えているだろう。大人しく強者として尊重する姿勢を見せる。六眼の呪力操作の精密さも、それはそれで参考にしたいしな……。

 …………が、その態度が彼女的にはお気に召さなかったらしく。

 

 

「……あの、どうして敬語なんです?」

 

 

 少女──佳子は、心底不思議といった調子で首を傾げる。敬語のことを言うならお前も敬語だろ。

 

 

「佳子さんもでは?」

 

「わたしは優雅な天才なので、これが素なのです! でも、アナタは呪霊と戦っていた時はもうちょっと砕けていたじゃないですか。あっちが素ですよね? アレでいきましょうよ」

 

「…………」

 

 ああ、そうか。戦闘の模様を観察していたということは、あの時の言動の一部始終は聞かれていたのか。盲点だったな……。ということは、晴明翁には猫被りはバレているわけだ。

 しかし、意外と人間がよく見えているな、この子。いやまぁ六眼は原子レベルで呪力操作ができるとかって話だし、呪力の流れから感情の機微まで逆算できたりするのかもしれないが。

 とはいえ、私は安倍家の中では外様で新参者である。ぶっちゃけ私は自分の素が他人から見たら酷く冷たく高圧的に映ることを自覚している。だから普段から敬語を使って誰に対しても猫を被っているのだ。()してや年端もいかない女の子の前で地を出したくはない。……ちょっと誤魔化そうか。

 

 

「……アレは敵対者相手だからです。普段は、誰に対しても敬意を持って接していますよ」

 

「敬意ですかぁ~?」

 

 

 ところが、佳子は訝し気に首を傾げながら目を細めた。胡散臭いものを見るような目で私のことを見るんじゃあない。

 ……まぁ、敬意があるかと言えば、今のところ晴明翁や羂索以外に敬意を持ってはいないが。でも、思いのほか食って掛かるなこの子……。同年代だから思うところがあるのか?

 いや、六眼のことも考えると、今まで天才天才と持て囃されて育ってきたのだろう。そこに来て、晴明翁が手ずからスカウトしたのが私だ。正直佳子の方が現時点で優秀だとは思うが、佳子からしたらライバル視があるのかも。……ちょっと自己主張は控えておくか。此処であまり揉めたくない。

 

 

「……はい、本当ですよ。あの晴明様のお弟子様ですから。まだこの邸も分からないところが多いので、是非教えて頂ければ」

 

「ん……、そうですね! まぁ佳子さんは天才ですから? 色々と分からないことは教えてやらんでもないですよ!」

 

 

 煽ててやると、佳子は胸を張って太鼓判を押した。純粋な子である。

 話が邸の方に移った佳子は、そのまま膝を立てて立ち上がろうとする。

 

 

「では、いい機会なのでお屋敷を案内します。これは自慢ですが、佳子さんは天才なので、このお屋敷に赤ん坊の頃から住んでいますからね。ばっちり全部案内して差し上げますよ! 大船に乗ったつもりでいてください」

 

「はい、お願いします」

 

 

 うまいこと話題を逸らすことができた。

 私はさっさと立ち上がり、佳子の案内を待つ……が。

 その佳子が、なかなか立ち上がらない。膝立ちのまま、何やら硬直している。包帯で目隠ししているので分かりづらいが、よく見ると表情も強張っていた。

 

 

「…………佳子さん?」

 

「な、なんでもありません。すぐ立ち上がるので気にしないでくださいね」

 

「…………足、痺れました?」

 

「……………………そ、そんなわけないでしょう」

 

 

 この子……ひょっとしてポンコツだな?

