日本のエリート層に「武士の姓」が多いという衝撃 身分を固定化する「社会的流動性」の低さとは
私たちが生きている、かつてないほど豊かなこの現代社会を可能にしたのは、経済の力だ。そして、文明の歴史は経済発展の歴史でもある。では、その経済を、経済学者たちはどのように考えてきたのか。現代の経済学者は何に取り組んでいるのだろうか。
農耕革命から人工知能まで、経済や経済学の発展の歴史をわかりやすく解説する、2024年12月に刊行された『読みだしたら止まらない 超凝縮 人類と経済学全史』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。
■「社会的流動性」をはしごに喩えると
古代中国の封建制度やインドの伝統的なカースト制度、あるいはヨーロッパ中世の封建制度のもとでは、人々の社会的な地位は生まれながらに決まっていた。
親の社会的身分が子に受け継がれたので、社会的流動性は限られたものだった。
現代の資本主義社会に暮らすわたしたちの大半は、そのような固定化された階級社会におぞましさを覚える。
今の社会では、政治信条に関係なく、社会的流動性、つまり誰でも「出世」できる状態が尊ばれている。
とはいっても現実には、親と子のあいだに社会的地位の相関がどれぐらいあるかは、国によってかなり違う。流動性が世界で最も高いのは北欧諸国であり、逆に最も低いのは南米の国々だ。
その原因は、経済的な不平等(貧富の格差)と流動性とが密接に結びついていることによる。
これははしごの喩(たとえ)で考えるとわかりやすい。はしごの段と段の差が経済的な不平等を、はしごの上り下りのしやすさが社会的流動性を表す。段と段の差が大きければ、はしごの上り下りはしにくくなる。
このような貧富の格差と流動性の相関関係を経済学では「グレート・ギャツビー曲線」と呼ぶ。南米では、北欧より経済的な不平等が大きいので、そのぶん流動性も低い。
ここまでは、1世代間(つまり親と子)の社会的流動性の話だったが、別の手法を使えば、多世代間の流動性を見わたして、支配層が固定化していないかどうかも調べられる。
社会的流動性の長期的な傾向を明らかにするため、経済学者グレゴリー・クラークはめずらしい姓に着目して、社会的な身分が固定化していないかどうかを調べている。
ピープスという姓を例に取ろう。17世紀に英海軍の書記官を務め、詳細な日記を残したことで知られるサミュエル・ピープス(1633~1703年)の姓だ。
過去5世紀にわたり、ピープスという姓は一般母集団より20倍以上高い割合で、オックスフォード大学とケンブリッジ大学に入学してきた。
資産価値の閲覧可能なデータを見ても、ピープス姓は英国人の平均より5倍以上多くの財産を子孫に残している。
ひとつの姓がこのようにエリート層に存続しているのは、社会的流動性が極端に低い証拠だと考えられる。
■100年経ってもエリート一家?
めずらしい姓がエリート層に存続している例は、ほかの国でも見られる。米国の税務当局が1920年代初頭に高額所得者の氏名を発表した。
それから100年後、それらと同じ姓を持つ者は、医師や弁護士になる割合が平均で3~4倍高い。
中でもカッツという格式の高い姓を持つ米国居住者は、6倍も高い割合で医師や弁護士になっている。
日本では、武士の姓は1868年の明治維新以前まで遡る。現在、それらの姓を持つ者は一般よりも4倍以上高い割合で、医師、弁護士、学術書の著述家になっている。
中国では、19世紀の清朝のエリート層に多かった姓を持つ者が、やはり一般よりも高い割合で、現在の企業の取締役や政府の役人に名を連ねる。
チリでは、高収入の職業に従事する者には1850年代の地主階級に多かった姓を持つ者がいまだに多い。
スウェーデンでは、17世紀から18世紀にかけて、「高貴な姓」が定められた。現在、それらの姓を持つ者は、医師になる割合が2倍、弁護士になる割合が5倍ふつうより高い。
社会的な身分は、わたしたちの想像以上に固定化している。10世代にもわたって受け継がれることすらある。
(翻訳:黒輪篤嗣)
東洋経済オンライン
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最終更新:12/31(火) 8:02