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人生設計をしよう

「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」


 月曜日。ジンさんとダンジョン。


「シロ、どうだった?」


「すごく空気を読む子になりましたね。」


「気配を読む訓練しかしてないけどね?」


 ああ、そういう気配も感じ取れるようになったんだなシロは。大人になったね。

 さすがにわたしたちといる時は甘えた仕草もするけれど、支部に着いた時点で仕事モードなのかピシリと居住まいを正した。駄犬ルートは外れたと言っていいだろう。


 そんなわけで、中層階。ついでだからとクロの指導もしてくれている。お礼のポーション代くらいは働くよ、とのこと。確かに対価としては高価だったな。


「クロは聡いな。クリティカルを早く一撃必殺に変えられるようにレベルを上げてくといいよ。夏は祖父のところへ行くんだろ?」


「その予定です。」


「アイランにもダンジョンがあるから、祖父と潜るといい。多分、喜んでクロとシロを鍛えてくれる。あと来訪者のテイマーも住んでるから。祖父の側近だけど。」


 ああ、マティコさんとかいう方。魔族の人だ。元々魔王様の側近で、現在は執事。独身という情報は持ってたが、テイマーだったのか。


「彼のフェンリルもね、最初は手を焼いたそうだよ。祖父と一緒にダンジョンに行ってくれればシロやクロの勉強にもなると思う。なんだったら私から頼んでおくよ。」


「是非ご指導をお願いしたいです。」


「あとはアレだね。ショウコのスキルから外れるオンオフを他の人がいなくても出来ればいいんだけど。」


 今回潜ってみて分かったのは私のスキルから外れるのはバルトに限ったことではないということ。恐らく、その場で指揮官であると認めた相手に自分たちの所有権を一時的に移譲しているのだろうということだった。臨機応変に飼い主を変えているってことか。状況によってわたしのスキルを利用したりと、賢く使い分けている。ソロでも切り替えが出来るようになればかなり有用では。

 本日は特に失礼発言もなく指導終了。確かにバルトにも躾が必要だった。あの晩はオールスルーで寮に戻った。わたし自身もクロシロもバルトもいない睡眠は久しぶりだった。ゆったり眠れたわ。バルト?知らん。翌日クロシロを佐山くんから回収した。バルト?知らん。


「ショウコ!」


 寮に戻って来たら既視感のある光景。ストーカーがいた。


「すまなかった、悪かった。まだ怒ってる?」


「怒ってる。」


「あの衣装、処分していないよな!?」


 そこかよ。怒ってるのアホらしくなってきた。


「アレ、いいやつだから。捨てるわけないじゃん。」


「今夜はあれを着て、外食しないか?平日だが、キントーの店へ行こう。」


「セクハラしない?」


「しない。約束する。」


 キントーさんは巨大化するまではクロシロも店に連れて来ていいと言ってくれてるので、ジュンさんのご飯を用意してから四人でキントーの酒場へ。


「うお!シロ、でか!」


「もう店に入れるの難しいですか?」


「いや、まだいいよ。大丈夫。」


 というわけで、二人で乾杯だ。祝うことないけど。


「バルトはマティコさんて人、知ってるの?」


「マティコ先生は私の家庭教師もしてくださった方だ。」


「マ総統の側近じゃないの?」


「マ総統の側近ではあるが、コソアードに移住しても政治には関わらなかった。飽くまで私的な執事でらっしゃって、余った時間に子どもたちを集めてユキヒトの残した民主主義と資本主義経済についての講義を行っていた。まだ王政の名残は根強いが、我々の世代辺りからそれがないのはマティコ先生のお陰だな。まあそれもマ総統の指示ではあるんだが。」


 めずらしく尊敬してるっぽい感じ?佐山くんのレベルアップにならない無駄な時間だったと言い切った教科書翻訳のヤツかぁ。結局またこっちに来てるんだし、その翻訳版のお陰でこき使われなくて済んでるから無駄じゃなかったんだな。あ、佐山くんはこき使われてるか。レベルアップの為に自ら望んでやってるけど。


