その後のにほんのこ
※以下を先にお読みください。
小玉はるなの場合
「주인님의 외출입니다!
(ご主人様のお出かけです!)」
「어서 오세요! "주인님!
(行ってらっしゃいませ!ご主人様!)」
本日8組目の客を見送った。私は小玉はるな。芸能界引退後、ソウルのコンセプトカフェでメイドをしている。
テーブルのバッシングをし、バックヤードに戻ると同僚の韓国人メイドが話しかけてくる。
「별, 한국어를 잘하게 되었구나.
(ビョル、韓国語上手くなってきたね)」
「감사합니다. 언니.
(ありがとうございます。オンニ。)」
ビョルとは韓国語で星を意味する私の源氏名だ。彼女をオンニと呼んでいるが、私より大分年下だ。韓国では経歴を知られていないだろうと思いつつも、過去を捨てたくて身分を隠している。あの屈辱の過去を…。
「"별, 있니?별~?"
(ビョル、いる?ビョルー?)」
バックヤードの入り口から先輩が呼ぶ。
「"예!"
(はい!)」
「"일본어를 하는 손님이 왔으니 응대해 주세요~"
(日本語話す人来たから、対応してー。)」
わざわざ韓国にきてまでメイドカフェに来る日本人も珍しいな、と思いながら、フロアに向かうとそこにはかつてよく観たテレビ局のカメラが。
「どうされましたか?って、え?」
「すみません、日本のテレビ番組で『世界で発見、日本の文化』という番組なのですが、本日取材できたり…ってあれ?」
「まり…こ?」
「はるな…」
突然すぎて何が起きたかよくわからなかった。そこに立っていたのは、IKB時代の同僚の篠宮まりこだった。
彼女は、テレビ番組の取材で韓国に来ていた。
「え、はるな、え、まじ?ここで働いて…」
「ちょっと来て」
テレビなんかに取り上げられたらたまったものではない。韓国で放送されなくても、他のメイドから番組を探しだされてしまうリスクがある。
「まりこ、お願いがあるの。ここで働いてることは絶対に知られたくない。取材はお店的にOKだけど、私は裏に下がる。いい?」
「わ、わかったけど…。なんで韓国ではたら…?」
「あとでLINEするから!」
そんな慌ただしいやりとりがあり、私はバックヤードに逃げ込んだ。
まりこは一通りロケを終えて、帰っていったようだった。ほっと胸をなでおろしながらまりこの事を考える。
「まりこ、一番歌やダンスに向き合ってたからな…。」
まりこはIKBの中でも特に音楽に向き合っているのを私は知っていた。なんとなくIKBの現況を知っていて、そこにまりこが身を置くのはあまりにも…
「惨めだな…」
つい呟いてしまった。
「저기요, 제가 깨달은 게 있어요.
(ねーねーちょっと気づいたんだけど)」
突然、先輩韓国人メイドが話し始める
「아까 기자님이 일본 IKB의 멤버라고 하셨는데, 그 말을 듣고 생각나서 La MeTIS와의 경기 영상을 봤습니다.
(さっきのリポーター日本のIKBって言ってたよね?それでLa MeTISとの対決動画見返したんだけど)」
え、え、しまったもう次を言わないで…。
「별은 이 사람이죠 ㅋㅋ
(この子ビョルだよね笑)」
最悪だ。
「"이봐요, 안경 좀 가져와요."
(ねーメガネ取りなー?)」
隣にいた子が私の顔から眼鏡を無理やり引き剥がした。
顔があらわになり、アイドル時代と何ら変わらない私の顔が白日のもとにさらされた。
「역시 그렇군요 저기, 부끄럽지 않았나요?
(ほらやっぱりそうだ笑 ねえ、あれ恥ずかしくなかったの?)
