祟家
本編
◆導入1
※大上雄大もしくはKPCが友人の場合。
(KPCを使用する場合大上の台詞や飲み物はKPCに合わせて変更してください)
ある日、貴方達は共通の友人である大上雄大(もしくはKPC)に『相談があるので話がしたい』と近所の喫茶店に呼び出された。
喫茶店に入れば、
「こっちだ」
と奥の席から顔を覗かせた大上(もしくはKPC。以下、大上表記)に声をかけられる。
「急に呼び出して悪かったな」
彼は申し訳なさそうに眉尻を下げ、貴方達を席につくよう促してくる。
テーブルには大上が頼んだのであろうアイスコーヒーが置いてあり、席に座った貴方達も各々好きな飲み物や軽食を頼むかもしれない。
人当たりの良さそうな女性店員が笑顔でそれらを運び、「ごゆっくりどうぞ」と一礼してからカウンターへと下がって行った。
店員が下がるのを確認した大上は改めて貴方達に向き直り、少しの躊躇いの後、声をひそめながら話を切り出す。
「相談、のことなんだけどさ……実は、新居に引っ越した親戚の様子がおかしいんだ」
パキリ……とアイスコーヒーから氷の砕ける音が響く。
テーブルの上で組んだ手を握りしめる大上の表情には不安と焦燥感が浮かんでいるように見えた。
■どの様におかしいのか尋ねる
「今年の春に叔父さんと叔母さんが引っ越したんだ」
「海沿いにある街の一軒家なんだけど、最近従姉妹……その叔父さんの娘から叔母さんの様子がおかしいから見てきてほしいって頼まれて」
「従姉妹は結婚して海外に居るし、叔父さんも今海外に出張中で家には叔母さんしかいなくてさ。うちの両親も遠方に住んでるし仕事が立て込んでるみたいで、俺が叔母さんの様子を見に行くことになって……」
「一昨日、叔母さんの家に行ってきたらさ……確かにおかしいんだよ。上手く説明できないんだけど……叔母さんもだし、家が……家がおかしいんだ」
「何かに見られてるような、家には叔母さんしか居ないはずなのに、人の気配がして……さすがに俺一人じゃ手に負えないと思ってお前らに声を掛けさせてもらった」
「今週末の連休、俺と一緒に叔母さんの家に来てもらえないか?解決するのは無理かもしれないけど家から叔母さんを連れ出すだけでも良いんだ。こんなこと頼めるの……お前ら以外に居なくて……」
●海外にいる従姉妹が何故叔母の様子がおかしいことに気付いたのか質問された場合
「従姉妹と叔母さんは普段からメッセージアプリでやり取りしてて頻繁にビデオ通話するぐらい仲が良いんだ……。従姉妹が言うには引っ越して数ヶ月は変わりなかったみたいなんだけど、時々誰も来ていないのに呼ばれているって言うようになって叔父さんが出張してからは一気にやつれたらしい」
■了承する
貴方達が了承すると大上は安心したように体の力を抜く。
「ありがとう……本当に助かるよ」
そう言って安堵の笑みをこぼした彼の瞳は未だに揺れている。
<心理学>
失敗
叔母のことが余程心配なのだろうと感じる。
成功
叔母のことが余程心配なのだろう。早く叔母の家に向かわなければという焦りを感じる。
(KP情報:大上は一度家に行ったことで僅かだがツキヨミサマの狂気に触れている。そのため叔母が心配なのは勿論だが『あの家に帰らなければならない』という気持ちが無意識に含まれていた)
「じゃあ週末、朝の9時半頃に車で迎えに行くから」
(KPCが運転できない場合は電車移動で。もしPCから車を出してくれる等の申し出があれば甘えちゃいましょう)
貴方達はそのまま少し談笑し席を立つ。
「ここは俺に出させてくれよ」
素早く伝票を手にした大上がレジに向かい会計を済ませる。
喫茶店の前で別れる際も、大上は貴方達に礼をし不安げに手を振っていた。
かくして貴方達は週末の連休を使い2泊3日で大上の叔母の家へと向かうことになったのである。
◆導入2
※仕事として依頼を受ける立場にあり、大上雄大もしくはKPCが依頼人の場合。
(KPCを使用する場合大上の台詞はKPCに合わせて変更してください)
ある日、いつものように仕事に精を出していた貴方達の元に一人の依頼人(大上雄大もしくはKPC)がやってくる。
席に促せば依頼人は辺りを落ち着き無く見回しながらも来客用の椅子に腰を下ろした。
「あの…大上雄大(もしくはKPC。以下、大上表記)と申します。こちらは……その、どの様な依頼も受けてくださると聞いて……」
彼は申し訳なさそうに眉尻を下げ、貴方達がお茶等を出せば『ありがとうございます』とお礼を言ってから軽く口を付けるだろう。
コクリ、と喉が上下する。
多少は落ち着いたのか大上は貴方達に視線を戻し、少しの躊躇いの後話を切り出した。
「依頼、なんですが……実は、新居に引っ越した親戚の様子がおかしくて」
そう切り出し、膝の上で組んだ手を握りしめる大上の表情には不安と焦燥感が浮かんでいるように見える。
■どの様におかしいのか尋ねる
「今年の春に叔父夫婦が引っ越したんです」
「海沿いにある街の一軒家なんですが、最近従姉妹……その叔父の娘から叔母の様子がおかしいから見てきてほしいと頼まれて」
「従姉妹は結婚して海外に居るし、叔父も今海外に出張中で家には叔母しかいなくて。うちの両親も遠方に住んでるし仕事が立て込んでるみたいで、俺が叔母の様子を見に行くことになったんですが……」
「一昨日、叔母の家に行ってきたら……確かにおかしいんです。上手く説明できないんですが……叔母もだし、家が……家がおかしいんです」
「何かに見られてるような、家には叔母しか居ないはずなのに、人の気配がして……さすがに俺に一人じゃ手に負えないと思ったのでネットで色々調べてこちらに伺わせてもらいました」
「今週末の連休、一緒に叔母の家に来てもらえませんか?すぐに解決は難しいかもしれません……けど家から叔母を連れ出すだけでも良いんです。こんな……現実離れしたようなこと…他にどこに頼んだら良いのか分からなくて……」
●海外にいる従姉妹が何故叔母の様子がおかしいことに気付いたのか質問された場合
「従姉妹と叔母は普段からメッセージアプリでやり取りしていて頻繁にビデオ通話をするぐらい仲が良いので……。従姉妹が言うには引っ越して数ヶ月は変わりなかったみたいなんですが、時々誰も来ていないのに呼ばれていると言うようになって叔父が出張してからは一気にやつれてしまったそうなんです」
■了承する
貴方達が了承すると大上は安心したように体の力を抜く。
「ありがとうございます……」
そう言って安堵の笑みをこぼした彼の瞳は未だに揺れている。
<心理学>
失敗
叔母のことが余程心配なのだろうと感じる。
成功
叔母のことが余程心配なのだろう。早く叔母の家に向かわなければという焦りを感じる。
(KP情報:大上は一度家に行ったことで僅かだがツキヨミサマの狂気に触れている。そのため叔母が心配なのは勿論だが『あの家に帰らなければならない』という気持ちが無意識に含まれていた)
伝えられた住所と今週の予定を確認し、移動時間も踏まえて週末の午前11時にはその家に迎えるだろうと大上へ提案すれぱ、
「ありがとうございます。自分もその日は叔母の家に戻るので、週末またよろしくお願いします」
と彼は貴方達へ深々と頭を下げた。
※ここでもしPLが大上の発言を気にかけ自発的に心理学を振りたいという発言があった場合
<心理学>
失敗
親戚とはいえ自分以外の人間にも親身にな好青年だなと思う。
成功
叔母の家に『行く』のではなく『戻る』という言葉を使っていたのが妙に引っかかる。しかし彼の表情に嘘偽りは無く、無意識に発言したようだ。
(この結果で大上を突いても彼は不思議そうな顔をするだけで他に何か発言が引き出せるわけではない。あくまでも無意識なのだ)
かくして貴方達は週末の連休を使い2泊3日で大上の叔母の家へと向かうことになったのである。
兼田家
◆移動
週末、貴方達は大上の車で(※導入2の場合は大上に伝えられた住所を頼りに)叔母の家があると言う海沿いの街へとやって来た。
付近の村などが合併で大きくなったその街は賑わいはあるものの手付かずの自然も残り、窓を開ければ澄んだ空気と潮風が心地良い。
少し遠くに太陽に照らされた海原が光を反射してキラキラと輝いているのが見える。
風を切る音と共に蝉の声と波の音、近くの公園で遊んでいるのだろう子供の笑い声をBGMにして車は進んで行く。
(駅から徒歩移動の場合)
週末、貴方達はKPCの案内で(※導入2の場合はKPCに伝えられた住所を頼りに)叔母の家があると言う海沿いの街へとやって来た。
付近の村などが合併で大きくなったその街は賑わいはあるものの手付かずの自然も残り、澄んだ空気と潮風が心地良い。
少し遠くに太陽に照らされた海原が光を反射してキラキラと輝いているのが見える。
蝉の声と波の音、近くの公園で遊んでいるのだろう子供の笑い声を聞きながら貴方達はアスファルトを進んで行く。
街に居る間に海に遊びに行くのも良いな……などと考えているうちに閑静な住宅街が見えてきた。
その一画に立つごく普通の一軒家。
ここが大上の言う叔母の家のようだ。
表札には兼田の文字。
玄関脇の駐車場に車を停め、コンクリートに埋め込まれたレンガの道に足を下ろす。
※導入2の場合は駐車場脇で大上が待っている。
「暑い中ありがとうございます」と探索者に礼を言い「中へどうぞ」と促してくるだろう。
なんの変哲もないように見えるこの家に何があるのか……疑問に思いながらも貴方達は玄関ポーチへ足を踏み入れた。
瞬間、
ぎょろり
それは視線だ。それも一つではない。
いくつもの視線が貴方達に注がれる、そんな感覚。
ハッと我に返るも眼前にあるのは先程見た時と何ら変わりのないシックな玄関ドアだ。
身体に絡み付くような、足元からぞわりとまとわり付くような不快感に気味が悪くなるだろう。
SANチェック(成功:1/失敗:1d3)
「どうかしたか?」
足を止めた貴方達を大上が不思議そうに振り返る。
※ここからの大上台詞は導入1の口調で進みます。導入2の場合は適宜口調を変えてください。
■視線について話す
「あぁ…………お前らも気付いたのか?俺も初めてこの家に来た時になんか見られてるような感じがして……。こういう変な感じが、家の中でも起こるんだ……」
貴方達を巻き込んだ事に罪悪感を感じているのか、申し訳なさそうに大上が答える。
「こんな家だから…さ、早く何とかしたいんだけど……」
と、大上は苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
※自発的に心理学を振りたいと発言があった場合
<心理学>
失敗
心から早く解決したいと思っていると感じる。
成功
心から早く解決したいと思っていると感じるが、一方でこの家を見る彼の視線にはこの場から離れ難いというような複雑な心境が見て取れる。
※それを指摘しても大上は「そんなことないよ」と返します。再び心理学を振ろうと無意識なので本心からそう言っている事しか分かりません。
「一応、叔母さんには友達と海で遊びたいから連休中泊めてもらうってことで話を通してるから。……何ていうか……叔母さんは自分がおかしいって自覚が無いみたいでさ…病院に行こうって言っても本気にしてもらえなくて」
そう言って玄関へと向かった大上がガチャリと扉を開く。
「叔母さん、来たよ」
中に声をかければ奥からパタパタと足音が聞こえ、小柄な女性が顔を出した。
<アイデア>
成功
導入1の場合:いくら親戚の家とはいえ大上はチャイムも鳴らさずに玄関を開けて我が物顔で家に入るような人間だっただろうか?と疑問に思う。
導入2の場合:いくら親戚の家とはいえまるで自分の家のように中に入る大上を疑問に思う。
玄関に現れたのは結婚している娘がいるとは思えないような上品で愛嬌のある顔立ちに、長い黒髪を後ろで一つに結った女性だ。
ただ気になるとすれば、目に見えて顔色が悪い。
目の下にはくっきりと隈が浮かんでおり、カーディガンから覗く腕首もやけに細く見える。
「あらあら、お帰りなさい。こちらが雄大君のお友達?始めまして、兼田里恵です」
そんな不健康そうな見た目とは裏腹に、女性はハツラツとした声で貴方達に笑顔を向けるのだ。
本人に自覚が無いとは聞いていたが、今にも倒れそうな女性がいかにも健康そうに振る舞う姿には確かに違和感を覚える。
「暑かったでしょう?早く中にどうぞ。今お茶を持っていくから……雄大君、案内をよろしくね」
来客が嬉しいのか楽しそうに笑いながら、里恵と名乗った女性は台所らしき部屋へと下がっていった。
「こっちだ」
靴を脱ぎ、貴方達は大上に案内され廊下を歩く。
<目星>
成功
綺麗に整頓されているが所々に塵や埃が溜まっているのが分かる。
玄関正面の階段横を抜け、真っ直ぐ進んだ先の襖を開ければ広々とした和室に出た。
そこには既に人数分の座布団がテーブルを囲むように敷かれており、貴方達は各々用意された座布団に座るだろう。
畳の香りの広がる和室には押入れと隣の部屋へと続く襖、同じく隣の部屋へと繋がっているのだろう扉があった。
大きな窓からは陽の光が射し込み外の様子が伺える。
庭だろうか?
