私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

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日間一位ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
頭カチコチクソマンチ野郎がここまで楽しんでもらえるとは……。


第9話 奇貨 ─参─

『ギャ!?』

 

 

 カウンター気味に放った拳が空振りしただけでなく、「壺」と化した振袖に拳を入れてしまった跡切は──手首から先を細かく輪切りにされる。

 

 

『この女!? 服の中が……"領域"にィ!?』

 

「渾身の一撃が痛手にならないからと油断したな。こっちが本命だよ」

 

 

 私は両手を掲げてファイティングポーズを作りながら答える。

 特級と私では、身体能力が違いすぎる。目は良いほうなので動きには対応できているが、呪力強化を下敷きとした格闘性能の差は歴然だ。今回は①相手の油断②行動予測③事前の行動開始の三点で完璧なカウンターが決まったが……そう何度も上手くはいかないだろう。

 何より、拳の直撃でダメージが入らないのは由々しき事態だ。……やはり、「縛り」を使って呪力出力を上げないと駄目だな、これは。

 

 

「これが私の術式だ。蟲毒呪法と言う」

 

 

 そう言って、私は飛び退いて一旦距離を取る。ちょうど「蛇匣(ナーガ)」が戻って来たので、改めて傍らに携えて置く。

 

 

「物質を媒体に領域「壺」を展開し、その中に動物や呪霊の肉を忍ばせることで、毒液を生成する術式だ。もちろん死体ではなく、生存しているものの肉である必要がある。生成した毒液はおよそのものを溶かす毒性と莫大な呪力を帯びる。……ただし、生成された毒液は基本的に私すらも溶かす」

 

 

 あからさまな術式の開示──しかし、既に右手を持っていかれている跡切は、流石に術式の説明を聞く気らしい。

 

 

「その上、毒液を生成する速度は遅い。これは目安だが、鼠を全て溶かすのに一時間ほどかかる。通常運用では、毒液を武器として使用するのは不可能だった」

 

 

 これは、藤原家所属の術師として活動するようになってから検証した。

 目安として、ぎりぎりタッパーに収まる程度の鼠の全身が毒液になるまで一時間。まぁ、普通に戦闘していれば毒液が完成する頃には勝敗はついているだろう。

 

 

「加えて、毒液が腐食できないものも存在する。一つは毒液を生成した元、即ち術式対象。一つは毒液の生成に使用した「壺」。一つは呪力そのもの。これらは腐食の対象外だ。これだけ手間をかけても必殺ですらないなんて、面倒な術式だよ」

 

 

 私は肩を竦めて、

 

 

「そこで私は、「壺」という領域そのものに着目した。領域の解除時に領域内の座標をずらすことが可能なことを利用して、「壺」を解除した時に領域内の座標を歪めて、境界面に位置する物質を強度や呪力を無視して切断する技として利用した」

 

『……「壺」の一部となっているお前自身は……、たとえ手が袖から出ていたりしても……座標変更の影響は受けないって訳だ』

 

 

 その通り。「壺」を展開するときに「壺」内部にあるものは内容物として「壺」の一部になる。今回の場合は、私の左腕もまるまる「壺」の一部だ。

 ……よって左肘から先は「壺」となって固定されてしまうが、代わりに切断の影響を受けることもない。「蟲毒呪法」の抜け穴の一つである。

 

 よし、術式の開示は終わった。

 ……が、呪力が上がった感じはない。術式効果外の運用の説明までやったのだから、呪力の方も向上していてほしかったのだが……仕方がない。

 術式の開示を聞いた跡切は、明確に警戒度が下がっていた。

 

 

『近接戦であれば油断ならない術式かと思ったが……キヒッ、とんだ三下術式だなァ。術式の開示は……あくまで術式の出力を上げるだけ。察するに既に……「縛り」で結界の展開速度については……強化してるんだろ? なら……今の開示は無駄だったなァ、精々毒液が……強化される程度じゃないか? キヒヒ』

 

 

 跡切は、鼻で笑いながら拳が切り落とされた右腕を構える。ゴポポッと泡立つような音と共に、失われたはずの右拳がいともたやすく再生する。

 ……流石に特級呪霊。当たり前の様に呪力による治癒は使いこなすか。しかも呪霊の治癒方法は呪力で血液を生成したりしている訳じゃないから、見ても参考にならないんだよな……。私も反転術式が使えれば、もう少し大胆な戦法も取れるのだが。

 

 

『なんにせよ……こっちの殺り方は決まっている。お前が健気に……「壺」での切断を狙ってくるなら……キヒッ、近づかせずに叩けば……いいだけの話だからなァ! キッヒャァア!!』

 

 

 ドッ!! と、暴風が私に直撃する。

 ……が、これは展延で広げた領域によって薄められ無効化されることになる。

 

 

『キヒッ……そういえばさっきも術式と展延を……併用していたか。小器用な真似をする……』

 

「結界術は得意でね。羂索のお墨付きだ」

 

『ほォ? ……だが、呪力出力の方は……お粗末だなァ? キヒヒッ、いくら得意でも……展延だって領域は領域だ! それだけ消耗も大きい! このままいけば……お前の呪力が底を突くぞ……?』

 

 

 言いながら、跡切はトッ、と地面を蹴って宙に浮く。

 ……加えて、地面に「壺」を作られるのを警戒して浮遊しながら戦おうという訳か。まぁ、道理だな。私でもまず最初にそこは警戒する。

 

 