わかりきっていることだ。あんな公開処刑番組恥ずかしいに決まってる。だから隠してきたのに。
「나 같으면 저렇게 못생긴 모습을 세상에 내놓으면 죽을 것 같아서요 ㅋㅋ
(私だったらあんな恥ずかしい姿見せたら死ぬー笑)」
「이봐, 노래하고 춤춰봐. 그 센스 없는 지루한 노래ㅋㅋㅋ
(ねえ、披露してよ!あのダサくてつまんない歌 笑)」
「아...아...아...
(あ、あ…あ…。)」
一番惨めなの、私だ。
アイドルだった自分よりも、何段階も整った見た目をしている韓国人メイドたちの爆笑に包まれ、私は涙も流さず、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。
それから私は職場に行くたびにあの日の動画を見せられ、貶され、メンタルを病んでしまった。
前島あつこの場合
最近の仕事には納得がいっていない。
グラビア撮影、握手会、小規模なライブ、グラビア撮影…ループしてる?
私は、ドームに立つべきアイドルなの。気持ち悪いおっさんのために水着きたり、気持ち悪いおっさん手を握ったり、気持ち悪いおっさんしかいない空間でパフォーマンスするようなレベルには、ないはずなの。
こんなの惨めすぎる。
しかもライバルのゆうこは、あの忌まわしき対決のあと卒業して、今は消息不明?なんて骨のない女!ライバルって言ってたのが恥ずかしい!まあ普通にムカつくやつだったからいなくなったの嬉しいけど。
「聞いてんの?あつこ」
「ん?」
メンバーの篠宮まりこが話しかけてきてるのに気づかなかった。
「なに?なんかいった?」
「だーかーらー韓国ロケしたらコンカフェにはるながいて…。」
「なにそれ意味わかんない!私いま不機嫌だから変な冗談言わないでくれる?」
「いや、ホントの話で…」
まりこはおふざけが過ぎる時がある。むかつく。
「あのさあ、そんなにイライラしてるんだったら、もう秋山プロデューサーに直談判しなよ。」
「あ、そうじゃん。」
そうじゃん。秋山プロデューサーは案外話が分かる人だと思っていて、主要メンバーの私達の意向は割と汲み取ってくれる。
「ありがとまりこ、今度ガム一粒おごるわ」
「なにそれ?せめて牛タンにしな牛タン。」
またふざけたことを言っているまりこを尻目にプロデューサー室に向かう。アポイント?いらないしょ。
「すみませーん!入ります!」
「わ!ちょっと待て!」
秋山Pはパソコンをガチャガチャ操作していた。開いていたウインドウを閉じたような感じだった。
「春画でも観てたんですか?」
「おれは江戸時代のプロデューサーか」
「そんなのどうでもいいから聞いてもらえます?」
「あの、最近グラビアとか握手会とかばっかじゃないですか、もうメンバーみんなストレスだいぶ溜まってるし、このままじゃまずいと思うんですけど」
「わかってる、わかってるよ前島」
秋山Pは濁す。いやもうそんな段階じゃなくて…
「いやもうそんな段階ではないです。辞める人も続出してるし、何かちゃんとした方針示してくださいよ!もっと大きなところでライブしたいんですよまた。こういう感じが続いたら私だって…」
「いろいろ難しいんだって」
「でも!」
「ああそんなに気に入らないんだったらあいつみたいにKpopでデビューすればいいだろ。」
「え、あいつ?」
「あ…」
秋山P言っちゃだめな事を言っちゃった顔をしてた。
秋山やすしの場合
前島あつこに直談判をされる前日、僕は芸能プロダクション関係者やテレビ局関係者、広告代理店関係者などが集まるパーティーに参加していた。
こういったパーティーには、余裕を持った態度で臨むことができていた。あの番組があるまでは…。
今は必死になって各所に売り込みをかけていかなければならない。
様々な番組スタッフに挨拶回りをしていると、ふと声をかけられた。
「秋山先生ですよね?」
「はい、あ、あなたは…」
声の方に顔をむけると、そこにはなんとLa MeTISのアン・セヨンプロデューサーが立っていた。
「お久しぶりです!あの番組以来ですね!」
「そうですね!あれ、アンさん日本語話せたんですか?」
「いえ、La MeTISの日本での活動が多かったので勉強しました!」
「え、ここ一年の話ですよね?」
世界的に成功を収めているLa MeTISの活動をプロデュースしながら、日本語を勉強したということか?ゆ、優秀すぎる。
「あの番組はほんとにお世話になりました!あの番組での対決がなければ今のLa MeTISはありません!」
彼女は無邪気に言った。
僕は「ははは」と渇いた笑いを返すことしかできなかった。
あの対決がなければ、IKBの悲惨な現状も避けられたのだから。
「そうそう!うちの事務所からさらにもう一グループデビューが決まりました!そちらも私がプロデュースするのですが…」
そう話す彼女には自信がみなぎっていた。僕を踏み台にして、彼女は羽ばたいたのだ。
「新グループについて、秋山先生は驚くかもしれないんですけどある子がメンバーにいまして」
そう言うと彼女は僕に耳打ちをした。え…。今なんて言った?