縁側もある所を見るとここから庭に出ることが出来そうだ。
部屋を見回していると扉の方からノックの音が聞こえる。
大上が立ち上がり扉を開けると、お盆にお茶を乗せた里恵が「ごめんなさいね。一人じゃ開けられなくて」と苦笑しながら和室へと入ってきた。
おそらくこの扉と台所が繋がっているのだろう。
里恵の持つお盆からお茶を取り、大上が貴方達の前にお茶を並べていく。
「ふふ、旦那が出張に出てからは雄大君くらいしか会っていなかったから……皆さんが遊びに来てくれて嬉しいわ。お昼ご飯も準備してますからね」
久々の来客に浮かれているようで、里恵はニコニコと話し出す。
見た目こそ今は不健康そうに見えるが、本来はお喋り好きで快活な女性なのだろう。
「せっかくだから叔母さんも話さない?」
そんな性格を察しているのか大上が里恵を引き止め座布団へ座らせる。
多少遠慮はしていたものの、里恵は「あら、いいの?ごめんなさいね。こんなおばちゃんが混ざってしまって」と満更でもない様子ではにかんだ。
◆質問タイム
※PLが質問に困っていたら大上もしくはKPCが誘導しましょう。
●いつ頃ここに引っ越したのか・どうしてここに引っ越したのか
「今年の春に引っ越したのよ。娘も一人立ちしたし、私も旦那も海が好きだったから海が近い家を探していてね。二階のベランダから海が見えてここに決めたのよ。夕日がとても綺麗なの」
「それにね、私お庭で家庭菜園をしたくて。前の家はマンションでベランダでしか土いじりができなかったから。海の見える家でゆっくり好きなことをして過ごしてみたかったのよ」
●前の家の持ち主について
「私たちが引っ越す数か月前に引っ越してしまって空き家になっていたみたいなの。どんな人かは知らないわ」
「家自体は60年近く前に建てられたそうだけど、この家を売りに出した人が全体的にリフォームをしたみたいで新築と同じぐらい綺麗よ」
「売りに出した人までは分からないわ」
●体調不良などはないか・病院に行かないか
「あら?雄大君にも聞かれたけれど私はこの通り元気よ」
「病院?私は健康よ?どうしてそんなことを聞くの?そんなに病弱に見えるのかしら……?」
※強引に病院に連れて行こうとするなら里恵に不審がられてしまいます。このまま無理矢理引きずり出そうとするなら警察を呼ばれるかもしれないとPLに警告してください。
●家で変な事は起きていないか・視線について聞く
「特にそういったことは無いわね………やだ、もしかして怖い話?私霊感とかそういうのは昔から全く無いんだけどホラー番組?とかを見ても背中がゾワッとしちゃうのよ〜」
(家に来た際は同じように視線を感じたが、住み続けるうちに影響を受けそれが普通になってしまったため現在は家に違和感を感じていない)
●庭について
「ここからお庭に出ることが出来るのよ。縁側もあってね、夜にここで波の音を聞きながら過ごすと癒やされるの」
●この家から出ないか
「どうして?ここはとても住みやすいし良い所よ」
●家族について
「娘が結婚して海外に行ってしまったの。とても優しくて綺麗な子でね、少し気が強くてこうと決めたら一直線な所はあるけどいつも私を気にかけてくれる良い子よ。もうすぐ子供も生まれそうなの。私おばあちゃんになるのね」
「旦那は生真面目で大人しい性格なの。責任感も強くて、だからかしら。海外での重要なお仕事を任されてしまって二ヶ月前から海外に出張しているの。せっかく引っ越してきたのに……離れて暮らすのは最初は少し寂しかったわ」
「最近は不思議と寂しくないの慣れてしまったのかしら」
・旦那の海外出張は三ヶ月の予定です。
※大体の質問が終わったら襖に意識を向けさせます。
もし序盤に襖の質問をされた場合は「隣の和室と繋がっているの」とだけ返しましょう。
ふと、貴方達と話していた里恵がチラリと襖の方を見る。
隣の部屋と繋がっているであろう、壁一面の大きな襖だ。
里恵はそちらを向き、口元に笑みを浮かべたまま動きを止めている。
声をかければ
「あら、ごめんなさい。少しぼうっとしてしまって……」
と曖昧な笑みを貴方達に向けてくる。
■襖について
「この襖?隣の和室に繋がっているんだけどね、引っかかってて開かないのよ。前に主人と開けようとしたけど………開けちゃ駄目なの」
<アイデア>または振らずに気付いた場合は成功扱い
失敗
『開けちゃ駄目』という言葉に妙な引っかかりを覚える
成功
『開けちゃ駄目』という言葉に妙な引っかかりを覚える。急に里恵の声色が別人のように感じた。
●何故開けてはいけないのか
「そういえば……何でかしら?」
彼女は不思議そうに首を傾げ、再び襖の方に視線を向ける。
その時だ。
◆不穏
彼女の瞳から光が消えた。
「開けちゃあ駄目なんです」
女性は生気の失せた顔で、襖に視線を向けたままそう言った。
「あそこは、絶対に開けないでください」
ぐるりとこちらに向き直ったその瞳は先程までの彼女とは思えないほど暗い。
まるで虚のようなその瞳に、足元から言い知れない感覚が絡み付くように這い上がってくる。
首筋が粟立つのを感じながらもソレから目を離すことができない。
ふ……と、女性が目を伏せる。
「私は、ここに住みます」
「ここに残らなきゃいけない気がするんです」
握られた手に爪が食い込み鮮血が滲み出るが、気にする様子もなく言葉を吐いていく。
肩を震わせ⸺⸺笑っているようにも見えた。
「せっかくこちらまで来ていただいたんだもの。皆さんもいかがですか?」
「一日二日と言わず一週間でも一年でも何年でも……ここで暮らしましょう?」
「そうすれば、皆喜んでくれます。寂しくなんかないでしょう」
ケタケタと笑いを溢す女性の唇は不気味に歪み、明らかに正気を失っているのが分かるだろう。
一頻り笑ったあと、彼女は人形のような笑みを貼り付けたまま再び襖を振り返り、口を開いた。
「ツキヨミサマが来るよ」
途端、部屋の空気が重くなる。
立ち上がろうとした者もいたかもしれない。
だが貼り付いたように身体が、足が動かせないのだ。
部屋の外から人の声のようなざわめきや足音が聞こえる。
この家には貴方達しかいない。
いない、筈だ。
ざわめきの中、一際目立つ音が響いた。
それは床の軋む音。
ナニかが、こちらへ向かって歩いてくる。
ゆっくりと、着実に、ソレは廊下を踏みしめこの部屋へと近付き……ピタリと止まった。
瞬間張り詰めていた身体の力が抜け、貴方達の手は、足は再び動き出す。
■廊下側の襖を開ける
意を決して廊下に繋がる襖を開ける。
しかし……そこには何もいなかった。
貴方達が歩いて来た時と同様のただの廊下が広がっているだけである。
気味の悪い現象に怖気が走る。
SANチェック(成功:1/失敗:1d4)
貴方達が気味悪さに腕を擦ったり辺りを確認していれば、ドサリと何かが倒れる音がした。
音の方を向けば、里恵が仰向けで倒れているではないか。
「叔母さん!」
大上が慌てて彼女に駆け寄る。
いくら声をかけても彼女の瞳は固く閉ざされたままだ。
<応急手当>または<医学>
失敗
どうやら気絶しているようだ。
成功
どうやら気絶しているようだ。命に別状はなさそうだがだいぶ衰弱している。
今すぐにでも病院で処置を受けた方が良いだろう。
「俺が叔母さんを病院に連れて行く。従姉妹からかかり付けの病院があるのは聞いてたから」
そう言って大上が里恵を抱え上げる。
あまりにも簡単に抱えられたその身体は見た目以上に軽かったのだろう。
大上が一瞬目を見張り、悔しそうに顔を歪める。
「病院に行っている間、この家のことを頼んでいいか?」
彼は申し訳なさそうに貴方達の方を見て、貴方達が了承すると安心したように笑みを溢す。
「家の間取り図は俺の鞄に入ってるから。あ、一応人ん家だし家のものは壊さないように気を付けてくれ……弁償とか、色々大変だし……。じゃあ行ってくる」
そう告げて大上は里恵を抱え足早に玄関から飛び出して行った。
救急車を呼ぶ場合は大上もしくはKPCが電話をかけ、救急車に同乗し家を出ていく形になります。
その場合住宅街での探索時に「救急車が来てたけど兼田さん何かあったの?」と近所の方々から質問攻めにあうかもしれません。
探索
残された貴方達はまず大上の鞄を漁り間取り図を取り出すだろう。
[ここで1Fと2Fの間取り図を出す]
<目星>または<幸運>
※この情報を取り逃した場合は大上が病院から戻って来たら出しましょう。
成功
間取り図と共に一枚のメモを見付ける。
どうやらこの街の郷土資料館の住所のようだ。住所と共に『10時〜15時』と走り書きしてある。おそらく開館時間なのだろう。
成功した場合更に
<アイデア>もしくは<オカルト>
成功
里恵が最後に呟いていた『ツキヨミサマが来るよ』とはどういう意味だろうか。
郷土資料館にツキヨミサマに関する資料があるかもしれないと思います。
《探索ルール》
午前・昼・夕方・夜の4ターンで探索が出来ます。
一日目は昼行動から。
基本1ターン1ヶ所の探索になりますが、家の中に関しては情報が少なかった場合同ターン内で更に探索が行えます。
《探索箇所》
兼田家 1F
和室1(庭)・和室2・ダイニング・書斎・浴室・物置
兼田家 2F
リビング・ベランダ・寝室・客間1・客間2・物置
外
住宅街・メモを発見した場合は郷土資料館を追加。
※外探索と和室1の庭に関しては夜になると人がいなくなる・暗すぎるなどで探索が出来なくなる。
郷土資料館は開館時間を考えると午前か午後にしか向かえないためその事も伝えておきましょう。
※人数的に厳しい、探索が間に合わなさそうな場合は夕方の時間に郷土資料館をねじ込んでも構いません。
各種イベント
◆猫の鳴き声
和室2の付近の廊下で強制的に発生するイベントです。
和室1から廊下に出た瞬間、和室1からダイニングに進んだ場合は和室2・物置・書斎に近付いた瞬間発生します。
貴方達が廊下に出る(廊下を進んでいる)と突然『ニャー』と猫の鳴き声が聞こえる。
<聞き耳><アイデア>
失敗
和室2の方から聞こえた気がする。
成功
和室2の方からはっきりと聞こえた。この家では猫を飼っていたのだろうか?
※このイベントの後すぐに和室2に向かわない場合は、再び和室2付近の廊下に出た所で同じイベントを挟みましょう。
<アイデア>を振らせて『呼ばれているような気がする』と伝えてしまっても良いでしょう。
◆かくれんぼ
家にいる際に1日目、2日目問わずランダムで起こるイベントです。
家でターンが経過する度、誰か一人に1d100を振ってもらいます。
30未満では何も起こりませんが、30以上の出目が出た場合描写があります。
貴方達が廊下を歩いていると、突然
「も〜い〜かい」
という子供の声が聞こえる。
辺りを見回してみても、この場に子供など勿論いる筈がない。
■3回この声を聞いた、もしくは「もういいよ」と返答した場合
ダイスを振った、もしくは返答した探索者の首元にヒヤリとした何かが触れる。
ソレは貴方の首を撫でるように滑りまとわり付く。
そして
「み〜つけた」
楽しそうな子供の声が耳元で聞こえ、まとわり付いていたソレが貴方の首を絞め上げる。
振り払おうとするならばソレは簡単に首から離れ、楽しげな笑い声のあと子供の声は聞こえなくなった。
SANチェック(成功:0/失敗:1)
※「ま~だだよ」と返した場合は上記のイベントを1ターン分遅らせて構いません。
◆大上帰宅
1日目の夜ターンが終わった後に大上が帰ってきます。
夕方のターンに『家に着くのは夜になりそうだ』などの連絡を入れておいても良い。
1日目の探索に大上もしくはKPCは参加できません。
「ごめん、遅くなった」
21時を回った頃、大上が家へと戻って来た。
「……叔母さんは、ひとまず入院することになったよ。酷く衰弱してて、あのままじゃ危なかったって」
「病院で一度目が覚めたんだけど、『家に帰らなきゃ』『皆と一緒にいなきゃ』って叫びながら暴れてさ……精神的にも普通じゃなくなってるみたいだった」
その時の様子を思い出しているのか大上の表情は暗い。
「とにかく、明日からは俺も手伝うから。任せきりにしてごめんな」
※探索の初めに振った<目星>もしくは<幸運>に失敗していた場合ここで大上が自分の鞄を開きメモを出します。
「そういえばこれ……この街にある郷土資料館の運営時間なんだけど。この街図書館っぽいのが無くてさ。家がおかしいなら土地とかに何かあったかもって思って、昔の事が調べられそうな場所をメモしてたんだ」
※以降1日目の夢ターンから大上もしくはKPCが加わります。
参加PCが少なく2日目に探索箇所が沢山残っている場合は、浴室・リビング・寝室・客間2・住宅街の探索を大上もしくはKPCに行わせましょう。
何とか情報を増やしてあげてください。
和室1・和室2・書斎・客間1・郷土資料館は大上もしくはKPC一人で探索してはいけません。
PCに任せるか必ず誰かと一緒に探索しましょう。
◆夜のお風呂
夜ターン後、風呂に入る宣言があった探索者・またはSAN値が高い探索者・ダイスを振って選んだ探索者に一人でお風呂に入ってもらいます。
「風呂沸かしといたから」と大上もしくはKPCが入浴を促しましょう。
貴方は大上が入れてくれた湯船にゆっくりと浸かり今日の疲れを癒やしていた。
もしかしたら内心一人で風呂に入るのも心細いかもしれない。
この家がおかしいことは貴方も感じている。
早く上がって寝てしまおう……そう思い風呂から出ようとした時だ。
突然、風呂場の電気が消えた。
つけていた筈の洗面所の電気も一緒に消えてしまったのだろうか。
暗くなった視界に目が慣れないままドアノブを探す。
すると、ペタリ…ペタリ…と湿った音が聞こえてきた。
足音だろうか?
得体の知れない何かが近付いてきている……貴方の背に悪寒が走るだろう。
徐々に暗闇に慣れてきた瞳は、曇ガラスの向こう、洗面所の方に何かがいる事に気付く。
それは風呂場のドアの前で止まり、ガチャガチャとドアノブを鳴らし始めた。
貴方が動けずにいればドアノブの音はピタリと止み、『う…う…う…』と唸るような、すすり泣くような声がドアの先から聞こえてくる。
……いや、本当にドアの先からだろうか。
慣れた目はそれを捉える。
曇ガラスの向こうには…………何も居ない。
「タスケテ」
その声は、明らかに貴方の真横から聞こえた。
SANチェック(成功:1/失敗:1d4)
貴方が驚き身を竦めれば、パチン……と風呂に明かりが戻る。
濡れたタイルの上に、貴方だけが立っていた。
◆夢
寝る前に情報共有のRPを行うなどしたあと、全員が寝静まってからのイベントです。
就寝に使う部屋は大上が勧めるなどして客間1・2になる状況を想定しています。
どの部屋で眠ってもこの夢を見せてください。
このような状況に陥りながらも、貴方達の身体は疲れからか眠りに落ちていた。
深い……深い眠りに落ちていく。
眠りの先、どこからか細波(さざなみ)の音とすすり泣く声が聞こえた。
「どうか……どうかこの子を助けてください」
声の先で女が泣いている。
声を辿り歩いて行けばふわりと視界が開け、貴方達は夜の神社に立っていた。
豪奢とは言えない小さな神社の本殿。
着物を着た美しい女が誰かを抱きしめ泣いている。
女が抱きしめていたのは、女のお下がりなのか赤い着物を着た、女によく似た顔立ちの子供だ。
子供の顔色は悪く薄く開いた瞳に生気はない。
貴方達の目から見ても、この子供の命は幾ばくも残されていないのが分かるだろう。
「私はどうなっても構いません。この子を……ミコトを助けてください」
女が声を張り上げる。
その視線の先、開かれた御扉(みとびら)の中には布に包まれた何かが仰々しく祀られていた。
目を凝らして見てみれば包まれていたのは赤子…………否。
赤子と見間違うほどのそれは、赤子のような形をした木の像だ。
しかし像というには彫りが甘く、それでいて艷やかな表面をしている。
「この子の病を治してください。この子を…死なせないでください」
女の悲痛な叫びが静かな闇に吸い込まれていく。
一陣の風が吹き雲間から光が注いだ。
どうやら満月が雲に隠れていたらしい。
女は子供を抱きしめ何事かを呟く。
それは貴方達には聞き慣れない言語のようで、実際にはただ言葉にならない呻き声だったのかもしれない。
刹那、月の光が女の元へ降り注ぐ。
女は呆然と天を仰ぎ、
「……ツキヨミサマ」
涙に濡れた声でそう呟いた。
<幸運>
失敗
強く何かに引き寄せられる感覚で、貴方の意識は薄らいでいくだろう。
成功
強く何かに引き寄せられる感覚で貴方の意識は薄らいでいく。
ぼやけた視界。
灰色の光の中、何かが降りてくる。
貴方が最後に見たのは辺りの景色が塵となり海へと消えていく光景だった。
◆深夜徘徊
夢の後に起こるイベントです。
就寝に使う部屋は客間1・2を想定していますが、万が一1階の部屋を使う宣言があれば1階で寝ていた探索者はリビングでの心霊現象は飛ばして構いません。
チリン……。
貴方達は鈴の音で目を覚ます。
辺りを見回しても鈴の音が鳴るような物は無い。
スマホや時計を確認すれば時刻は午前2時。
気のせいだったのだろうか……そう思い寝直そうと寝返りをうった時だ。
微かに、声がする。
声というよりは歌……だろうか?
どこからかは分からないが部屋の外から聞こえてくる。
■部屋から出る
貴方達は部屋を出て声の出処を探すだろう。
<聞き耳>
※失敗しても廊下を進んでいけば成功情報が出ます。
成功
それはリビングから聞こえてくるようだ。
恐る恐るリビングへと近付けば、徐々にはっきりとその歌を聞き取れるだろう。
童歌(わらべうた)だ。
リビングの中で誰かが童歌を歌っている。
そんな筈は無いと思いながらも貴方達がリビングへと繋がる扉を開ければ、
ザー……………
そこではただ、消した筈のテレビに映った砂嵐が鳴り響いているだけだった。
人の姿はどこにも無い。
SANチェック(成功:0/失敗:1)
■テレビを消す
テレビの電源を落とせばしん…と部屋が静まり返る。
外から聞こえてくる微かな波の音。
夢の中で聞いたようなそれが、鼓膜を、その更に奥を揺らして。
瞬間、ガタンーーという鈍い音と僅かな振動が貴方達の意識を宵闇に引き戻す。
音は1階からのようだ。
里恵が戻って来た?
