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【エッセイ】いまのところ、どうしても「8月15日」だけは靖国神社に参拝できません。

2-3年ほど前に、人生で初めて英語運用能力評価試験の「IELTS(International English Language Testing System)」を受けたときに、スピーキングテストで「自分の名前の由来」を質問されました。当時の私は英語が苦手で(いまでも決して「得意」ではありませんが)、辿々しく話したことを記憶しています。

ニューギニアでマラリアに苦しみ、ついには自決した父方の大伯父

私の名付け親は、私が2歳の時に鬼籍に入った父方の祖父です。彼自身もかつて「北支」と呼ばれた中国北方に兵卒として派遣されました。そして、賢かった兄、つまり私の大伯父を尊敬していたようで、大伯父の名前から「利」の字を取って、私に名付けました。

大伯父は帝国陸軍歩兵科の予備士官に任命され、いまでは中華人民共和国湖北省にある保定で幹部候補生としての教育を受けたようです。そして、少尉として小銃小隊を率いるために、ニューギニアに赴きました。いまでもパプアニューギニアでそうであるように、当時も現地ではマラリアが流行していたようです。そして、大伯父を襲ったのも、米軍の銃弾ではなく、マラリアでした。

ニューギニアは先の大戦において、日本が展開した戦場のなかでも、最も遠い場所の一つでしょう。そして、伸びきった補給線は前線の大伯父に医療物資や衛生部隊を届けるのに、十分ではありませんでした。大伯父の手元にあったのは、小銃と手榴弾のみでした。

大伯父と同じ部隊で幸いにして帰還された方から聞く限り、彼をテントに置いて退却していくときに、遠くから手榴弾の爆発音が聞こえたようです。

彼の墓には、出征する前に遺した爪と髪の毛が入っているのみです。

そして、いまでもニューギニアは決して「豊かな国」とは言えず、残念ながら気安く訪問するのに適した場所ではありません。いつか訪れたいと思うものの、しばらく先のことになるでしょう。少なくとも、私の手で連れ戻すことは、亡くなった具体的な場所も分からない以上は「不可能」です。

それでも、いつかは、ご遺骨であっても(原形を留めているのかはともかく)日本に帰ってきてほしいと思います。同じ墓地で、祖父や家族と再会させなければならないと思います。

それまでは、私にとって彼に思いを寄せる唯一の場所が、靖国神社です。

珊瑚海に乗り組んでいた航空母艦とともに沈んだ母方の大伯父

私が高校3年生のとき、がんに冒されていた母方の祖母が亡くなりました。生前、祖母は「兄に会いに行った」話を頻繁にしていました。帝国海軍の兵卒として徴兵された兄を、海軍横須賀鎮守府まで訪ねに行ったようです。

こちらの大伯父は航空母艦「祥鳳」に乗り組むことになりました。軍事や戦史に明るい読者さんなら分かるかもしれませんが、祥鳳は先の大戦において「最初に沈められた航空母艦」です。ニューギニアの中心都市であり、港湾機能を有するポートモレスビーを攻略する作戦の最中に、「珊瑚海海戦」で米海軍航空隊によって撃沈されました。

大伯父は機関兵だったようで、艦を捨てて逃げることはできず、そのまま艦と運命をともにしたようです。いまも、海の底で眠っていることでしょう。祖母は生前、その大伯父のエピソードと、彼女自身が女学生として勤労奉仕に従事したことを、いつも私に話してくれました。

だいたい8月には靖国神社に参拝します

そういうわけで、先の大戦では大伯父が2人没していることから、折を見て靖国神社に参拝するようにしています。特に、なるべく8月には行くようにしています。昨年はロンドンに滞在していたことから叶いませんでしたが、今年は参拝したいと思っています。
(ただ、さすがに暑すぎて、仮にも熱中症で倒れてしまったら神社にもご英霊にも迷惑をかけてしまいますから、もう少し楽に行けるときを選ぶべきかもしれません。)

しかし、それでも、敢えて「絶対に15日は参拝しない」ようにしています。

「コスプレ大会」「軍歌カラオケ歌謡祭」「醜いイデオロギー闘争」の会場と化した靖国神社

8月15日の靖国神社は、正直に言って見るに堪えません。今日のロイター通信のツイートを見てみましょう。

いったい、なぜ靖国神社で陸海軍の将兵のコスプレをなさっておられるのでしょうか。年齢を見ても60代や70代で、実際の将兵だったとは思えません。コミックマーケットの会場やサバイバルゲームのフィールドならまだしも、いったい「神社」にコスプレで来る意図が理解できないのは、私だけでしょうか。

YouTubeを見ても、数年前のものながら「靖国神社で軍歌カラオケ歌謡祭を開いている」人たちの動画があります。

別に「軍歌を知ることに意味がない」とか「軍歌など価値がない」と言うつもりはありません。軍歌は当時の文化や風潮を知る手掛かりでもあり、軍事的には将兵の士気高揚や団結に寄与するでしょう。

しかし、神社で「軍歌カラオケ歌謡祭」を開く意義とはいったい何でしょうか。歌いたいならカラオケボックスを利用すれば良いのであって、神社の一角を占拠してやるべきではありません。

そして、8月15日の靖国神社と言えば、もはや「恒例」と化している黒塗りのワンボックスやマイクロバスを改造した街宣車。

さらに、街宣車とは真逆の主張を掲げるデモ行進。

暑い中でこれだけ騒げる体力と気力は凄いと思いますが、それ以外の点においては強い嫌悪感しかありません。

靖国神社は遺族や市民が戦没者の安らかな眠りを静かに祈れる場であるべきというのに、果たして「コスプレ大会」「軍歌カラオケ歌謡祭」「醜いイデオロギー闘争」の会場と化している現状で、果たして「静かな祈り」ができるでしょうか。正直に言えば「喧しい」ことこの上ありません。

靖国神社が「静かな祈り」の場所になるまで、8月15日まで彼の地に足を運ぶことはありません

例えば、実際に従軍していた当時の将兵が軍服を着て戦友に会いにくるとか、ご遺族がご英霊の写真や形見の品を持ってお参りにくるとかであれば、理解できます。それは明確に「追悼」たり得るでしょう。

しかし、そうでもない一般市民がイデオロギーを発露するために将兵と同じ服装をして靖国神社を訪れ、よりによって靖国神社の対外的なイメージや日本の国際的な品位すら貶めているとしたら、それはご英霊にもご遺族にも、そして日本社会にとっても迷惑この上ないでしょう。

そして、「靖国で会おう」と戦友や家族に告げて戦地で散っていた将兵が、戦友や家族と会おうと思ったのは「騒がしい靖国神社」ではなく「静かな靖国神社」のはずです。なぜなら、その再会は忙しい場所でもできる「物理的な再会」ではなく、遺された人々が心の中でご英霊を念じる「精神的な再会」だからです。

デモ隊のシュプレヒコールやカラオケ大会の軍歌に包まれ、奇妙な「イベント会場」と化した場で、果たしてそれが叶うのでしょうか。どうもそうは思えません。

だから、私は「静かな祈り」を捧げられるようになるまで、8月15日に靖国神社を訪れることはありません。明確な意志を持ってそれ以外の日に参拝します。

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