判決文
令和6年10月23日宣告 裁判所書記官 井上陽
令和5年刑(わ)第661号、第3080号
判 決
本 籍 略
住 居 略
会社役員
佐藤 昇
昭和47年1月27日生
上記の者に対する恐喝未遂被告事件について、当裁判所は、検察官内藤祐貴、弁護人門西栄一各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主 文
被告人を懲役1年2月に処する。
未決勾留日数中130日をその刑に算入する。
本件公訴事実中、訴因変更後の令和5年10月31日付け起訴状記載の公訴事実については、被告人は無罪。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は、インターネット上のウェブサイト「週刊報道サイト」を運営する週刊報道サイト株式会社の代表取締役であるが、同サイト上に、文智勇ことムン ジヨン(以下「ムン」といヴ。)が代表取締役を務めていた株式会社Renewable Energy lnvestment Japan(令和4年3月26日、株式会社レイズに商号変更。以下「レィズ社」という。)に関し、令和3年5月17日付けで投稿した記事について、レイズ社より令和4年3月5日に、投稿記事削除仮処分命令の申立てをされた後も、同サイト上に、レイズ社及びムンが融資の仲介を巡り不正な利益を得たという内容とともに、前記仮処分命令の裁判資料を転載するなどの記事を複数掲載していたこと(以下、令和4年3月5日より同年6月28
日までに週刊報道サイトに投稿されたレイズ社及びムンらに関する記事を「本件各記事」という。)について、レイズ社から本件各記事の削除を求められた際、同社等から金銭を喝取しようと考え、令和4年6月28日午後5時21分頃から同日午後5時37分頃までの間、電話で、東京都千代田区大手町2丁目6番1号朝日生命大手町ビル21階所在の当時の弁護士法人モノリス法律事務所にいた同社の代理人弁護士高橋康允(以下「高橋弁護士」という。)に対し、「慰謝の措置をとるしかない。」「相応の対価がないと消すことはできない。」「大体6本だと、通常600万から始まりますね。」「そのかわり全部もうNot Foundにして、もう記事はあがらない。」「あとまあ、はっきり言うと、文さんはいろんなトコと裁判やってると思うんです。」「それを、やってくれって来てるけど、それはまた、そっちはそっちで別の条件になるから、止めてるだけの状態。」「僕のさじ加減でこう、記事あげるあげないやってるだけだから。」「民事でやってるヤツも触んない、ウチでは。」などと言って、現金600万円を支払えば本件各記事の削除及び今後レイズ社及びムンらに関する記事は掲載しない旨伝え、同年7月4日頃、高橋弁護士を介して、同区丸の内2丁目2番1号岸本ビルヂング10階所在のレイズ社の事務所等において、ムン及びレイズ社従業員にその旨了知させるとともに、同年8月2日頃、同社のホームページ上のお問い合わせフォームに、取材申込みと称して、レイズ社が当事者となっている民事裁判に関し不正競争防止法違反の疑いがあり、質問に対する回答がない場合には「週刊報道サイト」に記事を掲載する旨のメッセージを送信して、今後もレイズ社及びムンらに関する記事の掲載を継続する意思を示し、その頃、前記レイズ社事務所において、ムン及びレイズ社従業員にその旨了知させ、さらに、同月17日頃、週刊報道サイト株式会社代理人弁護士中島真介(以下「中島弁護士」という。)を介して、モノリス法律事務所に宛てて、前記取材申込みに対する回答を求める旨記載するとともに「令和4年6月28日頃、通知人が貴職との話合いにおいて提示した慰謝の措置としての示談金600万円の支払先口座は下記のとおりであります。」などと記載した通知書を郵送して、同年8月18日頃、高橋弁護士を介して、レイズ社の事務所等において、ムン及びレイズ社従業員にその旨了知させて金員の交付を要求し、もしその要求に応じなければ、レイズ社及びムンらの名誉及び信用等にいかなる危害を加えるかもしれないとムンらを怖がらせ、レイズ社等から現金を脅し取ろうとしたが、同社が警察に届け出たため、その目的を遂げなかったものである。
(証拠の標目)
括弧内の甲乙の各番号は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号である。
・被告人の公判供述
・被告人の検察官調書(乙3)、警察官調書(乙2)
・第3回公判調書中証人高橋康允の供述部分
