私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

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平安時代は現代よりカジュアルに領域が運用されていたらしいので、
私なりに攻略を巡る駆け引き前提の領域っぽい感じを出してみました。


第11話 奇貨 ─伍─

 割と一か八かだったが──川の中に飛び込むと、領域展延で散らされた水量は割と浅かった。

 一メートル弱ほどの水をかき分けると、その下には細長い漆黒のドームのような空間が伸びていた。──やはり領域があったか。

 

 

『キヒッ……なるべくなら、お前は入れたく……なかったが……』

 

 

 裏をかかれて増水した川の岸に置いて行かれた跡切は、私の方へ振り返りながらこう呟いた。

 

 

『まぁ……いい』

 

 

 ドプン、と。

 

 直後、私は川底の領域へと踏み込んだ。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 そこは、清廉な気配を感じる洞窟だった。明かり一つない空間だが、奥の方にある地底湖から放たれる水色の光で洞窟全体がうすぼんやりと照らされている。洞窟というと狭い空間のような印象だが、此処はむしろ広々とした印象を感じるのが不思議だった。岩肌でゴツゴツと覆われているのに、まるで大きなトンネルのようにだだっ広い空間が広がっているのだ。

 そして、洞窟の地面には幾本かの川が絶えず流れていた。その川の流れに足を踏み入れると、ぱしゃっと水が乱れて散っていく。……現在私は万万が一の必中対策に展延を使っているので、弾かれたということはこの水は「流れ」を操作されているのだろう。やはり、領域内を通って水を引っ張ってきていたのか……。

 

 

『忌々しい……』

 

 

 領域内に入ったと同時に、傍らで声が聞こえた。

 

 弾かれたようにそちらの方を見ると、そこには跡切をデフォルメしたような式神の姿が。

 一瞬攻撃かと思って「壺」を発現しようとしたが……いや、多分違うな。おそらく、領域のルール説明役だ。死滅回游と同じく、結界に入った者へ法則を周知する為の「縛り」の調整要素という訳だ。

 証拠に、式神は攻撃することなく口を開いた。

 

 

『この結界は……本体・跡切が展開した……結界だ。結界に侵入した者には……結界の構成要件と……攻撃内容を提示してからでないと……攻撃できない「縛り」になっている。俺は「ナカス」……術式説明の「縛り」として具現化した式神だ……。この説明中は……結界内の時間経過は限りなく……短くなり、説明終了後に時間の速度は外界と同期される……』

 

「了解した」

 

 

 だとすると、おそらく説明中は私もこの結界に対する攻撃的な行動はとれないとみていいだろう。

 大人しく説明を聞くしかないな……。

 

 

『この結界は……本体・跡切の術式で「水流」を操る際の操作範囲を……拡大する目的で……展開されている……』

 

「質問いいか?」

 

『…………普通この局面で現れた式神に……質疑応答を始めるか?』

 

 

 どうせ攻撃的な行動がとれないなら、少しでも情報を得ておく方が合理的だろう。

 そして、単なるメッセージ再生機じゃなくて応答する知能もあるって訳ね。ますます死滅回游みたいだな。

 こういう「実現するのにどういう術式を構築すればいいんだよ」っていう複雑な機能も、「縛り」が絡むと意外と実現できるのが理不尽なところだよな……。それだけ、呪術においては「縛り」の足し引きを考えるセンスが重要ってことだと思うが。

 

 

「で、質問は許可されているのか?」

 

『……「縛り」の関係で、質疑応答に関わる……補足はする義務がある……』

 

「じゃあ、跡切の術式は具体的にどういったものだ? 結界の目的が術式の拡張なら、拡張前の術式を提示しないと説明としての意味を成さないと思うが」

 

『……………………』

 

 

 此処で術式について明確な回答を得られれば、この後の動きについても粗方想像がつく。

 私の予想が正しければ、この後に大一番が控えているからな……。今のうちに特定作業は済ませておきたい。

 

 

『……本体・跡切の術式は、「生々流転」。術式効果は……「事物に"向き"を与え、操作すること」だ……。通常は本体・跡切の接触によって発動し、接触点からおよそ半町(五〇メートル)だが……この結界内においては無制限となる……』

