法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選

 特筆したい視点があったり、埋もれそうなエピソードを掘りおこす企画のため、各作品1話ずつで順位はつけない。

ドラえもん』大あばれ、手作り巨大ロボ/しずかの焼きイモ交響楽
『わんだふるぷりきゅあ!』第36話 特別なワンダフル!
『女神のカフェテラス』第16話 男女11人共同生活
僕のヒーローアカデミア』第157話 I AM HERE
『ダンダダン』第7話 優しい世界へ
『忘却バッテリー』第11話 俺は嘘つきだ
『烏は主を選ばない』第12話 后選び
『小市民シリーズ』第6話 シャルロットだけはぼくのもの
『パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき』第7話 そのすれ違い、実は巡り逢いにつき
『ブルーロック VS. U-20 JAPAN』第38話 終撃

 現在はWEBサイトaninadoが集計をひきついでいる。
aninado

・2024年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

 TVアニメのカテゴライズが難しくなっているためWEBアニメも許容することはあるが、集計対象は選定コメントをのせたものに限るという。昨年も参加したが、年内にアップロードした時点では選定理由が不足していたためか集計されなかった。
話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選 - 法華狼の日記
 年々興味範囲が広がるにつれて作品をリアルタイムで押さえることが難しくなり、以前から参加する資格があるのかと悩むくらいだが、それでも忘れがたいエピソードはいくつある。

ドラえもん』大あばれ、手作り巨大ロボ/しずかの焼きイモ交響楽

 原作を踏襲しつつ立体としての説得力を増したロボデザインのアレンジと、クライマックスの田中宏紀サプライズ登板につきる。
『ドラえもん』大あばれ、手作り巨大ロボ/しずかの焼きイモ交響楽 - 法華狼の日記
 原作に忠実に映像化するべきという主張が例年よりも高まった今年において、以前のアニメ化よりも物語のアレンジが少ないことに逆説的な面白味も感じた。
 限界集落から遠く山道をこえて登校する子供たちという、かつての現代日本の光景をそのまま現在に映像化しても違和感がない。それがこの国の停滞を表現してしまっている。アニメスタッフが意図しているかどうかはともかく。

『わんだふるぷりきゅあ!』第36話 特別なワンダフル!

 もちろん真面目なラブストーリーとしても絵と話に力があったが、性的合意があらためて話題になった2024年だからこそ注目したいエピソードでもある。
『わんだふるぷりきゅあ!』第36話 特別なワンダフル! - 法華狼の日記

 ラブコメにありがちな誤解から傷つけあうような展開では引っぱらず、30分枠の1話分いっぱいつかって言葉にならない思いを言語化しようとする子供たちがまぶしい。甘酸っぱいが甘ったるくないし、半端に大人ぶった苦みもない。真面目に真摯に描くだけで恋愛は見ごたえあるドラマになる。

 今年は加害性が指摘された人物を擁護したいがためか、性愛の欲求を言葉にすることは無粋だとか、求められる側も直接的な言葉は望まないとか、欲望を一方的にぶつける側に都合のいい主張がしばしば流れた。
 だからこそ、きちんと思いを言葉にしようと努力して相手を傷つけないよう慎重に距離をはかるストーリーと、それを正面から美しく描ききったスタッフがまぶしかった。

『女神のカフェテラス』第16話 男女11人共同生活

 瀬尾公治原作のTVアニメはこれまで3作品すべて見てきたが、どれもシリアスぶりながら感心しない出来だった。
 この作品も1期は同様だった。過去のアニメと違ってコメディ色を強めていたが、だからこそ事故による被害者を笑うような方向性に嫌悪感をいだいた。女性キャラクターはどれも類型でしかなく、わりふられた個性にまったく個性を感じることができなかった。手塚プロダクションらしく美少女の作画はひどいもので、制服の模様をていねいに手描きで動かそうとする方針などリソースのわりふりが間違っているとしか思えなかった。
 しかし2期になって、主人公が経営するカフェをつぶすため劇中人物が意識的に主人公側の女性キャラクターの対となる女性キャラクターを出してから、笑いの歯車がかみあうようになってきた。ハーレムアニメの類型的なキャラクターと、それを真似たキャラクター、そして真似しない本来のキャラクターは少しずつズレているギャップで面白味が生まれている。特にこの第16話はひとりの男性主人公に対して10人もの女性が画面せましとかけあい、ひとつひとつは弱い笑いでも間断なく凝縮され、見ていて飽きない。ハーレムニメらしいうらやましさを主人公に感じないところが逆にギャグとして楽しい。作画のひどさも性的サービスシーンをギャグに昇華している。
 なお、第21話が「連れ去り」に近い状況を描いていて、ちょっと良くない利用をされそうな懸念はもった。しかも娘が余命三ヶ月の母の病床であえて嘲弄した時、演技と気づかず父親が顔を叩いたことを問題行動として描いていない。もう少し細部の工夫をしてほしかった。

