自衛隊の不祥事 国民の信頼失墜させる愚行だ(2024年12月29日『読売新聞』-「社説」)
川重側が接待費に充てるために行っていた下請け企業との架空取引は、2018~23年度の6年間だけでも約17億円に上っていたことがわかった。架空取引は40年近く行われていたという。
架空取引で捻出した裏金は、乗組員から要望があった炊飯器や冷蔵庫といった備品の購入や、乗組員との飲食に使われていた。
特別防衛監察では、三菱重工業も海自に、契約にはない備品を納入していたことが判明した。
自衛隊と防衛産業大手が「癒着」していたら、防衛費の増額に疑いの目が向けられても仕方ない。不正の根絶が不可欠だ。
防衛省は、安全保障上の機密情報である「特定秘密」に関連した新たな不祥事なども発表した。
なぜ書類を偽造したのか。廃棄は本当なのか。防衛省は徹底的に調査する必要がある。
非公表とした判断について、防衛省は「犯罪の組織性が疑われていたためだ」としているが、実態を解明して説明すべきだ。中谷防衛相は、この対応が適切だったかどうか検証してほしい。
このほか、海自隊員が潜水手当を不正に受給していた問題では、新たに86人を処分した。すでに公表した分と合わせ、処分者は160人に上った。順法精神の欠如には目を覆いたくなる。
川重は遅くとも約40年前から下請け企業との架空取引で資金を捻出し、潜水艦の乗組員に家電や高級ブランド品などを贈っていた。架空取引の金額は2023年度までの6年間だけで約17億円に上り、一部は裏金としてプールしていた。
橋本康彦社長は会見で「(担当部署は)人事のローテーションがほとんどなく、中に閉じこもっていた」「残念ながらまったく関知できなかった」と述べ、謝罪した。
不正を防ぐ仕組みの立て直しと風土改革が求められる。川重は11月1日付で社長直轄の「防衛事業管理本部」を設けた。潜水艦や航空機といった機密性の高い防衛事業のコンプライアンスを一括して監査するという。実効性を高めてほしい。
組織統制が厳しく問われるのは、海自も同様である。
あきれたことに、乗組員がリストを川重側に渡し、ゲーム機などを要求していた。約20年前から金額がエスカレートし、飲食費のツケ払いにも充てられたという。調査に「(応じないと)業務がしづらいと感じた」と語った川重社員もいる。乗組員が企業にたかる悪習があったのではないか。
川重は、架空取引を含めた修理費を国の原価調査に報告していた。利益が出過ぎて防衛省との契約金額が下がらないように、原価をかさ増しする目的だったという。防衛装備品をめぐる官民の癒着そのものであり、徹底調査が不可欠だ。
25年度の政府予算案で、防衛費は過去最大の8・7兆円が計上された。膨張する防衛費の積算根拠は果たして信頼に足るのか、国民が疑念を抱くのは当然である。防衛省はこのたびの不正の全容解明を急ぎ、説明責任を果たすとともに、再発防止を徹底しなければならない。
川重の不正/官と民の癒着を断ち切れ(2024年12月29日『神戸新聞』-「社説」)
閉鎖的な組織は「事なかれ主義」に陥りやすく、不正行為に対する感覚が鈍くなる。
海上自衛隊の潜水艦修理をめぐる裏金問題で、川崎重工業(神戸市中央区)が発表した特別調査委員会の調査報告は、潜水艦の修理や検査を担当する部署のコンプライアンス(法令順守)を軽視する風土や、会社として自浄作用が機能しなかったことを浮き彫りにした。
川重は遅くとも約40年前から下請け企業との架空取引で資金を捻出し、潜水艦の乗組員に家電や高級ブランド品などを贈っていた。架空取引の金額は2023年度までの6年間だけで約17億円に上り、一部は裏金としてプールしていた。
橋本康彦社長は会見で「(担当部署は)人事のローテーションがほとんどなく、中に閉じこもっていた」「残念ながらまったく関知できなかった」と述べ、謝罪した。
不正を防ぐ仕組みの立て直しと風土改革が求められる。川重は11月1日付で社長直轄の「防衛事業管理本部」を設けた。潜水艦や航空機といった機密性の高い防衛事業のコンプライアンスを一括して監査するという。実効性を高めてほしい。
組織統制が厳しく問われるのは、海自も同様である。
あきれたことに、乗組員がリストを川重側に渡し、ゲーム機などを要求していた。約20年前から金額がエスカレートし、飲食費のツケ払いにも充てられたという。調査に「(応じないと)業務がしづらいと感じた」と語った川重社員もいる。乗組員が企業にたかる悪習があったのではないか。
川重は、架空取引を含めた修理費を国の原価調査に報告していた。利益が出過ぎて防衛省との契約金額が下がらないように、原価をかさ増しする目的だったという。防衛装備品をめぐる官民の癒着そのものであり、徹底調査が不可欠だ。
25年度の政府予算案で、防衛費は過去最大の8・7兆円が計上された。膨張する防衛費の積算根拠は果たして信頼に足るのか、国民が疑念を抱くのは当然である。防衛省はこのたびの不正の全容解明を急ぎ、説明責任を果たすとともに、再発防止を徹底しなければならない。
