私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

3 / 42
第2話 蟲毒呪法 ─弐─

正暦元年(990年)

尊 7歳

 

 誕生してから、瞬く間に六年の月日が流れた。

 この時代は生まれた年から一歳と数えるので、私は満六年しか生きていなくても"七歳"である。

 

 瞬く間にと言ったが、別にこの数年間、何もしていなかったわけではない。有体に言えば、私はこの数年間、術式の"把握"と"改良"に務めていた。

 現実に術式を使用することはできないが、術師には生得領域──即ち『心の中の空間』というものが存在している。下手に身動きできない状態だからか、私は赤ん坊の頃からそれを知覚することができていた。その中で、己の術式をシミュレーションすることができたのだ。そういえば原作でも、脹相は受肉前から術式の解釈を伸ばしていたが、こういうカラクリだったのかもしれないな──と関連づけるのは、まだ此処が「呪術廻戦」の世界かも分からないうちなのに早計か。正直なところ自身の術式の解体の過程で此処が「呪術廻戦」の世界であることはほぼ確信しつつあるのだが、何事も決めつけは危険だからな……。

 最低でも、私の知る術式と同名の術式。欲を言えば両面宿儺の評判か、原作で登場した人物の顏と術式。これを把握することができれば、此処が「呪術廻戦」の世界だと判断して行動できるのだが……まぁこれは余談か。

 閑話休題。ともかく、赤ん坊で何もできることがない状況で、私は私の術式である「蟲毒呪法」を磨いた。身体もろくに動かせない状況では呪力操作の自学にも限界がある……というか独学で試行錯誤した結果、変な癖がつくのを避けたかったので、必然的に術式にしか手を付けられなかったのだ。

 

 だが、愚直な"把握"は、転生当初はどうしようもなく弱い術式としか思えなかった「蟲毒呪法」に一筋の光明を見せてくれた。

 

 蟲毒呪法には幾つかの段階がある。

 

 一つ目は、蟲毒呪法の最終形であり()()()()()()()()一番基本的な攻撃手段「毒液」を生み出すための領域結界を展開する段階。

 領域結界の展開には必ず媒体となる容器が必要であり、単独での領域展開は(普通に術式を扱う分には)不可。私はこの領域結界を「壺」と呼称しているが、これは必ずしも本物の壺である必要はない。握り拳一つ分の大きさの"穴"と"深さ"があれば、材質や形状がなんであれ条件は満たすことができる。

 そして領域結界──という言葉からも分かる通り、この術式にはデフォルトで領域が組み込まれている。ゆえに、発動には掌印が必要だ。

 ただし、複数の「壺」を用意することができるし、持続に必要な呪力の消費もかなり軽微──自己補完の範疇で収まる程度──である。正直、領域の展開に必要なコストの軽さについては私の知る領域展開の仕様とかなり乖離がある為、此処には何か見落としがあるんじゃないかと疑っている。それこそ、此処が「呪術廻戦」の世界ではない可能性も含めてだ。

 なお、これが一番異常かもしれないが、この「壺」の展開によって術式が焼き切れることはない。おそらく、容器を領域の外郭として使用している為負担が限りなく少ないのだろう。

 

 二つ目は、「壺」の中に動物や呪霊を入れる段階。

 「壺」には「動物や呪霊を入れたら毒液に変える」術式が必中術式として付与されている。この術式効果は無数の黒い虫の形で現れる。即ち、「壺」の中に入った動物や呪霊は、入った瞬間無数の虫に纏わりつかれて生きながらにして体を「毒液」に変えられていくという訳だ。

 じゃあ中に入れることさえできれば勝ち確定なのかというとそういう話でもない。「壺」の設定には最低でも握り拳一つ分の大きさの穴が必要というのは先ほど説明したが、「壺」の領域はその穴からならば出入り自由という仕様なのである。なお、「壺」の中は「壺」の媒介として用意した容器と同じ形状で、領域結界だからといって中身を拡張したりすることはできない。

 私の推測では、おそらくこの"「壺」の穴から領域は出入り自由の「縛り」"と"「壺」内の領域の形状は容器の形状と変えられない「縛り」"と"展開される領域が「壺」内に限定されている「縛り」"という三つの「縛り」と、術式にデフォルトで領域が組み込まれている術式特性によって、複数の"領域"を展開し、領域の展開を経ても術式が焼き切れず、かつ呪力消費も軽微で留まるという規格外の挙動を実現しているのではないかと思う。まだ何か見落としがある可能性もあるが……。