しかし彼女は入院になった筈だ。
病院から抜け出して帰って来たとでも言うのか。
■1階へ降りる
慎重に階段を降りる。
階段がきしりと音を鳴らす度、鼓動が早くなっていくようだ。
貴方達が1階へと降りれば廊下の先……この家に着いた時に案内された和室への襖が開いているのが見えた。
■和室1へ
電気をつけようにも壁際にあるスイッチを押しても明かりがつく気配がない。
(スマホのライトも何故かチカチカと点滅しきえてしまう)
仕方なく薄暗い廊下を進み和室の前へとやってきた。
「叔母さん?帰って来たのか?」
辺りを警戒しながら大上が先陣を切って和室へと足を踏み入れる。
貴方達も後に続き和室に入れば、ぼんやりと月明かりに照らされた室内に人影は無く異変も感じられない。
「誰も……いない?」
大上がポツリと呟いた…………その時だ。
ギシリ……
床を踏みしめるような音が響く。
貴方達はすぐに察するだろう。
それは里恵が倒れる前に聞いたーー足音だ。
慌てて廊下を振り返るが、廊下には誰もいない。
誰もいない筈なのに、何かが、何かがこちらに向かって近付いてくる。
雲が月を隠したのか、月明かりに照らされていた部屋がふ……と暗くなった。
目を凝らして……一瞬の瞬きの間。
突如、音が止んだ。
いなくなったのか?いや、まだ近くにいるかもしれない……そう思うと無意識に身体に力が入る。
「………え?」
大上の声が聞こえた。
それは思わず出たというような、理解が追い付いていないというような、驚愕と戦慄の感情が含まれているようで。
大上はある一点を見つめたまま目を見開いて固まっている。
■襖を見る
貴方達が大上の視線の先を辿れば、そこにあったのは隣の和室とを繋ぐ襖だ。
家主の彼女は絶対に開けてはならないと言っていた。
何かが引っかかっていて開かないのだ、とも。
その襖が、僅かに開いている。
※もし1日目の午後〜夜のターンですでに襖を破壊していた場合でも、これは夢の延長なので襖は元に戻っている。
<アイデア>
※すでに襖を破壊し地下を見ていた場合はアイデアを振らずに成功情報を出す。
成功
足音はてっきり廊下から聞こえるものだと思っていた。
貴方は気付くだろう。
“足音は、襖の向こうから響いていたのだと”
僅かに開かれたその隙間から、月明かりとは違う光が漏れている。
仄暗い灰色の光から、その襖から、貴方達は目を逸らすことができない。
静かに音を立て……襖が開いていく。
そこから顔を覗かせたのは、異型の顔だった。
SANチェック(成功:1d3/失敗:1d10)
※すでに地下でツキヨミサマの御神体を見ていた場合は慣れ判定で
SANチェック(成功:1/失敗:1d6)
※ここで発狂した場合
その異型に恐怖を抱くものの何故か愛しさと尊さを覚える。
ここで皆と一緒に暮らしたい……そんな思いに駆られるだろう。
■朝
ハッと貴方達は目を覚ます。
窓からは陽の光が射し込み、鳥の鳴き声が朝を告げるだろう。
身体は布団の上。
寝る前と変わらない状態で横になっていた。
どこまでが夢で現実だったのか、それとも全てが夢だったのか。
貴方達はぼんやりとした頭で、しかしはっきりと覚えている記憶を抱え起き上がるだろう。
※ここでSAN値の不定をリセットしてください。
夢の中で発狂していた探索者は朝の時点で発狂は解除されていますが、『ここで皆と暮らしたい』という感情に支配されたことは鮮明に覚えています。
◆司郎が兼田家に来た際
※一日目に司郎と遭遇しており、二日目の朝に司郎が兼田家を訪れた場合
兼田家に来てから二日目の朝。
今日はどこを調べようか……そんな話をしている時、
――ピンポン
とチャイムが鳴る。
貴方達が玄関を開ければそこには司郎が立っていた。
しかしその視線は忙しなく辺りへと移動し、ドアを開けた貴方の後ろ――家の中を見た瞬間表情を曇らせる。
どうかしたのかなど尋ねれば
「家に入るまでは何も感じなかったのに、玄関を踏んだ途端……誰かに見られている気がしたんだ。それも複数」
「この家からツキヨミサマの気配がする。おそらく、この視線の主達はツキヨミサマの被害者なんだと思う。俺がもっと早く気付けていれば……」
そう言って彼は家の中に向かい二度頭を下げてから静かに二度両の手を合わせる。
再び頭を下げたあと、「お邪魔します」と脱いだ両の靴を丁寧に揃え、床に足を降ろした。
※夜に夢を見ていたため<アイデア>
成功
彼の顔に見覚えがある。夢で見た、子供を抱きしめ泣いていたあの女性にどことなく似ているのだ。
※二日目に司郎と共に兼田家に戻って来た場合
貴方達は司郎を連れ兼田家に戻って来た。
初めてこの家に足を踏み入れた時のような視線は感じない。
玄関を開け、中に入る。
貴方達の後ろに続いて司郎も玄関ポーチに足を踏み入れるが、瞬間何かに気付いたかのように顔を上げた。
その視線は忙しなく辺りへと移動し、ドアを開けた貴方達の後ろ――家の中を見た瞬間表情を曇らせる。
どうかしたのかなど尋ねれば
「家に入るまでは何も感じなかったのに、玄関を踏んだ途端……誰かに見られている気がしたんだ。それも複数」
「この家からツキヨミサマの気配がする。おそらく、この視線の主達はツキヨミサマの被害者なんだと思う。俺がもっと早く気付けていれば……」
そう言って彼は家の中に向かい二度頭を下げてから静かに二度両の手を合わせる。
再び頭を下げたあと、「お邪魔します」と脱いだ両の靴を丁寧に揃え、床に足を降ろした。
■家の中へ
中に入れば司郎は廊下、階段、天井と視線を巡らせきつく目を閉じる。
「一体何人が犠牲に……」
そんな呟きが聞こえた。
●ツキヨミサマの場所は分かるかなどの質問
「確かにツキヨミサマの気配はするんだけど……この家全体から気配がするというか……。ごめん。はっきりした場所はまだ分からない」
「足元から絡み付くような、足首を掴まれるような感覚はあるんだ。ツキヨミサマは……この家に来た人間を逃がしたくないんだと思う」
「色んな部屋を見て回ったら何か分かるかもしれない」
※この時点で時間が二日目の夕方だった場合
「君達はこの家を見て回ってたんだよね?何か引っかかるというか、気になる場所は無かった?」
と質問をしながら和室1の襖に誘導しましょう。
PLが思いつかない場合は<アイデア>を振らせて襖の存在を思い出させてください。
●和室1の探索が済んでおらずPLが和室1の襖に違和感を持っていない場合
少し廊下を進んだ辺りで司郎が何かに気付いたように床に触れ、正面を見据える。
「こっちの方から、微かにだけどツキヨミサマの気配がする」
そのまま司郎は廊下を進み、貴方達がこの家で一番最初に通された和室へと繋がる襖を開けた。
兼田家1F探索
探索開始場所は里恵が倒れた和室1からになります。
和室1からそのまま探索しても良し、移動するも良しです。
しかし和室1からダイニングではなく廊下に出た場合は、廊下に出た探索者に【イベント●猫の鳴き声】を発生させてください。
◆和室1
広い和室だ。
来客の際に通すための部屋でもあるのか大きな木のテーブルと座布団が並べられている。
ぐるりと見回せば押入れと隣の部屋へと続く襖、同じく隣のダイニングへと繋がっている扉があった。
大きな窓からは縁側と庭が見え、ここから庭に出ることもできるだろう。
《探索箇所》
押入れ・襖・庭
■押入れ
広めの押入れだ。
開けてみれば中には来客用の布団や座布団がしまってある。
<目星>
成功
布団に隠れて見づらいが、鉛筆で何かを書き殴った跡がある。
拙い文字で『ひみつ基地』と書いてあるようだ。
子供の字のように見えるが兼田家には幼い子供はいなかった筈だ。
兼田夫妻が越してくる前に住んでいた住人が書いたのだろうか。
■襖
里恵が最後に見ていた襖だ。
何かが引っかかってているのか開かない襖。
開けては駄目だと言われた襖。
※司郎が同行している場合
「この襖の近くまでツキヨミサマが来たのか?襖の先……何と言うか、足元から這い上がってくるような、そんな気配がするんだ」
という発言が得られる。
●襖を調べる
貴方達が襖に手をかけるならば、襖はびくともしない。
里恵の言っていた通り何かが引っかかっているのか動く気配がない。
<アイデア>
失敗
壊すしかないのだろうか。
成功
数人がかりでならこじ開けられるかもしれない。
しかし襖は壊れてしまうだろう。
大上からは『家のものは壊さないように』と言われていた……襖を壊すのだとしても大上が戻って来たあと確認を取ってからでも良いだろう。
それでも襖を壊すという宣言があった場合は【秘密通路 ◆和室1】の描写へ。
●『欄間はあるか?』という質問が出た場合
探索者が知識として欄間を知っているのであれば『欄間はありません』と答えて構いません。
もしPL知識としてのみであり、探索者が欄間の存在を知っているか分からないのであれば<知識>もしくは<アイデア>を振ってもらい、成功で『欄間がない』ことを伝えてください。
■庭
塀で仕切られた広い庭だ。
家庭菜園をするには十分すぎるほどのスペースがある。
<目星>もしくは<アイデア>
成功
家庭菜園がしたいと言っていたわりには随分と庭が荒れ果てているように見える。
雑草は伸びきり植木鉢の花も枯れているようだ。
更に<目星>もしくは<アイデア>
成功
花壇の一画にだけ花が咲いている。
<知識>
成功
おそらく勿忘草だろう。
他の植物は手入れがされていなさそうに見えるが、何故この花だけがここに咲いているのか。
<アイデア>
※リアルアイデアで気付いた場合も成功情報を出して構いません。
成功
もしかしたら土の下に何か埋まっているのでは?と思うだろう。
掘り返してみる場合は近くに園芸用のスコップが落ちている。
花の周りの土を掘り返してみる。
少し掘った所で何かがスコップに触れる感覚がした。
丁寧に土を避けていけばそこにあったのは可愛らしいデザインの、しかしだいぶ錆びてしまった四角いクッキー缶だ。
●中を見る
中を見ようと蓋を開ける。
瞬間ぶわりと何かが辺りに舞った。
中に入っていたのは、細かい砂のようなものと1枚のカードだ。
<アイデア>
成功
砂のようなものは塵だと気付くだろう。
●カードを見る
カードには歪んだ字でこう書かれていた。
『文枝』
人の名前だろうか。
※住宅街で聞き込みを行っていた場合は<アイデア>
成功
文枝……確か近所の主婦に聞いた、以前この家に住んでいていなくなってしまったという女性の名前と同じだと思うだろう。
◆和室2
※和室2に入る前にイベント【◆猫の鳴き声】を必ず挟んでください。
※『PCもしくはNPC・KPCの自殺表現(文章)』が地雷の方がいる場合はこちらのイベントを飛ばす、もしくは別のホラー表現に変更するなどを行ってください。(例:風も無いのに電気紐が揺れていた)
猫の鳴き声を不審に思いながらも貴方達は和室への襖を開く。
薄暗く閉塞感のある和室。
その中央で、何かが、揺れている。
天井からロープのような物でぶら下げられたそれはゆらゆらと不規則に揺れ、その頭が、顔が、こちらを向いた。
それは、○○だ。(※KPCを含む探索者の中からシークレットダイス、もしくは一番こんなことをしなさそうなSAN値が高い人を選びましょう)
苦悶の表情を浮かべ、○○が貴方達を恨めしそうに睨んでいる。
SANチェック(成功:1/失敗:1d5)
※ここで発狂した場合
ありえない、恐ろしい光景だというのに何故か目の前のそれから目が離せず、愛しさすら覚える。
目の前の彼(彼女)と、皆と、ここで一緒に暮らしたい……そんな思いに駆られるだろう。
こんなことはありえない。
だって○○は貴方達と一緒に……驚愕と恐怖で足がすくむ。
しかし、一瞬の瞬きの間にその姿は消えていた。
そこは、ただの和室だ。
■和室2
隣の和室より狭く感じる和室だ。
中に入ってすぐ右側に隣へ繋がる襖がある。
部屋の中央では電灯の紐がゆらゆらと揺れていた。
《探索箇所》
飾り棚・地袋・襖
■飾り棚
床脇(とこわき)に設置されたごく普通の飾り棚だ。
しかしあまり物は飾られておらず殺風景な印象がある。
<目星>
成功
全体的に塵や埃が溜まっている。
だいぶ手付かずの状態だったのではないだろうか。
■地袋(じぶくろ)
床脇の床面に設置された袋戸棚だ。
戸は襖になっており開けることができそうだ。
<聞き耳>
成功
中から何かを引っ搔くような音が聞こえる。
そういえばこの部屋に入る前に中から猫の鳴き声がした。
もしかしたら隠れているのだろうか。
●開ける場合
貴方が襖を開けると何かが貴方の手に飛び掛かって来る。
それは、人の手だ。
体温を感じさせないひやりとした青白い手が、貴方の腕首を掴む。
SANチェック(成功:1/失敗:1d2)
慌てて振り払えば手は素早い動きで地袋の中へと戻っていく。
地袋の中を覗いても、一切の物がない暗い空間が広がっているだけだった。
更に地袋の中を確認するという宣言があった場合は<目星1/2>
目を凝らして地袋の中を調べれば、壁に大量の引っ掻き痕があることに気が付く。
猫の引っ掻き傷ではない。
もっと大型の何かが力強く爪を立てたのだろう。
赤黒い線が壁中に何本も何本も引かれていた。
SANチェック(成功:0/失敗:1)
■襖
隣の和室と繋がる襖だ。
何かが引っかかってているのか開かない襖。
●『欄間はあるか?』という質問が出た場合
探索者が知識として欄間を知っているのであれば『欄間はありません』と答えて構いません。
もしPL知識としてのみであり、探索者が欄間の存在を知っているか分からないのであれば<知識>もしくは<アイデア>を振ってもらい、成功で『欄間がない』ことを伝えてください。
●開けようと試みるのであれば<アイデア>
成功
引っかかっている……というより接着剤か何かで完全にくっ付けられているのではと思うだろう。
しゃがんでよく見てみれば敷居に透明な何かが敷き詰められてるようだ。
襖はびくともしない。
※和室1、和室2両方から襖を動かすなどの提案があった場合
<アイデア>
成功
和室1の襖は微かにだが動くようだ。
しかし、和室2の襖は僅かにも動く気配がない。
●和室2、客室1の両方に入った探索者のみ<アイデア>
成功
二階の客室とこの和室は間取り図を見たところ同じ広さがあるはずだ。
しかしこの和室の方が二階の客室より閉塞感を感じるのは何故だろうか。
●更に<アイデア> (リアルアイデアでも良し)
間取り図を重ねて見るならば客室のドアの位置に和室も中に入るための襖があって良いのではないだろうか。
二階のドアの部分を避けるように和室の入り口が作られている。
そういえば和室は中に入ってすぐ右側に襖があった筈だ。
和室を繋ぐ襖の間には空間があるのではないだろうか。
◆ダイニング
シンプルで綺麗に整頓されたカウンターキッチンとダイニングテーブルがある。
昼食として用意してくれたのだろうか。
茹でられる前のそうめんと冷蔵庫にはスイカが入っている。
泊まる間の食事は問題なさそうだ。
<目星>
テーブルに食べかけの食器が並んでいる。
里恵が先に昼食をとっていたのだろうか?
それにしては茶碗や箸が二組とまるで誰かと食事をしていたような様子だ。
◆書斎
中に入るとふわりと紙の香りがする。
大きな本棚に小ぶりな机と、長時間座っていても疲れなさそうなキャスター付きのデスクチェア、そして高い所の本を取るための踏み台くらいしか目立った物がないシンプルな書斎。
おそらく今は出張中の旦那の仕事部屋でもあるのだろう。
《探索箇所》
本棚・机
■本棚
本棚には専門書の他に沢山の小説や古書が並んでいる。
相当本を読むのが好きなようだ。
<図書館>
成功
小説はジャンルもバラバラだが、ミステリー小説やオカルト小説の類が幾分か多い気がする。
■机
仕事用の作業机だ。
机の上にはパソコンと筆記用具がある。
※パソコンは電源を入れてもパスワード画面が表示され中を見ることはできない。
<コンピューター><芸術(ハッキング)>などパソコンに強い者がいればパスワードを突破できるかもしれないが、これと言って情報は無く仲睦まじい家族写真のデータフォルダが出てくるだけだ。
検索履歴を調べるなら最後の検索履歴は『目の疲れ 腰痛 歳』である。
<目星>もしくは引き出しを開ける宣言があった場合
成功
引き出しの中に仕事関係の書類の他、一冊の本とデジタルカメラが入っている。
本には栞が挟まっているようだ。
■デジタルカメラ
少し古いタイプの小さなデジタルカメラだ。
充電が切れており電源が入らない。
一緒に入っていた充電器を挿せばしばらくすると電源が入る。
中には里恵と里恵にどことなく似た若い女性の姿が多く収まっており、数枚だけ里恵に腕を引かれるようにして困ったように笑う長身の男性が写っていた。
仲睦まじい家族だったのだろう。
■本
民俗学関係の本だ。
タイトルは『土地と信仰』。
著者名は健速八男と書いてある。
<知識1/2><人類学><オカルト>
※民俗学を専攻している学生や土着信仰に詳しい探索者の場合<知識>はそのままの数値で良い。
成功
健速八男とは土着信仰を研究している民俗学教授の名前だ。
もし大学で民俗学を学んでいたり、土着信仰に興味があり調べていた探索者であれば顔写真や著作、レポートなどを見たことがあるかもしれない。
更に<知識1/2><オカルト>
成功
本も複数出している著名な教授であったが、彼は土着信仰の研究中に一家全員が突然行方不明になってしまったことで『土地神に攫われた』『何らかの事件に巻き込まれて夜逃げした』などオカルト好きの間でも憶測が飛び交っている。
●ネットで健速八男について調べる
<図書館><コンピューター>
※前述の<知識1/2><オカルト>に失敗したうえで<図書館><コンピューター>に成功した場合はそちらの成功情報も公開する。
成功
健速八男を調べれば簡易的な生い立ちと古い顔写真の画像、彼が書いた本のタイトル、オカルト掲示板がヒットする。
【健速八男(たけはや はつお)】
××大学に勤める民俗学教授。各地の土着信仰を研究しており著作も多く残している。
日本各地に伝わる神々と怪異、土地と信仰、岬村などが有名。
19XX年:土着信仰の研究中に行方を断つ。
【オカルト掲示板】
一年前に立てられたスレッドの一部に健速に関する話題がある。
456:名無し 20XX/06/21 01:12 ID:XXXXXXXXXX
そういえば健速八男って知ってる?昔土地の信仰を調べて各地を回ってたっていう教授。
457:名無し 20XX/06/21 01:29 ID:XXXXXXXXXX
大学でちょっとかじった。オカルト好きでは有名らしいね。
458:名無し 20XX/06/21 01:32 ID:XXXXXXXXXX
知らん
459:名無し 20XX/06/21 01:34 ID:XXXXXXXXXX
色んな土地の神とか妖怪とか伝承調べて回ってたらしいんだけど研究中に一家全員行方不明になったって。事件か祟りか神隠しかってたまに話題になる。
460:名無し 20XX/06/21 01:42 ID:XXXXXXXXXX
>>459
調べてきたわ。結局見付かってないのか。興味深いな
