私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

10 / 42
第8話 奇貨 ─弐─

『キヒャアッ!』

 

 

 先手を打ったのは、跡切と名乗った呪霊の方だった。

 既に呪霊との間には「蛇匣(ナーガ)」が割って入っているので、今回も同じように防御すればいい位置にはつけている。ただ、相手だって先程「蛇匣(ナーガ)」が危なげなく暴風による攻撃を受け止めたのは見ている。状況が進展しない攻撃はしないはず……何より、私の予想が正しければ、敵の術式は……。

 

 

「「蛇匣(ナーガ)!」」

 

 

 「蛇匣(ナーガ)」はその長い尾で地面を叩くと、その反動で跡切の方へと勢いよく飛び上がった。先の戦闘で犬島の呪霊の首を上から喰った時の動きである。

 同時に、暴風によって巻き上げられた砂塵が、その軌道を色付ける。暴風は直進して「蛇匣(ナーガ)」に命中するルートではなく、「蛇匣(ナーガ)」をすり抜けてその奥にいる私に直撃するルートを通っていた。

 しかしどの道、盾役である「蛇匣(ナーガ)」がいなくなれば、暴風は当然私に命中することになるのだが──生憎、「蛇匣(ナーガ)」がいなくなったその後に、()()姿()()()()()()()()()

 

 

『なッいな──そうか……お前……その大蛇(おろち)の式神に!?』

 

 

 それもそのはず。

 「蛇匣(ナーガ)」の跳躍に合わせて、私は「蛇匣(ナーガ)」の身体にしがみついていたのだ。

 「蛇匣(ナーガ)」の移動能力は私とどっこいどっこいだが、その巨体の分、ダイナミックな移動が可能だ。地面をのたうつような移動もそうだし、体を持ち上げればそれだけでジャンプせずに上方移動が可能になる。

 加えて、「蛇匣(ナーガ)」の巨体は私の身を隠すのに適しているからな。こうやってしがみついて移動すれば、敵の目を欺きながら移動することだってできる。もっとも、こんなのはほんの一瞬程度の目くらましでしかないが……それでもヤツとの距離を詰めるのには使える。

 

 

 ──敵の術式は、おそらく「流れ」の操作だ。

 

 

 川即ち水の流れと、暴風即ち気流の流れ。これら二つの事象を矛盾なく説明するのは、「流れ」の操作しか有り得ない。

 気流の流れを操ることで暴風を引き起こし、それによって攻撃をしているのだろう。真空でも作られればかなりお手上げ気味だが……初手でそれをやってこない辺り、おそらく手元の「流れ」しか操れないと考えられる。

 ついでに言えば、「流れ」の操作もある程度単調なものが限界のはずだ。二又の暴風を生み出して操る、というような攻撃は、おそらくできない。使えるならば、今までの攻防で使っているはずだからな。

 しかし、これほど大量の水がある状況であれば、それを攻撃に使わない手はないはず……。もっと言えば、「流れ」の操作が可能ならば体内の血流操作なんかもできるはず。もしそうなら、敗北した術師は溺死体ではなく破裂した水風船みたいになっている方が自然ではあるが……。

 そういうことをしていない以上、おそらく何らかの仕掛けがあるのだろう。察するに、この川の氾濫がその仕掛けに関係していそうだが……血流操作についてはどうだろうな。単純に呪力によるレジストがかかっている可能性の方が高いかもしれない。

 

 

『接近──式神使いにあるまじき挙動だな……。近接向きの……術式かァ?』

 

 

 跡切はそう言いながら、空中にいる私に向かって右手を差し出してくる。

 先程からやっているが……アレは、狙いを定めているのだろうか。手で狙いを指し示すのは狙いが分かりやすくなるから、なかなかのデメリットにはなるが……「縛り」かどうかは微妙なところだな。何せ透明な物質を操るのだ。イメージを固める為に手で術式運用のサポートをする必要がある可能性は大いにある。

 

 

『ここは空中……これは躱せねェだろ? キヒャア!!』

 

「空中? 足場なら此処にあるだろう」

 

 

 私はそう言って、「蛇匣(ナーガ)」の下腹を蹴り飛ばして、その反動で地面に着地する。

 何の為に「蛇匣(ナーガ)」を巨大にしていると思っている。ただ盾役にするだけじゃない。コイツは私の意のままに動く足場でもあるのだ。空中にいるからといって、コイツが近くにいる限り私の動きが妨げられることはない。

 

 ドッ!! と、一瞬遅れて、私が先程までいた場所──即ち「蛇匣(ナーガ)」の下腹に、暴風が突き刺さる。

 「蛇匣(ナーガ)」の身体がくの字に折れ曲がり、ノーバウンドで十数メートルは吹っ飛んでいくのを横目に見ながら──私は、跡切からちょうど五メートルあたりの距離に到達した。

 

 跡切の方も、攻撃が躱されたことを認めて、手で「蛇匣(ナーガ)」の方を指し示しながらこちらの方へ視線を移す。

 敵がこちらを意識した状態で、彼我の距離五メートル。

 通常の感覚で言えば、あまりにも長い距離。しかし、呪力強化を施した術師にとって、五メートルなど瞬きするよりも早く肉薄できる距離に過ぎない。

 そして、たった今攻撃を外した直後のアイツにもう一度術式を発動するだけの時間的余裕は──ない!

