韓日アイドル対決
近年文化的交流が盛んになった日本と韓国。
音楽、アイドル、ドラマ、アニメ、ゲームなど、様々なカルチャーをお互いの国民が楽しむようになっていた。
そのような状況にあっても、日本のテレビ局の視聴率は低迷を極めていた。映像サブスクリプション、動画配信サイト、その他の娯楽の充実等などの要因もあるが、優れたコンテンツを創作できないことが一番の原因であると首脳陣は考えていた。
そんな中、テレビJAPANがある番組を企画していた。
『日韓アイドル直接対決!』
内容としては日本のアイドルと韓国のアイドルが、ひと月の期間の
・YouTubeのMV再生数
・TikTokの関連動画(10個まで)の再生数
・Instagramのハッシュタグ投稿の数
・Spotify、Apple Music、Amazon Musicの再生数、
・日本国内でのCDの売上
の5項目で競い合うものである。
日本からは池袋発のアイドル、IKB45が選ばれた。45グループの元祖グループであり、一時期は年間ヒットチャートの上位を独占していたものの、現在は人気メンバーの卒業もあり、やや人気に翳りが出始めていた。そういった事情もあり、当番組の出演により、最盛の勢いを取り戻したいプロデューサーの意向が、当番組を盛り上げたい番組プロデューサーの意向と合致した。
韓国からは、これからデビューする5人組アイドルグループ、La MeTIS(ラ ミーティス) が選ばれることになった。こちらは所属事務所であるGG Corp.が小規模なことから、大々的な宣伝を行うことが難しいため、事務所側から参加を熱望された。また、事務所初のアイドルグループである事から、比較的市場規模が大きくK-POP人気の土壌も出来上がっている日本でPRができるということも好意的に感じていたようだ。
大方、当然知名度のあるIKBが勝利に終わると予想されていた。
番組当日。
それぞれのグループのメンバーがスタジオに集まりオープニング、自己紹介、ルール説明などが撮影された。
La MeTISは5人全員(セビン、スジ、ソヨン、アリア、ジヘ)が、IKB45からは人気メンバー7人(前島 板垣 高山 大田 小玉 篠宮 渡貫)が選ばれ登場した。
まずIKBのメンバー、前島が
「アイドルの先輩として、絶対に負けられない戦いになるので、全力でLa MeTISを迎え撃ちたいと思います!」
と自信たっぷりに意気込みを語った。
彼女の演説にスタジオに集まったファンたちは拍手と歓声を上げた。
次にLa MeTISのセビンが
「일본 언니들을 본받겠다는 생각으로 최선을 다하고 싶어요! 잘 알려지지는 않았지만 많은 응원 부탁드립니다!(日本のお姉さん達に胸を借りるつもりで頑張ります!まだ無名な私たちですがよろしくお願いします!)」
と謙虚に意気込みを語った。
その後、それぞれのメンバー同士が握手をし、健闘を誓い合った。
「まあ、緊張しちゃうと思うけど頑張ってね。」
渡貫は余裕を見せながらアリアに声をかけた。そういいながらメンバーには「さすがに勝てるでしょ。」と軽口を叩いていた。
実は日本語が理解できるアリアはこれに戸惑った。
いよいよ、最初のパフォーマンスが始まる。まずはIKB45のパフォーマンスだ。
彼女たちの新曲、『恋とアップルミント』が披露される。
わかりやすい振り付けと男女の色恋に関するわかりやすい歌詞にシンプルなメロディーと彼女たちらしさが詰まった一曲であった。
「さっちゃーーーん!!!」
「ゆうかーー!!!!」
当然彼女たちのファンから歓声が上がった。
次はLa MeTISのデビュー曲となる『GLAMOROUS GALAXY』のパフォーマンスだ。
会場の空気は、IKBのパフォーマンスのあと和やかなになっていたが、彼女達がステージに立つと一変した。彼女たちの表情は、先程の謙虚なものとはうってかわり鋭くなっていた。
驚くべきパフォーマンスだった。
ダイナミックなダンス、アイドルの域を超えたボーカリストの歌声、ヒップホップミュージシャンのようなラップ、自然と身体が動くような軽快なテンポと強い音圧。何もかもが圧倒的であった。
IKBのメンバーも観客もただただ圧倒されていた。
「かっこいい…」
高山が自然と呟いていた。全員が10代で、彼女より5歳以上歳下であるLa MeTISのメンバー達にどんどん引き込まれていった。
彼女達のパフォーマンスが終わり、騒然とした空気のまま番組は終わった。
騒然としていたのは会場だけでは無かった。
番組は10%を超えるかなりの高視聴率となった。
SNSでは若い女性を中心に最高潮の盛り上がりを見せており、XやInstagramでは#LaMeTIS #ミーティス #セビン #スジ #ソヨン #アリア #ジヘ 等のハッシュタグでのポストが上位を独占していた。
番組の切り抜きがTikTokやYouTubeに違法にアップされ、La MeTISへの反響は大きくなるばかりであった。中には外国語に翻訳された動画もあった。
IKBのプロデューサー秋山は焦っていた。
「3種の別バージョンに加え握手券を付けているCDはともかく、このままでは他の項目で負けてしまう…。」