461:名無し 20XX/06/21 01:47 ID:XXXXXXXXXX
建速八男の話と聞いて。定期的に話題になるよな。借金を苦に夜逃げだの一家心中だのって話もあったが建速は金持ちだったみたいだしオレは神隠しに1票。
462:名無し 20XX/06/21 01:55 ID:XXXXXXXXXX
建速が最後に調べてたのが神隠しについてだったらしいな。実際はどうか分からんが踏み込んじゃいけない領域に人間が踏み込んで神に連れていかれたのかもな。
463:名無し 20XX/06/21 01:58 ID:XXXXXXXXXX
やっぱり人間が迂闊に神聖な場所に近寄ったり調べたりするもんじゃないな。だがそれが面白い。
464:名無し 20XX/06/21 02:00 ID:XXXXXXXXXX
ナヌカが丑三つ時をお知らせします。
●栞が挟まっているページを見る
栞が挟んであったページを捲ってみるが、右は文章、左は挿絵になっているようだ。
右のページに特に気になるような記載はない。
挿絵は流木が打ち上げられている浜辺と海のイラストのようだ。
※更に本を読み込みたい場合
民俗学専攻学生やこういった土着信仰に興味がある探索者は<図書館>、その他は<図書館1/2>
に成功でこのターンで読み切ることができる。失敗した場合は更に1ターンを消費する。
今後の探索に絶対に必要な情報というわけではないことをやんわり伝えても良いでしょう。
成功
貴方は時間をかけて本を読み込む。
文の書き方に癖がありいささか難解ではあったが、内容自体は面白く読み切ることができた。
気になったのは海辺に関する信仰のページだろうか。
今こうして海沿いの街にいるからこそ特に引っかかったのかもしれない。
内容はこうだ。
【御霊(ごりょう)信仰】
御霊信仰とは天災や疫病を怨霊の祟りとし、それを鎮め御霊とすることで祟りを免れ繁栄をもたらすという信仰である。
・七人ミサキ
四国や中国地方に伝わる亡霊である。
ミサキとは非業の死を遂げこの世に未練や恨みを残した霊魂を指し、その霊魂は己の執念を現すために様々な行動で人々の注意を引こうとする。
ミサキには岬、神の使い、犬神などの意味もあるようだ。
ここで取り上げる七人ミサキは名の通り七人組で海や川辺に現れる亡霊の集団、祟り神だ。
七人ミサキに遭遇し取り殺されたものは新たな七人ミサキの一員となり、七人のうち一番古いミサキが成仏する。
伝承の元は武士や海に捨てられた女遍路、山伏や漁師、僧侶など土地により異なるが七人組であることは共通している。
七人ミサキに遭遇すると高熱に見舞われ死亡すると言われているが、これらの呪いも伝承によって異なりをみせる。
海沿いでは塚や祠を建て七人ミサキを祀っている地がいくつか見られるが、ミサキを漁の神として祀っている地もあるようだ。
特に四国には七人組の怪異が散見されるため詳細は後述する。
…
【えびす信仰】
えびすと聞けば七福神の一柱である福の神の名前を思い浮かべるであろう。
えびす信仰とは七福神の恵比寿を信仰するものから、外来の神いわゆる蕃神(ばんしん)を信仰するもの、鯨や鮫などの勇魚(いさな)が出現すると豊漁をもたらすという伝承もありこれらをえびすと呼び漁業神として祀る信仰である。
鯨だけではなく海から流れ着いた漂着物もえびすと呼ぶ地域も存在する。
その昔、海の向こうには神の国があると信じられていたため海から流れてきたものは神の国から流れてきたものだという考えがあった。
えびすは蛭子・夷とも書き異邦の神を指す言葉でもある。
…
おまけ
鮫はジンベイザメのことで地方によってはエビスザメとも呼ばれている。
※【えびす信仰】の項目は海野家で司郎と会話をする際に得る情報よりも若干詳しいものになります。
■ノックの音
貴方達が書斎を調べていると、コンコン……とノックの音が聞こえる。
<聞き耳>
失敗
ドアを開けても誰もいない。
ならばどこから……と貴方達は部屋を見回すだろう。
更に<目星>もしくは<幸運>成功で成功の描写をする。
成功
ノックの音はドアでは無く天井から聞こえてきた気がする。
天井に<目星>もしくは<幸運>
成功
天井の一角が他の天井の木目とズレている。
目を凝らして良く見るのならば薄っすらと線が入っているのが分かるだろう。
もしかしたら天井板を外せるかもしれない。
貴方達は踏み台を使い天井に手を当てる。
軽く押し上げれば簡単に板が持ち上がった。
どうやら20cm四方ほどの隠しスペースがあるようだ。
■中に手を入れる
頭を入れるには狭すぎるため、スマホのライトなどで照らしてみるも手を入れてみなければ中に何があるのかは分からないだろう。
恐る恐る狭い空間に手を差し入れる。
少しさ迷わせたあと、指先に何か固いものが当たる感触がした。
掴んで取り出してみればそれは一冊の手帳。
表紙は黒ずみ塵にまみれており、中の紙も変色し傷んでいる。
年季の入ったそれは相当長い間ここに放置されていたのかもしれない。
■手帳
手帳を開いて見れば中身は劣化し、紙同士が所々張り付いてしまっている。
前半部分は劣化が酷く日ごとの予定らしき文字は掠れて読めない。
辛うじて読める走り書きは以下の通りだ。
【誰かの手帳】
・ここは海が綺麗で良い村だ。私の我儘を聞いてくれた妻と娘達には感謝しかない。この静かな土地で私は生涯を終えたいと思う。
・家を建てた。大工に無茶を言ってワイン蔵も作ってもらったがとても気に入っている。
・この土地に長く住む老人から面白い話を聞いた。どうやらこの地にはツキヨミサマ信仰というものがあるらしい。月読命とはまた違うそうだが、長生きのできる湧き水とは、今の私にとって興味をそそられる。
・ツキヨミサマを見た。
・もっと長く妻と娘達と暮らしたい。生きたい。私は生きたい。
・妻と娘達もツキヨミサマが気に入ったらしい。毎日が幸せだ。この時間が永遠に続けば良いのに。
・妻と娘達が 消えた
・違う私はただ家族と暮らしたくてこれは違うこんなことは望んでツキヨミサマ
・娘達が仲良く遊んでいる。
・全財産を友人に譲り、この家を封鎖してもらうことにした。もう誰もここに立ち入らせてはならない。
・妻が呼んでいる。大丈夫。どこにも行かないよ。私はいつまでもお前達と一緒に
手帳を読み終えたところで貴方達の背後から男の声がする。
●振り返る
振り返ればそこには50代ぐらいの瘦せこけた男性が立っており、男性は何事かをぼそぼそと呟いて一筋の涙を零し姿を消した。
SANチェック(成功:0/失敗:1)
<目星><アイデア>
成功
男性は手帳に視線を向けていた気がする。
この手帳を誰かに見付けてほしかったのだろうか。
※達速の顔を知っている探索者がいれば<アイデア>
成功で先程の男と達速の顔が似ていることに気付く。
◆浴室
洗面所から浴室に繋がっている。
お洒落な雰囲気の浴室だ。
特におかしな様子はない。
◆物置
掃除道具や工具、予備のトイレットペーパーやティッシュなどがしまわれている。
一般家庭にありそうなものなら探せばありそうだ。
兼田家2F探索
◆リビング
広々としたリビングだ。
大型のテレビとゆったりくつろげそうなソファー。
大きな窓からはベランダにでれるのだろう。
<目星>
成功
棚に卓上のカレンダーが置いてある。
二ヶ月前からめくられていないようだ。
<幸運>もしくはテレビをつける発言があった場合は成功情報を出す。
テレビをつければちょうど天気予報が流れていた。
どうやら明日は満月らしい。
※2日目の場合は今日が満月になります。
女性アナウンサーが「晴れると良いですね~」と笑顔で気象予報士の男性や番組マスコットと談笑している。
◆ベランダ
窓を開けてベランダに出てみれば、絶景とも呼べるオーシャンビューが眼前に広がった。
確かにこんな景色を見ればこの家に住みたくもなるかもしれない。
そういえば……引っ越したということはここは以前誰かの持ち家だったのだろうか。
◆寝室
夫婦の寝室のようだ。
ダブルベッドの上には寝間着が乱雑に脱ぎ捨てられている。
クローゼットを開いてみれば女性物の服と男性物の服、そして女性用の着物と何故か子供服が数着しまわれている。
<目星>
成功
娘が着ていた服にしては子供服は新しすぎるのではないだろうか。
それに子供服のサイズを見るに年代もバラバラ、女児以外に男児の服もあるようだ。
逆に着物は随分と年代物に見える。
子供服は家に居る子供の霊たちに影響され、里恵が無意識で買っていた。
着物は夢で見た女(司郎の母)が来ていた着物に似ている。こちらも同じく無意識に惹かれて似た着物を買ってしまった。
※司郎が探索に同行している場合
クローゼットの中を司郎にも見せるのであれば、更に<目星>
成功
着物を目にした瞬間、司郎が驚いたように目を見開いたことに気付く。
しかし「どうかしたか?」「その着物が何か?」など尋ねても、「ごめん、なんでもないよ」とはぐらかされてしまうだろう。
先程の<目星>に成功していた・成功情報を共有されていた探索者のみ、寝室を後にする際に
<聞き耳1/3>
失敗
司郎が何かを呟いていたような気がするがよく聞こえなかった。
(後から質問してもはぐらかされます)
成功
普通であれば聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、司郎が「母さん……」と呟いたのが分かった。
※この情報は<聞き耳1/3>に成功した探索者にのみ秘匿で伝えることをオススメします。
◆客間1
<回避>もしくは<幸運>
成功
ドアを開けた瞬間、何かが貴方に向かって勢いよく走って来る。
反射的に思わず避けてしまったが、その何かを視認することは出来なかった。
楽し気な子供の声と足音が廊下を駆けていく音が聞こえたが、この家に子供などいただろうか?
失敗した探索者全員
ドアを開けた瞬間、何かが貴方に向かって勢いよく走って来る。
避けきれなかった貴方はぶつかる……!と身構えるだろう。
しかしそれは貴方の身体を通り抜け、そのまま廊下へと走っていく。
楽し気な子供の笑い声と足音が廊下を駆けていった。
SANチェック(成功:1/失敗:1d2)
※<回避>もしくは<幸運>で全員成功、クリティカル、もしくはファンブルを出した場合
ファンブルはビックリして尻もちをついてしまう。
クリティカルは上手く避けることができた。
その上で下記の<聞き耳>情報を技能を振らず入手できる。
今のは一体……貴方達は廊下の方を見るかもしれない。
しかし子供の姿などあるはずもなかった。
中は広々とした作りの部屋だ。
自分達が来ると聞いて掃除をしてくれたのだろうか。
綺麗に整えられた大きめのベッドは寝心地が良さそうだ。
<聞き耳>
部屋の中に入った時(ファンブルであれば尻もちをついた時、クリティカルであれば避けた際に踏みしめる)に何かが反響するような音がした。
貴方達がフローリングを注視しても特段変わりはない。
一体何の音だったのだろうか。
下に隠し空間があるため大きな音を立てると下から反響するように聞こえる。
もし同じタイミングで和室1・2を探索している探索者がいるならばそちらにも音は聞こえていてよいだろう。
●和室2、客室1の両方に入った探索者のみ<アイデア>
成功
この客室の下にある和室は間取り図を見たところ同じ広さがあるはずだ。
しかし一階の和室の方がこの客室より閉塞感を感じたのは何故だろうか。
●更に<アイデア> (リアルアイデアでも良い)
間取り図を重ねて見るならば客室のドアの位置に和室も中に入るための襖があって良いのではないだろうか。
二階のドアの部分を避けるように和室の入り口が作られている。
そういえば和室は中に入ってすぐ右側に襖があった筈だ。
和室を繋ぐ襖の間には空間があるのではないだろうか。
◆客間2
隣の客室より少し狭いが綺麗な部屋だ。
自分達が来ると聞いて掃除をしてくれたのだろうか。
綺麗に整えられた大きめのベッドは寝心地が良さそうだ。
◆物置
掃除道具や替えのシーツや毛布などがしまわれている。
一般家庭にありそうなものなら探せばありそうだ。
外探索
◆外に出る
貴方達は玄関を開けて外に出る。
瞬間、ぎょろり……といくつもの視線が突き刺さる感覚。
<聞き耳>
失敗
その沢山の視線に交じり、背後から「逃さない……」と地を這うような不気味な声が聞こえる。
慌てて振り返るが誰もおらず、何者かに見張られているような心地悪さだけが残るだろう。
SANチェック(成功:0/失敗:1)
成功
その沢山の視線に交じり、背後から「イカナイデ……」と地を這うような不気味な声が聞こえる。
慌てて振り返るが誰もおらず、何とも言えない寂しさだけが残るだろう。
◆住宅街
<目星><聞き耳><幸運>
成功
近所の主婦達が道端で談笑している。
話しかければ彼女達は貴方達に訝しげな、しかし好奇の視線をよこすだろう。
※ここに司郎がいる場合
「あら~、貴方もしかして海野さんとこの息子さん?お父さんに似てイケメンねえ~」
と主婦達が少し色めき立ちます。
(実際は父ではなく数十年前に司郎本人を見ただけだが、不老不死だとは思ってもいないので司郎を息子だと思っている。これは郷土資料館の管理人も同様である)
■質問タイム
※PLが質問に困っている場合はKPがヒントを出したり誘導しましょう。
●兼田家のこと
「兼田さんのお宅?奥さんも旦那さんも良い人よ。あぁでも……二人共最近は見かけてないわね。奥さんの方は町内会の行事にも顔を出すような人だったけど」
「旦那さん海外出張でしょ?寂しくて落ち込んでるんじゃない?」
●兼田夫妻の前の住人
「あ~前のって言ったら、高野さんよね?」
「あ~、あの……」
と喋りたくてうずうずしているようだが流石に初対面の貴方に話して良いものか悩んでいるようだ。
<信用><説得><言いくるめ>その他RPや興味を引けそうな技能
余談:テストプレイではAPPロールに全員が成功し主婦達が陥落しました
成功
「高野さんね……中学生の息子さんが家出しちゃって、そのあとすぐ奥さんもいなくなっちゃったのよ」
「文枝さんだっけ?優しそうな人だったわよね」
「でも文枝さん、浮気して出て行ったって噂よ。学校や仕事で家族が出払ってる筈の時間に庭で文枝さんが誰かとよく話してたって。小さい子供の声も聞こえてたみたいでね、子持ちの男と逢引きしてたんじゃないかって近所では有名だったのよ」
「そのせいで息子さんも家出しちゃったのかしらね」
「さぁ……でも文枝さんがいなくなったっていうのに旦那さんは探し回ったりしなかったみたいよ。文枝さんが不倫してるのに気付いてたんじゃないかしら」
「人は見かけによらないわね。高野さん達は5年くらい住んでたけど……結局旦那さんも気を病んじゃったみたいで引っ越したのよ」
●更に前の住人
「それより前なら……誰だったかしら。木崎さんだっけ?」
「あ~木崎さんね。いたわそんな人。引っ越して来てから全然外にも出てこないしゴミ出しの時に挨拶するくらいだったわ」
「夫婦揃って無口だったじゃない?ほとんど家に籠りきりだったから何やってた人かも分かんないのよ」
「でもたまにお孫さんが遊びに来てたみたいで子供の声は聞こえたみたいよ」
「いつの間にか引っ越しちゃってたのよね」
●この家を建てた人
「そこまでは分からないわ」
「結構古い家らしいんだけどリフォームして売りに出されてたみたい」
●ツキヨミサマ、建速に関して
質問しても分からないと言われます。
ツキヨミサマについてしつこく聞くようなら
「もしかして勧誘?そういうのは間に合ってます」
と警戒されてしまうでしょう。
警戒された後に上記の質問をした場合は判定に-20%の補正が付きます。
●海野家について
「海野さんって言ったらこの辺じゃ有名な名家って感じよ」
「お家もおっきいのよね~。昔は神社の神主さん?だったみたいでかなり歴史のあるお宅みたい」
「今は神社も古くなってただ管理してるだけになっちゃったみたいだけどね」
「神社の名前ってなんて名前だったかしら?行くことも無いから分からないわ」
「でも海野さんって言ったらやっぱり美男美女揃いなのがねぇ。本当に羨ましいわぁ」
「娘さんもモデルみたいよね~」
とその後は世間話になってしまう。
◆郷土資料館
街の外れ、森の中にひっそり佇む資料館だ。
建物はだいぶ古く年季が入っているように見えるが庭は綺麗に手入れがされている。
木々の隙間から海原も眺めることができ、意外と穴場スポットなのかもしれないと感じるだろう。
<目星>もしくは<幸運>
成功
建物脇の樹の下に何かがあるのを見付ける。
近付いてみればそれは石造りの小さな祠だ。
所々ひび割れ随分と古いように見える。
※全員失敗した場合は、管理人から外に祠があることを聞いていれば帰りに見ることができます。
■資料館内
中に入ると多少エアコンが効いているのか涼しい風が心地良い。
室内も外観の通り何となく古臭い印象を受けるだろう。
ドアを開けてすぐ右側には管理人室だろうか。
こちらを伺えるような窓があり、窓の前にはテーブルが設置されていた。
テーブルには一冊のノートとボールペン。
そして『ご来場の際は名前をお書きください』と書かれた張り紙がある。
どうやらノートに自分達の名前を記入しなければならないらしい。
ノートを開けば随分と来館者は少なく、直近でも両手で数えられるほどしか名前がない。
<アイデア><幸運>もしくは画像を見てのリアルアイデア
成功
よく見てみればただでさえ少ない来館者の名前はほぼ同じ人物のようだ。
一週間置きにここを訪れている人間がいることに気付く。
■管理人の話
窓から管理人室を覗けば暇そうにお茶を啜りながら眼鏡を傾け新聞を読んでいる老人が一人。
彼は貴方達に気が付くと慌てて新聞をたたみ窓を開ける。
「いやぁ~申し訳ない。滅多に人が来ないもんだから気付かなかったよ。観光かい?」
老人はズレた分厚い眼鏡を直し人の良さそうな笑みを貴方達に向けるだろう。
●ここはどんな所
「この街の郷土資料や文化財なんかを紹介してる施設さ。といっても小さくて古いし、見応えはないかもしれんがね」
●横の祠
「あぁありゃここの土地神様を祀ってた時の祠さ。昔はもっと色んな所にあったがね、今じゃすっかり廃れちまってワシらぐらいのジジババでも覚えてる人間は少ないだろうよ」
●土地神様について・ツキヨミサマに聞き覚えはあるか
「なんだアンタら若いのに興味があるのかい?まぁ若い変わり者は他にもいるが……。ここの土地神様の名前がツキヨミサマってんだ。ってももう誰も覚えてねぇんじゃないかってくらいの神様だがね。祖父から聞いた話だが昔は神社も立派で長生きできる湧き水が流れてるなんて言われてたらしい。他所からも拝みに来る奴らもいてな、そのまま住み続けてるって人も中にはいたもんさ」
・資料館前の<目星>または<幸運>に全員が失敗していた場合
「この資料館の外にもまだツキヨミサマの祠が残ってるよ。昔はもっと色んな所にあったがね、廃れちまってからはだいぶ減ったさ。今じゃあれが何の祠か知ってる奴も少ないんじゃないかね」
と教えてくれます。
●神社について
「神社かい?御治泉(おちみず)神社って言ってねぇ、だいぶ廃れちまって今は人っ子一人寄り付かないがそこの海から山を道なりに登って行きゃあ着くだろう」