・第4回公判調書中証人ムン ジヨン、同中島真介の各供述部分
・捜査報告書(甲6、 7、9、 10、 13.、 14)
・資料入手報告書(甲11、 16、 19)
・写真撮影報告書(甲12)
(事実認定の補足説明及び一部無罪の理由)
第1 令和5年3月20日付け起訴状記載の公訴事実(同年5月15日付け訴因変
更請求書で訴因変更され、第1回公判期日で訂正された後のもの)について
1 争点
被告人は、外形的な事実は認めるが、恐喝行為にあたるものではないと述べ、弁護人は、被告人がレイズ社側から削除してほしいとの依頼を受けた記事は、レイズ社及びムンが融資の仲介を巡り不正の利益を得たことなどを内容とする記事ではなく、レイズ社と週刊報道サイト株式会社との投稿記事削除仮処分命令申立事件の審尋手続の経過を示す記事であり、レイズ社及びムンの名誉及び信用等を毀損する内容の記事ではないから、恐喝未遂罪が成立する余地はない、などと主張する。
2 認められる事実
関係各証拠によれば以下の各事実が認められる(以下、月日のみの記載は令
和4年の出来事である)。
(1) レイズ社は、高橋弁護士らに依頼をし、3月5日、週刊報道サイト株式会
社に対して、週刊報道サイトの令和3年5月17日付けの記事について、レイズ社の名誉権などを侵害するとしてその削除の仮処分命令を求める申立てをした(以下、「本件仮処分事件」という。)。本件仮処分事件について審尋手続が開かれた後、高橋弁護士から、レイズ社と週刊報道サイト株式会社との協議の結果、同株式会社が、記事のうち3つの部分を修正することで合意できたとの6月16日付けの報告書が提出され、同月22日、本件仮処分事件の申立ては取り下げられた。(甲19)
(2)週刊報道サイトには、同年3月21日、同月28日、4月4日、同月11日、同月18日、同月25日付けで本件仮処分事件にらいて記事の投稿がなされ、本件仮処分事件の申立書やムンの陳述書も掲載された。(甲6、7)
(3)高橋弁護士は、レイズ社より、本件仮処分事件の申立書や陳述書などの書
面が掲載されている件について削除できないかとの相談を受け、6月28日、被告人に電話をしたが、その際、次のようなやりとりがあった。
高橋弁護士の全部記事を消すのはどうしたらよいか、という趣旨の質問に対して、被告人は、「そうなってくると慰謝の措置を取るしかないですよね」「相応の対価がないと消すことはできないので」などと述べた。さらに、高橋弁護士が、本件仮処分事件の手続について申立書にこういう記述があったなどという記事すべてを消すとなると相場としてどれくらいになるのかと聞くと、被告人は、同手続に関する記事は5つあり、今度の土曜日で6本目になるとしつつ、「まあ大体6本だと、通常600万から始まりますね」「そのかわり全部もうNot Foundにして、もう記事はあがらない」と述べた。さらに被告人は、「あとまあ、はっきり言うと、文さんはいろんなトコと裁判やってると思うんです」「だからそれを、やってくれって来てるけど、それはまた、そっちはそっちで別の条件になるから、止めてるだけの状態つてのも」「僕のさじ加減でこう、記事あげるあげないやってるだけだから」などと述べ、高橋弁護人から、600万なりを払えば、今後、ムンに関する記事は掲載しないでもらえるのかという旨を尋ねられると、「記事にしないし、民事でやってるヤツも触んない、ウチでは」などと述べた。(甲10、 16)
(4) 高橋弁護士はメールで、ムン及びレイズ社従業員に、週刊報道サイトから
の回答内容として、端的に金を払ってもらえれば削除する、基本的に1本100万円(本件は合計6本ある)などとし、金銭を支払うか、このまま放置するかの二択である、支払う場合にはあらかじめ上限額を頂ければその範囲で削除交渉する旨伝えたところ、ムンはその要求について「当分は放置にしましよう」と返信した。(甲1.1)
(5) 被告人は、8月2日頃、レイズ社のホームページ上のお問い合わせフォー
ムに、取材申込みとの内容で、レイズ社が当事者となつている民事裁判に関し不正競争防止法違反の疑いがあるとした上で、10項目の質問を列挙し、8月8日の期限までに回答がない場合には「週刊報道サイト」上などに記事を掲載する旨のメッセージを送信した。レイズ社社員は、同日、同メッセ‐ジを高橋弁護士に転送し、どのように対応すべきかの相談をするとともに、週刊報道サイトが「記事の削除をしてほしいならお金を払え」と言つてきたことは恐喝のように思えるがその内容を録音等して警察に相談するのはどうか、などというメールを送った。高橋弁護士は、今後違法(と思える)行為がなされた場合に、刑事責任の追及を検討するという方針でよいのではという返信をした。(甲11、13)
