知事、再稼働同意へひた走った8カ月 原発擁護9年前も
「現時点ではまったく白紙。原子力規制委員会からのゴーサインをもって直ちに再稼働に理解を示すことにはならない」
今年3月、東北電力女川原発2号機の再稼働に同意するよう求める文書を受け取った村井嘉浩知事は、慎重な発言に終始した。今月11日に地元同意を表明するまでの8カ月、知事は同意へのプロセスをぶれることなくひた走った。
まず、予定されたのが住民説明会。だが、新型コロナウイルスの影響で春に開催できず、8月にずれ込んだ。まだ感染者が相次ぎ、会場に足を運ぶのが不安という地元住民もいたが、知事は「しっかりと対策を取れば開催は可能だ」と、7カ所で開いた。
参加者は定員の4割弱にとどまったが、知事は「だいたい質問は出尽くした。ネットで議事録を公開している」として、追加開催をしなかった。
同じ頃、女川町長と石巻市長と9年ぶりに女川原発を視察。「安全に対する設備が充実していて驚いた。新規制基準の厳しさを改めて感じ、それにしっかりと応えていると感じた」と評価した。
10月22日、県議会が再稼働に賛成する請願を採択した。請願審査はわずか9分間で、請願者の意見陳述も行われず、「拙速だ」との批判があった。知事は「議会として、決して拙速ではないという判断を総意としてされた」と強調。「明確に県議会として再稼働容認の姿勢を示した」と語った。
11月9日には全35市町村長会議を開催。首長の大半が賛否を示さない中、女川町長と石巻市長との3者会談に判断を一任することで了承をとりつけた。
2日後、再稼働に同意すると表明した。記者会見場を埋め尽くす報道陣の前で、知事は「しっかりとしたプロセスを経て、ここまで参った。適切な時期ではないか」と強調した。
東北電力が再稼働の前提となる安全対策工事を終えるのは2022年度。まだ2年あるのに、なぜ、急いだのか――。
自民党のベテラン県議は、来年秋の知事選を視野に、「再稼働が選挙の争点になれば票は減る。政治家なら、それを避けたいのが本音だ」と語る。その上で、「村井さんが5期目をめざして出馬すれば圧勝だろう。票を気にする必要はなく、むしろ『賛成だ』『反対だ』と、ごたごたした県内の状態をいつまでも引き延ばしたくないと思ったのではないか」とみる。
一方、再稼働を容認する市長の1人は「知事はこれまで再三、『事前了解を早めに出さないと東北電力が工事に入れない』と強調していた。『情』より『理』で考えるタイプなので、東北電力の事情を優先したのだろう」と推測する。
一連の手続きの間、知事は「県議会や市町村長の判断に影響が出てはいけない」と、個人的な原発への考えを示すことを控えた。同意表明を終えた11日の会見で、胸の内を明かした。
「事故があったからだめだというのであれば、すべての乗り物も、食べ物も、それによって事故が起こった経験があるでしょうから、それを否定することになってしまう。私は原発事故を教訓として、さらに高みを目指さないといけないと考えている」
11年、知事は東京電力福島第一原発の事故の翌月に首相官邸で開かれた復興構想会議で、こう述べた。「安定的な電力供給という視点を絶対忘れてほしくない。この会議で原発はだめだ、バツだという結論をすぐに出すようなことだけはやめて頂きたい」
それから9年以上を経て、同意表明した会見。知事は「3議会、市町村長の考えは間違っていなかった」と語った。
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