そう言って管理人は簡易的な地図を書いて手渡してくれます。
※ここで探索個所に御治泉(おちみず)神社が増えます。
●海野司郎について
「あぁ海野さんとこの坊主だよ。本家じゃないけどなぁ……飽きずに毎週ここに来ちゃ『何か新しく見つかったか』とか色々聞いてくるんだ」
「海野さんってのが代々御治泉神社を管理してる家さ。随分長いことこの街に住んでてな、昔は重鎮みてぇな扱いだったよ」
「司郎は分家の子供でな、男にしては別嬪さんだよ。まぁ本家の娘さんもかなりの別嬪さんだがね。海野家は別嬪さんしか生まれないんかねぇ。……そういやぁ司郎の親父もよくここに来てたっけなぁ。親子そろって顔も性格も似てるときた。血は争えんね」
【郷土資料館での情報】
・ツキヨミサマはこの街の土地神の名前
・ツキヨミサマ信仰は今では廃れている
・ツキヨミサマを祀っていた神社は御治泉(おちみず)神社
・御治泉神社を管理しているのは海野家
郷土資料館での情報は以上です。
管理人の手前貴方達はぐるりと館内の展示物を見て回り、資料館を後にするだろう。
※管理人に話を聞かずに展示物を見に行った場合
展示室の中はやはり建物同様古臭く、空調は効いているのだろうが少し埃っぽく薄暗い印象を受けるだろう。
中を見て回れば、合併前の村や町の名前などの歴史から、海沿いということもあり漁業に使われていた道具など昔の生活の記録が丁寧な説明付きで展示されている。
しかし貴方達がどれだけ探しても『ツキヨミサマ』という名前は見当たらないだろう。
<目星>もしくは<アイデア>
失敗
気になる情報はなさそうだ。管理人室があったが、管理人が居るのであれば何か他に話が聞けるかもしれないと思うだろう。
成功
数枚の写真に祠が写っているのを見付ける。
外で祠を発見している探索者は同じ祠だと気付いて良い。
何かを祀っていたのかと近くの資料を見てみると、この街の神社だろうか。モノクロではあるが鳥居とおそらく夏祭りの様子が写された写真を見付ける。
そこには『御治泉神社』と記載されており、どうやらこの街に古くからある神社のようだ。神社の名前にふりがなが無いため正しい読み方は分からない。
そういえば管理人室があったが、管理人が居るのであれば何か話が聞けるかもしれないと思うだろう。
◆御治泉神社
管理人から貰った地図を頼りに海沿いをしばらく歩き、目印だという地蔵がある曲がり角から山道に入る。
人が来なくなったわりには舗装されている道は歩きやすく、少し登った所に鳥居があった。
確かに昔は参拝客が多かったのかもしれない。
大きな社は柱に錆ができ苔むしている。
しかし誰かが手入れをしているのだろうか。
参道に落ち葉などはなく掃除がなされている。
木々に囲まれ周りには民家など一つもない。
合間から見える海がキラキラと輝いていて、まるでこの神社だけが街から切り離されているような、そんな錯覚に陥るだろう。
貴方達が神社を眺めていると
チリン……と、鈴の音が聞こえた。
辺りを見渡せば手水舎(ちょうずや)だったであろうところに人影を見付ける。
向こうもこちらに気が付いたようで、軽く首を傾げながら貴方達の方へ歩み寄ってきた。
「えっと……どちら様?」
声をかけてきたのは綺麗な顔立ちの青年だった。
青みがかった黒髪に整った綺麗な顔立ち。
Tシャツにジーンズというラフないで立ちで右腕につけたミサンガぐらいしか洒落っ気もないが、そんなシンプルな格好ですら存在感がある。
長いまつ毛が中性的な印象をもたらし、声を聞かなければ女性か男性か分からなかったかもしれない。
※1日目夜に夢を見ていた場合<アイデア>
成功
彼の顔に見覚えがある。夢で見た、子供を抱きしめ泣いていたあの女性にどことなく似ているのだ。
●名前を尋ねる・司郎さんですかと尋ねる
「えっと、俺の名前は海野司郎だけど……君達は観光?こんな所に来ても錆びれた神社があるだけだよ」
そう言って苦笑する。
※歳を聞かれたら「……18だけど…」と躊躇いがちに答えます。
●神社のこと・海野家のこと
「見ての通り今はもう廃れた神社だよ。昔は……沢山参拝客が来てたみたいだけど」
「海野家が代々この神社を管理してるんだ。海野家はこの街で一番歴史も長いしね」
●兼田家の霊現象の話をする
「それは、大変だね。神頼み……ってことかな。俺に何かできるわけじゃないし、神社もこんなんだけど……良かったら拝んでいって」
●ツキヨミサマの名前を出す
ツキヨミサマの名前を出した途端司郎の顔色が変わる。
「その名前をどこで!?」
血相を変え詰め寄る姿は切羽詰まった様子で、貴方達は少し怯んでしまうかもしれない。
●兼田家で聞いた、管理人から聞いた、調べているなど
ハッと気付いたように彼は後退り謝罪する。
「……驚かせてごめん。ここで話すのもなんだし、うちに来ない?詳しい話はそこでするよ」
そう言って「山を下りてすぐの所にうちがあるんだ」と貴方達を家に招くだろう。
◆海野家
司郎に案内されるまま貴方達は山のふもとにある民家へとやって来た。
歴史が長いだけあるのだろう、和風の大きな家だ。
「今、他の海野家の人は法事で出払ってていないんだ」
どうぞ、と促され中に入る。
広々とした玄関で靴を脱ぎ、立派な柱や高価そうな骨董品が飾ってある廊下を歩けば、高級旅館のような雰囲気に気圧されて少し落ち着かないかもしれない。
和室に通され座布団に腰を下ろす。
「お茶淹れてくるね」
そう言って司郎は一度下がり、人数分のお茶をお盆に乗せ戻って来た。
座布団に腰かけ、
「何から……話したら良いのか」
複雑そうな表情をしながら口を開いた。
■司郎との会話
「まず、君達の言うツキヨミサマはうちの神社の御神体の名前だ。夷(えびす)信仰って分かるかな?」
<知識1/2><歴史><オカルト>
成功
えびすとは七福神の一柱である神の名前でもある。
夷(えびす)信仰とは海から流れ着いた漂着物を敬い信仰することだ。
その昔、海の向こうには神の国があると信じられていたため海から流れてきたものは神の国から流れてきたものだという考えがあった。
※書斎で本を読破していた場合は、探索者が知っていると答えるだけでそのまま以下に続く。
「特に漁村で多い信仰かな。その夷信仰で生まれたのがツキヨミサマだよ。この街がまだ名もない漁村だった頃、満月の夜に流木が流れ着いた。その流木は胎児のような形をしていたから、村人達は神の国から蛭子命(ひるこのみこと)が流れてきたと言ってそれを御神体として崇めることにしたんだ」
<知識1/2><歴史><オカルト>
成功
蛭子命(ひるこのみこと)とは日本神話で伊耶那岐命(イザナキ)と伊耶那美命(イザナミ)の間に生まれた子供である。しかし蛭子命は不具の子として生まれために流されてしまった。
蛭子をえびすと読む所もあり、蛭子とえびすを同一として祀っている所もある。
また蛭子=日子(ひるこ)という考えもあり、蛭子を太陽神として考える説も存在している。
「偶然だとは思うけど御神体を崇めだしてから豊漁・豊作が続いてね、そのおかげか長生きする人も増えた。御神体が満月の夜に流れてきたこともあって、村人達は蛭子命ではなく月読命(つくよみのみこと)にちなんで御神体に『ツキヨミサマ』と名付けたんだ。昔は小さな神社だと祀る神が変化していくこともあったから。神社も最初は月夜御(つきよみ)神社って名前だったんだよ」
<知識1/2><歴史><オカルト>
成功
月読命(つくよみのみこと)とは日本神話で夜を治める月の神とされている。弟神の須佐之男命(すさのおのみこと)と混同するような話もあり、謎の多い神だ。
月読を祀る神社はツクヨミではなくツキヨミと読むことが多い。
また月には不死信仰というものがあり、飲めば若返るという霊薬――変若水(ヲチミズ)を月読が持っているという話もある。
「村人は信仰熱心でね、数百年とその信仰を続けていたみたい。ツキヨミサマは豊漁・豊作・長寿・健康…そんな神として崇められ続けた。でもある時、神社の神主の娘……海野家の先祖が子供を産んだ。その子供は……生まれつき体が弱くて長くは生きられないだろうと言われていたけれど、母は諦められなかった。満月の夜、その子供の命が尽きる直前、彼女はツキヨミサマに祈った」
「そんな彼女の願いに引き寄せられて、偶然か気まぐれか……本物の神様が降りてきてしまったんだ。彼女はただ、子供の病を治してほしかったでけで、神様は彼女の願いを叶えるとまた天に帰っていったらしい」
「血色の良くなった子供を見て彼女は喜んだ。子供も……喜んだ。でも、そこまでだった。神様を呼んだことで、神社とその近くに家を構えていた海野家以外、全ての村民が塵になってしまっていたんだ。辺りには何も残ってはいなかった」
「更に不幸だったのは子供のことだよ。子供は健康になったんじゃない。歳もとらず、怪我をしてもすぐに治ってしまう。その身体は不老不死になっていたんだ。それに気付いた母は壊れてしまった」
「そんな大災害の中唯一残った神社と海野家。周囲の村にもその話が知れ渡り……災害を起こした神ではなく、災害から守ってくれた神として皮肉にもツキヨミサマ信仰は更に根強くなったんだ。子供の姿がいつまでも若いこともあって月夜御神社には変若水(ヲチミズ)が流れてる、なんて言われて。そのうち神社は月夜御神社じゃなく御治泉神社って呼ばれるようになった……話が長くてごめんね?」
●何故そんなに詳しいのか尋ねる
「……その不老不死になった子供……ミコトがまだこの海野の家にいるからだよ。ミコトは生き神としてずっと海野家に匿われてきた。海野の人間はミコトから昔の話を聞かされて育つんだ。祖先の罪を、忘れないように」
●司郎は海野家の人?など司郎について尋ねる
「俺は海野の血筋の人間だけど……今は居候の身なんだ。だからこうしてツキヨミサマを探してる」
●ミコトに会いたい
「……ごめん。それはちょっと…」
と濁されてしまいます。
●兼田家であったことを話す
「そんな被害が……」
貴方達から話を聞いた司郎は悔しそうに顔を歪めます。
心の底から申し訳ないというような、己のふがいなさを悔いているような、そんな悲痛に満ちた表情だ。
●ツキヨミサマはどこにいるのか
「……ツキヨミサマは、何十年も前に盗まれてしまったんだ」
「海野の人達も俺もずっと探してるんだけど見付からなくて。だから、新しい手掛かりが見付かるかもって毎週郷土資料館の方にも行ってるんだ。あそこの管理人さんお喋りだしね」
「だからもし君達がツキヨミサマに関係する何かと関りがあるのなら……俺も一緒に行動させてほしい」
そう言って彼は深く頭を下げる。
●ツキヨミサマを探してどうするのか
「責任を持って回収するよ。ツキヨミサマ自体は本物の神を降ろした時に媒介になっただけの流木だけど、媒介になった時にその力がツキヨミサマにも残ってしまったみたいなんだ。だから君達がツキヨミサマに触れるのは危ないし……」
※司郎だって危ないだろなど心配された場合
「俺は…………海野の人間だから。大丈夫だよ」
そう言って困ったように笑う。
※しつこいくらいで良いので探索者には「ツキヨミサマに触れてはいけない」ことを司郎の口から伝えましょう。万が一これを無視しツキヨミサマに触れたり奪おうとする場合はロスト一直線です。
<心理学>を振りたいなどあれば
失敗
神職に連なる人間であり神を招来したことのある人間の末裔であれば大丈夫ではないかと思う。
成功
神職に連なる人間であり神を招来したことのある人間の末裔であれば本当に大丈夫なのかもしれない。しかし司郎は何かを隠しているように思う。
※先程の心理学に成功し問い詰めた、回収してどうするのかと質問した場合
「……ミコトの……ミコトの願いを叶えたいんだ。ミコトは…ずっとずっと長い間死ねずに苦しんでいて……もう、終わりにしたい」
「本当は、信仰が廃れてきた数十年前……盗まれる前に終わらせるはずだったんだ。ツキヨミサマさえ盗まれなければ、こんな…何の罪もない人に被害が出るなんてことには…」
そう言って司郎は悔しそうに唇を噛みしめる。
■一緒に探そう
貴方達が了承すれば司郎は「ありがとう」と安堵の表情で再び頭を下げる。
※1日目の場合は2日目から司郎が合流する。
「今日はやることがあるから……申し訳ないけど向かうのは明日の朝でも良いかな?」と伝えましょう。
※2日目の場合はそのまま兼田家に司郎が付いてきます。この時点で昼ターンの場合、次の夕方のターンで家に入ってすぐ司郎が和室の襖に吸い寄せられるようにして向かいます。
襖を開けるようにしましょう。
※もし探索者が司郎を警戒して一緒に行動することを拒んだ場合
司郎は悲しそうにしながらも
「そう…だよね。会ったばかりの人間にこんなことを言われても困るよね……ごめん」
とすんなり引き下がります。
ただ「ツキヨミサマを見付けても絶対に触らないように」と念を押してください。
この場合司郎は探索に参加しませんが、
二日目に探索者が地下室の祠を開けてツキヨミサマを発見した上で司郎に協力を仰がずツキヨミサマに触れようとした 場合、司郎が地下室にやって来て祠の司郎イベントが発生します。
■連絡先を交換する
PLから発言がなければ大上もしくはKPCがスマホを出し連絡の交換を促しましょう。
一日目に海野家に来た場合は司郎から連絡先の交換を申し出て構いません。
探索者達が連絡先を交換してくれるのであれば、司郎は喜んでスマホを出す。
心の底から喜んでいるように見えるだろう。
<目星>
成功
チラリと見えた司郎のスマホの画面には貴方達のアドレスと、『ゆかり』という平仮名の名前のアドレスしか映っていない。
●ゆかりって誰?などゆかりについて質問する
「あぁ、ここの一人娘で今は一人暮らしをしながら大学に通ってるんだ。とても良い子だよ」
●ゆかりの顔が見たい
「えっと、一枚だけ、写真があるけど……」
と躊躇いがちにスマホで一枚の写真を見せてくれる。
そこには司郎と、司郎によく似た髪の長い美少女(APP18)が写っていた。
少女は司郎の腕に自身の腕を絡め、レンズに収まるように引き寄せ楽しげに笑っている。
「俺は写真とか得意じゃなくて、ゆかりがどうしても撮りたいって言うから……この一枚だけ」
そう言って彼は少し照れ臭そうに頬を掻いた。
※司郎はゆかりのことを妹……もはや孫のように可愛がっています。
恋愛感情があるのかと問われれば笑って否定します。
■友達だという発言があった場合
司郎は目を見開き、目を潤ませ貴方の手を握る。
「ありがとう!」
彼はとても嬉しそうに目を細めて笑った。
まるでずっと欲しかった物が手に入ったような、願いが叶ったかのような、そんな弾んだ笑みだ。
※
Q&Aにも記載してありますが、テストプレイでは『連絡先を交換したから友達!』と探索者が司郎を友達だと思っていても司郎に直接友達だと伝えないパターンが多く見られました。
司郎は探索者が友達だと伝えてくれるまで探索者のことを簡単に友達だと思ってはいけないと思っているので、探索者が司郎を友達だと思ってくれている場合はKPから『友達だと口にしましたか?』『口にしなければ伝わらないかもしれませんよ』などやんわりPLに伝えてあげてください。
■司郎がミコトではないかと尋ねる
そう問われれば、彼は一瞬動きを止める。
しかし再び困ったような笑顔を浮かべ「……違うよ」と曖昧に答えた。
<心理学>
失敗
嘘はついていないと思う。
成功
彼は嘘をついていると思う。
●更に問い詰める場合は<信用><説得>もしくは心を揺さぶるようなRP
失敗
やはり彼は困ったように笑って否定するだけだ。
成功
貴方の言葉に彼は口を結んで俯く。
何かを吐き出そうとして、必死に耐えているような……そんな姿に見えた。
「君達には……関係のないことだから」
ポツリと落ちた言葉は今にも泣きそうで。
●更に声をかける
「苦しいんだ。みんなみんな、いなくなる。俺だけ、おれはいつも見送るだけで。親もいない。友達もいない。作ったって、俺を怖がって離れてく。俺を、俺を置いて先にいく。もう嫌だ。あと何年、何百年こんなことを繰り返せばいい」
それは決壊したダムのように。
涙が、言葉が溢れて止まらない。
彼がどれほどの時間を、気の遠くなる時間を生きてきたのか。
何を見て、聞いて、感じて、独りで苦しんできたのか。
貴方達には分からない。分る筈もない。
貴方達の時間は……今しかないのだから。
嫌だ嫌だと子供のように嗚咽を漏らす彼は、永い年月を生きてきたとは思えないほど幼く、小さかった。
「……ごめん。会ったばかりなのに、こんな……」
「君達の言う通り……俺が、ミコトだよ。昔は男児は悪霊に狙われやすいっていう迷信があってさ、生まれつき身体も弱かったから……悪霊を勘違いさせるためでとかでミコトって名前で母のお下がりの着物を着せられてた」
「司郎は、俺の身体が不老不死になった時に改めて母が付けてくれたんだ。その時は……まさか不老不死になってるだなんて思ってなかったけど」
「お願いだ。ツキヨミサマを、俺にも探させて。俺ならツキヨミサマに触っても身体に異変は起こらない筈だし。お願い、します」
涙を拭い、貴方達に向き直ったその瞳は決意で揺れている。
貴方達が了承するのであれば、司郎は貴方達の手を握り頭を下げる。
◆外探索からの帰宅時
貴方達は兼田家へと戻り、玄関ポーチへ足を踏み入れた。ドアを開け中に入る。
<アイデア>
成功
この家に来た時や、家を出た時に感じた視線が無かったことに気付く。
成功した場合は更に<アイデア>
成功
不思議と、家を出る前よりもこの家に親しみを覚える。
そう言えば大上(KPC)もこの家に来た際視線に気付いていなかった。彼(KPCの性別によっては彼女)はチャイムも鳴らさず、まるで自分の家に帰ってきたかのようにドアを開けて……。
途端に、この家に親しみを覚えてしまったということが恐ろしくなる。
このままでは自分達もここに囚われて、この家の一部になってしまうのではないだろうか。そんな嫌な想像が脳裏を過る。
SANチェック(成功:0/失敗:1)
失敗
不思議と、家を出る前よりもこの家に親しみを覚える。
そう言えば大上(KPC)もこの家に来た際視線に気付いていなかった。彼(KPCの性別によっては彼女)はチャイムも鳴らさず、まるで自分の家に帰ってきたかのようにドアを開けて……。
『自分も、ここに住みたいな』
一瞬だがそんな考えが脳裏に浮かび恐ろしくなる。
このままでは自分達もここに囚われて、この家の一部になってしまうのではないだろうか。そんな嫌な想像がこびりついて離れない。
SANチェック(成功:1/失敗:1d3)
秘密通路
◆和室1
■襖を開ける
※襖を開ける場合は3人以上もしくは<STR20との対抗ロール>で開けることができる。
貴方達は襖を力ずくでこじ開けることにした。
<POW×5>
失敗
襖を開けようとした途端、指先からゾワリと冷たい何かが流れ込んでくる。
SANチェック(成功:1/失敗:1d3)
※ここで失敗した探索者は『このままこの家にいたい』という気持ちが強くなる。
このままこの家に皆と住んでいたい。……皆?皆って、誰だろう?