 

 三つ目は、「毒液」が生成された段階。

 「毒液」には強烈な酸性と莫大な呪力が付与されており、触れれば大抵のものは「腐食」し溶ける……が、ものを「腐食」させると「毒液」は煙を上げながら蒸発してしまう。これが「縛り」なのかそういう性質なのかは分からないが、ともかく「毒液」は一度生み出すと、どうにか溶けないように保管する必要がある。

 「毒液」が溶かさない物質は酸性に対する耐性を持つ物か「壺」、あとは術式効果全般をレジストできる呪具くらいのものなので、基本的に保管には「壺」を使う必要がある。……此処が現代ならば試験管でも用意して「壺」にしておけるんだがな。生憎此処にはそんな便利な小道具はなさそうだ。

 それと──「毒液」自体は、術式の結果生み出されたものではあるのだが、どうも術式効果の一部という扱いになっているらしい。これが何を意味するかというと──おそらく、他の領域によって中和されてしまうのだ。感覚的におそらく使えるのだが、簡易領域や領域展延といった「術式を付与していない領域」に接触すれば、「毒液」の威力は十中八九低減する。持ち運びにわざわざ自分の領域を使わねばならないのに、簡易領域でお手軽に防御されてしまうというのは何とも割に合わないな。……いや、この時代はまだ「彌虚葛籠」しか開発されていないんだったか?

 

 ここまでの話を総合すると、「蟲毒呪法」の基本運用は、事前に「毒液」を用意し、それを持ち運び可能な「壺」で携帯して随時攻撃に転用する──というスタイルが基本になってくる。

 

 しかし、ここに難しさが幾つかある。

 

 まず、「毒液」による攻撃が非常に単調になってしまう点。

 「毒液」自体の操作はできないので戦闘中に「毒液」を使用しようとしたら、

 ①「毒液」が入っている「壺」を取り出し

 ②「壺」の栓なりを取り外し

 ③敵に向かって振りかける

 という工程を踏む必要がある。低級の呪霊やド素人同然の術師であれば可能だろうが、それ以上の敵に対してこの三工程を実行するのはなかなか骨が折れるだろう。こちらで戦場を設定できるならば「壺」を罠のように仕掛けることも可能だが、この場合も即応的な戦闘はできない。それでは伸びしろがない。

 

 そして、「毒液」が「腐食」させる対象は選べない点。

 持ち運びの不便さもそうだが、何より簡単に防御できてしまう。適当な瓦礫を用意してばら撒くだけでも、瓦礫と「毒液」が相殺されてしまうからな。

 そして、仮に相手の攻撃によって「壺」が破壊されてしまった場合(「壺」は外部からは破壊可能だ)、中の「毒液」は普通にばら撒かれる。その場合「毒液」をモロに被るのは私なので……高確率で重傷を負うだろう。下手したら死ぬ。反転術式を使えれば問題ないが……その場合でも、馬鹿にならない呪力消費となる。

 

 こう考えると、「毒液」を携帯して随時攻撃に転用するスタイルがいかに危険かつ伸びしろの少ないかが分かるだろう。

 かといって、「壺」を戦闘場所に大量配置することも不可能だ。原作で登場した憂憂のように、瞬間移動が可能な術師と組めれば別だが。

 この時点で私は、「毒液」を軸にした戦闘スタイルに見切りをつけた。「毒液」はあくまでもオプションか不意の必殺程度に留めて、むしろ「毒液」以外の術式特性を伸ばすべきだと判断したのだ。

 そして、その為の"改良"──即ち「縛り」による術式効果向上の検討をしてきた。

 こちらについては流石に生得領域の中での検証には限界があるので、細部については実地で検証していく他ないのだが──ある程度手ごたえのようなものは持っている。

 

 ここまでで、六年かけた。

 どうも私は貴族の淑女らしく、淑女教育も施されたりしたが、この時代は夜が早い。日が落ちたら寝るまで術式の構築に勤しんだ甲斐があり、術式の理解度にかけては一端の術師並みである自負がある。

 

 さて、ここからどうするか、だが──。

 

