大阪府警がメス/「船井電機」倒産の暗部/いわく付き医療法人「成守会」に溶けた巨額マネー

退職金代わりなのか。船井電機から足抜けした上田智一前社長の手許には「成守会」が今なお温存されている。

2025年1月号 BUSINESS

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新築移転時の借入金が重くのしかかる

今から1年余り前の2023年11月13日、東京・東日暮里の医療法人「成守会」で突然の理事長交代劇があった。外部からやって来た新理事長の名は上田佳恵氏――。

船井電機が破産に至る原因を作った張本人、上田智一前社長の妻である。上田氏本人も常務理事に就任。同時に理事へと名を連ねた公認会計士の中村肇氏も、船井電機や、その経営混迷の元凶となった脱毛サロン「ミュゼプラチナム」の買収に深く関与した1人だ。

成守会は、日暮里駅近くに8階建ての建物を構える「はせがわ病院」(86床)と、台東区松が谷にある「成守会クリニック」の2施設を運営する。日本医科大学の系列を強みに人工透析患者の受け入れを広く行っており、本来なら安定した医業収入に恵まれているはずだった。

しかし、創設者の長谷川潤氏(21年1月まで理事長)は多摩地区での医療モール運営などに手を広げ、杜撰な経費支出も嵩み、それらが経営を圧迫。16年に病院を新築移転した際に八十二銀行など4金融機関から調達した25億円の借入金が重くのしかかっていた。法人登記簿などによると、23年5月末の債務超過額は5億円近くにも上る。

「公的資金ゴロ」に実刑10年

さらに、成守会はいわく付きの医療法人と言ってよかった。それは、こういうことである。

新型コロナが猛威を振るった20年夏、成守会に接近した医療コンサルティング会社があった。同年2月に神戸市で設立されたばかりのその会社は「ヘルスケア基盤整備機構」なる公的機関を思わせる社名を名乗っていた。同社の北村隆史代表と風変わりな肩書の渡部秀規・医療審査官が持ち掛けたのは厚生労働省所管の独立行政法人「福祉医療機構」(WAM)が始めていた「新型コロナウイルス対応支援資金」を活用した借り入れである。コロナ禍による減収を補うため、同資金は無担保・無保証・無利子を大幅に認めていた。しかも渡部審査官らによれば、「返済する必要のない資金」だという。それだけ特別な融資ということらしい。

いかにも怪しいが、成守会はこの話に乗った。そして実際に同年11月、WAMから融資6億4千万円が下りたのである。ただし、法外な報酬を要求された。初回はじつに融資額の半分、2回目以降も同様に5%を差し出す必要があった。交渉の末、それは20%、1億2800万円に減額された。指定送金先は「サンバリーコンシューマ・マーケティング」と「BLOCK STEP」なる大阪市内の会社だった。

前者の本店住所は渡部審査官の自宅住所と同じ。大阪市内に整備される「海の駅」の運営参入を目論んでいたらしい渡部審査官だが、じつのところ、3年前に福岡県内の内装工事業者を相手に寸借詐欺まがいのトラブルを起こし訴えられていた。

成守会のトラブルには吉羽元市議も関与

後者はもっと興味深い。代表取締役を務めていたのは吉羽美華・寝屋川市議(当時)で、渡部審査官らとの面談に同席したこともあった。07年に26歳で初当選した吉羽市議は12~17年の間、民主党などから国政に3度挑んで落選。19年、市議に返り咲いていた。その間には自民党の谷川とむ衆議院議員と結婚、そしてほどなく離婚している。

じつは、北村代表や吉羽市議らに加え外資系生保営業マンや怪しげなブローカーらも蠢いていたグループはWAM融資に関し違法な口利きビジネスを全国で大々的に展開していた。最大の強みはWAMの内情に通じていた人物の存在だ。みずほ銀行で常務執行役員まで務めた三浦由博元理事である。19年9月までの2年間、WAMで枢要な地位を占めていた三浦元理事はその後、古巣の理事となっていた。かつての部下とのコネを悪用、融資を引き出すための書類作成などはお手の物だった。

グループは案件ごとに離合集散していたらしく、斡旋した融資額は10数件・30億円超とも、約40件・約65億円ともされる。吉羽市議や渡部審査官らが福岡県警に逮捕されたのは22年8月。24年9月には警視庁により三浦元理事や、福岡の事件で不起訴処分となっていた北村代表らが摘発、起訴されている。同年10月に吉羽元市議へ下った判決は実刑10年と極めて重いもの(その後、確定)。融資先から詐取した手数料約6億円のうち約4億円を総合格闘技「RIZIN」に出資していた。

さて、こうした公的融資ゴロの食い物にされた成守会に突如現れたのが船井電機の上田前社長というわけだ。関係者によれば、経営権取得に際し長谷川元理事長が負っていた金融機関融資に関する個人保証は「船井電機が肩代わりした」とされる。関連は不明だが、理事長交代劇の11日前、上田氏が根城とする横浜駅近くの雑居ビルには「SFインベストメント」なる会社が設立されており、破産申立書によれば、同社に対し持ち株会社の船井電機・ホールディングスは6億円を貸し込んでいる。

WAMの一件もそうだが、病院業界の裏側には乗っ取り屋らが跋扈する魑魅魍魎の世界が広がる。ミュゼ買収で目算が狂った船井電機の末期、上田氏はそんな世界に深く足を踏み入れたフシがある。

大阪府警のメスは入るか

ミュゼが広告代理店のサイバー・バズに対し支払い不能を通知したのは23年12月だったが、1カ月後の24年1月、不可解な金銭消費貸借契約が交わされている。東京・銀座の薄毛治療クリニックからミュゼが資金を借り入れるというもので、翌月の「確約書」によれば、月内に60億円もの融資実行が約束されたという。実現しない場合、サイバー・バズ向け債務はクリニック院長と知己の行政書士が連帯保証するともされた。

じつのところ、都内の医療法人代表などからカネを借りまくっていた院長は23年5月に個人破産しており、行政書士も22年12月に同様の事態に陥っていた。巨額融資が実行されるはずもなく、結局、サイバー・バズ向け債務の連帯保証人には上田氏やその経営する「秀和システム」も名を連ねることとなる。24年3月以降、ミュゼはクーポン業者や貸し金業者へと転がされていき、直近はコロナ検査の補助金不正事案の黒幕と囁かれる人物の関与も垣間見える。

上田氏は24年9月に乱脈の限りを尽くした船井電機から足抜けした格好だが、退職金代わりなのか、手許には成守会が今なお温存されている。今後、これら不可解な経緯にも大阪府警のメスは入るのだろうか。

   

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