成功
襖を開けようとした途端、指先からゾワリと冷たい何かが流れ込んでくる。
しかしすんでの所で貴方は意識を保つことが出来るだろう。
音を立てて襖が開く。
そこにあったのは、一枚の板だ。
襖と襖の間は板で遮られていたようだ。
●板を調べる
触れてみれば分厚そうな木の板だということが分かる。
<アイデア>
※客間1と和室2を通してここに隠し通路があると気付いていた場合はそのまま成功情報を出します。
成功
板に触れ、軽く叩いてみればコン…コン…と反響するような音が響く。
もしかしたらこの二つの和室の間(※隠し通路に気付いている場合は、この板の裏)に空間があるのかもしれない。
●板を壊す
物置から壊せるものを探すという宣言があれば工具を見付けることができる。
力自慢がいればSTR×5に成功すれば板は壊れるだろう。
貴方達が板を壊し中を覗けば少しの廊下。
その先にはレンガの壁に囲まれた石作りの狭い階段があった。
レンガの壁にランプは掛かっているが、しばらく使われていなかったからだろう。
明かりはつきそうにない。
■地下へ進む
貴方達は暗い廊下を、階段をスマホなどの明かりを頼りに恐る恐る進んで行く。
夏とは思えないほどのひやりとした風が下から吹き上げ頬を撫でた。
階段を降りきると曲がり角になっており右側に空間があることに気付くだろう。
丁度庭の真下にあたる位置にレンガに囲まれた部屋があった。
その部屋の奥に何かがあるのが見える。
◆祠
ライトなどで照らして見れば、奥にあったのは小さな祠だ。
どうして家の地下に祠が?と貴方達は疑問に思うかもしれない。
普通ならありもしないような物が冷たい地下に静かに佇んでいる。
それはあまりにも違和感があり、不気味な光景だった。
<目星>
※失敗しても歩き回ったり祠に近付けば成功情報を出して構いません。
成功
足元に何かが散らばっている。
しゃがんでよく見てみれば、それは塵だ。
※庭で土を掘り返し塵を見ていた場合は同じような塵だと気付いて良い。
祠に近付けば塵の量は増えていき、祠の前にはいくつかの塵の山ができていた。
※書斎で健速の資料を読んだ・司郎からツキヨミサマの話を聞いていた場合のみ<アイデア>
成功
大小様々な塵の山だ。
もしかしたらこれは今までこの家で行方不明になった人々なのかもしれないと思うだろう。
このままここにいれば自分達もこうなってしまうのではないかと背筋が凍る。
SANチェック(成功:1/失敗:1d3)
※司郎がこの場にいる場合、彼は塵の山に向かって二度頭を下げてから静かに二度両の手を合わせ、再び頭を下げるだろう。
■祠を開ける
塵の山を避けながら祠の扉に手をかけ、意を決して祠を開ける。
そこには、布に包まれた赤子……いや、赤子のような木の像が鎮座していた。
瞬間、視界が歪む。
何かが頭の中に語りかけてくるような、ガンガンと脳を内側から叩きつけられるような不快感。
その冒涜的なまでの暴力は目の前にある赤子の像からだと嫌でも気が付くだろう。
ツキヨミサマの御神体を目撃した貴方達は
SANチェック(成功:1d3/失敗:1d10)
※1日目の夜にツキヨミサマを見ていた場合は慣れ判定で
SANチェック(成功:1/失敗:1d6)
※ここで発狂した場合
その御神体に恐怖を抱くものの何故か愛しさと尊さを覚える。
ここで皆と一緒に暮らしたい……そんな思いに駆られるだろう。
発狂を免れた者は、早くこの場から離れなければ危ないと脳が警鐘を鳴らす。
発狂した者は他の探索者が引っ張れば上に上がることができるだろう。
全員が発狂した場合は大上もしくはKPCが我に返り他の探索者達を上に引っ張っていくこと。大上もしくはKPCがいない時に全員発狂した場合は全員に1d100を振ってもらい、一番低かった探索者の発狂を解いても良い。
※1日目の探索で『ツキヨミサマに触れるのは危ない』という情報や意識が無いまま大上もしくはKPCがいない状態ですぐに襖を開けてここに来た場合は、KPから『この像に触るのは危ない、触れてはいけないと残った正気が訴えかけてくる』と言って触るのを引き止めましょう。
それでもツキヨミサマに触るのなら振れた探索者は塵になってしまいます。
■司郎がこの場にいない場合
早くこの場から離れなければ。貴方達は急ぎ階段を引き返す。
あれは人間の手には余る代物だと本能が訴えてくるだろう。それこそ詳しい人間に協力を仰ぐべきかもしれない。
ここで司郎に協力仰がず自分達だけでツキヨミサマに触れようとした場合は、二日間以降かつ司郎に会った後であれば司郎がこの場に駆けつける。
その際は以下の ■司郎がいる場合 を状況に合わせて改変して描写してください。
●まだ司郎と出会っていない場合
おそらくあれが里恵が呟いていたツキヨミサマだろう。
しかしあの存在を相手にするにはあまりにも情報が足りていない。
どこかツキヨミサマについて詳しく調べられる所はないだろうか?
●すでに司郎と出会っている場合
おそらくあれがツキヨミサマだろう。
司郎であればツキヨミサマへの対処法を知っているかもしれないと思い至る。
司郎に連絡を入れればすぐの返信がきた。
一日目の場合
「分かった。明日の朝すぐに向かうから、それまで君達は不用意にツキヨミサマに近付かないでね」と念を押されてしまう。
二日目の場合
「今すぐ向かうから、君達は不用意にツキヨミサマに近付かないでね」と念を押されてしまう。
しばらく待っていれば玄関のチャイムが鳴った。
描写は 各種イベント ◆司郎が兼田家に来た際 を参照。
地下を進み祠まで来ると、一度開けたはずの祠の扉が閉まっている。
再度祠を開ければぶわりと靄が広がるように視界が歪むだろう。同時に、激しく頭を叩きつけられるような感覚に眩暈がした。
布に包まれた赤子の像――ツキヨミサマの思念が強引に脳内を割って流れ込んでくる。
SANチェック(成功:1/失敗:1d3
■司郎がいる場合
チリン……と凛とした鈴の音が鳴り響く。
貴方達はその音でハッと我に返るだろう。(発狂した者がいれば正気に戻って良い)
「……ようやく、見付けた」
貴方達の後ろから歩み出た司郎が、ゆっくりと御神体に近付く。
その呟きは今にも泣き出しそうな、安堵の混ざった声だった。
彼が御神体を抱え上げようと手を伸ばした……その時。
―― バチン
何かを弾くような音が響くと同時に、人影が貴方達の横を掠めていく。
慌てて人影の方に視線を移せば司郎が床に倒れ伏していた。
SANチェック(成功:0/失敗:1)
そんな彼に駆け寄る間もなく、再び貴方達の頭の中に声が響く。
「イカナイデ」「逃ガサナイ」「タスケテ」「ココニ居テ」
壊れた機械のように歪んだ声が幾重にも重なり貴方達の思考を絡め取っていくだろう。
<聞き耳>
失敗
悲しみ、恐れ、恨み。何人もの思念を直接叩き込まれ頭が割れそうだ。
しかし、そんな不協和音の中に一つだけ異質な声があることに気付くだろう。
「嫌ダ嫌ダ嫌ダ」
それは駄々をこねる子供のような拒絶の言葉だ。
SANチェック(成功:0/失敗:1)
成功
悲しみ、恐れ、恨み。何人もの思念を直接叩き込まれ頭が割れそうだ。
しかし、そんな不協和音の中に一つだけ異質な声があることに気付くだろう。
「嫌ダ嫌ダ嫌ダ」
それは駄々をこねる子供のような拒絶の言葉だ。
「……ツキヨミサマだ」
痛みに顔を歪ませながら体を起こした司郎が口を開く。
「どうやらツキヨミサマはここから連れ出されたくないらしい。人の来ない寂れた神社より、この家に人を取り込むことで永遠に祀られようとしてる。まるで……子供だね」
そう言いながら彼はゆっくりと立ち上がる。
連れ出されることを恐れ拒んでいるのか、祠の周囲の歪みが更に酷くなり、この家に取り込まれてしまったのであろう人々の声が大きくなっていく。
「ツキヨミサマは自分に触れる敵として俺を認識してると思う。このままだとまた弾かれるか、最悪祠に引きこもられるかもしれない」
「俺がツキヨミサマを祠から取り出すから、君達にはあの祠の扉が閉じないように押さえてほしい」
「このままツキヨミサマに引きこもられたらまた被害者が増えるかもしれない。君達も、どうなるか……」
「良くも悪くも、ツキヨミサマの影響を受けている君達なら祠に近付くことは出来るはずだよ。でも、その分ツキヨミサマの念を間近で浴びることになってしまうから……危険な事に変わりない」
「それでも今は君達にしか頼めないんだ。本当にごめん。どうか、協力してもらえないか」
■祠の扉を押さえる
祠を見れば、扉が閉まりかけている。
司郎が祠からツキヨミサマを取り出すために、祠の扉を完全に開いた状態にする必要があるだろう。
【戦闘ルール】
ツキヨミサマは毎ターン一番最初に精神攻撃をしてくる。
ツキヨミサマ 精神攻撃 85%
「嫌ダ」「寂シイノハ嫌ダ」「外ハ嫌ダ」「願イ事ハ何」「忘レナイデ」そんな言葉と、怒りや悲しみ、恐怖が入り混じった感情が止めどなく流れ込んでくる。
精神攻撃を受けた場合、探索者はPOW×5を振り成功すると精神攻撃に耐えることができる。
POW×5に失敗した場合は SANチェック 成功1/失敗1d2。更に次のターンまで攻撃不可。
探索者は自身のターンでSTR×5を振る。(POW×5に失敗した探索者は不可)
成功者が2人以上で完全に扉が開け放たれる。
探索者全員のPOWやSTRが低い場合や参加PCの人数によって難易度を変動させて構わない。
・探索者人数がNPCを含め4人の場合、STR×5成功者数を3人以上にする。
・STRが低いので幸運を振らせ成功した場合STR×7にするなど掛け数を増やす、STRを幸運など他技能で代用する。etc.
扉を開け放つことに成功したターンを含め、2ターンの間扉を開けたまま耐える必要がある。
ターンの初めに再度ツキヨミサマが精神攻撃を行ってくるため、精神攻撃を受けた場合はPOW×5を振り成功すると精神攻撃に耐えることができる。
POW×5に失敗した場合は SANチェック 成功1/失敗1d2。更に扉から手を離してしまい、このターンは行動不可。
扉を押さえている探索者が全員POW×5に成功、扉を押さえている探索者がPOW×5に失敗しても別の探索者(もしくはNPC or KPC)が同ターン内でSTR×5に2人以上成功した場合は扉を開け放った状態で耐えることが可能。戦闘終了となる。
POW×5、更にSTR×5に失敗し扉を押さえている人数が1人以下になった場合は同じ手順を繰り返すこと。
失敗しても何度も再チャレンジできますが、精神攻撃で失敗する度にSANチェックが入るためSAN値が減ります。探索者の残りSAN値がギリギリの場合はSANチェックを失くしても構いません。
最短2ターンで戦闘終了です。
・戦闘終了
頭に響く暴力的なまでの思念に耐えながら、貴方達は扉を押さえる。
神を降ろすための依り代でしかなかったツキヨミサマは、人々に信仰されていた過去を忘れられず神であり続けようと足掻いているのだろう。
その狂気は、この家ごと貴方達をも飲み込もうとしている。
「……あと少し、耐えて」
司郎に近付かれまいと抵抗しているのか、拒絶するように不快感をまとった瘴気が濃くなっていく。
瘴気に押されながらも司郎が祠へと近付けば、ガタガタと小刻みに扉が震え、最後の抵抗だとでも言うように暴力的なまでの邪気が祠から溢れ出す。
一方的に浴びせられた負の感情に脳の奥底まで侵されていくようだ。
<POW×5>
失敗
暴力的なまでの波に思考をかき混ぜられ、全身の神経を得体の知れないものが駆け回っていくような恐怖に手が震える。
SANチェック 成功1/失敗1d2
しかしここで手を離してしまったら……自分自身だけではない、ここにいる全員がどうなってしまうか分からない。
「タスケテ」と、悲痛な声が鼓膜を揺らす。
この家の悲劇を終わらせるためにも、ここで負けるわけにはいかない。ありったけの力を指先に込め、耐える。
成功
ここで手を離してしまったら……自分自身だけではない、ここにいる全員がどうなってしまうか分からない。
「タスケテ」と、悲痛な声が鼓膜を揺らす。
この家の悲劇を終わらせるためにも、ここで負けるわけにはいかない。ありったけの力を指先に込め、耐える。
貴方達は扉を押さえ続ける。そんな貴方達の行動に動揺したのか、困惑の感情が肌を伝い流れてくるだろう。
これは、貴方達が作った好機だ。
すかさず司郎が祠へと手を伸ばしそれを抱え上げる。
彼がツキヨミサマを祠から取り出せば歪んでいた景色が元に戻っていくだろう。
頭に鳴り響く声は、もう聞こえない。
大きく息を吐けば、張り詰めていた体から自然と力が抜けていくのを感じる。
司郎はツキヨミサマを両手で抱きしめると貴方達の方へと顔を向けた。
「無理をさせて本当にごめん。体調は大丈夫?気分は悪くない?」
「これでやっと……やっと御神体を取り戻すことができた。……本当にありがとう」
「君達には感謝してもし足りないくらいだ。君達が協力してくれなかったら……ツキヨミサマを見付けることも、こうしてまた手にすることもできなかったと思う」
そう言って彼は泣きそうな笑顔で何度も頭を下げる。
巣食っていた邪神の一欠片は、今後この家を脅かすことはないだろう。
これで少しは被害者達も報われるだろうか。
「ツキヨミサマを回収したとはいえ、ここはまだ危ないから上に戻ろう」
そう司郎に促され貴方達は再び階段を登っていく。
和室へと戻れば窓からは夕陽が差し込んでいた。
◆司郎との分かれ道
「これは俺が回収するよ。うちの御神体が迷惑をかけて……本当にごめん。俺がもっと早くに見付けられていたら……こんなに沢山の人が巻き込まれることもなかったのに……」
そう言って司郎が俯く。
ギュッと悔しそうに噛みしめた唇には薄っすらと血が滲んでいた。
●司郎を慰める
※何も言葉をかけない場合はそのまま大上もしくはKPCへの謝罪に繋げましょう。
「……ありがとう。でもこれは…うちの……海野の責任だから」
「大上君(KPC君)のご親族には後でうちからお詫びをさせて。この家の被害者達の御霊(みたま)も、安らかに眠ることができるように尽くさせてほしい」
司郎が申し訳なさそうに大上に頭を下げれば、大上は『分かった。それでお前の気が済むなら……』と困ったように受け入れるだろう。
「じゃあ、俺はここで」
そう告げて、司郎は踵を返し家を後にする。
ここからエンド分岐が発生するのでKPは『そのまま見送りますか?』『追いかけて何か声をかけますか?』などの確認をしても良いかもしれません。
※また会えるか、このあとどうするのかなどの質問をする場合は【◆END1】へ。
※司郎とミコトが同一人物であること、ミコトとしての目的を司郎が探索者に打ち明けている場合は【◆END2】へ。
※万が一司郎を攻撃してツキヨミサマを奪おうとするなら【◆END4】へ。
エンド描写
【END1】陽炎
■問いかける
●『このあとどうするのか』
彼は一瞬立ち止まり、貴方達を振り返る。
「ツキヨミサマを喚んで…………ミコトの願いを叶えるだけだよ」
そう告げて彼は再び歩き出す。
●『また会えるか』『また連絡してほしい』
声をかけられれば彼は僅かに振り返り、眉を下げ笑みを返した。
それがどこか寂しげだったのは、陽の影によって表情が曖昧に見えたからだろうか。
●『友達』という単語を入れて声をかけた場合
その言葉に彼はハッとしたように振り返り、そして困ったように、けれど照れくさそうに眉を下げた。
陽の影によって表情が曖昧に見えるからだろうか。
彼は今にも泣き出しそうな顔で笑っていた。
●司郎がミコトだと気付かないまま彼に着いて行こうとする場合
司郎がどんなことをしようとしていても構わない、どうしても司郎に着いて行きたいと言うのであれば、<アイデア>や<幸運>などを振ってもらい司郎=ミコトであるヒントを出しても構いません。
●ここで司郎にミコトと同一人物かと尋ねる場合
彼は立ち止まり貴方達を振り返る。
その表情には驚愕が浮かんでいて、彼はくしゃりと子供のように顔を歪ませる。
そうして
「君達は………後悔しないで、今を生きて」
そう呟き、背を向けて再び歩き出した。
◇司郎がミコトだと気付いたこのタイミングで彼を追いかける
貴方達は彼を追いかける。
このまま別れてしまえば、彼とはもう二度と会えない気がしたから。
「なんで……」
貴方達が追いつけば目尻を赤くした司郎が悲痛な表情で言葉を零す。
※ここで【END2】に進むことができる。
◇追いかけない場合はそのまま下記の描写へ
※もし夜に神社に行きたいという発言があったとしても、司郎がミコトだと気付いていないのであればこのまま◆陽炎エンドになります。
貴方達が夜に神社に向かうと、神社がある筈の山のふもとまで来たところで空から……月から灰色の光の柱が降り注いでくる。
それは神社に向かって真っすぐ伸びているようだ。
目を凝らして見れば光の中から何かが降りてくる。
直感的に貴方達は悟るだろう。
夢で見た月の光。
あれは、人が振れてはいけないものだ。
この光に触れてしまえば、貴方達はあの家の住人達と同じ結末を辿るかもしれない。
貴方達は光の柱が消える時まで、ただ呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
●その上で神社を見に行く発言があれば
神社があった場所は塵と化し跡形もなくなっていた。
恐ろしい何かが、貴方達のすぐ目の前まで降りてきていたのだと背筋が凍る。
SANチェック(成功:1/失敗:1d4)
◆陽炎(かげろう)
司郎が去っていく背中を、貴方達はただ見つめていた。
その背が少しだけ悲しそうに見えたのは、夏の夕暮れのせいだったのかもしれない。
貴方達は脅威の去った兼田家で一夜を過ごす。
足音も、人の声も聞こえない。
聞こえるのは微かな波の音だけだ。
