第12回「だめライフ」急速拡大中、全国各地に謎の愛好会 鍋会に行ってみた
連載「1995年からの現在知」
「『ワセだめ』です」「あれ、『トウだめ』はきょう来るんだっけ?」――。12月初旬、東京のとある駅前の広場に、「だめ」を名乗る若者たちが現れる。「ワセ」は早稲田、「トウ」は東大。この2年余り、各大学で急速に広がっている「だめライフ愛好会」の人たちだ。
はてさて、「だめライフ」とはいったいなんだ。
創始者がいると聞き、11月末にSNSのダイレクトメッセージで連絡を取った。
創始者の若者は言う「ネットよりリアルが大事」
喫茶店で待ち合わせをすると、時間からきっかり10分遅れて、山田さん(仮名)はやってきた。調べると、彼はネットメディアでも取り上げられたことがあるが、その記事にもしっかり遅刻してきたと書かれている。「だめ」であることに、マジメなのだろうか。
「お疲れ様です」。丁寧にあいさつしたあと、朴訥(ぼくとつ)とした口調で、身の上を語り出す。
小さいころから、遅刻や忘れ物は多かった。2年前のある日、大学のゼミ仲間に、だらしなさを強く指摘された。ショックだった。
家に帰り、ひとしきり落ち込んだあと、思った。だめでけっこう。何が悪いのか、と。
ツイッター(現X)で、「中央大学だめライフ愛好会」を名乗り、1人で投稿を始めた。1990年代に「だめ連」という活動があったことを知り、そこから「だめ」をとった。
もともと、人と集まるのは好きだった。「ネットで完結するようなつながりは好きじゃないです。リアル特有の感覚が好きですね」
最初は、共鳴した人たちと学内の共有スペースに集まって、自分のだめさ加減を話し合う「傷のなめあいのような」活動を始めた。その後、屋外で「葉桜を見る会」を毎月開くようになった。
活動の軸は、集まって雑談をしながら鍋をすること。自販機の下から小銭を拾う集いや、フリーマーケットも開いたことがある。
輪は学外に広がった。
SNSで発信していたところ、見知らぬ色々な大学の人から反応があった。明治大、静岡大、千葉大、東京外語大……。Xで、「だめライフ」+学校名を名乗るアカウントは70以上に上る。
「なんで増えたんですかね……。でも、みんな完璧じゃないし、悩みもあるし、『だめ』って誰にでも当てはまるからじゃないですかね」
「通りすがり」も大歓迎 中高年の姿も
しだいに学内ではなく、公園や駅前のロータリーなど、開かれた場所で鍋をするようになった。
ときに政治的な主張を持った集団だと思われることもある。だが、拳を突き上げ、「だめ」である権利を主張するといったことはない。「組織」や「方針」といった言葉は苦手だ。
「利用しようとしたのか、活動家上がりの人とかも近寄ってきた。言ってることは確かに正しいんだけど、まじめで、堅苦しすぎる。世の中、正しさを伝えただけじゃどうにもならないことも多い。庶民感覚から外れているとも感じた」と手厳しい。「やっぱり面白くないし、もっと方針とか決めずに自由に、コミカルなほうがいい」
活動の中心は屋外にシートを敷き、雑談をして、鍋をすること。SNSで時間と場所を告知するだけで、参加者は、年齢も属性も問わない。たまたま通りすがった人も歓迎だ。
「自分は『内輪』から疎外されてきた人間だから、できるだけ開かれた場所にしたい」
山田さんが呼びかけた駅前での鍋に参加させてもらった。
シートを敷き、鍋をセットする。「ワセだめ」と一緒にスーパーに鍋のもとや割安な野菜を買い出しに行った。その後、各自が持ち寄った、自宅の冷蔵庫の残りものなども投入されていく。
最初は3人だったが、投稿を見た人がどんどん参加してくる。初参加が多く、「だめライフ」を知らない通りすがりの人もなんとなく加わってくる。30~40代とおぼしき人たち、還暦近い男性もいる。最後は17人まで増えた。
左・右・ノンポリ……。当然、どんな考えでも構わない。鍋がしやすい広場の話から、大谷翔平選手、元自衛隊員の体験談、マッチングアプリの失敗談、バイトが続かない話、アナーキズム、オールドメディア批判、無事就職が決まった話までが、フラットに並ぶ。
次々と参加者が増えると、わざわざ名乗ることもなくなり、なんとなく何人かで話す。どこの何さんかは、関係ない。所属している組織や立場、年齢など、属性は溶け、もちろん権力勾配もない。
きょうび、あまり体験したことがない不思議な空間だった。
立ち上る湯気をみながら、ふと、こうした空間が、もっと幅広い世代に広がったら、と夢想する。
「だめ」が許されない社会の中で、みな気を張って生きる。たとえどんなに適応が上手な人間でも、年を取れば、どこか「だめ」になるところも出てくる。能力や体力がなくても、失われても、自分には変わらぬ価値がある、と思える場所があれば、ちょっとぐらいは気が楽になるかもしれない。
少なくとも、その日の駅前広場は「だめ」とはほど遠い、豊かな空間だった。
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