自衛隊の人員不足が深刻化している。人口減少下でも持続可能な組織にしなければならない。
石破茂首相が議長を務める関係閣僚会議が、対策の基本方針をまとめた。
現在の定員は約24万7000人だが、約2万3000人が不足している。昨年度は約2万人を募集したが、半数程度しか採用できなかった。
警察や消防、民間企業との人材獲得競争で後れを取っている。危険な任務が多く、組織に古い体質が残っていることも若者らに敬遠される一因とみられる。
対策の柱は処遇の改善だ。警察官と横並びの給与水準を引き上げる。隊舎で生活する新入隊員への給付金などを新設し、既存手当も拡充する。
定年後の生活を安定させるため、再就職支援も強化する。
自衛官は一般公務員より定年が早く、多くは56歳で退職する。再就職先のあっせんや、転職先の給与とは別に支払う給付金の水準を高める。
岸田政権は防衛費に2027年度までの5年間で総額43兆円を充てると決めた。装備拡充に注力する一方で、使いこなす人的基盤の強化への目配りは乏しかった。
本来の業務以外の仕事を兼務せざるを得ないなどの支障が生じている。企業でも賃上げが進んでおり、対策は必要だ。
ただ、経済的に困窮する若者らの弱みにつけ込むような形で、募集することは慎むべきである。
人手不足は日本の構造的な課題となっている。無人機の導入や人工知能(AI)による業務の効率化が不可欠だ。サイバーや宇宙など新たな領域に対処する人材の育成も求められる。陸海空の人員構成の見直しも欠かせない。
方針では「組織文化の改革」もうたっている。若者らがやりがいを実感でき、働きやすい組織に向けて体質を改善することが問題解決への第一歩となる。
川重だけではない。三菱重工も、川重に比べ少額とみられるが、仕様書にない備品を納入していたことが特別監察で判明した。調査を徹底させ、根深い癒着のうみを出し切らなければならない。
中間報告によると、川重が繰り返した架空取引は2018年度からの6年間で約17億円に上る。一部をプールして裏金にする一方、架空取引分は経費に加えて計上し、防衛省に報告していたという。
架空取引で捻出した十数億円については、国税局も経費とは認めず、所得隠しをしていたと判断するようだ。厳しい対応が求められる。
海自の潜水艦は25隻全て、川重か三菱重工が製造。1年ごとの運用検査や3年に1度の定期検査と、それに伴う修繕作業、臨時の修理も原則、この2社が担っている。
修繕作業中など、川重社員と潜水艦の乗員が一緒に過ごす時間が長くなっていた。それが長年続き「社員は制服を着ていない自衛官」といった身内意識が双方に芽生えた。こうした環境が「なれ合い」を生み、隊員はけじめを欠き、公務員倫理にもとる行動をとってしまったようだ。
裏金による具体的な金品提供の詳細は、特別監察で調査を続けている。今のところ、飲食接待のほか、商品券や携帯型ゲーム機、ブランド品の作業着、高額の家電製品などを贈ったとみられている。多岐にわたる金品は、両者の深いなれ合いを象徴している。
架空取引は一体いつ始まったのかは分かっていない。中間報告は18年度からと判断したが、10年以上も前からの慣行だったとの指摘もある。川重自身も調査中だ。防衛省の発注額は適正だったのか。金品提供は川重か海自か、どちらの主導か。それらを含めて明らかにすべきことは多い。
自衛隊・防衛省は7月に、特定秘密の不適切運用などで過去最大級となる218人もの大量処分をしたばかり。うち、海自トップの海上幕僚長を含む117人が懲戒処分になった。組織の規律が緩んでいないか。不正を許さぬよう隊員の意識改革や、組織風土の抜本的改善が急がれる。
まずは、防衛産業との癒着の全容解明が不可欠だ。それをせずして、再発防止も望めないし、防衛増税への理解も進むはずはない。
政府が自衛官の処遇を改善する基本方針をまとめた。日本周辺の安全保障環境などが悪化するにつれ、自衛隊の任務の幅も広がっている。国を守る担い手の確保は安保上の喫緊の課題であり、総力を挙げて取り組むべきだ。
石破茂首相が議長を務める関係閣僚会議で決めた基本方針は、自衛官の給与水準の引き上げや勤務環境の改善、退職後の再就職支援などが柱だ。特殊任務や重要任務に就く人向けの計33の手当の新設・拡充や、体力面の観点から多くの隊員が50代で迎える定年年齢の引き上げの検討などを盛った。
一方で自衛官は定員およそ24万7千人のうち3月末時点で1割ほどの欠員が生じた。昨年度の採用想定人数の充足率は過去最低の51%だ。訓練を受けて2〜3年の勤務に就く任期制自衛官の候補生ら現場の隊員が減っている。
政府は防衛予算の大幅増と新たな装備品の取得を打ち出したが、それを使いこなす人的基盤が心もとない。安心できる生活設計を含めた一定の待遇の改善策は人を集めやすくするうえでも妥当だ。
高い士気で国防にあたる人材を質量ともに維持するため、国は手を尽くさねばならない。