今回の対決では、平等の観点から広告費に上限が設けられていて、IKB側は既に上限ギリギリまで広告費を使っていた。しかし秋山は広告費を更に積むことを決断した。街の至る所にIKBをアピールするポスターやサイネージを掲示したり、繁華街の巨大モニターを使い宣伝をした。
番組プロデューサーはそのことに気づいていたが、これを黙認した。
対してLa MeTIS側は特段大きなプロモーションをしなかった。一度番組で火がついた以上、視聴者やファンになった者が無料で広告をしてくれたからだ。
TikTokでは、『GLAMOROUS GALAXY』のフレーズに合わせダンスを踊るのが世界中で流行した。Instagramでは彼女たちを応援するためにCDを購入してアップするのが定番になった。
一方でインターネットでは、嫌韓の男性を中心にLa MeTISのアンチ活動が展開された。そして、IKBを応援しようという機運が高まり、YouTubeを自動で再生するbotなどを活用し、再生数の向上を図った。
しかし、その見るにも耐え難い誹謗中傷や卑怯なやり方は、他の者たちからの反感を買い、逆によりLa MeTISの支持を加速させる結果になった。
あっという間に一月が経ち結果発表のときが来た。結果発表は、大々的に東京ドームで行われ、テレビJAPANから生放送されることとなった。
既にLa MeTISのファンになっているテレビJapanの女性アナウンサーが順番に結果を発表する。
「まずはYouTubeの再生数です!『恋とアップルミント』のMVの再生数は… 出ました!250万再生!」
ファンたちの歓声が上がる。
「さあ、『GLAMOROUS GALAXY』の再生数です… 出ました!!なんと!!6800万再生!ということでYouTube再生数対決はLa MeTISの勝利です!!」
続くTikTok、InstagramもLa MeTISが圧倒し、彼女たちの勝利が確定した。音楽サブスクも当然天と地の差の再生数であった。
「既に勝敗は確定していますが続けます!最後はCD売上ですが…IKB45はなんと!120万枚!ミリオン達成です!」
3バージョン合算、握手券付きではあるものの、IKBは久々のミリオンセラーを達成した。
「続きまして、La MeTISです!なんと!150万枚!こちらも勝利です!」
なんと1バージョン仕様の『GLAMOROUS GALAXY』が枚数で上回ってしまった。
熱狂に包まれる中、板垣が居た堪れなくなり、うずくまり泣いてしまった。セビンが手を差し伸べる。
「괜찮아, 언니. 분명 나아질 거야.(大丈夫だよ。お姉さん。お姉さんはきっともっと良くなるよ。)」
17歳のセビンは7歳年上の板垣を包み込むように慰めた。彼女の素晴らしい行動に会場は拍手を送った。
一方で渡貫とアリアの間では不穏な空気が流れていた。
「음, 언니는 정말 대단한 것 같았어요.(ふん、お姉さん偉そうにアドバイスしてきたのにね。)」
そう言ってアリアは渡貫に近づき耳元で日本語で「土下座」と囁いた。
渡貫は屈辱に感じながらも、圧倒的な敗北に心身ともに叩きのめされ、身体が自然と動いた。
25歳の渡貫にとって16歳のアリアの前で額を床に付けるのは不思議な感覚だった。
しかし敗北を認める渡貫の潔さに会場からは拍手が起こった。
異様な熱狂に包まれながら、La MeTISが勝者としてパフォーマンスをし、すべてのプログラムは終了した。
激動の一日から一ヶ月が経ち、GG Corp.のアン・セヨンプロデューサーが記者会見を開いた。
「우선 10/11 한국, 일본에서 동시에 앨범을 발매한다는 소식을 전해드립니다. 그리고 더 나아가 내년 일본에서 돔 투어를 진행하기로 결정했습니다!(まず、10/11にファースト・アルバムを発売することを報告します。そしてなんと、来年日本でのドームツアーの開催が決定しました!)」
あまりにも早いドームツアーの決定に記者がどよめいた。
記者からはドームツアーのことファーストアルバムのこと、それから一ヶ月前の対決についての質問が飛んだ。
「一ヶ月前の対決でIKB45を圧倒しました。元々知名度がない中、勝算はあったのでしょうか?」
「솔직히 CD 판매량만 제외하면 충분히 승산이 있다고 생각했다.IKB의 퍼포먼스를 알고 있었기 때문에 그들이 100%의 퍼포먼스만 보여준다면 충분히 주목받을 수 있을 거라는 자신감이 있었다.
(正直なところ、CDの売上以外は勝負になると思っていました。IKBのパフォーマンスを知っていたので、彼女たちが100%のパフォーマンスをしさえすれば、注目を集められる自信がありました。)」
「懸念されていたCD売上も勝利し完全勝利しましたね。特典等を付ける戦略を取らなかった理由はありますか?」
「예산도 한정되어 있었고, 실력으로만 승부하고 싶은 마음이 컸기 때문입니다. 설마 CD 판매량을 넘어설 수 있을 거라고는 생각하지 못했어요.상대는 다양한 혜택으로 복수 구매를 전제로 하는 장사니까요.
