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2022年10月24日(月)

それ本当にエコですか?徹底検証!暮らしの中の環境効果

それ本当にエコですか?徹底検証!暮らしの中の環境効果

レジ袋からエコバッグへ。コンビニやカフェのリユースカップ。実は使い方次第では「エコ」と言い切れない検証結果が!?今、エコをうたう商品やサービスの効果を実証的に確かめ“より効果的なエコ”を追求する動きが広がっています。世界では実態が伴わない商品などが「グリーンウォッシュ」と呼ばれ、見直しを迫られるケースも。“本当のエコ”はどうすれば実現できるのか。暮らしの中で、今すぐ出来る工夫とは。徹底検証!

出演者

  • 中谷 隼さん (東京大学講師)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

それ本当にエコ!? 徹底検証"実際の効果"

全国に展開する、大手コーヒーチェーン。2021年から一部の店舗で、容器ゴミを減らすとともに、二酸化炭素の削減にむけてあるカップが使われています。

実証実験を行っている会社 吉村祐一さん
「こちらが繰り返し何度も使えるカップ」

客が持ち帰り、返却することのできる「リユースカップ」。一体どれほど環境に対する効果があるのか。このリユースカップのサービスを開発した会社が中心となって、実証実験を行いました。

吉村祐一さん
「(リユースカップが)単純に環境にいいではなく、使い捨てカップと比較して『こういった数値でどれくらい使えばいい』と分かってもらえるのがとても重要」

実験では、リユースカップと使い捨てのプラスチックカップ、それぞれを使う際に排出される二酸化炭素の量を比べます。結果は意外なものでした。

リユースカップを100回使っても、使い捨てのプラスチックカップに比べて二酸化炭素の排出量が多く、環境への負荷が大きい場合があることが分かったのです。

吉村祐一さん
「かなり衝撃的な数値。『こんなに繰り返し使わないと逆転しない』とまず率直に思った」

なぜ、衝撃的な数値となったのか。リユースカップを洗う際、お湯が使われ、二酸化炭素を排出します。カップを製造する際にも、プラスチックより二酸化炭素を排出。そして、実験の結果に大きな影響を与えたのが、輸送の際に車から出る排気ガスでした。

「リユースカップの回収です」

このサービスでは、コンビニやカフェなど、およそ40店舗を回り、カップを回収。洗浄する工場までは1時間ほどかかり、その結果、使い捨てのプラスチックカップに比べて二酸化炭素の排出量が増える場合があるのです。

吉村祐一さん
「遠くに運んで洗って返すとなると、どうしても負荷が高くなる」

会社では洗浄する場所などについて、検討を重ねています。更に実証実験を今後も続け、データを公開。利用客にカップを使えば使うほど効果が上がることを実感してもらおうとしています。

吉村祐一さん
「(対策を)どれか一つだけやっていくといっても、実は効果が見えにくい。データを集めて、最適なところをサービスとして検討していきたい」

再生可能エネルギーにも検証の動き

環境に負荷が少ないとされる「再生可能エネルギー」についても、検証の動きが出ています。

木くずなどを燃料とする、木質バイオマス発電。この発電所では、地元の山林から出た間伐材を利用しています。

バイオマス発電所 立花誠至さん
「用材として使われなかったサイズの間伐材ですから、燃料にもなるという有効活用と山の保全です」

木などの植物は、二酸化炭素を吸収しながら育ちます。そのため、燃やしても二酸化炭素の増減に影響を与えないとされ、経済産業省を中心に普及が進められてきました。

しかし、ある環境団体は一部のバイオマス発電の燃料について、懸念の声を上げています。バイオマス発電が盛んになる中、カナダなどの海外から木質の燃料を輸入するケースが増加。その場合、輸送の際などに出る二酸化炭素によって、環境に負荷がかかるというのです。

環境団体 飯沼佐代子さん
「日本まではるばる運ばれて、燃やされる。生産と輸送と燃焼、ライフサイクルのさまざまな場面で、二酸化炭素を出してしまう」

更に、環境団体の担当者が輸入元であるカナダを訪れると、木質燃料が思いがけない形で生産されていました。

地元の環境団体によると、ここで2年前多くの木が伐採されたといいます。ここは、もともと樹齢200年ほどの木が生い茂っていた天然林でした。

カナダ先住民 ウィニー・ジャゴディクス・チンギーさん
「これは再生可能ではありません。何年かかるでしょうか」
地元の環境団体
「100年かかるかもしれません」

木質燃料の需要が高まる中、自治体の許可を得た業者による伐採が進んでいるのです。

地元の環境団体 ミシェル・コノリーさん
「これまで、このような木が商業目的で使われることはありませんでした。こうした森から木質の燃料が作られて日本に送られ、エネルギーのために燃やされるのではないか心配しています。森林にとっても、脅威です」
飯沼佐代子さん
「遠くで問題が起きて、消費国である日本には伝わりづらいという問題もある。どういった仕組みで起きているのか、もっとちゃんと消費者に説明してほしい」