驚いた表情をする僕を見て彼女は微笑みながら言った。
「私は彼女を世界的なアイドルにしてみせます。」
家に帰ると僕はすぐに自室に駆け込んだ。妻には会食があることを伝えてあったので、先に寝ていてもらっていた。
パソコンの前に座り、あるデータフォルダを開いた。
アン・セヨン。僕を負かした女。日本の芸能プロデュースで勝ち続けてきた僕を、積み上げてきた実績を、たった一グループのプロデュースで遥かに超えた女。卑怯な手を使ってまで勝とうとした僕を、完膚なきまでに叩きのめした女。
「そう言えば、あの子のデビューも…」彼女の新グループのメンバーには僕がかつてプロデュースした少女がいるようだ。彼女に対するプロデュース力についても完敗するという明白な未来を想像した。
僕はズボンを下ろし、いつものように自分より優れた存在の彼女で、男の極めて恥ずかしい行為を始めた。そしてすぐに白旗をあげたのだった。
Interlude アン・セヨンの内心
日本で有意義なパーティーを終え、韓国に帰国した私は、事務所の自席に座っていた。もうすぐ新しくデビューする子たちをプッシュする為にもプロデューサーの私がこういった活動を惜しんではならないのだ。
それにしても、パーティでの秋山の屈辱的な顔は滑稽だった。隠そうと必死にしていたが、私の顔を見るなり敗北者のオーラを放ち始めた。
しかし、握手をする時に明らかに胸に視線を落としたのは本当に不快だった。あの目をみれば彼のプロデュースしてきた少女たちが、彼からどんな目線を向けられて来たか痛いほどわかる。汚らわしい。
日本に行くとそのような視線を浴びる機会が多い。私のところの子たちを、そういった目線から守らなければ、向けられないようなプロデュースをし続けなければ、と改めて思っていると、不意にノックがされる。
「프로듀서님, 실례합니다. 최하늘입니다.
(プロデューサーさん失礼します。チェ・ハヌルです。)」
「들어가도 괜찮아요
(入って。)」
「부름을 받았다고 들었는데요.
(お呼びと聞きましたが)」
「네, 유우코, 당신을 부른 것은…
(ああ、「ゆうこ」、貴女を呼んだのは…)」
「"한울입"니다. 세영님
(ハヌルです。セヨンさん。)」
彼女が食い気味に言う。
彼女の帰属意識は既に韓国にある。国籍取得の要件は満たさないが、満たしたら直ちに取得を希望するであろう。
「어제 파티에서 아키야마 씨를 만났어요.
(昨日パーティで秋山さんにあったの)」
「아, 그 뚱뚱한 안경 쓴 아저씨군요.
(ああ、あのブタメガネですね。)」
「곧 데뷔를 앞두고 있으니 그런 저속한 단어는 쓰지 말아주세요!