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 その後は、邸を案内してもらうことになった。

 

 この時代、貴族の邸宅のつくりは"寝殿造"が基本となっている。

 寝殿造がどういうものかというと、簡単に言えば「壁のない平屋建て」だ。中核となる"母屋(おもや)"があり、その外周を囲うように少し天井の低い空間"(ひさし)"がある。家の中に壁はなく、移動・取り外し可能な「障子」(ここで言う障子は現代の障子とは違い、屏風や御簾等の屛障具(へいしょうぐ)の総称である)で部屋を仕切るつくりだ。

 他に渡り廊下のように屋根だけある道として"単廊"あるいは"複廊"があったりもする。

 どうしてこういうつくりになっているかというと……(私も別にこの時代の風俗に詳しい訳ではないし、建築様式の成立が載った本を読んだことがあるわけでもないが、体感として)この時代の夏が、クソ暑いからである。夏は湿気が多く気温も高い。そのくせ冷房は存在しない。なので、貴族の邸宅はなるべく壁を作らず、風通しの良い住宅空間にしているという訳だ。

 

 ただし、これはあくまで基本の話。

 

 佳子に紹介されたこの邸はといえば──普通に、壁が立てられていた。

 

 

「……この家には、壁があるんですね」

 

 

 佳子に先導されながら、私は声を小さくして問いかけた。

 普通に考えて、壁はないほうがこの国の気温には合っている。私もそれほど多くの家を見て来た訳ではないが、呪術師として呪霊を祓うようになってそこそこの家を回って来た。その経験から言うと、これほど広い邸で壁が仕切りとして使われている家は見たことがない。

 だから、何か呪術師が集まる家ならではの理由があるのでは──と思ってのことだ。

 

 佳子は話を振られると首を傾げて、

 

 

「そういえばそうですね?」

 

 

 と、簡単な調子で答えた。……いや、知らないんかい。まぁ、知らないか。子どもだしな。そんなこと気にしたりしないか……。

 

 

「随分、面白いところに目をつけるね?」

 

 

 と。

 

 壁で仕切られた部屋の中から、女性の声がした。

 

 ……話を聞かれていた? いや、別に聞かれていても問題ないが……わざわざ向こうから接触してきたのが気になる。

 私だと知らずに会話に首を突っ込んで来たのはないだろう。つまり、元々この邸に詰めていた呪術師の一人が私に干渉してきたということだ。その意味は……? 友好的か? 敵対的か? それによって対応の正解がまるきり変わってくる。

 

 

 ずず、と。

 襖戸が開けられ、中から一人の少女が現れた。

 佳子や私と同じく、巫女服を身に纏った少女だ。背丈は私達のそれよりもかなり高い。思わず見上げてその顔立ちを確認し、私は驚愕が顔に出るのを何とか抑えた。

 女性の顔立ちは、日本人のそれではなかった。栗色の髪に、緑の眼。明らかなヨーロッパ人の顔立ちだ。前世では無学(推定)だったせいか、ヨーロッパ人種の見分けはつかないが……多分、オランダとか?

 ……平安時代に、バリバリの外国人。此処は本当に平安日本か? と疑いたくなるが──一方で、私には心当たりもあった。

 

 「彼女」の術式は、キリスト教に立脚したネーミングだったはずだ。

 術師の脳で生得術式の内容がどのようにして決まるかは私には見当もつかないが、"生まれつき""ある程度遺伝する""生育地域・時代の習俗を反映した"術式が発現していることを考えると、"海外文化をモチーフにした術式"は最低でも海外の血を引いている必要があると考えられる。

 かつ、この平安の世で術師をやっているという前提条件を加味すれば、目の前の異邦の血を引いた少女の素性についても大方の推測は可能である。

 その彼女の素性というのは──

 

 

「口を挟んですまないね。私のことは、「天使」と呼んでくれ」

 

「涅漆鎮撫隊」所属

「天使」

 

 

 「天使」。

 原作でも登場した、平安時代から時を経て受肉した術師だ。

 女性だったのかとか、外国の血を引いてたのかとか、驚くべき事実は多くあるが……そういえば、天使は安倍氏配下の組織に所属していたんだったか?