 

 

 向きを与え、操作すること。なるほどな。ほぼ思った通りだ。静止物も対象にとることができたのは意外だったが……。

 

 

『結界の構成要件は……以下からなる……。

 

 ①結界内に存在する「領域の象徴」の実体化。及び破壊による領域の強制終了。

 

 ②「領域の象徴」から一歩(約二メートル)内での殺害の禁止。

 

 ③結界外での気流操作以外の術式行使の禁止。

 

 ④結界内での溺死以外の死因での殺害の禁止。

 

 ⑤領域の外的範囲の制限。

 

 ⑥領域への必中命令付与の禁止。

 

 ⑦侵入者の生還の禁止』

 

 

 …………領域の象徴の実体化、か。

 宿儺の「伏魔御廚子」然り、領域内では独特な建造物が発現される。これは単なる象徴であって干渉不能なのだが……これを干渉可能にする「縛り」ということか。そして、これを破壊できれば領域も強制終了する、と。大方私の予想通りだな。

 

 

「ナカス、質問だ。「領域の象徴」は此処からだと見えないが、位置はどこにある?」

 

『それについては、教えられない……。「縛り」は……存在を教えた時点で……釣り合いが取れている……』

 

 

 ……なるほどな。⑥と併せて考えると、領域内で強化された術式を回避しながら「領域の象徴」を探す駆け引きが想定されている訳だ。

 確かにそれならば侵入者側が敗北確定という訳でもないから、領域内に引き込むことがデメリットになりえる。領域範囲の拡張に伴う「縛り」の一つとしては、妥当なレベルか……。

 

 

「次だ。④について、此処に本体はいないようだが、どうやって溺死させるんだ? 領域に術式が付与されているのか?」

 

『その質問に答える義務はない』

 

「……なるほどな。じゃあ、溺死以外の死因での殺害の禁止とのことだが、領域内での術式の使用制限はないのか?」

 

『ない。しかし、万が一にも溺死以外の死因で殺害した場合は「罰」が発生するから、基本的に水流以外は扱わないだろう』

 

「…………ほう」

 

 

 私は頷いて、

 

 

「最後だ。領域の外的範囲の制限というのは?」

 

『領域の外郭の範囲についての「縛り」だ……。この領域は川底を最低範囲として……、水位を超えない分だけ……領域を拡張できる。拡張速度は……半刻(一時間)で一尺(三〇センチ)だ……』

 

 

 ふむ。加速度的に水量自体も増加するであろうことを考えると、妥当な拡張速度、か……。

 

 

『他に質問はないか? なければ……「はじめ」の掛け声と同時に術式説明は終了し……以降、質問には応じない……』

 

「問題ない」

 

 

 …………本体である跡切が領域外にいる以上、領域内の様子を確認する方法は()()()()存在しない。

 おそらく、「ナカス」はそれをカバーする為に用意された式神だろう。術式開示の説明役というのは半分本当で半分ブラフ。コイツの真の役割は領域内での跡切の目となることだ。

 コイツは死滅回游の案内(ガイド)役であるコガネと違い、完全中立ではない。最初の『忌々しい』という発言しかり、④の補足説明で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことからも、それは明確である。

 説明役として無害な立ち位置であることをこちらに印象付けることで、至近距離から観察していても不審に思われないようにしているといったところか。呪霊のくせに、なかなか術師である。

 そして、位置が分かっていればこの長大な結界の中の水を全てこちらに集中させることも当然可能だろう。此処までを説明中に理解して、攻撃開始と同時にナカスを破壊し全力回避を成功させて初めて「対等」。……まぁ、結界術の知識なしの術師が初見で挑めばまず無理だろうな。なるほど「溺死に至れる」とはうまいことを言ったものだ。

 

 だが……。

 

 

『では──「はじめ」。……おめでとう、溺死だ』

 

 

 ゴバッッッ!!!! と。

 周囲を流れていた水が、一気に私へと牙を剥き──

 

 ぱしゃっ。

 

 軽い音を立てて、それらの水は力なく地面に落下した。

 

 

