矢板明夫の目

中国で拘束された日本人は本当にスパイだったのか?

以上の4人はいずれも情報分野の素人で、中国の国家機密を探知できる社会的な立場にもいない。仮に公安調査庁などの情報機関の関係者と接触があったとしても、一般的な情報しか持ち合わせていないことから、国際的な常識からはいずれもスパイといえる人物ではなかった。

新たな反日のネタに

共産党関係者によれば、この4人の摘発は習近平政権による外国人排除の動きの一環だという。中華民族の偉大なる復興などナショナリズムをあおるスローガンを掲げる習政権は、投資目的以外の外国勢力が中国国内に入ることを阻止することに力を入れている。こうした事情を背景に、外国の民間人にスパイとのレッテルを貼って摘発することが最近急増している。

昨年夏には中朝国境付近でキリスト教を布教しながらコーヒーショップを経営するカナダ人老夫婦を「軍事機密窃取」の容疑で拘束し、カナダとの間で外交トラブルになっている。今春には、ビジネスツアーで広東省を訪問した米国人女性企業家をもスパイ容疑で摘発した。

外国人の中で、日本人が特に狙われやすいといわれる。9月の抗日戦争勝利70周年の軍事パレードが終了したことから、習政権による日本たたきのネタが切れかかった頃、スパイ事件がはじけた。中国の官製メディアはこれらの事件を大きく報道した。国民の日本に対する反感をあおり、新たな反日の材料にしているようだ。

(やいた・あきお 中国総局)

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