経済産業省は天然林の伐採に対し、


法律(再エネ特措法)による支援の対象は持続可能性が証明された燃料のみで、仮にそうでない燃料の使用は法律に基づき指導・改善命令を行う

経済産業省より

また、輸送で排出される二酸化炭素などについては、


日本はバイオマス燃料のGHG(温室効果ガス)の削減についてEU並みの目標値を設定しており、現在排出量の具体的な確認方法の検討を行っている

経済産業省より

と回答しました。

正しいエコとは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
リユース、再生可能という響きだけで「環境にやさしい」と思ってしまうと、そうとは限らない場合もあるということですよね。

では「何が正しいエコ」なのか、具体的に聞いていこうと思います。きょうのゲストは、環境工学が専門の中谷隼さんです。中谷さんは、先ほどVTRでご紹介したリユースカップの実証実験を監修されました。

その実証実験は、原料の調達、輸送、製造などのライフサイクルの中で、どれくらい二酸化炭素などの温室効果ガスが出るかを測定し、環境への負荷を数値化するというものです。

企業への関心も高まる中で、自分がふだんエコだと思ってやっていること、実はどうなんだろうと気になる方も多いと思いますので、具体的に聞いていこうと思います。

まず、レジ袋とエコバッグ。エコバッグの方がレジ袋よりも環境にやさしいと思いますよね。ただ、エコバッグを「50回から150回使うと、ようやくエコ」と言えるということです。

なぜなのかというと、エコバッグはレジ袋の50倍から150倍の温室効果ガスを排出してしまうから。具体的にどういうことなのでしょうか。

スタジオゲスト
中谷 隼さん (東京大学講師)
環境工学が専門

中谷さん:
一般に使われてるエコバッグというのは、綿やポリエステルといった素材で出来ていることが多いのですが、素材を作る段階でも当然環境影響は出ますし、そこからまた糸を紡いで布を織って、そういったライフサイクルのさまざまな段階で出る環境影響を積み上げていくと、結果的にレジ袋の50から150倍という数字になりました。

桑子:
何個もエコバッグを買い替えて1個当たりの使用回数が少ないと、それはエコではないということになるわけですね。なので、エコバッグは50回から150回使いましょうということです。

2つ目は、ストローです。紙製のストローと、プラスチック製のストローです。

何となく紙製の方がエコだと思っていると思うのですが、実際にどれくらいエコなのかというと、紙製の方がプラスチック製よりも温室効果ガスの排出が2分の1、半分で済むということです。

中谷さん:
これも先ほどと同じ考え方で、紙というのはVTRにもあったとおり植物から出来ています。なので、大気中から吸ったCO2をもとに出来ている。ですので、吸収したCO2の分だけエコで環境にいいと言われているわけです。

しかしそれで終わりではなくて、その紙を作る段階や更に加工してストローにするさまざまな段階で環境影響が出ますので、そういった環境影響を積み上げていっても、プラスチック製のストローの半分ぐらいかなと、一つの目安と考えていただいていいのかなと思います。

桑子:
あと、プラスチック製のストローを使わないと海洋ゴミの問題を改善することにもつながると考えられますか?

中谷さん:
そうですね、そこに関しては私自身ちょっと違った考え方をしているのですが、プラスチック製のストローがなぜ海洋プラスチックになるかということを考えていただくと、基本的には「ポイ捨て」が原因なわけです。

日本のようにゴミ処理がしっかりした国で、しっかりとゴミ箱にさえ捨てていただければ、プラスチック製のストローであっても、紙製のストローであっても、海洋ゴミにならないということです。まずはしっかりとゴミ箱に捨てていただくという基本からですね。

桑子:
皆さん気を付けましょう。そして最後に、プラスチックの容器です。

自治体によってルールは異なりますが、可燃ゴミで捨てる、もしくは水で洗ってリサイクルする。どちらがエコなのかというと水で洗ってリサイクルする方なのですが、どれくらい違うと言えますか?