『式神もデカブツだから……口に気を付けていれば問題ない。キヒヒヒッ、あとの頼みは……そのカス術式だけだなァ! 色々と……こねくり回してみたようだが……結局はそこまでだ。キヒッ、一芸だけで……どうにかなるほど、この跡切は……甘くないんだよォ!!』

 

 

 そう言いながら、暴風を叩きつけてくる跡切。

 私は「蛇匣(ナーガ)」に蜷局を巻かせて、暴風を防御する。……やはり頑なに気流の操作しか使用してこないな。そのせいで攻撃が一辺倒になっているにも拘らず続けているあたり、「使用できない」のかもしれない。……何らかの「縛り」か。

 だとしたら、おそらく川の氾濫を実現するのに相当無理な術式の使い方をしているのかもしれない。

 

 

『……また大蛇(おろち)の陰に……隠れて移動か? 今度は同じ手は食わないぞ』

 

 

 そう言うと、跡切は意外にも接近戦を挑んで来た。「蛇匣(ナーガ)」を噛ませてのトリッキーな動きで接近されるのを嫌ったのだろう。さっきはそれで痛い目を見たからな。

 だが、あながち無策の接近戦という訳でもなさそうだ。

 

 その証拠に、こいつ──暴風を両腕に纏っている。

 

 

『暴風だけなら……展延で防御できても、打撃と暴風による同時攻撃なら……どうだ!? 展延では防ぎきれまい!!』

 

 

 ゴッ!! と跡切が拳を打ち上げる。それだけで、「蛇匣(ナーガ)」が二メートルは上方に打ち上げられた。……凄まじいパワーだ。流石は特級相当といったところか。

 そして私は──「蛇匣(ナーガ)」に守られたまま、移動していない。つまり、跡切とは目と鼻の先ということになる。

 

 ──「壺」にしても、暴風の方がリーチが長い。展延で防いだとしても、打撃の方は問題なく通る。この呪力量の差だと、おそらく私は一撃でも食らえば死亡するだろうな。

 ただし。

 

 

「誰が、展延と「壺」だけで戦うと言った?」

 

 

 跡切が拳を振り上げて「蛇匣(ナーガ)」を突破した直後の硬直。

 彼我の距離二メートル──ただし、その腕には暴風が纏われている。接近したところで、暴風を解放して払われておしまいだろう。

 接近するには足りない刹那の硬直。その間隙に狙い澄まして、私は袖を振った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『なッ』

 

「死体の肉は毒液にできないとは言ったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは一言も言っていないぞ」

 

 

 そして。毒液の生成速度について、鼠を全身溶かすのに一時間かかると言ったが──アレはあくまで『五体満足の鼠』の話だ。細切れになった呪霊の拳の破片を完全に溶かすのなら、もっと早い時間で溶かせる。さらに術式の開示によって、蟲毒呪法の()()()()()()()()()()()。通常時でも細切れなら数分。術式出力が向上している今ならば──十数秒といったところか。

 

 

『そうか……! 腕も「壺」の一部……ということは……、()()()()()()()()!! 袖の中で「毒液」を仕込んでいたな!?』

 

 

毒液に気付いた瞬間──跡切は「しまった」と思った。

確かに毒液は通常の戦闘では使用難易度が高すぎる。それゆえに脅威ではないが

逆に言えば、使用することが可能ならば脅威なのだ。

そのことを理解していたからこそ、跡切は本能的に一瞬硬直した。

そして次に、「腐食対象外」に思い至る。

毒液は、生成元のことは腐食することがない。

つまり、跡切の右拳から生成された毒液は跡切を腐食することがない。

完全に想定外の一手を打たれたがゆえに、そこまで思考を巡らさざるを得なかった跡切は、さらにもう一瞬の硬直を余儀なくされる。

 

その間に、尊が動く。

致命的なほどに。

 

 

『クッソ、こんなの気流で──』

 

「忘れたか。言ったはずだぞ、毒液は強力な呪力も帯びていると」

 

 

 跡切は気流を使って毒液を吹き飛ばそうとしたようだが、これは毒液が帯びている莫大な呪力のせいで上手くいかなかった。やはり単純な呪力を使った防御は漏れなく無視できるようだ。

 その間に、私は拳を振りかぶる。

 

 毒液は「壺」、毒液の生成元、呪力は腐食しない。つまり生成元に毒液を浴びせかけた場合、蒸発することなく呪力を帯びた状態のままその場に留まる。形を持った私の呪力が、対象の全身に纏わりついた状態になる訳だ。

 

 さて、問題。

 

 この状態で、私がその呪力に指向性を与えてやれば、いったいどうなるだろうか?

 

 

「なるほどな、この術式の新たな利点に気付かせてもらったよ」

 

 

 答えは簡単。

 私の拳という撃鉄(トリガー)によって、その全ての呪力が対象に攻撃性を持って浴びせられる!!

 

 

「強者ほど、術式を開示した時点で私の術式を()()()。どれほど理性で律していたとしてもな」

 

 

 私の右拳が跡切の腹部に叩き込まれ──

 

 ──そして、跡切の体の前面に浴びせかけられた毒液の呪力が、一気に炸裂した。




・跡切の呪力出力は乙骨並です。現在の尊はその一〇分の一程度。
・切断された呪霊の肉はおそらくそれほどしない内に消失反応を起こしますが、「壺」内では術式対象になっている間は発生しません。蠱毒呪法の裏ルールです。
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