僕のヒーローアカデミア』第157話  I AM HERE

 この長期作品における作画アニメ回としては近年でベストだったと思う。アクションだけではない、ここ数年の滑らかな背景動画を活用したスピード表現の中村豊作画を堪能したし、この作品には珍しい描線変更や足もと背景動画など細かい見どころに満ちていた。
 家父長制の問題について、贖罪をとおしてとはいえ家族愛で回収した物語に疑問がないではないが、特殊EDなどもあわせて、ひとつのサブストーリーの決着をアニメとして可能なかぎりもりあげていたことは間違いない。
 また、ちょうど放送と同時期に、ヒーローに無視されたマイノリティにアメコミヴィランが語りかける二次創作が注目をあつめており、議論をまきおこしていた。

 しかし息子を道具として消費するヒーローの父親と、承認欲求をかかえてヴィランになりはてた息子という、二次創作を超える凶悪なストーリー展開に「本物」の凄みを感じた。この作品が一見して陽性でありながらヒーローの影をすすむ作品であることを感じさせる。

『ダンダダン』第7話 優しい世界へ

 作品全体としては普通にモダンにTVアニメ化して、適度にサイエンスSARUらしい絵柄のブレも許容しておく、くらいの普通のハイクオリティアニメだったが、この回は頭ひとつ以上抜けた凄みを感じた。
 廃墟の暗がりのなかにいる主人公と、その外の現実で崩れていく妖怪という構図のコントラストもいいし、回想で走馬灯のようにパンをした長回しで母娘のすごした時間を見せる演出も美しい。原作を読んでいた時は気づかなかったが、バレエモチーフなどを見ると、ホラーで本気を出した時の三池崇史を咀嚼し再構成したようだという印象ももった。
『美しい夜、残酷な朝』 - 法華狼の日記
 給湯器のデザインなどから数十年前の出来事だと思うが、母娘が充分な福祉につながれない理由や、ヤクザに娘だけを拉致する理由はあいまいで悲劇のためにつくられた状況という印象がないではない。
 しかしちょうど放送直前にSNSアカウント「Z李」が子供だけがいる場所に乗りこんで逮捕されたという報道が流れて、そのような犯罪がありうると実感しながら視聴できてしまった。良いのか悪いのか……
インフルエンサー「Z李」が逮捕されたり、伊藤和子氏が暇な空白氏を訴えた裁判で勝利している今、Colabo批判が切断処理されそうな気配を感じている - 法華狼の日記

『忘却バッテリー』第11話 俺は嘘つきだ

 作品全体のエントリで簡単にふれたように、独立した一話としても連続した一話としても素晴らしいエピソードだった。
『忘却バッテリー』雑多な感想 - 法華狼の日記

白眉の回はやはり第11話だろう。フィジカルに劣る若者の蹉跌と、それでも野球に向きあうすべての人に敬意をはらう高潔さ。3DCGを活用した立体的なカメラワークに、人間の躍動感を抽出して写したアニメーション。この作品の特色たる下の光源で照らされる表情。
 単発の物語として見ても四文字の言葉にまつわる悔恨の真意が良かったし、先述の第1話アバンタイトルで目を引いたカットを過去の転換点にもってきたり第10話の予告映像で描かれた情景の意味がクライマックスで判明する作品全体のギミックもうまかった。