中谷さん:
お住まいの自治体でプラスチックの分別収集しているところの分別収集ガイドのようなものを見ていただくと、恐らく「水でさっと洗って捨てましょう、リサイクルに出しましょう」と書いてあると思います。

水で洗うということも実は環境負荷がゼロなわけではないんです。水を使う時にも浄水施設でエネルギーを使ったり、下水処理施設でエネルギーを使ったりします。ただ、リサイクルをするために水でさっと洗う時の影響、温室効果ガスを大体1とすると、もし水で洗わずに可燃ゴミに捨ててしまって燃やしてしまった場合の環境影響は大体40ぐらいというのがわれわれの試算です。

桑子:
40倍になってしまうんですね。

中谷さん:
ということは、リサイクルをするため、40の環境影響を避けるために、1だけ温室効果ガスを出しながら水で洗っていただくということは特に問題ないのかなと思っています。

桑子:
あと、食品トレイなどで油物が入っていたり、ラー油などが使われる場合はお湯を使ってリサイクルに出すという場合はどうですか?

中谷さん:
非常に難しいところですね。お湯を使うという行動は、実は結構環境影響が大きいのです、エネルギーを使うので。私どもの試算だと、水を使って洗う時と比べて、お湯を使って洗う時の影響は大体15倍と出ています。

例えば、こういった小さい容器でリサイクルの効果もそれほど大きくないものに対してお湯を使ってがっちり洗おうとしてしまうと、実はリサイクルの効果よりもお湯を使うことの環境影響が上回り、打ち消してしまうこともありえると思います。多くの自治体でもそのように情報発信してると思いますが、こういった洗いにくいものに関しては可燃ゴミに捨ててしまうというのも、一つのオプションかなと思っています。

桑子:
このように「本当のエコ」は全体を見ないと分からないわけですが、いま世界では商品やサービスの環境への影響を正しく検証しようという動きが加速しています。

問われる"エコの実態" 「グリーンウォッシュ」とは

二酸化炭素の排出量がヨーロッパで一番少ないとPRする航空会社や、地球にやさしいとキャラクターが歌う飲料メーカーのCM。実は、この2つの企業はイギリス国内で広告の差し止めを命じられました。

差し止めたのは、イギリスの広告規制機関「ASA」。一体それはなぜなのか。

イギリスの広告規制機関 ジェームズ・クレイグさん
「航空会社は、排出量の証拠を提出できませんでした。飲料メーカーは製品の製造・使用・廃棄といった、ライフサイクルのすべてにおいては根拠を持っていませんでした」

環境にやさしいとうたいながら、実態が伴っていない商品やサービス。欧米では、環境を意味する「Green」とごまかすという意味の「Whitewash」をかけて「グリーンウォッシュ」と呼ばれています。グリーンウォッシュと批判されると、消費者から不買運動を起こされたり、国から巨額の制裁金を課されたりする場合もあります。

ジェームズ・クレイグさん
「企業は自分たちが正しいことをしていると信じたいし、言いたい。そこに登場するのが、グリーンウォッシュです。だからこそ私たちの取り組みが重要なのです」

日本でも海外と取り引きのある企業を中心に、グリーンウォッシュへの危機感が高まっています。

関西に拠点を置く、経営コンサルティング会社が開いたオンラインセミナー。企業側にごまかす意図がなくても、環境対策が不十分だと指摘された場合、大きなリスクを招くと言います。

経営コンサルティング会社 社長 小林孝嗣さん
「国から取引停止されたり、企業から取引停止されたり。不買行動によって売り上げが激減して、経営を圧迫するところも考えられます。

失注(注文を失う)とか、グローバルサプライチェーンの中からキックアウト(追放)されるところまで意識して企業は取り組んでいく時代になってきている」

"本当のエコ"どう実現? 始まった模索

グリーンウォッシュの問題に直面し、環境への対策を大きく見直した会社があります。

大阪の洗剤メーカーです。主力商品は、自然由来のパーム油を使った洗剤。創業以来、地球にやさしい商品の開発に力を入れてきました。

思わぬ事態が起きたのは2004年。パーム油の世界的な需要が高まる中、原産地である東南アジアのボルネオ島では、大規模な農園の開発が進んでいました。そのため、熱帯雨林が急速に減少し、野生の象が農園のわなにかかるケースが続発。会社にとって寝耳に水の事態でした。当時、仕入れ元である農園の状況までは把握しておらず、厳しい批判にさらされました。

洗剤メーカー 社長 更家悠介さん
「『見損なった』、『何でパーム油やめないの』と言われた。いつも環境にいいと思って、お客さんばかり見てやっていた。バックヤードのことを聞かれて、分からなかった」

