『朱理、あと一駅で着くよ。電車おりたらすぐ電話するね。話しながらそっちに向かう』

 電車内から朱理にメッセージを送った。

 別荘休暇を終えて一日ぶりに、画面越しではなく朱理と自分のこの身体同士で対面する。

 検証、と朱理は言ったけど、決して楽しいだけの逢瀬じゃない。

『わかった。俺はいつもどおりおにぎり屋さんの隣にいるよ。紺に会えるの楽しみにしてるね』

 緊張感を持ってメッセージをしたというのに、朱理が〝楽しみ〟と返してくれたから面食らった。
 ひとりでいる車内で頬がゆるんでしまいそうになるのを堪えて、真顔を繕う。

 数分後、電車の速度が落ちてアナウンスと共にゆっくり停車した。

 夏休みの午前十一時だから、普段より乗客も少ない。
 電車をおりると隅によけてスマホから朱理に電話をかけ、ワンコールで『はい』とでてくれて繋がったのを確認してから深呼吸した。

「いま電車おりたよ。まだホームにいるけど、俺の匂いわかる?」

『一応平気だね。それよりさっきまで横にいたおじさんの体臭が残ってて辛い』

「そっか、フェロモンだけじゃなくて夏はそっちの匂いも充満してるもんね」

『うん、むしろはやく紺の匂いが嗅ぎたいよ……』

 朱理は他人を慮って言葉を選ぶ人だから、実際は体臭よりキツいワキガだったのかもしれない。この地球上にはフェロモン以外にもいろんな匂いがあるんだよな……、と痛感する。

「じゃあすこしずつそっちに近づくから、体調に異変があったら言ってね」

『うん』

 身体の向きを変えて、一歩ずつ地面を踏みしめるようにして歩いてホームから階段をおり、改札へ向かう。

 改札横には駅員が待機していて、緊急時にはあそこに駆けて行って頼んでも救護してもらえそうだな、と唾を飲む。

「いま階段おりたよ、どう?」

『うん、紺っぽい制服の子が見える。――あ、いた』

 身長の高い朱理は先に俺を見つけられる。ちょっと背伸びして視線を巡らせると、俺も朱理をおにぎり屋さんの出入り口のそばに見つけた。

 にこにこ無邪気に手をふってくれているから、俺もつい笑顔になって右手をふり返していた。

「匂いはどう? 体調は平気?」

『匂いはわかる。でも薬も効いてるのかな、身体は平気だよ』

「本当? じゃあ改札でて、そっちにもっと近づいてみるよ?」

『うん、はやく』

 はやくって。

 こっちはすぐにでも駅員に助けを求めるか、救急車か、と危機感を保って心臓を冷やしながら歩いているっていうのに、朱理が幸せそうに笑って急かしてくるのはなんなの、もう。

「本当の本当に平気? そんなに浮かれてて大丈夫なの?」

『平気だよ。紺が来てくれたおかげで、もげかけてた鼻が治った、あー……癒やされる匂い』

「ふぶっ」

 カードで改札を通って、正面のおにぎり屋さんのところにいる朱理のもとへ向かった。

 小さく見えていた朱理がどんどん大きく、等身大の朱理になっていく。

 朱理の表情をうかがいつつ近づいて、いま十メートル、もう五メートル、そろそろ三メートル……そしてとうとう朱理と自分が、一メートルもない間近にむかいあって立つ。

「――……どう? 平気?」

 まだ腕がかたく強張っている左手でスマホを握り、耳に当てたまま訊ねた。

「全っ然平気!」

 朱理はてらいのない、目映くて明るい満面の笑顔をひろげてこたえてくれる。

「本当に? 大丈夫なの?」

「このあいだみたいに本能がぐわって迫りあがってきて脳みそまで侵食していくような感覚はない。紺からただいい匂いが漂ってて幸せだよ。夏場はいろんな匂いが充満してるからさ……紺の存在がありがたいよ」

 スマホを離して制服の尻ポケットに入れた朱理が、自然な素ぶりで俺の右手を繋ぎ、歩き始める。俺も朱理の横顔をうかがいつつ、スマホを尻ポケットにしまって手を握り返した。

「手を繋いでも平気なの……?」

「うん、大丈夫そうだね。フェロモンって単純にいい匂いだけ発しているときと、直接本能に刺激を与えてくる媚薬っぽいものが混ざるときと二パターンあるんだよ。いまの紺はいい匂いだけしかないから平気。香水とか、部屋の芳香剤みたい」

「ほ、芳香剤っ……それで他人の体臭を打ち消してるわけか……」

「この場合αってじつは得だよね。好きな匂いのΩがいてくれれば夏の悪臭も怖くないから」

 常に芳香剤が寄り添って、他人の体臭やワキガを飛ばしてくれている……たしかに本能さえ支配されなければ得とも言える、のかな……?

