『キヒャアッ!』
先手を打ったのは、跡切と名乗った呪霊の方だった。
既に呪霊との間には「
「「
「
同時に、暴風によって巻き上げられた砂塵が、その軌道を色付ける。暴風は直進して「
しかしどの道、盾役である「
『なッいな──そうか……お前……その
それもそのはず。
「
「
加えて、「
──敵の術式は、おそらく「流れ」の操作だ。
川即ち水の流れと、暴風即ち気流の流れ。これら二つの事象を矛盾なく説明するのは、「流れ」の操作しか有り得ない。
気流の流れを操ることで暴風を引き起こし、それによって攻撃をしているのだろう。真空でも作られればかなりお手上げ気味だが……初手でそれをやってこない辺り、おそらく手元の「流れ」しか操れないと考えられる。
ついでに言えば、「流れ」の操作もある程度単調なものが限界のはずだ。二又の暴風を生み出して操る、というような攻撃は、おそらくできない。使えるならば、今までの攻防で使っているはずだからな。
しかし、これほど大量の水がある状況であれば、それを攻撃に使わない手はないはず……。もっと言えば、「流れ」の操作が可能ならば体内の血流操作なんかもできるはず。もしそうなら、敗北した術師は溺死体ではなく破裂した水風船みたいになっている方が自然ではあるが……。
そういうことをしていない以上、おそらく何らかの仕掛けがあるのだろう。察するに、この川の氾濫がその仕掛けに関係していそうだが……血流操作についてはどうだろうな。単純に呪力によるレジストがかかっている可能性の方が高いかもしれない。
『接近──式神使いにあるまじき挙動だな……。近接向きの……術式かァ?』
跡切はそう言いながら、空中にいる私に向かって右手を差し出してくる。
先程からやっているが……アレは、狙いを定めているのだろうか。手で狙いを指し示すのは狙いが分かりやすくなるから、なかなかのデメリットにはなるが……「縛り」かどうかは微妙なところだな。何せ透明な物質を操るのだ。イメージを固める為に手で術式運用のサポートをする必要がある可能性は大いにある。
『ここは空中……これは躱せねェだろ? キヒャア!!』
「空中? 足場なら此処にあるだろう」
私はそう言って、「
何の為に「
ドッ!! と、一瞬遅れて、私が先程までいた場所──即ち「
「
跡切の方も、攻撃が躱されたことを認めて、手で「
敵がこちらを意識した状態で、彼我の距離五メートル。
通常の感覚で言えば、あまりにも長い距離。しかし、呪力強化を施した術師にとって、五メートルなど瞬きするよりも早く肉薄できる距離に過ぎない。
そして、たった今攻撃を外した直後のアイツにもう一度術式を発動するだけの時間的余裕は──ない!
「ふッ──」
私は短く息を吐き、呪力で全身を覆いながら思い切り突貫する。
たった一歩で跡切の眼前まで迫り──
『だが、一度躱した程度で……俺の術式を
直後。
ぐん!! と私の背後で気流が蠢く音がした。──つまり、一度外した気流も、術式を解除するまでは術式対象のままということか。「流れ」を操る術式……ならば、解除するまで術式対象を操ることは容易という訳だ。
だが……ここまで行ったら、このまま、
──その直後、私の背中にUターンしてきた暴風の一撃が直撃する。
『キヒャッハァ!! 大当たりィ! 背骨が逝ったかァ!?』
一撃叩き込ませてもらう!!
『ごっぶぁ!?』
顔面に、渾身の右ストレート。
幼いながらも全体重をかけた一撃だ。跡切はその勢いのまま、顔を勢いよく後方へのけぞらせた。
敵が一度外した攻撃の制御を保持したまま、背撃に利用することは最初から分かっていた。
「流れ」を
そして案の定、ヤツは背後からの一撃を画策してきた。……だからこそ、私は備えておいたのだ。
『お前……何故俺の一撃を……』
「領域展延。知っているかね」
私は
──領域展延。
箱や檻のような要領で結界を広げる領域展開とは違い、自らのみを覆う水の様に領域を広げる技術だ。
この領域展延で広げた結界には、通常の領域展開とは違い術式が付与されない。その為、展延によって広げた領域には他者の術式を流し込むことで「薄める」ことができる。原作では自然呪霊たちが五条悟の無下限対策に使用していたが、こういう防御の運用でも当然ながら有用だ。
領域展延については、自分の術式から逆算する形で既に習得している。──羂索の実在を確認するまでは、此処が「呪術廻戦」の世界だと確信できなかったので出来なかったんだがな。この世界が「呪術廻戦」の世界だと確信できたので色々調べたら、指南書があったので覚えた。そして試してみたら、普通にできた。
『領域……展延だと? キヒッ、小細工かァ!?』
そう言いながら、跡切は勢いよく顔を元の位置まで引き戻す。──やはりというか、ダメージはなさそうだった。あってもかすり傷程度といったところか。
やはり、私の現在の呪力出力では、呪力が低すぎて素で攻撃が通用しないらしい。油断していたところに一撃入れられたのだから、少しくらい効いていてほしかったんだがな……。
『だがッ……察するにその技術、領域展開の……亜種!! なら術式との併用はできないだろう!?』
顔を引き戻した勢いそのままに、跡切は私に拳を振るって来る。
──跡切の推測は、正しい。
原作においても、あの両面宿儺ですら領域展延と術式──正確には身体に刻まれた生得領域──の併用はできなかった。おそらくこれは、領域を纏うという呪力操作と、体内の術式を回すというアクションが脳機能において非常に近しい位置で稼働しているからだろう。まぁ、理屈はどうでもいい。あの宿儺ですらできないということは、基本的に術師には不可能ということなのだから。
私は拳の動きに合わせて後ろに飛び退き、そして腕を伸ばして構えた。
──巫女服というのは、構造上袖が大きく広がっている。
つまり、拳以上の広さの穴と深さを備えているということになる。
『なッ──』
「蟲毒呪法」は、その性質上、通常ではありえない「複数の領域展開」を前提とした術式だ。
つまり私の脳は、元来「複数の領域」の維持という無茶を通すことが可能な構造をしている。
ならば、術式を帯びない展延と通常の「壺」の併用ができない理由など、逆にないのではないか。
「まずは一撃だ。楽しくなってきたな」
直後──跡切の右拳が、「壺」に喰われた。
蟲毒呪法は、領域展延や簡易領域との併用が可能です。
展延中も術式効果を中断する必要はありません。