(デビュー控えてるのにそんな言葉使わない!)」
口ではそういうものの、思わずクスリと笑ってしまう。彼女は卒業後も彼を「秋山先生」と呼んで尊敬していた。しかし、私からのプロデュースを受け、自らがより優れたアイドルになっていくにつれ、今までの彼のプロデュースや彼そのものに嫌悪感を抱くようになっていった。
秋山の一番の商品だった彼女も、いまや私のものである。
そんな彼女も当時のメンバーたちにはまだ愛着があるようであった。彼女達と、特に前島という子と会えないことに寂しさを感じているようだった。
「내일 출연하는 프로그램에서는 절대 그런 식으로 말하지 마세요!
(明日出る番組ではそんな物言いはしちゃだめ)」
「물론 알고 있어요, 안 선"생님".
もちろんわかってますよ、アン"先生"」
そう言うと彼女は部屋を出た。
今の彼女をみたら秋山は、IKB時代の仲間たちはどう思うだろうか。秋山は私に対する劣等感をより強めるだろう。IKBの子たちは大田に対し強い劣等感を抱くようになるだろう。
わたしの嗜虐心はそれが楽しみで仕方がない。
大嫌いなイルボンの恥ずかしい様子が。
そして大嫌いなイルボン人からイルボン人の女の子を使って大金を稼ぐことが。
大田ゆうこの場合
セヨン先生の部屋を出た私は、明日の番組のシミュレーションをしていた。私たちのグループはメンバーが公表されておらず、明日の番組が初お披露目となる。
「반드시 성공해야 한다…
(絶対成功しなきゃ…)」
ダメなアイドルであったころの私とはもう違う。あの子たちとはもうレベルの違う存在なんだ。
…あつこもやめてこっちに来たらいいのに。
はるな まりこ 元気かな…。
そんなことを考えている隙はない。
明日のお披露目に全力を注がなきゃ。
番組生放送当日。
自己紹介もパフォーマンスも完璧に決まり、言うことがなかった。
次は一人一人につき掘り下げるコーナーだった。
メンバーの知っていた特技や経歴、知らなかった一面を教えてくれるVTRに素直なリアクションをしながら時間が過ぎた。
いよいよ私の番だ。
「다음은 하눌이다!
(次はハヌル!)」
わたしの名前が呼ばれて改めて自己紹介をする。その後わたしのVTRが流れる…って、え、ちょっとまって。
画面にはIKB時代のパフォーマンスが映される。待って恥ずかしい…。
「하늘에도 이런 시절이 있었군요 ㅎㅎㅎㅎㅎㅎ.정말 노력했구나! ㅎㅎㅎ
(ハヌルにもこんな時代があったんだね笑 ほんと努力したんだね笑)」
メンバーたちが心底おかしそうに笑う。
「잠깐만요! 이 아이의 춤을 잘 보세요!
(まって!見てこの子のダンス笑)」
メンバーの一人が、まゆを指差し笑う。それ以上はやめろ。私の大切な友達を悪く言うな。
あ、これはLa MeTISとの対決。てことはこのあとは…
画面の中でアリアの前でまゆが膝をつく。
ふとカメラセットの裏にいるセヨン先生の方を見る。無表情で私をただただ見つめている。
わたしは…わたしは…
「하하…하하하하하하하하하하!!!
(あは、あははははははははははは!)