(予算も限られていましたし、実力だけで勝負したい気持ちが強かったからです。まさかCDも勝てるとは思っていませんでした。相手は複数購入が前提の商法でしたから。)」
「IKBの秋山プロデューサーは、番組ルールに違反し莫大な広告費を用いて宣伝を行った疑惑が出ています。また、インターネットでは日本のユーザがIKBの動画に対して不正に再生数を稼ぐツールを利用したことがわかっています。それでも貴女達は勝ちました。」
「정의는 승리한다는 말이군요 ㅋㅋ(正義は勝つということですね 笑)」
そして、翌年。ファーストアルバムを全世界で1000万枚以上売り上げたLa MeTISは、ドームツアーを敢行した。
ツアーのチケットはどの会場も即完で、大盛況、大成功に終わった。日本国全体が彼女達の魅力の虜になった。
メンバー達はソロでの活動も目覚ましいものになった。
一方のIKBはというと、秋山プロデューサーの不正等もリークされ評判が落ちてしまった。対決の際シングルの次のシングルでは売り上げを1/5程度に落としてしまい、メンバーのモチベーションも下がっていたこともあり、数名のメンバーが抜けてしまった。
人気メンバーの大田、小玉、渡貫も例外では無かった。
彼女達は韓国のプロデュース力やレッスン力に憧れを持ち、韓国へ渡り大手事務所の研修生となった。
しかし、現実は甘くなかった。彼女達の実力は、研修生達の中でも最下位クラスであり、デビューとは程遠かった。渡貫のみが10代でデビューするアイドルグループの小さな公演のバックダンサーとして選ばれるも、大田と小玉は箸にも棒にもかからなかった。
その後、La MeTISも所属する事務所へ移転し研鑽を積み続けた渡貫はある日、マネージャーに呼び出され重要な仕事が入ったことを知らされる。それは自らを土下座させたアリアのバックダンサーであった。葛藤はあったが、渡貫は重要な役目を引き受けた。
コンサートが終わった後、アリアは渡貫をステージ裏で呼び止めた。アリアは、気まずそうに伏目で渡貫に話しかけ始めた。
「마유, 그때는 미안해... 그때는 너무 화가 나서 .... 아, 어라?(まゆ、あの時はごめんなさい、あのとき私頭に血が上って…って、え?)」
アリアが渡貫をみると、彼女はアリアに向かって土下座をしていた。
「내 평생을 당신께 바칩니다. 아리아님(私の一生を貴女に捧げます。アリア様。)」
コンサートスタッフや他のバックダンサーも一度作業や移動を止め彼女たちに注目する。
大衆の前で注目されながらアリアに土下座をした出来事は、彼女にトラウマや苦しみではなく、アリアに対する憧れや服従心、そして言い難い何かを植え付けていた。
アリアは渡貫を受け入れ、彼女を抱擁した。
その後、バックダンサーを引退した後も、彼女はアリアの女中となり、アリアに奉仕し、彼女の芸能生活を全力でサポートした。毎朝アリアの起床や帰宅の際に彼女に向かってする土下座が、渡貫にとっては何よりの幸せだった。(当然これはアリアが要求するものではなく、渡貫自身の意思で行うものである。)
大田と小玉は自らの能力至らなさに耐えられなくなり、事務所を退所。そのまま芸能界を引退した。
大田は消息不明。小玉は現在ソウルのコンカフェに勤めている。
対決前から既に卒業が決まっていた高山は、卒業後、La MeTISにゾッコンになり、ファンクラブに入会した。また板垣もグループを卒業し、セビンの熱烈な追っかけになった。
高山は初めてLa MeTISのパフォーマンスを観たとき、板垣はセビンから慈悲を受けた時に、完全に虜になってしまった。彼女たちの家にはLa MeTISのグッズやCDやBDが沢山あり、IKB時代のものはCDも含め全て処分してしまっていた。
両名がセビンのソロコンサートの客席で彼女に羨望の眼差しを向けている姿が目撃されている。
IKBに残ったメンバーは、対戦以降明らかに音楽の仕事が減ってしまった。また、女性ファンのほとんどをLa MeTISに持っていかれてしまった。
事務所の収入を賄うためにグラビアの仕事が増えてきたことにメンバーは不満が溜まっていた。
アイドルとして日本の皆を元気づけたかったのに、性的消費を繰り返される現状に体調を崩す者も多くいた。
コンサートの規模もどんどん小さくなり、結成当初と同様現在は池袋の小さな劇場でほそぼそと活動している。
一つのテレビ番組が分岐点となり、両グループは明確な差ができてしまった。
しかし、彼女達それぞれの評価は実力通りのものとなっており、文句の付け所がない。
両グループの今後の活躍が今後も期待される。
コメント
1素晴らしい! 池袋でIKBですね。アリアが渡貫を受け入れた個所は”包容”ではなく”抱擁”ではないでしょうか?