会社はまず、国際協力の経験がある人材を調査員として契約。現地の実態を詳細に調べました。そして、現地の財団と共に始めたのが「緑の回廊プロジェクト」。

川沿いに残る、僅かな森。農園の一部を買い取り、分断された森をつなぐことで象などの野生動物が安全に通れるようにします。

会社は、定期的に現地の調査員の報告会を開いてきました。商品そのものだけでなく、原料調達から廃棄までの全ての過程に責任を持たなければ、消費者の信頼は得られないと考えています。

更家悠介さん
「グリーンウォッシュと言われたこともあるように思いますけれども、ずっと長くやっていることで、足りない点も含めて、お客様に理解していただいている。企業も配慮することは多いけれども、できる範囲でやっていく時代に変わってきている」

今後、企業が問われる姿勢について専門家は。

環境経済学が専門 叡啓大学 特任教授 石川雅紀さん
「グリーンウォッシュの対策みたいな話は、ひとつは企業のあり方につながってきますし。実際自分たちがやっている行為、ひとつのことに関してはいいのかもしれなけれど、副作用があるかもしれない。自分のやっているビジネスの中で環境にどれだけ配慮ができるか。自分がやっているビジネスの環境影響を考えて、そこでの貢献を考えるのが本筋じゃないかと思います」

より効果的なエコを実現するために

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
グリーンウォッシュへの対策は、日本では海外と取り引きのある企業だとそれなりの意識を持っているのかなという印象を受けましたが、実際、今の日本の空気感、現在地、どう評価されていますか。

中谷さん:
最近、私のところにもさまざまな企業の方から相談をいただく機会が増えてきたのですが、そういった企業の方は例えば海外の取引先から自社であるとか自社の製品の環境情報を開示することを求められたとか、あとはESG投資と言いますが、環境社会、そしてガバナンス、こういったことに配慮した企業に投資しようといった動き、こういった動きに対応するモチベーションが今の日本国内の企業は強いのかなと思っています。

今後そういった外圧ではなく、是非国内からそういったモチベーションが湧いてくるような社会になるといいなと思います。

桑子:
そうですよね。では最後に、本当のエコを実現するために私たち消費者はどんなことに気を付ければいいのか、中谷さんに3点挙げていただきました。

本当の"エコ"どう実現?
①どの環境問題に有効か?
②根拠となる数字は?
③ライフサイクル(全体像)は?

中谷さん:
まずは、雰囲気で「エコだ」とか「環境にやさしい」という言葉で納得するのではなく、エコ、環境にやさしいといったものがどういった環境問題に対して有効かといったことを意識していただきたいと思っています。

前半では地球温暖化、温室効果ガスの話を中心にお話ししましたが、環境問題は実はほかにもいっぱいあります。例えば海洋プラスチックの問題もありますし、水資源の問題もあります。さまざまな問題がある中で、いろんな企業が出している環境対策、一体どういった環境問題に効くのかということをまずは意識するということです。

また、一消費者にとっては難しいかもしれませんが、特定の環境問題への対策のために、もしかするとその裏側で、先ほど石川先生が「副作用」とおっしゃっていましたが、何か別の環境問題を引き起こしていないか。そういったことにも目を配っていただけるといいなと思います。

桑子:
総合的に環境にいいということを考えないといけないわけですよね。

中谷さん:
おっしゃるとおりですね。

桑子:
そして、2つ目は根拠となる数字。

中谷さん:
どういった環境問題に有効かということが分かったら、その次の段階として数字で議論していただきたいということです。例えば、ある環境問題、ある対策に対していいこと、悪いこと、数字なしで議論し合うとどうしても水掛け論になってしまいます。そこにある程度漠然とした数字であったとしても、数字があることによって有意義な議論になると思っています。

桑子:
商品、例えばCO2の削減量はこれぐらいですよと数値で示してもらえれば、私たちも選ぶ時に参考にできますよね。

そして、最後に「ライフサイクル全体は?」ということですね。

中谷さん:
数字を出す時ですが、例えばライフサイクルの中で、使う段階で環境影響を減らそうと思った結果、製造段階での環境影響が増えてしまっては意味がないですし、逆に廃棄の段階の環境影響を減らそうと思って、使う段階の環境影響が増えてしまっても意味がない。

やはり、製品のライフサイクル全体を見て、総合的に見てより環境にいいものを考えていただきたいなと思っています。

桑子:
これを踏まえて、最も大切なことはどんなことでしょうか。

中谷さん:
こういった数字の情報があったとしても、それを製品に対するレッテル貼りに使ってほしくないんです。消費者がどういった行動をしなきゃいけないか、その改善につなげていくような数字にしていただければなと思います。