なんて滑稽なんだろう。この画面に映ってるブス音痴イルボン人たちは。
私は心の底からおかしくて仕方なかった。
このちんちくりん達を今まで仲間だと思っていたのか?そのことに虫唾が走る。
セヨン先生の方をみると、満足そうに私をみて微笑んでいた。
そのまま放送は続き無事すべてのプログラムは終了した。
番組終了後、セヨン先生は私に近づいて耳打ちした。
「쪽발이 졸업 축하합니다. 한울님.(イルボン人卒業おめでとう。ハヌル。)」
そして私を抱きしめた。
セヨン先生のいい匂いが私の鼻腔をついた。強烈な嬉しさと気持ちよさと多幸感が襲いかかり、私はその場にへたり込んだ。
落ち着いてから楽屋に戻ると、IKB時代メンバーだった高山からラインが来ていた。
「今韓国にいるから見てたんだけど、ゆうこ、いやハヌルすごい!一瞬でファンになったよ」
ふーん、あいつ私の虜になったのか。雑魚のくせに見る目あるじゃん。
それぞれのLINEを一瞥し、返信をしないでいると、あつこからのLINEを見つけた。
「きいたよ。おめでとう。ライバルとして応援はするよ。頑張りな」か。
まあ、秋山にでもきいたのだろう。
彼女にだけは返信してあげることにした。
「二度とライバルなんて言わないで。おこがましいって思わないの?あんたと私のレベルは既に全く違う。」
そのメッセージにはいつまで経っても既読すらつかなかった。
高山みな・板垣ともみの場合
私たちは今釜山のとあるイベント会場にいる。
今日は待ちに待ったセビン様との握手会。滅多に当たらない握手券をなんとそれぞれで当てることができたのだ。
遅刻しないように私、高山みなと友人の板垣ともみは、昨日から韓国入りをしていたのだけど、そのおかげでたまたま元メンバー、ゆうこの韓国デビュー特番を観ることができた。
「ねえ、昨日のゆうこ、凄かったね!」
「うん!まじよかった!ハヌル、また推しがふえちゃう笑」
「懐かしい映像も流れたね笑」
「ね笑 ともみを慰めてるセビン様、ほんとに素敵だった…。」
La MeTIS様とIKB45の直接対決。あの番組が私達2人の人生を180度変えた。
明確な差を実感することで、人から応援される立場から人を応援する立場になった。
「ね、もうすぐ私たちの番だよ!」
今回の握手会は、知り合い同士の同伴であれば一緒にブースに入れるルールのようなので二人で入ることにした。
わくわくして、ブースに入るとそこにはセビン様が!
「안녕하세요~ 오늘은 와주셔서 감사합니다~!
(こんにちはー、今日は来てくれてありがとー!)」
あ、あ、練習してきたのに言葉が…
「음, 항상 응원합니다!
(ええと!いつも応援してます!)」
ともみがなんとか言う。あ!それそれ!
「コマウォヨーってあれ?IKBのオンニ達じゃないですか?」
「え、、、、」
え、え、え、え、うそーー!!認知されてる!?!?やば!!やばい!!
「あ、あ、えと、その」
二人でどもってしまう。
「緊張しなくて、OKですよ。あ、握手会、時間すぐ終わっちゃうだから、ぜんぶ終わるしたらお話しませんか?スタフには話通しておくので…。」
やばいやばいやばい。只のファンで一般人なのに…てか、IKB時代の立場でもお話するのがおこがましい存在なのに…
と、ぐるぐる考えながら私達はグワングワン首を縦に振っていた。
握手会終了後、スタッフに声を掛けると、すんなり楽屋まで通してくれた。ほんとにこんなことがあっていいのかと思う。
「あ、オンニ達来てくれてありがとごじゃいます!」
「いえ、そんな…あの、ほんとにこんなこといいんでしょうか?私たち完全に一般人ですけど…」
ニコニコ笑うセビン様に私がおずおずと尋ねると、彼女はもっと笑顔で答えた。
「えー、番組共演した仲ですよー!水臭いこと言わないでくださいー!」
天使、天使様なの!?いや、それ以上…
「あの、ほんとにこんな機会ありがとうございます…お言葉に甘えさせていただきます!」
ともみが涙目で言う
「あははー、てかけご?敬語?ちゅかうのやめてくださいよー!オンニ達年上ですよー!」
「いや、セビン様の方が圧倒的に格上な存在なので…ていうか日本語上手いですね!」
「イルかちゅ(イル活)たくさんあるから、イルペンの人たちにもいっぱい話せたらなーって!やと最近会話できるよになりました!」