 

 

「ふッ──」

 

 

 私は短く息を吐き、呪力で全身を覆いながら思い切り突貫する。

 たった一歩で跡切の眼前まで迫り──

 

 

『だが、一度躱した程度で……俺の術式を()()()気になるのは……早いなァ! キヒャハハァッ!!』

 

 

 直後。

 ぐん!! と私の背後で気流が蠢く音がした。──つまり、一度外した気流も、術式を解除するまでは術式対象のままということか。「流れ」を操る術式……ならば、解除するまで術式対象を操ることは容易という訳だ。

 だが……ここまで行ったら、このまま、

 

 

 ──その直後、私の背中にUターンしてきた暴風の一撃が直撃する。

 ()()()()()()()()()()

 

 

『キヒャッハァ!! 大当たりィ! 背骨が逝ったかァ!?』

 

 

 一撃叩き込ませてもらう!!

 

 

『ごっぶぁ!?』

 

 

 顔面に、渾身の右ストレート。

 幼いながらも全体重をかけた一撃だ。跡切はその勢いのまま、顔を勢いよく後方へのけぞらせた。

 

 敵が一度外した攻撃の制御を保持したまま、背撃に利用することは最初から分かっていた。

 「流れ」を()()術式と分析していたのだ。ならば当然、射出後の術式対象の操作が持続する可能性だって考えるのが当たり前の思考の流れというものだろう。

 そして案の定、ヤツは背後からの一撃を画策してきた。……だからこそ、私は備えておいたのだ。

 

 

『お前……何故俺の一撃を……』

 

「領域展延。知っているかね」

 

 

 私は()()()()()()()()()()()()、軽く言った。

 

 ──領域展延。

 箱や檻のような要領で結界を広げる領域展開とは違い、自らのみを覆う水の様に領域を広げる技術だ。

 この領域展延で広げた結界には、通常の領域展開とは違い術式が付与されない。その為、展延によって広げた領域には他者の術式を流し込むことで「薄める」ことができる。原作では自然呪霊たちが五条悟の無下限対策に使用していたが、こういう防御の運用でも当然ながら有用だ。

 領域展延については、自分の術式から逆算する形で既に習得している。──羂索の実在を確認するまでは、此処が「呪術廻戦」の世界だと確信できなかったので出来なかったんだがな。この世界が「呪術廻戦」の世界だと確信できたので色々調べたら、指南書があったので覚えた。そして試してみたら、普通にできた。

 

 

『領域……展延だと? キヒッ、小細工かァ!?』

 

 

 そう言いながら、跡切は勢いよく顔を元の位置まで引き戻す。──やはりというか、ダメージはなさそうだった。あってもかすり傷程度といったところか。

 やはり、私の現在の呪力出力では、呪力が低すぎて素で攻撃が通用しないらしい。油断していたところに一撃入れられたのだから、少しくらい効いていてほしかったんだがな……。

 

 

『だがッ……察するにその技術、領域展開の……亜種!! なら術式との併用はできないだろう!?』

 

 

 顔を引き戻した勢いそのままに、跡切は私に拳を振るって来る。

 ──跡切の推測は、正しい。

 原作においても、あの両面宿儺ですら領域展延と術式──正確には身体に刻まれた生得領域──の併用はできなかった。おそらくこれは、領域を纏うという呪力操作と、体内の術式を回すというアクションが脳機能において非常に近しい位置で稼働しているからだろう。まぁ、理屈はどうでもいい。あの宿儺ですらできないということは、基本的に術師には不可能ということなのだから。

 

 ()()()()()()()()

 

 

 私は拳の動きに合わせて後ろに飛び退き、そして腕を伸ばして構えた。

 ──巫女服というのは、構造上袖が大きく広がっている。

 つまり、拳以上の広さの穴と深さを備えているということになる。

 

 

『なッ──』

 

 

 「蟲毒呪法」は、その性質上、通常ではありえない「複数の領域展開」を前提とした術式だ。

 つまり私の脳は、元来「複数の領域」の維持という無茶を通すことが可能な構造をしている。

 ならば、術式を帯びない展延と通常の「壺」の併用ができない理由など、逆にないのではないか。

 

 

「まずは一撃だ。楽しくなってきたな」

 

 

 直後──跡切の右拳が、「壺」に喰われた。




蟲毒呪法は、領域展延や簡易領域との併用が可能です。
展延中も術式効果を中断する必要はありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。