 けっこう絵と音の力にたよっていた『ダンダダン』第7話とくらべて、人間関係がすみずみまで敵味方をこえてドラマをささえあうつくりになっていた。

『烏は主を選ばない』第12話 后選び

 いわゆる悪役令嬢の婚約破棄のようなシチュエーションがくりかえされた果てに、とんでもない陥穽が待ちうけていた。
 一種のミステリと知っていれば予想できる陥穽ではあるかもしれないが、連続TVアニメとして展開したことで長期にわたって陥穽を掘りすすめたこと自体に感心せざるをえない。
 それでいて真相開示の驚かしにたよらず、婚約破棄のシチュエーションそのものも多彩で見ごたえがあった。特に真赭の薄の堂々たる婚約破棄られぶりは真相開示とは独立しているドラマだからこそ忘れがたい。

『小市民シリーズ』第6話 シャルロットだけはぼくのもの

 原作は既読だが、TVアニメ化されることでミステリとしての構成は同じでも、印象がけっこう変わってくる。
 特にこのエピソードは原作ではさして印象に残らなかったが、緊張感ある演出で映像化されたことで、主人公男女の拮抗した関係を象徴する出来事と感じられた。

『パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき』第7話 そのすれ違い、実は巡り逢いにつき

 この枠のこの制作体制としては奮闘して佳作にしあげていた第1話も良かったし、良くも悪くも珍品として愛するなら最終回でもいいが、作品を象徴するエピソードなら第7話だろう。
『パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき』雑多な感想 - 法華狼の日記

 第7話などは大の男ふたりとも朴念仁すぎて女性陣がやきもきしたり、けっこうラブコメとしても楽しかったり。序盤のふたりパーティーのままでも良かったが、パーティー人数が増えてもけっこう各キャラクターを物語でも映像でも動かしつづけて、表情もくるくる漫画チックに変わるので見ていて飽きない。伏線らしき描写を人形劇で表現したり、小技もきいている。その人形をちゃんと糸であやつっているようにアニメーションしているところも感心した。

 へたれた部分もふくめて愛せるし、それなりにライトに楽しめる内容になっていた。あまり人気作ではないからこそ紹介しておきたい。

『ブルーロック VS. U-20 JAPAN』第38話 終撃

 紙芝居と揶揄されるくらい止め絵をデジタルでいじってモノローグをかぶせてばかりではあった2期において、最終回のそれも最後のマッチアップだけスタッフまで変えて特別に力を入れた構成が興味深かった。
 シネマスコープで映され、描線の繊細さも影の抑制も通常回とは段違い。最終回までにアニメーションとして見る気をなくした視聴者でも、このワンシークエンスだけは見どころを感じただろうし、こういうバランスを崩した配分をするTVアニメが最近では珍しいという観点から記録しておきたい。


 今年のTVアニメをふりかえると、ジャンププラス躍進という印象がある。もちろん『SPY×FAMILY』は2021年からTVアニメ化されて高い人気を維持しているが、媒体としての幅の広さと水準の高さ、そしてメディアミックスにおける慎重なブランディングを実感させたのは今年だった。
 単純に作品数が多いだけでなく、私選した2作品2エピソードは広く話題になっていたし、人気の制作会社が担当した『怪獣8号』をはじめ、2クール放送となった『株式会社マジルミエ』『2.5次元の誘惑』、同年に2シーズン放送した『鴨乃橋ロンの禁断推理』など、長期にわたってメディアミックスしたい意図を実行した作品が目立った。
 ただしそれらは数年前に連載開始して今年にアニメ放送が集中した結果でもあるだろうし、媒体の現状をそのまま肯定はできないかもしれない。今年のジャンププラスの新連載は表層の過激化で耳目をひくことを急ぐばかりで、人間関係や世界観の蓄積を後回しにする作品が目立ち、媒体を愛する読者からの不評も少なくないように感じている。
 そして現在も人気を維持している連載の初期がTVアニメ化された時、必ずしも読者が愛好したわけでもなく現行連載からはなくなったような描写がそのまま映像化され、しかもそれが見どころのようにピックアップされたことにより、編集部への不信感が生まれているようでもある。編集部が作品のバランスを悪い意味で漫画家まかせにしていないだろうか。