中谷さん:
ありがとうございます。それは本当にエコなのか。消費者の声をこんな形で届ける取り組みも広がっています。

消費者の声が "本当のエコ"を生む

熱帯林減少の問題に取り組む、都内の環境団体です。

環境団体 中司喬之さん
「どういった取り組みをどの程度まで進めているのか、調査するためのアンケートです」

食品会社など、およそ100社に環境にどこまで配慮しているか、アンケートを実施。その結果や具体的な取り組みをウェブサイト上で公開し、消費者から企業へのメッセージも掲載しています。

中司喬之さん
「消費者として環境問題に関心をもって、企業がどういった取り組みをしているか"見ていますよ"と伝えることが大切だと思います」

それは本当にエコなのか。一人一人の問いかけが社会を変えていきます。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
2022年10月19日(水)

なぜ急増?“ガチ中華”新時代の日中関係に迫る

なぜ急増?“ガチ中華”新時代の日中関係に迫る

ナマズの煮込みに、ザリガニのニンニク煮込み…。日本人の舌に合わせた料理ではなく、本場中国の味を出す中国料理店が都内に急増!その数300軒にのぼります。急増の謎をひもとくと、中国社会の知られざる変遷が明らかに。熾(し)烈な受験戦争や就職戦線、“頑張らない若者”の増加…。中国の若者たちは日本の価値観や終身雇用など雇用環境に共感、来日するケースが増えています。ブームから見える新時代の日中関係に迫りました。

出演者

  • 高口 康太さん (ジャーナリスト)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

本場・中国料理"ガチ中華" 日本での急増の裏に何が?

都内でも"ガチ中華"の店が集中する池袋。

雑居ビルに3年前にできたのは、"ガチ中華"のフードコート。週末には数百人のお客がやってきます。"ガチ中華"は、町の中国料理店と異なり、日本風のアレンジはありません。

こちらは、肉や野菜を冷麺の生地でくるんだ「烤冷麺(カオレンメン)」。野菜や卵などの具を激辛のたれに漬けた「冷鍋串串(レングオツァンツァン)」や、日本でも知られるようになった「麻辣タン(マーラータン)」も四川省発の"ガチ中華"です。

最近よく見る火鍋の店も、より"ガチ度"を増しています。

具には、かもの血を固めたものや、豚の脳みそなど本格的な食材。決め手は、とうがらしをふんだんに使った激辛麻辣スープです。

店長の金さんは、ブームに乗って2店舗目を展開。2022年5月、コロナ禍で撤退したスポーツ用品店の跡地にオープンしました。

店長 金文龍さん
「コロナ(禍)になって空き物件がたくさん増えて、いいところがあったのでお店を作らせていただきました。ずっと右肩上がりです」

日本で急増の裏に何が?

急拡大する"ガチ中華"。一体、誰がこの需要を支えているのか。

この店の常連、中国人のラキさん(仮名)。上海から1,000キロ以上離れた内陸部から来日しました。この店を知ったきっかけは?

ラキさん(仮名)の友人
「『レッド』の口コミで知りました。リアルな写真と評価を見て、どこへ行くか決めています」

見せてくれたのは、ユーザー数3億人の中国版インスタグラム。これを見た日本に住む中国の若者が、店の常連になっています。

日本に住む中国人は、この20年で2倍近くに増加し、70万人を突破。留学生も着実に増えています。ラキさんも留学のために来日。経済成長が続く中国から、なぜ日本へ?

ラキさんの友人
「今、中国では就職が大変だよね」
ラキさん
「競争が激しすぎない?日本でいい仕事が見つかるなら、帰らない方がいいよ」

ラキさんは、中国で大学受験に失敗。志望校ではない大学に進学し、中国の地方の小さな旅行会社に就職しました。その会社ではノルマが達成できない場合、自主退職するという契約が交わされ、何人もの同僚が職場を去っていきました。

ラキさん
「常に携帯を確認して、24時間働いている感覚でした。(同僚に)お客さんを取られたこともあります。業績で収入が大きく変わるので、すごくストレスでした」

その後、中国での仕事を辞めたラキさんは、日本の大学院に入学。10月からIT企業で働き始めました。安定した収入に加え、手厚い研修。日々、自分が成長していると実感しています。