 まず第一案。呪術絡みの面倒事に巻き込まれないようにするため、呪術が使えることを隠す。

 これは最初から考えていない。何故なら、私の呪力量は非術師のそれよりも明らかに多いからだ。

 家には両親や使用人がいるので呪力量は確認できるのだが、非術師である彼らの呪力量は私とはくらべものにならなかった。つまり、私が『使える側』だということは、見る人が見れば早晩バレるという前提で動くべきだ。

 それに、呪術の存在自体は、この時代の貴族には割とオープンだしな。その状況で自己申告していなければ、何故隠していたのかという話になる。絶対にバレる隠し事をした上で隠し事をしていたという負い目を自分から背負いに行くのはバカのすることである。

 

 では第二案。自分から呪術の素養があることを白状する。

 現状ではこれで確定だが、話運びは気を付けなければいけない。

 現時点で私は呪術師や呪霊の存在を教えられていないのだ(赤ん坊時代は小耳にはさんでいたが、私に物事の分別がつくと判断された頃から情報としてシャットアウトされている。此処が「呪術廻戦」の世界なら、呪霊の話を聞いて畏怖から呪霊が強化されるのを避けようとしているのかもしれない)。

 呪術師や呪霊の存在を知らない私が「実は私には呪術の素養があり……」という形で話を進める訳にはいかない。当然、貴族の邸宅に呪霊が湧いて出る訳もないので、「呪霊(あれ)はなぁに?」から呪術の素養を見せる路線もやる訳にはいかない。

 

 そこで第二案の二だが……「術式に覚醒した」という設定で父に話す路線が、今の私の方針だ。

 私自身が体感しているので知っているが、術式というものは自然とその概要が把握できる。急にそうした情報が脳裏に浮かびあがったら、子どもならば慌てて両親に伝えるだろう。これなら自然に自分に呪術の素養があることを両親に伝えることができる。

 

 ただし、父に呪術の素養があると伝える前。此処が重要だ。

 

 まず、呪術師がどういう扱いを受けるのが一般的かを知る必要がある。此処が「呪術廻戦」の世界ならば、呪術全盛の世でまさか呪術師が迫害されているとは思えないが、「死滅回游」で登場した泳者(プレイヤー)烏鷺などは「名前を持つことを禁じられていた」というようなことを漏らしていたし、そうでなくとも異能者が迫害されるというのは古今東西のフィクションではありがちな文化だ。所属によっては、本当に冷遇されることも考えられる。

 あとは、両親が「娘としての私」にどんな期待を抱いているかも考える必要がある。世は平安。一口に平安といっても数百年の開きがあるので何とも言えないが……ウチは「藤原」の北家らしいし、家もそこそこ以上に栄えているので、藤原北家による外戚政治が始まっているとみていいだろう。とすると、時代としては平安中期以降といったところだろうか。どうも私の前世は真面目に日本史を勉強していなかったらしく、細かい年代については全く分からない。せめて私の父が生きた年代くらいは覚えておいてほしかったが……。

 ともかく、現状の政治形態は摂関政治……外戚政治が既に始まっている。外戚政治というのは、天皇の后に自分の娘をあてがい子どもを産ませ、次代の天皇の祖父として影響力を発揮しようという政治形態。つまり私は、父からしたら大事な政治の道具ということにもなる。そっちの価値を優先した場合、呪術師としての活動を望まない可能性もある……が、そもそもの話、たとえば呪術師のことを"穢れ"と判断した場合、私の政治的価値は失われることになる。そうなると、父は落胆から私を冷遇する可能性もある訳だ。この場合、第二案は使えないことになる。

 

 つまり、私の方針をまとめると、現状は以下の通りとなる。

 大方針としては、「術式に覚醒した」ということを父に話すことで呪術師であることをカミングアウトする。

 その前に必要な項目として、

 ・呪術師がどういう扱いを受けているのが一般的かを知る。

 ・父にとって"呪術師"と"娘"のどちらの価値が高いかを知る。

 そしてこれらを調査した結果、呪術の素養があることをカミングアウトすることが不利益に繋がるのであれば…………「縛り」を用いて呪力出力を完全に消す方法を考えないといけないな。そんなことが本当に可能かについては疑問符がつくが……。

 

 ともかく、術式についての理解が深まり、最低限実用に足る「縛り」の内容も考えて粗方の準備が整った私は、本格的に自分の今後に関わる行動を開始したのだった。

 

 そして──転機は、意外と早くに訪れることになる。




お察しの通り、本作の主人公は頭カチコチの理屈屋和マンチ女です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。