 

 

「天使……?」

 

 

 とりあえず、前世はともかく今までの人生で私が初めて聞く語彙なので、首を傾げておく。

 私と天使の間に佳子がすっと入って来て、

 

 

「気にしないで大丈夫ですよ。この人ちょっと変なので」

 

「ははは、変とはご挨拶だね、佳子。まぁ、否定はしないよ。私の信条の問題だ。この子の言う通り、あまり気にしないでくれ」

 

「ね!? 変でしょう!? めちゃくちゃ拘るくせに変なところであっさり引くんですよ!!」

 

「そこがですか……?」

 

 

 もっと変なところはあるだろ。偽名を名乗って本名を教えないところとか。幼女の会話にするりと混ざり込んでくるところとか。フレンドリーそうな気配は感じるが根本的に変人だろ、この人。

 確かに、原作で登場した時も「神の理」とか言ってたわりに神様とかそういう考え方に関する厄介な態度をとることは一切なかったが……。アニメや漫画の狂信者キャラって大抵はそこの信仰の形態でやかましくなることが多いから、余計に印象に残っていたのを覚えている。

 

 

「良い子だろう? 私も気に入っているんだ、彼女のことは。君もきっと仲良くなれるだろう。同年代同士楽しくやるといい、尊」

 

「お心遣い痛み入ります」

 

 

 ……ああ、こちらから名乗っていない名前を伝えてくるということは、「お前のことは知っているぞ」というアピールね。

 なるほど、得体の知れない藤原のガキがお気に入りのガキの近くに来たから、牽制ってところか? それならこちらに接触してきた理由も納得できる。

 

 

「さて、君の先ほどの疑問だが……」

 

「あ、その話はその話で続いていたんですね」

 

 

 そんで「なんで普通に壁があるのか」についての疑問には答えてくれるんかい。

 

 

「理由は単純だ。術師は変人が多くてね」

 

 

 そして思った以上にしょうもない理由だ!!

 

 

「普段呪力を生成する為に負の感情を取り扱っている反動か。呪術師は性格に難があることが多い。嘆かわしいことにね。通常の邸の造りでは、居住空間を隔てる壁としての強度がやや乏しい」

 

「……住人同士の諍いを回避する為という訳ですか」

 

「ご明察。やはり噂通り聡い子だ」

 

 

 まぁ、マンションやアパートでは隣人トラブルはつきものだからな……。

 そしてここでも出て来たか、「噂」。私の存在って意外と有名なんだろうか? それはそれで、何か嫌なんだが……。術式についての情報がどこからともなく漏れてたりしないよな? 式神の情報くらいはバレていても不思議じゃないが……。

 

 

「これについては、新たに術師が入ってくるたびに騒音での諍いが毎度発生しているからね。君なら一度忠告しておけばその点問題ないだろうと思ったから、機会を伺っていた」

 

「あー! わたしが説明しようと思ってたのに!」

 

「ははは、すまないね。役目を取ってしまった」

 

 

 天使はそう言って笑うが、まぁさっきまでの反応からして佳子がそこの説明をするつもりがあったかといえば多分ないわけで……。

 説明してもらってなかったら、私もうっかり騒音トラブルをやらかしていたかもしれないと思うと、有難さを感じる限りだ。ありがとう天使。

 

 

「まったくもう。いったいなんなんですか。せっかくわたしが尊に邸を案内しようと思ってたのに! 横からおいしいところを持っていくなんて!」

 

「ちょうど出掛けに話し声がしたからね。せっかくだし顔合わせをしておきたかった。それだけだ。これ以上邪魔するつもりはないから安心してくれ」

 

 

 食って掛かる佳子に、天使はそう言うと手をひらひらと振りながら歩き去ってしまった。

 

 どうやら本当にそれだけしか用はなかったらしい。確かに、変人だ。原作を読んだ限りだと堅物というイメージしかなかったが……。……いや、原作でもうっかり来栖の恋愛感情をバラしかけたりと、ちょっとズレてるところはあったか。

 

 終始マイペースに話しただけで去って行った天使の後ろ姿と、むくれながらその後ろ姿を見送る佳子の横顔を見比べながら、私は思った。

 この邸……もしかして、おかしな奴らばかりなのか……?




本日の「お前が言うな」会場はこちらです。

なお、天使の設定は捏造設定です。単行本の補足で設定が矛盾したら調整入ります。
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