朝になれば大上が改めて貴方達に礼を言う。
全て、終わったのだ。
外は快晴。
蝉の鳴き声と海風が心地良い。
大上は他の親戚などへ連絡をしたあと、一度叔母の元に寄ってから帰るそうだ。
帰る前に海にでも寄って行こうか……そんなことを考えながら貴方達は帰路につくだろう。
短くも長い、怖くて、けれど少し胸の奥が温かい、そんな休みが終わりを告げた。
後日、貴方達はとある海沿いの街にある古い神社が一夜にして消えてしまった……そんなニュースを目にする。
それは貴方達が向かった街で、あの街の神社といえば御治泉神社しかないだろう。
幸い近隣の民家とは離れていたためか誰一人として被害者はいなかったそうだ。
けれど、貴方達は知っている。
きっとあそこで、存在も知られないままこの世界からいなくなった人間がいるのだということを。
あの日以降司郎とは連絡がつかない。
電話にも出ず、どんなにメッセージを送っても既読がつくことはなかった。
別れ際。
眉を下げて曖昧な表情を浮かべていた、寂しそうな彼の姿だけが記憶の中で陽炎のように揺らめいている。
もう二度と、彼に会うことはないのだろう。
そんな漠然とした思いを胸に、貴方達は日常へと返っていくのだった。
END1:陽炎
【生還報酬】
1d10+5のSAN値回復
オカルト+5
クトゥルフ神話技能+1
◆陽炎追加描写
・司郎と友達になった
・司郎がミコトだと気付き、生きてほしいと説得したが通常成功・失敗だった
この条件を満たしている場合に追加描写が入ります。
※またEND2に進んだ探索者でも1日目の段階で司郎と出会って友達になり、海野家で話す際とても親しくしてくれていた・夜にメールなどで連絡を沢山取っていた場合は1日目の夜に司郎が手紙を書ける時間が発生するためこの追加描写を読んでも良いかもしれません。
END2に合わせた描写の変更を行っても構いません。こちらはKPの判断にお任せします。
※司郎と友達にはならなかったが司郎に優しくした・親しげなRPをしてくれた上で司郎を見送りエンド陽炎を迎えた場合、KP判断で司郎の手紙の内容を改変して以下の追加描写をしても構いません。
※大上台詞は導入1の口調で進みます。導入2の場合は適宜口調や設定を変えてください。
後日。
貴方達がいつものように過ごしていると大上(もしくはKPC)から連絡があった。
話を聞けば兼田家に海野光一(うんの こういち)と名乗る壮年の男性から謝罪の連絡が来たらしい。
「その時に預かった物があるから、少し会えないか?」
誘いに応じ貴方達は近所の喫茶店へと向かうだろう。
最初に大上(もしくはKPC)から相談を受けた、あの喫茶店だ。
中に入ればあの時と同じように先に席に着いていた大上が、貴方達に気付き片手を上げる。
「来てくれてありがとう」
席に座り各々好きな物を注文したあと、
「これを」
と、大上は自身の鞄を開き、ファイルから折りたたまれた紙を取り出した。
「司郎が海野家の人に説明してくれてたみたいで、叔母さんのところに海野家の人が謝りに来たんだ。その時、一緒に渡された」
「俺達に、って。……司郎が残してたらしい」
そう言って大上が貴方達に紙を手渡す。
折りたたまれた紙の裏側にはそれぞれの名前が丁寧な字で綴られていた。
【司郎からの手紙】
まずはこんな形で別れることになってしまってごめん。
俺は どうしても諦められなかった。
でも司郎として、ミコトとして ようやく母や皆のところにいける。
本当にありがとう。
最期に君たちと出逢えて 本当に良かった。
短い間だったけど、こんな俺と友達になってくれてありがとう。
どうか、幸せに。
司郎
彼の姿が、波の音と共に蘇る。
彼は確かに生きていた。
生きて、人として生を終えた。
綴られた呪いのような、祈りのような言葉を胸に、貴方達はこれからもこの非日常のような日常を生きていく。
―― どうか、幸せに。
彼の最期はきっと幸せだったのだろう。
雑踏の中、チリン……とどこかで鈴の音が聞こえた気がした。
【追加報酬】
アーティファクト:『祈りの手紙』
この手紙を持っている場合、探索者のSAN値が0になった時に鈴の音が聴こえ即座に1d10SAN値を回復してくれる。
ただし使用後に手紙は塵になって無くなるだろう。
※他シナリオや他KPの所で使用する場合はそのKPに確認を取りKPの指示に従ってください。
◇司郎と友達にはならなかったが司郎に優しくした・親しげなRPをしてくれた上での手紙改変例
【司郎からの手紙】
まずはこんな形で別れることになってしまってごめん。
俺は どうしても諦められなかった。
俺は、ミコトとしての生を終わらせたかった。
永い間見送るしかできなかったけど、これでようやく母や皆のところにいける。
最期に君たちと出逢えて 本当に良かった。
短い間だったけど、こんな俺と親しくしてくれてありがとう。
どうか、幸せに。
司郎
【END2】濤声
■問いかける
●『このあとどうするのか』
彼は一瞬立ち止まり、貴方達を振り返る。
「ツキヨミサマを喚んで…………願いを叶えるだけだよ」
そう告げて彼は再び歩き出す。
●『死ぬ気なのか』など今後の行動についての質問をする
「俺は、もうずっと永い時間を生きてきた。親も、知り合いも、ずっとずっと前に皆見送って……俺だけが、一人ここに取り残されてる」
「不老不死なんて、あっちゃいけないんだ。こんなの……ただ苦しくて、辛いだけだよ。俺は、人として生きて……人として死にたい」
「だから、止めないでくれ。もう、誰かを見送るだけなのは嫌なんだ」
司郎の瞳から雫が頬を伝う。
気の遠くなるような永い間、彼は一人きりでこの哀しみを背負ってきたのだろう。
それを、貴方達に止める権利はあるだろうか。
※ここで選べるのは引き止めるのを諦める、説得する、最期まで見届ける、あるかは分かりませんが司郎からツキヨミサマを奪おうとする、です。
これによってENDが変わります。
PL側が行動に悩む場合は、KP判断で『引き止めるのを諦めますか?最期まで見届けますか?』など選択肢を提示していただいて構いません。
■引き止めるのを諦める
貴方達には司郎を引き止めることができなかった。
彼と過ごした数時間よりも、彼が苦しみを抱えてきた時間の方がとてつもなく長かったから。
「ごめんね………ありがとう」
司郎はそう言って貴方達に笑みを向ける。
夕陽に照らされたその顔はとても綺麗だった。
※そのまま【END1の◆陽炎、◆陽炎追加描写】へ。
※夜の神社に行きたいという発言があれば【◆招来(途中参加)】へ。
■それでも彼に生きてほしいと説得する場合
<説得>
成功
貴方の言葉に司郎の瞳の奥が揺らいだのが見えた。
彼はしばらく無言で貴方を見つめた後、一度目を伏せ、そして何かを決意したかのような面持ちで貴方に向き直った。
「……ありがとう。そんな風に言ってもらえたのは……母親以来だ」
そう言って照れくさそうに笑う。
「ただ、御神体は戻さなきゃいけないから……一度神社には行かなきゃ。夜には海野家の皆も帰ってくるし」
御神体に視線を向けてから、司郎が困ったように苦笑する。
そのまま貴方達は司郎が神社に御神体をしまうまで共にいるかもしれない。
日が暮れる頃、「そろそろ海野家の人が帰ってくるから」と申し訳なさそうに言う司郎と別れ、貴方達は帰路につくだろう。
もし<心理学>を振りたいという発言があった場合
<心理学>
失敗
彼の言葉に偽りはない。彼は生きる決意をしてくれたようだ。
成功
彼の言葉に偽りはない。彼は心を決めたようだ。
※そのまま【END1の◆陽炎、◆陽炎追加描写】へ。
この場合、夜や朝に司郎に連絡をしても司郎からの返信は無い。
司郎は夜のうちにクァチル・ウタウスを招来し塵になっているからだ。
※夜の神社に行きたいという発言があれば【◆招来(途中参加)】へ。
※もし説得でクリティカル、もしくは友達という言葉を使って相当熱意のこもったRPをされた場合は【END3】へ。
司郎は何百年という長い時間を生き、自身の生を終わらせる事を目的としています。
いくら探索者が親身になってくれたとはいえ知り合って一日二日の関係で長年の目的を諦められるかと言われれば難しいため、ここの判定は厳しめにお願いします。
◆最期まで見届ける
司郎の決意は固いのだろう。
少しの間とはいえ時間を共にした相手だ。
貴方達が最期まで見届けたいと司郎に言えば、彼は困惑し視線を彷徨わせる。
「俺が喚ぶのは、とても怖い神様だ。もしかしたら精神が擦り切れてしまうかもしれない。そんな危険なことに君達まで巻き込むわけには……」
彼は貴方達の身を案じているようだ。
<説得>もしくは<信用>
失敗
彼は貴方達を巻き込みたくないのだろう。
首を縦に振ることはない。
※どうしても見届けたい場合はRPを頑張ってもらってください。司郎は『友達』という言葉や情にとても脆いです。
成功
その言葉に司郎は目を見開き、そして、貴方達の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「分かった……。でも、神様が降りてくる間は絶対に俺から離れないって約束してくれる?」
貴方達が頷けば司郎は決意を固めたように目を細めて笑った。
◆最期の時間
「最期に、寄りたい所があるんだ」
良いかな?と問いかけてくる司郎に貴方達が了承すれば、彼はありがとうと礼を言い海野の家に向かう。
「帰ってくる前に……終わらせないと」
そう言って彼は一枚の便箋にサラサラとペンを走らせていく。
ツキヨミサマを見付けたこと、兼田家やその家の住人達が被害にあっていたこと、御治泉神社を終わらせること……箇条書きで並べられた文字。
「海野の人間なら、これで何があったかは分かる筈だから」
テーブルの上に便箋を置き立ち上がる。
そのままスマホにも何やら文字を打ち始めた。
<目星>
成功
宛先の名前は『ゆかり』。
彼は簡潔だが、それでも確かに愛情を込めて画面をタップする。
『俺に新しいことを沢山教えてくれてありがとう。どうか幸せに生きて』
そんな、メッセージが見えた。
彼はメッセージを保存してスマホの電源を落とす。
左腕につけていたミサンガを外し、スマホに乗せるようにしてこちらもテーブルに置いた。
「行こうか」
小さく微笑みながら司郎が振り返る。
そうして貴方達は海野の家を後にした。
御治泉神社へと向かう途中、ピタリと司郎が足を止める。
「綺麗だね」
視線の先を目で追えば、大海原にゆっくりと夕陽が沈んでいく。
それはまるでこの世界を切り取ったかのような、美しい光景だった。
「俺……昔からこの海が好きだったんだ」
心地の良い海風が髪を、頬を撫で、潮の香りが鼻孔をくすぐる。
司郎がこの海を好きだと言う気持ちも分かる気がした。
招来は満月が出ている夜の間ならいつでも行うことが出来るため、探索者が望むのであれば招来前に司郎と海で遊んでも構いません。
司郎は不死になる前は身体が弱く海に入れず、不死になってからは最初こそ友人と呼べる人間達と海で遊んでいたかもしれませんが置いていかれる虚しさを知ってからは誰かと海で遊ぶことなどしてこなかったので、探索者達が一緒に遊んでくれるのならとても喜ぶでしょう。
水泳で遊んでみても砂の城作り対決をしてみても構いません。存分に遊んでください。
※2023.10.19. に、このシーン用のスチル【夕暮れの海】を追加しました。
日が沈み、暮色の空がグラデーションを作っていく。
ゆっくりと宵が歩を進め、ぽつりぽつりと星の輝きが広がる中、頭上に顔を出したのは満月だ。
神社に着く頃には辺りは夜に包まれていた。
◆招来
夜の神社は静かで、静かゆえに鈴虫の音と波の音が音楽のように流れている。
司郎は神社の前に御神体を下ろす。
「今から、神様をここに喚ぶ」
「大丈夫。全部俺がやるから。俺が塵になったら、神様はそのまま帰っていく筈だよ」
「絶対に俺の側から離れないでね。危ないと思ったら……目を閉じて。そうしたら、目を開けた時には全て終わってるから」
貴方達に念を押し、司郎は御神体の前に正座して両の手を合わせる。
どこの言語かは分からない、いや、実際どこの言語でも無いのかもしれない。
夢の中、あの神社で女が唱えていた言葉と同じような…………その時だ。
◆招来(途中参加)
・引き止めるのを諦める選択をしたが、司郎が招来を行うのではないかと予測し夜に神社に向かった。
・生きてほしいと説得したが通常成功・失敗という結果だった。その上で司郎が招来を行うのではないかと予測し夜に神社に向かった。
この場合のみ途中参加ができる。
しかしすでに司郎は儀式を行う寸前のため、この状態から司郎を説得する事はできず強制的にクァチル・ウタウス招来に立ち会うことになります。
途中参加の場合は前記の海野家での会話などはありませんが、その分司郎が探索者宛の手紙を書く時間はあるため探索者が司郎と沢山交友を深めていたのであれば【END1 ◆陽炎追加描写】をこのエンドに加えても構いません。
司郎が去っていく背中を、貴方達はただ見つめていた。
その背が少しだけ悲しそうに見えたのは、夏の夕暮れのせいだったのかもしれない。
一度家に戻るも胸の奥がザワザワと落ち着かない。
日も落ち宵が辺りを包みだした頃、貴方達は意を決して家を飛び出した。
貴方達は一抹の不安を抱えながら神社へとやって来た。
夜の神社は静かで、静かゆえに鈴虫の音と波の音が音楽のように流れている。
そんな神社の前に一つの人影があった。
人影――司郎は石段に御神体を置き、祈るように膝をついていた。
彼は足音に気付いたのか貴方達の方を振り返り、驚いたように口を開く。
「なんでここに……」
「そこは危ない……!こっちに来て」
司郎は叫ぶように貴方達を呼ぶ。
その顔には焦りが浮かんでいた。
※司郎に近付かなければクァチル・ウタウス招来に巻き込まれて塵になるので、KPはPLに『近付かないとロストします』と伝えて構いません。
眩しいくらいの月明りが辺りを照らす。
見上げれば漆黒の空に浮かぶ満月。
その満月が、異様なほど煌々と輝いている。
「もう儀式を始めてしまったから……ここに神様が来てしまう。中途半端に終わらせてしまえば君達が危ない」
そう言って司郎は真剣な目で貴方達を見つめる。
「巻き込んでしまってごめん。全部俺がやるから。俺が塵になったら、神様はそのまま帰っていく筈だよ」
「絶対に俺の側から離れないでね。危ないと思ったら……目を閉じて。そうしたら、目を開けた時には全て終わってるから」
貴方達に念を押し、司郎は御神体の前に正座して両の手を合わせる。
貴方達が止める間もなく彼が口を開いた。
どこの言語かは分からない、いや、実際どこの言語でも無いのかもしれない。
夢の中、あの神社で女が唱えていた言葉と同じような…………その時だ。
◆クァチル・ウタウス
上空に灰色の光の柱が現れ、その光は貴方達を囲むように降り注ぐ。
刹那、ソレは現れた。
小さな子供のミイラのようなシワだらけの体躯。
骸骨のような目鼻立ちのない顔はどこを見ているのかも分からない。
両手両足はきつく引き寄せられたような形をしており、骨のような鉤爪のついたその手は手探りをするかのように前へと突き出されていた。
その神は、光の柱に沿って静かに、素早い速さで貴方達の前に降りてくる。
グレート・オールド・ワン
クァチル・ウタウスを目撃した探索者はSANチェック(成功:1d6/失敗:1d20)
※全員が発狂した場合は発狂内容をその場に釘付けにしておきましょう。
目を瞑っている探索者がいた場合、その探索者はSANチェックを行わなくて構いません。
ただし以降目を開けるまで司郎の声しか聞こえませんし、クァチル・ウタウスが帰る前に目を開いた場合はSANチェックが入ります。
◆別れ
動揺する貴方達の前で司郎が立ち上がる。
そしてゆっくりと目の前の神へと近付いた。
「やっと……やっと皆の所に逝ける」
不意に彼は貴方達を振り返る。
月明かりに照らされたその顔は、とても穏やかだった。
「ありがとう。最期に君達と出逢えて……本当に良かった」
司郎は柔らかく微笑む。
ただただ美しい、晴れやかな笑みを浮かべた彼の身体が……塵となり崩れていく。
※友達だと言ってくれていた場合この台詞が増えます。
「……こんな俺と友達になってくれて、ありがとう。どうか、幸せに」
ざらり。
塵が、地面へと崩れ落ちる。
貴方達の目の前で、言葉を交わしていた青年はもういない。
役目が終わったと言うように神もまた天へと帰っていく。
塵の上には小さな足跡だけが残っていた。
貴方達が呆然とその光景を眺めていれば、どこからか一陣の風が吹く。
風に運ばれ、塵は、彼が好きだと言っていた海へと飛んでいくだろう。
あぁ、彼は海へ還ったんだ。
波の音に混じり、どこかでチリン……と鈴の音が鳴った気がした。
◆濤声(とうせい)
跡形も無くなってしまった神社から踵を返し、貴方達は脅威の去った兼田家で一夜を過ごす。
足音も、人の声も聞こえない。
聞こえるのは微かな波の音だけだ。
朝になれば大上が改めて貴方達に礼を言う。
全て、終わったのだ。
外は快晴。
蝉の鳴き声と海風が心地良い。
大上は他の親戚などへ連絡をしたあと、一度叔母の元に寄ってから帰るそうだ。
帰る前に海にでも寄って行こうか……彼が好きだった、あの場所に。
そんなことを考えながら貴方達は帰路につくだろう。
短くも長い、怖くて、けれど少し胸の奥が温かくて、悲しい、そんな休みが終わりを告げた。
後日、貴方達はとある海沿いの街にある古い神社が一夜にして消えてしまった……そんなニュースを目にする。
それは貴方達が向かった街で、あの街の神社といえば御治泉神社しかないだろう。
幸い近隣の民家とは離れていたためか誰一人として被害者はいなかったそうだ。
けれど、貴方達は知っている。