ラキさん
「中国と比べたら、日本のほうが自分に合うと思います。居心地がいいです。仕事と生活を両立できるので、ワーカホリックにはなりません。もし今も中国にいたら、キャリアアップもできず『寝そべり』もできず、ただ苦しいと感じていたと思います」

ラキさんが口にした「寝そべり」。2021年から中国で流行している言葉です。「努力しても報われない」、「頑張るのをやめる」という若者たちの思いを表しています。

今、中国では受験戦争が激化。2022年、大卒相当の学歴を持つ人が初めて1,000万人を突破しました。しかし学歴に見合った仕事が限られ、雇用のミスマッチが深刻化。若者の失業率は、18%に上ります。

中国人から見た日本の魅力とは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
さまざまな理由で日本に来る中国人が増えている中で、"ガチ中華"のお店も急増していることが見えてきました。

きょうのゲストは、中国社会を長年取材し、若者たちのトレンドにも詳しいジャーナリストの高口康太さんです。

数ある国の中で、なぜ日本を選ぶ若者たちが増えているのか。高口さんに4つのポイントを挙げていただきました。それぞれ説明していただきましょう。まず、コスパの良さ。

中国人から見た日本の魅力
①コスパの良さ
②ビザがとりやすい
③文化的に近い
④安心できる社会
スタジオゲスト
高口 康太さん (ジャーナリスト)
中国社会を長年取材 若者のトレンドにも詳しい

高口さん:
日本の教育、不動産、あるいは日用品、何でもクオリティーが高いのに、その割に国際的な水準から見ると価格は安い、コスパがいい。

そして2番目ですが、アメリカやヨーロッパと比べてビザが取りやすい、来やすいということがあります。

そして、3番目の文化的な近さ。漢字を共有しているとか、歴史的な要因もありますが、アニメや漫画などで最近また親近感が高まっているというのもあります。

桑子:
そして4つ目、安心できる社会。

高口さん:
そうですね、これは日本の人に分かってもらうのは難しくて、中国というのは本当に競争社会で、競争に勝たないといつ首を切られるか分からない。インセンティブで給料をもらうことも多いので、業績を出さないとお金も入ってこないとか、いろんな落とし穴がある。安心できないという社会ですね。

それと比べると日本は、終身雇用制度もあったりして安心するとか、競争よりももっとみんなで団結を重視しようという社会なわけです。中国にもいろんな人がいますから、中国のあり方よりも日本のほうが私はいいなという人もいるわけですよね。

桑子:
あと、治安の良さというのも安心の中に入るんでしょうかね。さらに、中国の若者たちのリアルな気持ちが分かるものがあります。

中国の出版社が毎年出している、ネット流行語ランキングです。4位、5位に「エモい」、「神ってる」。日本とちょっと近いものもある中で、1位と2位は、読み方も含めてどういうことでしょうか。

高口さん:
1位の「巻(ジュエン)」、「内巻(ネイジュエン)」というのは、竜巻を想像してもらうと分かるのですが、竜巻は上は広くて、どんどん下のほうは狭くなっていきますよね。上は過去の世代、昔の世代です。同じようにぐるぐる回る努力の量は一緒ですが、彼らが狙えるターゲットとなる面積は広いわけです。それがどんどん最近の世代になっていくにつれて、細くなっていく。同じようなぐらい努力しても、得られる収益、狙える利益というのはどんどん減っていく状態。内部で消耗していくというのが「ネイジュエン」という考え方になるわけです。

学歴で言うと、20年前ぐらいですと四大卒というのはスーパーエリートだったわけです。それがいまですと、修士、いやいや足りない博士、それでも足りない海外留学、それでもだめでアメリカのトップ校に行ってなかったらそんなに自慢するような学歴じゃないんだよと、どんどん競争が激化しているわけです。

そんなに頑張ってるのに、親世代が買えた不動産は高くなりすぎて自分は買えない。教育価格も高くなっていて子育ても十分にできない、不満がたまっている、それでも頑張るのが「ネイジュエン」。もし、その競争から降りる選択肢があるとしたら、2番目の「寝そべり」になるわけです。

桑子:
つながっているわけですね。

高口さん:
はい。中国も今かなり豊かになりましたから、そんなに頑張ってトップのリターンを得なくても、そこそこ頑張って、そこそこのリターンを得られれば、そこそこ楽しく生きていけるじゃないか。だったら無理に頑張らなくてもいい、という考え方が「寝そべり」ですね。