「まだこの国は改革道半ばだ。そちらの世界で産業革命に裏付けされた資本主義経済に移行するには社会的成熟と技術的発展がないからな。」


「なぁーんか小難しい話してんな〜。デートに向かねーぞ、領司様。ホイ、お待ち。」


「む。そうか。悪いな、ショウコ。」


「いいよ。それくらいなら学生の間に国民全員が学ぶことだし。」


「そうだった。そちらの教育水準はこちらと全く違うのだよな。」


「ゆっくり教育するね。長いとバルトくらいの歳まで学生だったりするし。」


「寿命は長いのか?ヒューマンだろ?」


「うーん、あっちの世界でもわたしたちの国は長寿国だったから。て言っても平均寿命男女共に八十代くらいだけど。」


 コソアードの平均寿命より二十年くらい長い。それも戦後の話だと思うけど。取りこぼす命が医療の発展とか栄養の問題で改善されたのが大きいんだと思う。


「私は恐らく百二十から五十、長ければ二百は生きると思う。」


「え、そうなの!?」


「ああ。マ総統に以前そう言われた。」


「でも、ヒューマンと同じ成長を辿ってるって、」


「あの方のような不老不死やアイラン島にいる方々から見れば二百年など誤差の範囲なんだろうな。」


 な、なるほど。いやなるほど?死なない人、歳取らないで何千年も生きる人、呪いで死ねない人(佐山くんのスキルだけど)と色々いるらしいけど、確かにそういう人たちから見たら二百年は短命なのか?


 いや、それよりだ。


「バルト。わたし、バルトより先に死んじゃうよ。頑張って百年は生きるとしても、残りの時間は大丈夫?永遠の孤独になっちゃわない?」


 ん?何その顔。ちょっと拗ねたような、不貞腐れたような顔でわたしを軽く睨んでいる。バルトに睨まれたのは初めてかも。


「ショウコは私の子を産んでくれないのか?」


「え、うーん、い、いつかは……?」


 怖いけど。まだ親になるのは怖いけど。いつかは、あのゼーキン邸の丘で、クロとシロと、わたしたちの子どもが一緒になって転げ回って。そういう妄想はしたよ。

 わたしにも出産のタイムリミットがあることは分かってる。この世界の医療水準は低い。ポーションがあっても外科的手術が発達してないのは正直、出産への抵抗を加速させる。年齢的にもうそろそろ考え始めた方がいいとは思ってる。ただ、もう少しこのままでいたいとも思う。


 バルトは顎に手を置いて少し考えてから、他人に聞かれたくないのかわたしに顔を寄せて耳打ちをした。


「今は避妊具を使っているが、直接精を流し込んでそれが吸収されることでショウコの寿命が私に近付くんだ。唾液でもそうだが効果が低い。竜人の血を持つ子を孕めば哺乳類ならその子と臍の緒で繋がるしな。我々竜人は精を放つ男側の寿命で己の寿命が決まる。女は母のように細胞が崩壊していく者もあれば、初代の奥方のように純血種と同じ寿命を獲得する物もある。私はまだ一度しか精を直接ショウコに注いでない。あれだけでは足りないんだ。子を産まないのならそれこそ毎日のように注がないと。」


 一度……?アレは一度って言うのか?


 毎日は嫌。子どもはいつかは欲しい。寿命が延びることに関しては……百まで生きるを目標にしてたけど二百までに延ばすくらいなら何とかなる、かな?まあ、百二十で死ぬ可能性もあるけど、人体の耐久年数くらいだよね、それなら。

 その頃には今親しくしてる人たちは殆どいなくなってしまうだろうけど、ジュンさんはいると思うし!バルトの姪っ子のマイーナちゃんがコア持ちで成長がゆっくりだから、他の家族がいなくなっても少しだけ長く一緒にいてあげられるし!


 バルトといることを選ぶなら、それくらいは引き受けないとな。


 バルトの顔を見ると不安そう。まあ、この話、完全に後出しジャンケンだから。大丈夫、怒ってないよ。


 わたしもバルトに顔を寄せて耳打ちした。


「わたしが三十五になるまでには一人目産みたいな。」


 そう言ったら、バルトは顔を真っ赤にした。自分から来るときは全然照れないのに。かーわい。


「うおーい、お前ら、こんな場末の居酒屋でイチャつくな〜!」


「場末とはなんだゴルァ!」


「やんのかゴルァ!」


 すぐにじゃないよ?と言ったら、分かってると顔を背けた。


 グズグズしてるより、ちゃんと二人で話し合って今後のことを決めよう。その方が余程建設的だ。


 人生設計図は他の誰でもない、バルトと考えたいからね。

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