尊い。尊いよセビン様。
私たちはそれから、どれだけセビン様が好きか、あの番組のときどう思ってたか、等などを早口で話した。
「うん、うん、オンニ達そんな風に思ってたんだね。わたしは、ゆうれちゅ(優劣)をちゅける番組のやり方はそもそもちょっとやだったの。それは恨みを生むから。でも。」
そう言うとセビン様は私たちをああああああああ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
「オンニたちが私を好きになってくれてよかった。サランヘ〜オンニドゥル♡ これからもいっぱいセビンを愛してね♡」
あああ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
…
ほとんど記憶がない。
多幸感に包まれながら、帰国の飛行機に飛び乗った。気付いたら私たちのKakaoTalkのカカともに、セビン様がいた。
一生追いかけます。一生お慕いします。セビン様。
Interlude セビンの内心
握手会の次の日は、La MeTISのMV 撮影でした。最近は各々ソロでの活動も多くなり、最初の頃と比べてメンバーと会う機会が減ってしまっている状況にさみしさを覚えます。
そんな気持ちからか、集合時間よりかなり早い時間に楽屋に入ってしまいました。
昨日のオンニたち、可愛かったなあ。背が低くて、顔が大きくて足が短くて丸っこくて醜くて…
私は自分より弱いものに対して大変な愛着を持つ性質があるのです。
IKB45さん。初めて歌やダンスを見た瞬間から彼女たちのファンなのです。音がうまく録れず、リズムをとるのも不得意な歳上のお姉さん達の一生懸命な姿。心地よい動悸が止まりませんでした。
そして何より、対決番組の結果発表のタイミングです。跪き泣いたり、土下座をする彼女たちの可愛らしさを受け、私は興奮のあまり体が震えてしまい、隠すのに精一杯でした。
一人のお姉さんに手を差し伸べた時の、あのすがるように見上げる顔は一生忘れられません。
「아, 내가 제일 먼저 도착한 줄 알았는데 세빈이 먼저 도착했군요.
(あ、一番乗りだと思ったのに、セビン早っ!)」
そのように浸ってるとスジが入ってきました。私はスジに昨日の出来事について話しました。
「그 약삭빠른 일본 여자들이군요. 저 애들이 뭐가 좋은지 도무지 모르겠어요.나 같으면 저 여자들을 보면 욕을 할지도 모르겠다.
(あの弱かった日本人女たちね。何がいいのあれの。私だったら罵倒しちゃうかも。)」
スジは弱いものいじめが好きなタイプなのでしょうか。弱いものは優しく愛でるべきなのに。
そんなやり取りをしながら、各メンバーが集まりました。
プロデューサーも含め全員が集まってからも私は昨日の出来事を話しました。
「또 그런 말을 하고 있네요.정말 약한 걸 좋아하네.
(またそんなこと言って…ほんとに弱いもの好きだね。)」
ソヨンにも呆れられてしまいました。
「그러고 보니 아리아도 IKB의 여자아이들을 키우고 있었죠? 요즘은 어때요?
(そういや、アリアもIKBの人飼ってたね。どうなの最近?)」
ジヘが言います。そういえば、アリアはIKB出身のこれまた可愛らしいお姉さんをバックダンサー兼荷物持ちとして迎えたようです。羨ましい限りです。
アリアが話し始めます。
「아, 그 아이는…
(ああ、あのこは…)」
渡貫まゆの場合
アリア様に拾っていただいてから半年近く経った。お会いするたびに土下座をさせていただくことに、最初は戸惑っていらっしゃったアリア様も段々慣れてこられたようで、その度頭をなでなでしてくださるようになった。
「아, 마유짱. 마사지 잘 부탁드려요~!
(あ、まゆちゃんマッサージよろしく〜)」
アリア様のために整体師の資格を取らせていただいた私は、彼女のダンスレッスン後、マッサージを担当させていただくようになった。
「아~ 저기서 정답입니다. 기분 좋네요!
(あ〜そこ、そこ気持ちいい〜!)」
アリア様のツボをつける嬉しさに心はガッツポーズしている。
その後、アリア様から仕事の愚痴を吐いていただくなどして、マッサージを終わらせた。
「마유짱, 오늘도 우리집에 와줘.
