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イーロンマスクは何を見ている

SpaceX、Tesla、X、xAIの共通点は2つある。1つはイーロンマスクの会社であること。もう1つはリアルタイムデータ収集装置に転用できる点だ。AIの学習データが枯渇した世界で枯渇しないリアルタイムデータを持つことの意味を考えてみる。

人工知能系のトップカンファレンスNeurIPSで元OpenAIのIlyaがキーノート発表をした。

"We have but one internet"

Ilya Sutskever

という言葉から、Ilyaは学習フェーズが終わったと認識している事がわかる。著作権関係で外に出てない高品質なデータもあるはずだがそこも含めてデータを集めて学習をするフェーズ自体が終わったという意味だ。これはfine tuningを基軸とした希少データの利活用さえも過去のものであるという示唆を与えている。

今後は推論スケーリング(一度出した答えを反芻しより精度の高い答えを出すこと)による精度向上が主眼になる。AI関係の半導体は学習用半導体と推論用半導体が分かれるが、半導体レイヤーに投下された資本が推論用半導体に大きくシフトすることで、仮にまだ著作権関係で外に出てない高品質なデータに価値があるとしても、学習やfine tuningをするためのハードウェアが相対的に高価になるのでデータの利活用自体が難しくなる。

学習・fine tuningフェーズが終わったとして、では推論スケーリングの次には何が来るのだろうか。

現在のAIにはコンテキストが圧倒的に足りない。RAGやGeminiのlong contextで場当たり的な補強ができるようになったもののまだ足りない。もし極端に長いコンテキスト長を持ったAIが誕生したらどのような事が可能になるだろうか。たとえば次のようなシナリオでAIは人間の人生に大きな変化をもたらす。

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ホームデバイスに搭載された数百のセンサーがAIにデータを送り続ける(画像はgroq)

2027年、OpenAIが開発したsenseによって部屋の状態をセンシングできるようになった。このデバイスにはカメラ、マイク、温度センサーなどあらゆるセンサーが数百搭載されており、部屋の状態をリアルタイムに監視している。監視されたデータはOpenAIのo3によって処理される。このデータは毎秒1GBを上回る膨大なデータで、o3のコンテキスト処理能力により「ユーザーが今日何を食べたいのか」「体重と生活リズムから予見できる疾病は何か」「今付き合っている彼氏と2ヶ月後に結婚しているか」などあらゆる個人行動が予測できる。この予測機能を使っているユーザーとそうでないユーザーに明らかな行動特性の違いが認められ、人間はAIの「予知」能力を抜きに人生を歩むことは困難になった。

超長コンテキストを扱えるようになると何が起きるのか

つまり世界のちょっと先が見えるようになる。天気予報で明日の天気が当然のように予知できるようになったように、世界全体のちょっと先が見えるようになる*1。「ちょっと先」というのがポイントで、全体的にはカオスな現象でも5分後、24時間後などの短時間であれば十分なデータと推論で予見が可能になる。

この価値は計り知れない。ランニングに出かけるとわかれば先んじてミネラルウォーターを運ぶ事ができるし、ウーバーは予約する前に投機的に動き始める。交通事故が起こりそうな場所に「行く前に」プッシュ通知を出すこともできる。現在すでにAmazonの倉庫でユーザーが注文する前に出荷準備を始め、注文しなければ中止するという投機的な稼働をする特許が存在する。この投機的ビジネスが今日の夕飯から1時間後の株式市場のレベルまで浸透することになる。

この世界規模の投機市場で最も大きな差別化要因は何か。予測システムにおいて情報はフレッシュかつ高精細であればあるほど価値がある。1時間前の膨大な情報より、1秒前の情報の方が何百倍も価値がある。交通事故を予測する際に1時間前の車のセンサー情報より1秒前の情報の方がずっと価値がある。

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カオス的な動きをする現象でも直前の情報があれば直後を予測できる

したがってリアルタイムデータが次のfossil fuel of AI(AIの石油)になることはほぼ間違いない。インターネット上のデータで常識を学習し、常識とリアルタイムデータを使って現実の問題を解く。この際にセンサー群を持っている企業が圧倒的優位になるのは火を見るより明らかだ。

リアルタイムデータの収集に必要な準備を着々と進めている企業がある。xAIだ。xAIはイーロンマスクが創業した人工知能の会社であるが、実際にはSpaceX、TeslaのAIレイヤーになる。一見関係のなさそうなこれらの企業はリアルタイムデータ収集装置として見ると非常に優秀だ。

Teslaが町中を走るたびに搭載されたセンサーによって町のリアルタイムの情報を収集できる。GoogleStreetViewを見ると早くて数ヶ月前の情報だが、これが数秒前・数分前程度の短時間で更新できる。ウーバーはもはや予約する必要すらなく、ウーバーを予約しそうなユーザーめがけて予約前に出発する。ユーザーが予約しなければ素通りすれば良い。テロや災害が起きればTeslaが即座に監視カメラになりXに写真がアップロードされる。

対してXはユーザーのリアルタイム情報を集める。速報性を売りにしていたはずのニュースや学会のプレプリントすら、Xの速報性には遠く及ばないほどXはこの数年でリアルタイムセンサーと化した。事件の速報も地震情報もXが最も早い。すでにXが持つ速報性のネットワークは代替不可能なアセットとなっており、今から代替するサービスを構築するのはおそらくほぼ不可能だ。つまりXはただの罵詈雑言溢れるくだらないSNSではなく*2、人間をセンサーとしたリアルタイムセンサーネットワークとして機能している。このリアルタイムセンサーネットワークが超コンテキスト長を持つAIと接続すると(すでにgroqはその頭角を現しているが)単なるニュースのためのSNSが予測のためのSNSへと進化する。

しかし最も強力なリアルタイムセンサーはSpaceXが持つStarlink衛星コンステレーション、もとい全地球リアルタイムセンサーだ。衛星コンステレーションは同一移軌道上に配備する衛星群システムであるが、Starlinkは500kmという低軌道に配備されている。最新の気象衛星ひまわり8号(35,781km程度)がなので60倍程度も地球に近いことになる。

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Starlinkは気象衛星より大幅に地球に近い軌道を飛ぶ

地球に近い軌道では2つのことが起きる。1つは単純なカメラ映像が高解像になる(Falcon9によって打ち上げられたアマテル-IIIの分解能は46cm程度)。もう1つは通信速度が速くなる。これにより地表面をほぼリアルタイムかつ超高解像でストリーミング可能になる。そしてこの技術はSpaceXがほぼ独占することになる。なぜなら低軌道では1つの衛星がカバーできる地表面の面積が小さくなるため大量の衛星を打ち上げる必要があり、大量に衛星を打ち上げる能力を持っている組織は現在SpaceXだけだからだ。

かくしてイーロンマスク率いるSpaceX、Tesla、Xは陸海空+ソーシャルにわたる人類から発生する全てのリアルタイムデータを吸い上げてxAIに食わせることで圧倒的な未来予測能力を持つことができる。しかもSpaceXとTeslaを追い越すには狂気のようなハードウェア投資が必要になる。生成AIの基盤モデルが熾烈な争いを繰り広げているのを横目に、高い参入障壁に守られた領域を独占的に開拓できる。

(本文終わり)

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