あそこで、存在も知られないままこの世界からいなくなった人間がいるのだということを。
「どうか、幸せに」
そんな彼の言葉が、波の音と共に蘇る。
彼は確かに生きていた。
生きて、人として生を終えた。
呪いのような、祈りのような最期の言葉を思い出しながら、貴方達は日常へと返っていくのだった。
END2:濤声
【生還報酬】
1d10+10のSAN値回復
オカルト+10
クトゥルフ神話技能+3
※END2に進んだ探索者でも1日目の段階で司郎と出会って友達になり、海野家で話す際とても親しくしてくれていた・夜にメールなどで連絡を沢山取っていた場合は1日目の夜に司郎が手紙を書ける時間が発生するためEND1の追加描写を読んでも良いかもしれません。
END2に合わせた描写の変更を行っても構いません。こちらはKPの判断にお任せします。
【END3】振鈴
■説得
※説得でクリティカル、もしくは友達という言葉を使って相当熱意のこもったRPをされた場合。
貴方の言葉に司郎の瞳の奥が揺らいだのが見えた。
彼はしばらく無言で貴方を見つめた後、一度目を伏せ、
「……ありがとう。そんな風に言ってもらえたのは……母親以来だ」
そう言って何かを思い出したように寂しそうに笑う。
そして何かを決意したかのような面持ちで貴方達に向き直った。
「君達が生きている間だけなら……見届けても良いかもしれない」
「でも長い間祀られないようにして力を弱めたけど、あの家で再び祀られていたことでツキヨミサマは力を取り戻してしまった。今のツキヨミサマは俺にしか触れないし、人目に触れてしまえばまた人間に影響を及ぼすだろう……」
「俺はこれから一人で御治泉神社に籠るよ。海野家の人達にも伝えておく。彼等は……ミコトの言うことなら聞いてくれるだろう。本当はもっと誰の手にも触れられない、誰も近付かない所にツキヨミサマを隠しておきたいけど……戸籍も、街の外も知らない俺にはここを出て生きることもできないから」
言葉を詰まらせながらも司郎はこちらへ微笑みかける。
しかし、胸に抱いたツキヨミサマを握りしめる手は微かに震えていた。
当然だろう。
彼は今、貴方達のために長い月日望み続けていたことを諦めたのだ。
目の前には己が望んでいた死がある。
それに蓋をして、彼は貴方達の人生を見届ける選択をした。
◇以下の場合
・探索者の中にお金持ちがいて、その探索者が自分の持つ無人の土地にツキヨミサマを隠し司郎を匿うなどの提案する。
・怪異的な呪物を回収・処理するような特殊な仕事に就いている探索者が、安全にツキヨミサマを隔離できる場と司郎を匿うことを提案する。
この場合はEND3(特殊)になります。
ただし回収・処理をする探索者がツキヨミサマを処理しようとしている場合は司郎は付いていきません。騙そうとしても司郎に見破られます。
騙そうとした場合は司郎からの信用を失いそのままEND1(この場合はEND1の追加描写は無し)に行きますが、万が一ここからツキヨミサマを奪おうとする場合はEND4に行くのでKPはそっと忠告しても良いかもしれません。
後からツキヨミサマを処理しようとしても司郎がツキヨミサマを持ち出しいなくなります。その後どこかの山の一帯が塵になるでしょう。
※注意
司郎は探索者達が生を終えた後に自分もクァチル・ウタウスを招来し死ぬつもりなので、ツキヨミサマだけを預かり司郎は海野の家に匿わせるという選択は絶対に拒否します。
ツキヨミサマと司郎両方を安全に匿えないのであればこの特殊エンドは迎えられないので注意してください。
◆振鈴(しんれい)
「君達は明日帰るの?」
貴方達がそれに頷けば
「そっか。明日の朝……また会えるかな。俺は海野の人達に話をしてくる」
「それじゃあ……また、明日」
司郎が去っていく背中を、貴方達はただ見つめていた。
その背が少しだけ悲しそうに見えたのは、夏の夕暮れのせいだったのかもしれない。
※KP情報
この時点でEND3ルートに入っているため、万が一ここで『司郎が嘘をついて夜に神様を招来しようとしているかも』と夜の神社を見に行く探索者がいたとしても神社は静まり返っていて誰もいない。
貴方達は脅威の去った兼田家で一夜を過ごす。
足音も、人の声も聞こえない。
聞こえるのは微かな波の音だけだ。
朝になれば大上が改めて貴方達に礼を言う。
全て、終わったのだ。
外は快晴。
蝉の鳴き声と海風が心地良い。
大上は他の親戚などへ連絡をしたあと、叔母の元に寄ってから帰るそうだ。
その前に、と。
貴方達は海沿いの道を歩く。
昨夜司郎から貴方達に『神社がある山へ入る手前、海が見える場所で会えないか』と連絡が来たのだ。
潮風が頬を撫でる。
昨日(もしくは一昨日)にも歩いた道だ。
この道もあの時よりは明るく見えるような気がする。
しばらく足を進めれば、海と道路を隔てる堤防の前に人の姿が見えた。
「……おはよう」
貴方達が近付いて来たことに気付いた彼――司郎は貴方達を見つめ柔らかく微笑む。
「昨日はよく眠れた?」
貴方達が各々言葉を返せば司郎は安堵したように頷いた。
「海野の人達には全部話してきた。俺はこれから御治泉神社に籠ろうと思う。食べなくても死にはしないけど……お人よしな子がいるから。ご飯と充電器は毎日持って行くってきかなくて」
「ツキヨミサマの影響を受けるといけないから神社の外でしか会えないけど……君達との出会いもしかり、最期に縁に恵まれて良かったって思うよ」
そう言って彼は海に視線を移す。
その顔は穏やかだが今にも空に溶けてしまいそうなくらい儚げで、貴方達は思わず声をかけたくなるかもしれない。
そんな貴方達の言葉を、行動を遮るように
「ありがとう」
そう、彼は笑った。
日差しに照らされた青みがかった黒髪が、海原と同じように光を反射してキラキラと輝く。
その姿は、ただただ美しかった。
「どうか、幸せに。後悔のない選択をして……君達は、望むように生きて」
二言三言言葉を交わして貴方達は司郎と別れるだろう。
短くも長い、怖くて、けれど少し胸の奥が温かい、そんな休みが終わりを告げた。
「どうか、幸せに」
そんな彼の言葉が、鈴の音と共に蘇る。
呪いのような、祈りのような別れの言葉を思い出しながら、貴方達は日常へと返っていくのだった。
END3:振鈴
【生還報酬】
1d10+5のSAN値回復
オカルト+5
クトゥルフ神話技能+1
◆振鈴(特殊エンド)
◇以下の行動ができる場合のみ
・探索者の中にお金持ちがいて、その探索者が自分の持つ無人の土地にツキヨミサマを隠し司郎を匿うなどの提案する。
・怪異的な呪物を回収・処理するような特殊な仕事に就いている探索者が、安全にツキヨミサマを隔離できる場と司郎を匿うことを提案する。
※ツキヨミサマと司郎両方を安全に匿えないのであればこの特殊エンドは迎えられないので注意してください。
「……君達は、それでいいの?」
貴方達が了承すれば
「分かった。でもただお世話になるだけじゃ申し訳ないから、俺にできることがあれば手伝わせて」
そう言って司郎は眉を下げて微笑んだ。
「君達は明日帰るんだよね?」
「君達に付いていくのは明日の朝でも良いかな?俺は、海野の人達に話をしてくる」
彼は彼なりに責任を取ってくるつもりなのだろう。
貴方達が頷けば
「ありがとう。それじゃあ……また、明日」
貴方達に礼を言い司郎は踵を返す。
彼が去っていく背中を、貴方達はただ見つめていた。
その背が少しだけ悲しそうに見えたのは、夏の夕暮れのせいだったのかもしれない。
貴方達は脅威の去った兼田家で一夜を過ごす。
足音も、人の声も聞こえない。
聞こえるのは微かな波の音だけだ。
朝になれば大上が改めて貴方達に礼を言う。
全て、終わったのだ。
外は快晴。
蝉の鳴き声と海風が心地良い。
大上は他の親戚などへ連絡をしたあと、叔母の元に寄ってから帰るそうだ。
その前に、と。
貴方達は海沿いの道を歩く。
昨夜司郎から貴方達に『神社がある山へ入る手前、海が見える場所で会えないか』と連絡が来たのだ。
潮風が頬を撫でる。
昨日(もしくは一昨日)にも歩いた道だ。
この道もあの時よりは明るく見えるような気がする。
しばらく足を進めれば、海と道路を隔てる堤防の前に人の姿が見えた。
「……おはよう」
貴方達が近付いて来たことに気付いた彼――司郎は貴方達を見つめ柔らかく微笑む。
「昨日はよく眠れた?」
貴方達が各々言葉を返せば司郎は安堵したように頷いた。
「海野の人達には全部話してきたよ。家にいなかったあの子には……『ミコトはツキヨミサマを見付けて、ツキヨミサマと共に死んだ』って、そう伝えてもらうことにした」
「あの子はお人よしだから……俺がしようとしていることを知ったら止めるだろうしね。君達と……同じように」
「君達との出会いもしかり、最期に縁に恵まれて良かったって思うよ」
そう言って彼は海に視線を移す。
その顔は穏やかだが今にも空に溶けてしまいそうなくらい儚げで、貴方達は思わず声をかけたくなるかもしれない。
そんな貴方達の言葉を、行動を遮るように
「ありがとう」
そう、彼は笑った。
日差しに照らされた青みがかった黒髪が、海原と同じように光を反射してキラキラと輝く。
その姿は、ただただ美しかった。
「……行こうか。君達の人生を、見届けさせてくれるんだろう?」
こちらを振り返り司郎が手を伸ばす。
貴方達は、その手を取った。
彼の願いを遮ってでも、その手を掴んで連れて行くことを選んだ。
これは、優しさで、エゴで、それでも貴方達が望んだ道だろう。
そうして貴方達は前に向かって歩き出す。
今後に何が待ち受けているのかなんて知らないまま、ただ、その命が燃え尽きるまで歩き続けるのだろう。
短くも長い、怖くて、けれど少し胸の奥が温かい、そんな休みが終わりを告げた。
「君達の人生を、見届けさせてくれるんだろう?」
そんな彼の言葉が、波の音と共に蘇る。
貴方達が掴んだ命を、貴方達が選択した人生を、忘れてはならない。
チリン……とどこかで鳴る鈴の音を聞きながら、貴方達は日常へと返っていくのだった。
END3(特殊):振鈴
【生還報酬】
1d10+5のSAN値回復
オカルト+5
クトゥルフ神話技能+1
【END4】宵闇
貴方達はどんな理由があれツキヨミサマを奪おうとした。
人知を超えたソレに手を伸ばす。
※ツキヨミサマを奪う
司郎からツキヨミサマを奪う場合は<DEX×5>もしくは<組み付き>などで動きを止める必要がある。
失敗か成功かでEND4a・END4bのいずれかに分かれます。
■失敗
ツキヨミサマを奪いに来た貴方達に対して司郎は驚愕と憎しみのこもった視線を向ける。
「……それが、貴方達の本性ですか」
貴方達を睨み付ける司郎に先程までの柔和な雰囲気はなく、ただただ静かに怒りを顕にしていた。
※今後どんなRPをしようと司郎は探索者に心を開くことはありません。
ここから他のENDに行くことは絶対に不可能です。
「お帰りください」
そう司郎は言い放つ。
「貴方達がまだ、人として生きていたいのなら……お帰りください。今すぐに」
その目は酷く冷たく、虚のように暗い。
彼はもう二度と貴方達に心を開くことは無いのだ。
※帰る場合はそのままEND4aへ。
まだツキヨミサマを奪おうとするのならEND4bへ。
END4bは奪おうと行動した全ての探索者に司郎がツキヨミサマを触らせ、ツキヨミサマに触れた探索者がロストするエンドになります。
探索者が奪う選択をしても大上は奪うことに手を貸しません。万が一探索者が大上を脅してツキヨミサマを奪うことを強要したとしても大上は手を貸しませんし、そんなことをすれば大上からの信用もなくします。
KPCを使用していて探索者が上記の行動を取った場合は手を貸さなくても良いですし、一緒にロストしたいのなら止めません。
◆END4a 宵闇(よいやみ)
貴方達は踵を返す。
そんな貴方達に背を向けて、司郎も歩き出した。
貴方達はもう二度と交わることはないだろう。
その背中は黄昏れの中に溶けて行った。
貴方達は脅威の去った兼田家で一夜を過ごす。
足音も、人の声も聞こえない。
聞こえるのは微かな波の音だけだ。
朝になれば大上が改めて貴方達に礼を言う。
全て、終わったのだ。
外は曇天。
大上は他の親戚などへ連絡をしたあと、一度叔母の元に寄ってから帰るそうだ。
帰る前に海にでも寄って行こうか……そんなことを考えながら貴方達は帰路につくだろう。
短くも長い、怖くて、けれど無性にやるせない、そんな休みが終わりを告げた。
後日、貴方達はとある海沿いの街にある古い神社が一夜にして消えてしまった……そんなニュースを目にする。
それは貴方達が向かった街で、あの街の神社といえば御治泉神社しかないだろう。
幸い近隣の民家とは離れていたためか誰一人として被害者はいなかったそうだ。
けれど、貴方達は知っている。
きっとあそこで、存在も知られないままこの世界からいなくなった人間がいるのだということを。
時折、宵闇の中から声が聞こえる。
「イカナイデ」
振り返っても誰もいない。
しかし何かが、悲しそうな声が、恨めしそうな声が貴方を呼んでいる。
少しの違和感を抱えながら、貴方達は日常へと返っていくのだった。
END4a:宵闇
※探索者は生存となります。
【生還報酬】
1d10のSAN値回復
・後遺症
1d3ヶ月間、黄昏れ時から朝日が昇るまでの時間に暗闇から声が聞こえ何かに呼ばれる感覚がある。
■成功
司郎の手からツキヨミサマが離れる。
そして、(ツキヨミサマに触れた探索者)はツキヨミサマを掴んだ。
掴んだ、筈だ。
その手には何の感覚もない。
貴方が己の手を確認すれば、
指の先が消えていた。
それを知覚したとしても、声を上げる間もなく貴方の身体は塵になって崩れ落ちる。
親しい者が目の前で塵になる瞬間を目撃した貴方達はSANチェック(成功:1d5/失敗:1d10)
「愚かな人だ……」
そう、司郎が呟いた。
※もし探索者が司郎を攻撃して気絶させていたとしても司郎は不死なのでここで起き上がります。
「あんなにも忠告したのに……君達はツキヨミサマの領域に足を踏み入れた時点ですでにツキヨミサマの影響下にあったのだから……」
そう言って貴方達を見つめる司郎の瞳は虚のように暗い。
◆END4b 宵闇(よいやみ)
■逃げる
貴方達は逃げ出した。
一目散に、脇目も振らず。
ただ、ただ家までの道をがむしゃらに駆けていく。
今は早く 家に帰りたい。
「イカナイデ」
背後から、そんな声が聞こえた気がした。
貴方達は脅威の去った兼田家で一夜を過ごす。
足音も、人の声も聞こえない。
聞こえるのは微かな波の音だけだ。
朝になれば大上が改めて貴方達に礼を言う。
全て、終わったのだ。
外は曇天。
大上は他の親戚などへ連絡をしたあと、一度叔母の元に寄ってから帰るそうだ。
帰る前に海にでも寄って行こうか……そんなことを考えながら貴方達は帰路につくだろう。
短くも長い、怖くて、けれど無性にやるせない、そんな休みが終わりを告げた。
後日、貴方達はとある海沿いの街にある古い神社が一夜にして消えてしまった……そんなニュースを目にする。
それは貴方達が向かった街で、あの街の神社といえば御治泉神社しかないだろう。
幸い近隣の民家とは離れていたためか誰一人として被害者はいなかったそうだ。
けれど、貴方達は知っている。
きっとあそこで、存在も知られないままこの世界からいなくなった人間がいるのだということを。
時折、宵闇の中から声が聞こえる。
「イカナイデ」
振り返っても誰もいない。
しかし何かが、悲しそうな声が、恨めしそうな声が貴方を呼んでいる。
少しの違和感を抱えながら、貴方達は日常へと返っていくのだった。
■逃げない
貴方達は逃げ出さない選択をした。
そんな貴方達を司郎はただ、憐れむように、蔑むように一瞥した後
「俺には、貴方達の行動が分からない」
そう言って手を伸ばした。
「でも、貴方達が……俺を邪魔する敵だってことは分かる」
そのまま司郎は素早く貴方達に近付き、ツキヨミサマを、貴方達に押し当てた。
※回避は出来ません。
もし司郎を攻撃したとしても司郎は何度でも起き上がりますし、どんな方法であれツキヨミサマに触った時点で塵になります。
ツキヨミサマを壊そうと攻撃してもツキヨミサマは触れた物全てを塵にするので破壊することは出来ません。
全てが、塵となり消えていく。
貴方達の身体も、人生も、その全てが。
神の領域に人間が踏み込むことの愚かさを、貴方達は噛みしめることになるだろう。
「イカナイデ」
全てを失った筈の貴方達にそんな声が囁く。
地の底から響くような不快で悍ましいその声が、無性に愛おしく大切な人の呼びかけのように存在しない鼓膜を揺さぶる。
この感情は、自分のものではない。
理解していても抗えないほどの奔流に思考が流されていく。
「……おやすみ」
労うような、憐れむような、そんな声を最後に貴方達の魂は宵闇に溶けていった。
END4b:宵闇
※ツキヨミサマに触れた探索者はロストとなります。
【生還報酬】
※他探索者がロストしたのを見て逃げた探索者のみ
1d10のSAN値回復
・後遺症
1d5ヶ月間、黄昏れ時から朝日が昇るまでの時間に暗闇からロストした探索者の声が聞こえ呼ばれる感覚がある。
※エンドに関する注意
卓後報告の際にエンド番号(END1、END4aなど)は記載しないよう注意してください。
ただしEND名(陽炎、濤声、振鈴、宵闇)と全生還・1ロスト2生還などの報告はしても構いません。
【祟縁】
エンド描写が終わった後にロゴを【祟家 タタリエ】から【祟縁 タタリエ】に変更していただけると嬉しいです。
あとがきの余談に詳しく記載してありますが、祟りで繋がった縁によりタタリエの字が家から縁に変わります。
また海野家の一人娘であるゆかりは漢字で【海野 縁】であり、こちらの内容はシナリオ終了後にPLに伝えても構いません。