1年目のシーズン中のこと。ある日、田淵監督が担当記者を集めてこんな注文を出した。
マスコミの厳しい目が必要だ
「みんな、もっと記事で選手を叩(たた)いてくれないか。試合に負けたときは特に厳しく書いてほしいんだ」
「どういう訳なんです?」
「オレは甲子園のファンの強烈な野次(やじ)や新聞の厳しい記事で鍛えられた。何くそと反発したり、なるほどと勉強させられたり。マスコミの厳しい目がオレを育ててくれた。ウチの選手にもそれが必要だと思う」
監督の異例の申し出に心が痛んだ。熱い思いは理解できた。だが…。
「監督、僕たちもできればそんな厳しい記事を書きたい。でも、今のダイエーで誰が負け試合の記事を読むんですか。タイガースだから載るんです。タイガースだから厳しい記事が書けるんです。まず、負けても記事が載るチームにしないと」
「そうか…タイガースだからか。阪神の選手は幸せだな」
ダイエーだけではない。それが当時のセ・リーグとパ・リーグとの球団格差だった。初めて味わう弱小球団の悲哀。肩を落とした田淵監督の寂しそうな顔は、今でも忘れられない。(敬称略)(田所龍一)