桑子:
それが2021年のトップを占めていたわけですが、より最近の流行語というのがこちらだそうです。

「潤学(ルンシュエ)」と読むんですね。

高口さん:
「潤学」は「潤う学問」と書くので、美容のテクニックみたいに見えるかもしれないのですが、「潤」という字は、中国の発音記号でrun、英語の読み方で「run」と読めるわけです。そうすると、「逃げ出す方法」という意味で捉えるネットスラングとして「潤学」は流通しています。

2022年、上海のロックダウンごろからこの言葉がすごく流通しだして、中国にいたくない、これ以上はつらいと考えた人たちが、どうにかして海外に行きたい、でもすぐには行けないわけです。何かいろんな方法を駆使して海外に行く方法を見つけ出したい、そのテクニックを磨く、テクニックを教授するようなサイトとか、指南書とかもどんどん増えてきて、そういった知識の体系であったりとか、それを実践する人のことを「潤学」というふうになっているわけです。

桑子:
今のお話にもありましたが、何が「潤学」な気持ちをより強いものにしているのか、実は新型コロナも大きな影響を及ぼしているのです。

"日本にひかれた理由" ゼロコロナ政策で…

2022年6月に来日した、コさん(仮名)、32歳。上海出身の留学生です。

コさんは留学する前、上海の行政機関に勤める準公務員でした。日本へ来た理由は、中国の「ゼロコロナ」政策の下での経験です。

上海出身 コさん(仮名)
「(コロナ禍で)価値観が変わる出来事が何度も。上海はもっと自由で、開放的な街だと思っていました」

厳しい外出制限が敷かれた、上海。ゼロコロナ政策は、多くの市民の生活を制約しただけでなく、役人の中にも過酷なストレスにさらされた人が少なからずいました。

コさんの任務は、10人ほどのチームで地域に住む7,000人にほぼ毎日PCR検査を受検させることでした。

コさん
「2か月もの間、帰宅することができず、24時間、いつ仕事が入ってくるのか分からない状況でした。ほとんど眠れませんでした」

そうした中、コさんを揺さぶるある出来事が起きます。大けがをした子どもが、4時間にわたり病院で治療を受けられませんでした。コさんは、この子どもにPCR検査を受けさせていましたが、24時間以内の検査結果ではなかったという理由で断られたのです。やるせなさが積み重なる中、脳裏をよぎったのは、以前留学を夢見た日本でした。

コさん
「全力を尽くしても力になれず、申し訳なく、残念に思います。留学せず、このまま仕事を続けたら一生後悔するかもしれない。だから私は日本に行くことを選びました」

上海にいる妻と3歳の息子。コさんはできるだけ早く日本で就職し、家族を呼び寄せて定住したいと考えています。

コさんの妻
「パパは今、どこにいるか知ってる?」
コさんの息子
「日本」
コさんの妻
「日本で何してる?」
コさんの息子
「日本でものを食べている」

中秋の名月の、この日。

コさん
「ほら見て、明るいよ」
コさんの妻
「こっちも明るいよ、同じ月じゃん」
コさん
「そばにいられなくて、残念です。一歩一歩、悔いがないように精いっぱい頑張っていきます」

ゼロコロナ政策について中国の人の考えは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
中国政府は、ゼロコロナ政策は人々を守るためだということで進めていますが、実際に中国の皆さんはどのように感じていると思いますか。

高口さん:
1年前と今とで、恐らく評価がガラッと変わっているところがあるんです。1年前までは中国のコロナというのはかなりコントロールできていて、感染もさほど出ないので、ふだんはそんなにコロナ対策を意識することもなく過ごすことができたと。

一方、アメリカとか日本は感染者がたくさんいて、それに比べれば中国はすばらしいという考え方だったと思うんです。それが今だと、オミクロン株の流行に伴ってぽこぽこ感染者が出るし、1人2人の感染者でもロックダウンがある、行動制限があるという状況になると、とても苦しい。

なのに、アメリカや日本はどんどん緩和に移っているとなると、どうしてもうらやましくなるし、今の中国の体制・制度はこれでいいのかなと考える人が増えていますよね。

桑子:
そうした考えも加わって、最近日本に若い中国の方々が来ているわけですが、そういった皆さんのうちにITエンジニアやコンサルタント、通訳などの専門職や事務職に就く人の数というのが増えています。こうした仕事に就くための在留資格を持つ人は、この10年で8.3万人にまで増えています。では、そうした彼らを日本の企業はどのように受け入れているのでしょうか。

