【第1審】大学教授の懲戒処分無効確認、損害賠償請求が否定された事例(令和1年6月17日松江地裁)
概要
被告国立大学法人の設置する大学教授であった原告が、在勤中、被告から停職6か月の懲戒処分を受けたが、本件処分は懲戒事由を欠き、裁量を逸脱し違法な手続によりされたものであるとして、被告に対し本件処分の無効確認を求めるとともに、雇用契約上の債務不履行ないしは不法行為に基づき、停職期間中に生じた経済的損害として、給与、賞与、本件処分がなければ得られたであろう関連病院からの給与、本件処分により出席できなくなった出張に係る損害金の各賠償及び精神的損害に対する慰謝料並びにこれらの請求に係る弁護士費用、附帯請求として民法所定の遅延損害金の支払を求めた。
結論
棄却
要旨
懲戒事由の有無について,
事由(1)について,元教授は大学院医学系研究科に在籍する歯科医師であり,元教授を指導教員としていたAの同意を得ていないのに,秘書をして本件履修変更願を完成させ提出させた上,Aの相談等に応じなかったと認められるところ,本件履修変更願の提出が,Aにとって修学や就労環境に大きな影響を与えることからすれば,元教授がした行為はハラスメント規程に定めるハラスメントに該当すると認められ
事由(2)に関して,元教授がAの同意なくAの医局を移籍させたこと,元教授がAに歯科口腔外科医局への立入りを禁じたこと
事由(3)に関して,元教授がAが提出した論文抄録の受領を拒否したこと
事由(4)に関して,元教授が医局員らに対し,Aはテロリストであるなどと発言したこと
事由(5)に関して,元教授が出向先病院の関係者に対し,Aを破門にする旨発言したこと
事由(6)に関して,元教授が,Aと空港で出会った際,ストーカーであると述べて通報したことは,いずれも当事者間に争いがないこと等から,
元教授においては,本件処分がその理由とした事由(1)ないし(6)という懲戒事由があったと認められる。
本件処分は,元教授について事由(1)ないし(6)の事実,とりわけ元教授が法人の教授であり,Aの指導教員であったこと,Aの同意なく,またAからの話合い等の求めに応じないまま本件履修変更願を提出させ,現実にAを自らの医局から移籍させたこと,さらにAの人格を傷つけるような言動を繰り返し行ったことといった事実を理由にされたものであり,元教授の職責,複数の懲戒事由があること,現にAが同意なく移籍させられたことなどの事情を考慮すると,法人がした本件処分がその裁量を逸脱し濫用したものであったと認めることはできない。
元教授は,本件処分につき十分な弁明の機会がなかった旨主張するが,法人は本件処分に先立ち,ハラスメント調査委員会において90分以上にわたって元教授から事情を聴取し,その聴取結果を詳細かつ逐語的に記録化した上,調査結果を踏まえた懲罰委員会の検討においては,事由(1)ないし(6)を具体的に記載した審査説明書を元教授にあらかじめ交付し,元教授が提出した弁明書やその添付書類,さらに元教授が希望する参考人(当時の医局長とその前任者の2名)からの陳述聴取をし,その結果を踏まえ本件処分をしたことが認められるから,元教授の上記主張は採用することができない。
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