(6) 被告人は、8月17日、中島弁護士を週刊報道サイト株式会社代理人とし
て、高橋弁護士に宛てて、600万円の支払についてムンと相談するとしていたが、ムンがどのような回答をしているかを回答くださるよう通知します、8月2日に取材申込をしましたが、期限までに何の回答もありません、令和4年6月28日、通知人が貴職との話合いにおいて提示した慰謝の措置としての示談金600万円の支払先日座は下記のとおりであります、などと記載した通知書を内容証明郵便で送付した。同月18日、高橋弁護士は、ムン及びレイズ社従業員にメールで同通知書を転送した上で、無視で問題ない、あるいは、本書をもって警察に相談することは一つの選択肢といえるなどと伝えた。その後のレイズ社従業員からの、今回の通知書は脅迫等の事情にあたりそうか、という問い合わせに対し、暗に払わなければ記事を掲載する旨表現しており実質的に脅迫等に当たると指摘しやすくなったとはいえるが、裁判所で脅迫罪強要罪が高い可能性で認定される文面とまでは言い難く、そのため警察が告訴受理する可能性も低いと言わざるを得ないなどと回答した。(甲11、 14)
(7)ムンは、9月初旬頃、高橋弁護士とともに丸の内警察署に、被告人による脅迫、恐喝、名誉毀損について相談に行った。(ムン及び高橋弁護士の各証人尋問調書)
3 検討
(1)被告人は、①本件各記事を削除できないかという話を電話で高橋弁護士からされると、同人に対して、現金600万円を支払えば記事の削除に応じ、今後、レイズ社やムンに関する記事は掲載しないなどと伝えた上、②レイズ社のウェブサイトにあるお問い合わせフォーム上に、取材申込みと称しつつ、レイズ社が当事者となっている民事裁判に関して不正競争防止法違反の疑いがあり、質問に対する回答がない場合には、週刊報道サイトに記事を掲載する旨のメッセージを送信し、さらに、③代理人弁護士を介して、同取材申込みに対する回答がない旨記載するとともに先の電話で話に出た600万円について、「通知人(被告人)が貴職との話合いにおいて提示した慰謝の措置としての示談金600万円の支払先口座は下記のとおりであります。」などという通知書を高橋弁護士に対して内容証明で送付している。
ムンは、①の被告人の高橋弁護士への電話での要求をメールで報告された際、払って解決できるのであれば、ビジネスとしても困らないから迷ったが、1回払うとまた繰り返し要求されるのではないか、これ以上戦っても、出した証拠とかがまたアップロードされるというような繰り返しとなるというところが嫌だったので、ビジネスに対する不安や恐怖はあったが、警察に相談に行くまでの決意はできなかつたと供述する。そして、ムンは②について、被告人が関与することによって、いろんなやり取りの証拠がまた別の訴訟で使われると、レイズ社が金銭的ダメージを受けるおそれがある、当時レイズ社が起こしていた民事訴訟事件の相手方なりの依頼を受けて会社を殺しに来ているのではないかと思ったと供述し、さらに③の内容証明による通知を受けて、①の電話での要求も紙で確認ができたという認識になり、警察に行く決意をしたと供述している。
週刊報道サイトに、ムンやレイズ社の記事が繰り返し掲載されてきていたことや、レイズ社従業員と高橋弁護士のメールでのやり取りにおいても、600万円は異様に高い、慰謝料というのもよく分からないなどと記載されていることからすれば、上記ムンの供述は信用性が高く、ムンが被告人の600万円の要求に応じなければ、ムンやレイズ社について名誉や信用を害する記事の掲載などがされるという恐怖を抱いたことが認められる。
(2)これに対して、被告人は、①の電話について、もともと本件仮処分事件の審尋の場で、本件各記事について高橋弁護士の方から削除についての和解交渉に応じてほしいと言われたので中島弁護士と相談して600万円を提案することにしたもので、レイズ社に判断を委ねたに過ぎない、などと主張する。しかしながら、高橋弁護士は、本件仮処分事件の審尋において、当該事件の対象ではない本件各記事について、金銭的解決の話など出たことがないと明確に否定しており、弁護人が提出した6月15日の高橋弁護士と被告人との電話の会話内容を見ても、本件各記事自体は話題に上がっているが、金銭を支払うなどの話は一切うかがえない(弁1)。