中国人材が日本で活躍 相乗効果で業績アップ

静岡県にある鉄道会社です。親子連れに人気の観光列車で利益を上げています。

しかし長年、ある悩みが。日本人には人気の一方で、外国人観光客の認知度が低く、インバウンド需要を取り込めずにいたのです。そこで。

2021年、孫江明(そんこうめい)さんは、グループ会社に初めての中国人社員として採用されました。

孫さんが始めたのは、中国版インスタグラムの活用。鉄道会社の公式アカウントを開設し、毎週のように動画をアップしています。動画の制作には、近年増加している中国人留学生の力も借りています。

鉄道会社 孫江明さん
「14億の中国のみなさんに、静岡の良さ、日本の良さを感じていただけたら」

9月、観光列車の車内には中国人留学生の姿が。孫さんの投稿を見て興味を持ったといいます。

中国人留学生
「SNSでアップして、みんなに『こういうところがありますよ』みたいな」
中国人留学生
「人気出ますよ。中国にはこういうのがないですから」
鉄道会社 鈴木肇社長
「かなり貴重な存在ですよね。われわれだけではできないことなので。第2の孫、第3の孫を増やしていきたい」

IT業界でも中国人の力を生かして、業績を伸ばしている企業があります。

企業向けのシステム開発を手がける、社員850人余りのこちらの会社。現在、社員の4割は中国人。この5年間、売り上げも伸び続けています。

今、日本ではIT業界の人材不足が深刻です。国は、3年後にはIT人材が36万人不足すると予測しています。

IT企業 森茂俊部長
「やはり人が命になってきます。いかに優秀な方を着実に採っていくかが、成長のカギになってくると思っています」

この会社は国内だけでなく、中国の大学でも説明会を行い、現地での採用を進めてきました。

システムエンジニアの薄小虎(はくしょうこう)さんは、中国の大学でコンピューターサイエンスを学び、新卒で入社しました。

システムエンジニア 薄小虎さん
「小学生の頃は、よくドラゴンボールとか見てました。SEとしての知識を勉強して日本に来ました」

薄さんは入社以来、即戦力として活躍。2022年、5年目にして主任に昇格しました。

森茂俊部長
「最新技術への好奇心が旺盛で、スピーディー、生産性が高い、その辺は中国の方特有なところ。日本人、中国人、お互いのいいところ、シナジー効果を出しながら発展につなげてるというのが当社の現状です」

国交正常化から50年 新時代の日中関係

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
こうした関係性、現状をどのように評価されますか。

高口さん:
「潤学」で日本にやってくる方々の多くは高学歴で、(海外へ)逃げ出すテクニックを発揮できるようなタイプの方ですので、IT人材も多くて、まさに今日本の不足している人材を補ってくれるような人々。日本の経済活動であるとか企業活動に与えるポジティブな面は大きいのかなと私は見ています。

桑子:
今回は"ガチ中華"の話題から、日本と中国の新しい潮流を見てきたわけですが、今後のお互いの関係、どんな展望を持っていますか。

高口さん:
今、"ガチ中華"のお店に行くと、中国の若者があふれ返っていて、それを見ると中国人がたくさんいるなと思うかもしれないですが、ただ多いだけではなくて、今までになかった新しい現象だと私は思っています。

というのは、昔の中国の方というのは「日本に行きたい」ではなくて「先進国に行きたい」と思ってやってきてたわけです。それが、今日本に来る彼らは日本の文化やカルチャーというのはある程度理解した上で、それでも日本に行きたい、あえて日本に、という感覚で来てる。

日本を好きだとか、ちょっと行ってみたいなという感じで来てくれているというのは日本人ともかなり通じるというか、ある程度予備知識を持って来てくれているというわけで、そういう意味では日本社会でうまくやっていきやすいというか、一緒に働いていく、勉強していくという時にすごく大きなポジティブな要素になるのではないかなと思っています。

桑子:
同じような価値観を共有できる相手として、仲間としてどんどんきてくれているという印象ですか。

高口さん:
そうですね。価値観を共有するというのはすごく大事だと思いますし、彼らの発信がこれから日本と中国の関係をすごくよくしてくれる可能性もあるなと思っています。

桑子:
ありがとうございます。先ほど紹介した、IT企業に勤める薄さん。最近、ささやかな楽しみができたそうです。

"ガチ中華"に舌つづみ おいしさを分かち合う

仕事帰り、薄さんが日本人の同僚を誘ってやってきたのは、やっぱり"ガチ中華"。

薄さんの上司
「いろいろお店紹介してもらって、辛いものもハマって食べてます」
薄小虎さん
「(みんなが)おいしいって言ったら、ちょっと自分もうれしいです。幸せです」

※その後の情報に基づき、3月21日、記事を修正しました


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