 悪いが、私はそんなゲームにいちいち付き合うつもりなどない。

 

 

『な……ば……ッ!? 何故、何故本体の……術式が無効に!? まさか領域を……!?』

 

「そんな訳ないだろう」

 

 

 私は鼻で笑って、

 

 

「領域()()だよ」

 

 

 ナカスに──いや、その奥にいる跡切に向かって、私は答えた。

 

 

『領域……展延!? 馬鹿な、展延はお前の体の周囲に発現するもの、こんな広範囲にわたって……!?』

 

「ああ、その通り。だがこの場合、お前の術式を流し込んで薄めているのは私の周囲に展開した領域じゃない。……あるだろう、もっと大規模な結界が」

 

 

 それは──先ほど下男と共同で展開した「隠世の結界」だ。

 

 あの結界は、範囲を広げる為に私の呪力も使って二人分で共同発動したものだ。当然、私が術式を考案したのだから、制御に干渉することだってできる。

 「隠世の結界」は、言ってしまえば「術式を付与していない結界」だ。今回の場合はそこに「生々流転」を流し込むことで、この領域内に付与された術式を薄めたという訳である。

 

 言葉にしてみれば簡単な話だが、ナカスは──その奥にいる跡切は呑み込めなかったらしい。

 

 

『た、確かに原理的には……いやだが……そんなことができる訳……そもそも! お前は完全に……本体の領域の中に……いる! 結界で区切られた状態で……、外部の結界に……対して……遠隔で操作なんて……できるはずがない……!!』

 

「異なことを言う。接続口ならそこにあるだろう」

 

 

 そう言って、私は少し離れたところにある天井──岩肌のあたりを指差す。

 そこには、岩肌を突き破る様にして()()()いる「蛇匣(ナーガ)」の姿が。

 

 

「外部から、「蛇匣(ナーガ)」を一部侵入させていた。アイツは私の式神だ。こいつが結界の内外を隔てている以上、「接点」としては十分だろう?」

 

『そんなまさか……自分の式神を……介して、外部の結界の……構成を変更した……というのか!? あ、ありえない……! 土壇場で……そんな突飛な……構成変更が成立する……はずがない……!!』

 

「そう言われても、できているんだからしょうがないだろう」

 

 

 というか、そもそもの問題として。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「蛇匣(ナーガ)」にしたって、こういうアクロバットな運用ができるように、わざわざ極限まで式神の構成式を簡潔にしているのだ。何の為に腕も足も削ってただの棒みたいな式神を作ったと思ってるんだ。「壺」の為だけだと思ったか? だったら翼でも生やして機動力を確保するに決まってるだろ。

 

 

『ぐ……クソ、本体! 外部にいる式神を破壊するんだ! そうすれば……』

 

「もう遅いよ」

 

 

 「領域の象徴」。

 渋谷の嘱託式の結界もそうだが、「縛り」に使うのであれば結界の要は目立つところに置かねばならないだろう。

 とすると、「領域の象徴」は目立つところに配置されているはずだ。それこそ、どれほど領域が長大でもすぐに狙えるような場所に。

 だが、そんなものは領域に入った時には見られなかった。では、どこに隠しているのか。それは当然──

 

 

「象徴の在処は水底か。術式が万全なら虎穴に飛び込むようなもの。全く、性格の悪い構成だよ」

 

 

 術式による防御が一番強固な場所。即ち、川で隠されていた地面だ。

 

 術式が薄められたことで水が散り散りになって露わになった水底には、水晶でできた髑髏が連なってできた螺旋が視界の続く限り伸びていた。──これが「領域の象徴」とみて、ほぼ間違いないだろう。

 

 

『やめッ……やめろォォおおおおおおおおおお!!!!』

 

 

 私は躊躇なく、呪力強化した足で螺旋を踏みつぶし、それを途中で圧し折ってやる。

 バギッ、と軽い音が鳴り──いともたやすく幻想的な地下洞窟が崩壊していく。

 

 

 ──さて、これで敗北条件は回避、か。

 

 此処からが、本番だな。




書きながら、「コイツ絶対ゴブリンの洞窟とかに火を放つタイプだろ……」って思いました。
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