6月28日の電話を見ても、被告人の方から「慰謝の措置をとるしかない」「相応の対価がないと消すことはできない」と述べ、これを受けて高橋弁護士が、「要するにお金ってことですかね」と応じていることが認められ(甲10)、同日の電話において被告人の方から金銭要求をしたという事実は揺らぐものではない。
また、被告人は、②の取材申込みについて、審尋の場において、秘密録音にムンがかかわっていることについて記事にする旨伝えたところ、高橋弁護士からそんなことはあり得ない、あるんだったら記事にして構わないと言われたが、その後、音沙汰がなかったので中島弁護士に相談したら取材申込みをきちんとするように言われてしたものである、などと主張する。しかしながら、中島弁護士や高橋弁護士の供述には、これらを裏付けるものは出てきていない上、当該取材申込みの内容を見ると、質問について期限までに回答がない場合には、本件仮処分事件を提起した事実はムンが代表取締役のレイズ社による弊社の表現の自由への重大な権利侵害であるなどと解釈され、貴社が上記質問要件を認諾し事実を認めたものと受け止めて週刊報道サイト等において広く報道していく、などと最後に記載されているのであり、本件仮処分事件に関連付けながら、質問に答えなければ、ムンやレイズ社についての新たな記事を掲載する旨を一方的に告知しているものであって、単なる取材申込みの意図に基づくものとは評価できない。
さらに、被告人は、③の内容証明による通知については、中島弁護士に相談したところ、端的な方がいいということで、中身も含めて中島弁護士の判断で通知したものである、などと主張する。この点、中島弁護士も、本人からある程度話を聞いて、私がその文章をまとめたと思う、600万円についても特別法外に高いわけではなくてそれくらいいいんじゃないか、という程度の話はした、などと供述している。しかしながら、中島弁護士が関与しているにしても、被告人の依頼により、その代理人弁護士という立場で通知書が送られているのであり、被告人の意思に基づくものであるし、その中身を見ても②の取材申込みへの回答がない旨をわざわざ指摘した上で、600万円の支払いを求めるもので、その支払いがなければ、新たな記事を掲載することを示唆しているのであって、正当な権利行使等に基づくものともいい難い。
(3)弁護人は、公訴事実において、「レイズ社及びムンが融資の仲介を巡り不正な
利益を得たなどの記事」つまり、本件仮処分事件の対象になった令和3年5月17日付けの記事等について、掲載を継続することによリレイズ社やムンの名誉等を毀損する旨の害悪を告知したなどとなっているが、被告人がレイズ社から削除を求められたのは本件仮処分事件の経過についての記事であり、レイズ社およびムンの名誉等を毀損する内容の記事ではないから、恐喝未遂罪が成立する余地はないなどとする。
しかしながら、検察官は冒頭陳述において、「被告人は、本件仮処分申立裁判の係属中においても、文(ムンのこと)やレイズ社の名誉及び信用を害する内容記事を「週刊報道サイト」に複数回投稿し続けるとともに、レイズ社が本件仮処分申立裁判において提出した非公開を前提とする文の陳述書等の内容を投稿するなどとしていた(以下、被告人が令和4年3月以降に投稿した文らに関する記事を併せて「本件各記事」という。)。」としており、令和4年3月の本件仮処分事件の申立て後に掲載されたムンらに関する記事、すなわち、判示記載の「本件各記事」と同一のものを公訴事実で摘示していることは明らかになっている。そして、本件各記事には、いずれも、本件仮処分事件の申立書そのものが含まれているところ、同申立書には、本件仮処分事件の手続の中で、週刊報道サイト側が訂正することにした部分3か所が、訂正前の形で別紙として引用され、これが令和5年1月4日時点でも閲覧できる状態となつていた(甲19添付の高橋弁護士作成の報告書、甲6)。そうすると、本件各記事には、レイズ社やムンの希望に従って被告人側が修正を施すことになった内容が含まれており、レイズ社やムンの名誉、信用を害するものといえる。また、それだけではなく、②の取材申込みにあるとおり、レイズ社やムンに関する新たな記事を掲載する旨も告知しているものであるから、①から③に至る一連の被告人の金員交付の要求等が、恐喝の構成要件を充たすことは明らかである。
これに反する弁護人の主張は採用できない。
4 結論
以上より、被告人には判示記載のとおりの恐喝未遂罪が成立する。