(まゆちゃん、今日もうちおいでー)」
信じられないことに、最近アリア様のお家に呼んでいただくことが多くなった。
そして、そこではもっと信じられないことが行われるのである。
「마유짱! 손!
(まゆちゃんお手!)」
「멍멍!
(ワンワン!)」
アリア様は私を愛玩動物に見立てて遊んでくださるのがブームなのである。私はアリア様が楽しんでいただけるように犬になりきって過ごす。
目の前に料理の入った餌がおかれる。私は食いつこうとするも
「잠깐!
(待て!)」
私はよだれを垂らしながら、料理を目の前にして待つ。その様子をアリア様は可愛いらしい声でキャッキャと笑う。
「마유짱은 벌써 26살인가.침을 흘리다니 한심하다.
(まゆちゃんもう26歳でしょー?よだれ垂らしてだらしないでちゅねー笑 んーっ ぺっ)」
アリア様は、私の餌に唾をおかけになり、料理の仕上げをしてくださる。
イルボン人専用フードの韓国人様唾液ソース和え。ご馳走がもっとご馳走になった。
「후후후, 먹어도 괜찮!
(ふふふ、食べていいよ。)」
その合図の瞬間私はエサにかぶりつく。口元を汚しながらがっついていると、アリア様が頭を撫でてくださる。
「귀여운 마유짱. 다 먹고 나면 오늘은 집에 가도 돼요.
(かわいいまゆちゃん。食べ終わったら帰りなね?)」
私は最高の食事を終えると、アリア様に見送られながらいつも帰宅するのだった。
帰宅しテレビをつけると、トーク番組の再放送が流れていた。
先日うちの事務所のからデビューが決まったグループのお披露目番組のようだ。
「あ、ゆうこ。」
そのグループにはかつての同僚、大田ゆうこがいた。今はハヌルと名乗っている。
ゆうこは、私たちとLa MeTIS様の対決番組のVTRを見て、恥ずかしがることなく手を叩きながら笑っていた。
まるで自分が韓国人様側であるかのように。
「惨めだなぁ。」
韓国人様のようなメイクをして、ヘアスタイルをして、服装をして、名前を名乗って、振る舞いをしたところで、所詮日本人は日本人なのだ。
ゆうこもグループとして活動していく中で、どんどん他のメンバーとの容姿、能力、人気の格差に苦しむことになるだろう。
日本人が韓国人様に敵うわけがないのだから。
Epilogue さらにその後
小玉はるな
韓国で生活保護を受けながら生活している。市販薬によるオー◯ードーズとリスト◯ットが趣味。
篠宮まりこ
妻子ある身の業界関係者と不倫。
週刊誌で大きく報じられ、イメージに大打撃。CMの違約金などで7億円の借金を負う
前島あつこ
IKBを卒業し、別の事務所から女優としてデビュー。国内ではそれなりに人気を誇る。
大田ゆうこ(ハヌル)
他メンバーより才能がないが、努力でカバー。なんとか食らいつくも人気は残念ながらグループ最下位。
高山みな、板垣ともみ
セビンにより韓国へ呼び出される。晴れて2匹のペットとして飼われる事となる。韓国語を覚えることを認められず、韓国において常に弱者としてセビンに愛でられる。
渡貫まゆ
バックダンサー引退後は、アリアの女中となり彼女の生活を全面的にサポート。また愛玩としての側面も持つため、彼女を喜ばせるために必死。度々芸を仕込まれ、La MeTISのメンバーやアン・セヨンプロデューサーの前で披露させられる。
秋山やすし
La MeTISの2枚目のアルバムまでの売上で、彼のプロデュース業での総売上を超えられる。常にアン・セヨンのことを考えている。
抱えるグループの人気メンバーの脱退・韓国事務所移籍が相次ぎ苦しい状況。また、大幅な収入減により妻に愛想を尽かされ離婚。
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