「……ひとまずほっとした。会った瞬間朱理が倒れたりしたらどうしようって怖かったから」

 一日ぶりの朱理の掌の体温を、ようやく味わうことができた。

 ちょっとだけ汗ばんでいる、温かくて大きな掌。触れられずに一日を終える覚悟もしていたから、再会した直後にこうして朱理を感じられて……嬉しい。

「ぅあ」

 すると、朱理が突然右手の甲で自分の鼻を押さえて俺をじとっと睨み据えてきた。

「……紺、いま俺のこと好きって想った?」

「えっ、……想った、けど」

「ちょっと媚薬が混ざったよ」

「えぇ、そんなに感情に敏感なのっ? 〝触れてよかった〟ってすこし想っただけだよ?」

「や……よくない。紺が色っぽい気持ちになるの困る」

「色っぽくないってば。でも、辛い? やっぱり学校行くのやめておく?」

「ンー……いや、まだ耐えられるから検証を続けたい。とりあえず、名残惜しいけど手を繋ぐのは我慢しよう」

「わ、かった」

 仕方なく手を放して、身体もふんわりと一メートルぐらいの距離をおきつつ学校へ向かう。

 朱理は常に笑顔で俺を安心させようとしてくれる恋人だから、「無理と無茶だけは絶対しないで、すこしでも異変があればおたがいのために正直に言ってね」と目の奥まで見つめて念を押した。

「うん……また楽になったな。そうかー……別荘にいた時間もあわせて考えてみるとやっぱり紺の感情って影響力が強いのかもしれない。さっきも心配したりハラハラしたりしてくれてるあいだは平気だったから。でも別荘ではふたりしてずっと好き好き想ってたもんね」

「う、ン……勉強もしたけどほとんど朝から晩まで一緒にいて、恋人っぽいこともして……一日中気持ちが昂ぶって、溢れてたね」

「砂賀先生は、それも俺と紺が不安定になった原因かもしれないって言ってた。紺のなかのΩの血を刺激しすぎて、俺も本能が自制心や薬で抑えきれないぐらいゆるんだんじゃないかって。俺たち、別荘に行った一週間で愛しあいすぎて、心も身体も急に大人になっちゃったんだよ」

 駅前の賑やかな商店街を歩きながら朱理と話しあう。

 夏の暑い陽射しと、汗を拭いながら足早に駅へ向かうサラリーマン、俺たちとおなじように学校へ向かう下級生っぽい制服の男女、セミの声。

「大人か……だったら身体もはやく安定してほしい。俺がフェロモンを発し続けてるのも不安定なせいなんでしょ?」

「うーん……」と朱理が唸って、苦笑いになる。

「バース性検査まで我慢しよう。こうやって真面目な話をしてるぶんには昂奮したりしないから」

 微笑んでくれる朱理に紳士にうながされて、ふたりで正門をくぐり、学校へ入った。

 そのまま裏庭へまわって校舎に進み、裏庭の真横にある園芸部の部室へお邪魔する。

「カメたち~、元気してたかー?」

 朱理が真っ先に窓辺のカメたちのところへ挨拶しに行って、俺はエアコンの温度を調整してから続いた。カメたちの正面にある机へリュックを置き、ふたりでまずは水分をとる。

「俺、朱理の分のお水も持ってきたから欲しくなったら言ってね」

「ほんとに? ありがとう、じゃあがぶがぶ飲もう。俺もさっきおにぎり屋さんで紺の分の昼食も買っておいたから食べようね」

「うん、嬉しい、ありがとう」

「でも先にカメたちに」

 朱理が餌のボトルをとって掌にだし、カメたちにあげる。

「おまえたちも夏場は食欲落ちるかもだけどしっかり食べろよ~」

 朱理の斜めうしろから、朱理がカメたちに優しい表情で餌をあげる姿を眺めた。ひさしぶりに会えた二匹のカメも嬉しそうにもしゃもしゃ餌を頬張っていてとても可愛い。

「……紺、また俺のこと好きって想ったね?」

 肩越しに、朱理にじろりと見られた。

「え……いまはカメに可愛いって思ってたよ」

「嘘だ、ふわっとくらっときたよ」

「カメと朱理とセットで可愛かったよ。けどこの程度でも媚薬になっちゃうの?」

 こんな、息をするように愛しく想う刹那までフェロモンに色がついたら無になるしかないぞ。

「もう俺はいまから修行僧になる」

「ええ? ははは」

「仕方ないね。修行僧は花壇に水をあげてくるよ」

 再びいそいそと裏庭へでて、外にある水道の、ホースと繋がっている蛇口を捻った。ひとりのときや夏場の水が大量に必要なときは、じょうろじゃなくてホースで一気にまいてあげるんだよ、と夏休み前、朱理が教えてくれた。

「お花たちもご飯だよ~!」

 ノズルをシャワー設定に変えて、暑すぎて乾いていた花壇の土へ思いきり水を降らせてあげる。色とりどりの花も水を受けてひらひら揺れながら銀色の太陽光を弾いて輝き始める。

 花々も光りだすと、太陽が余計に眩しい。

 からから、とガラス窓をひらいて朱理が部室から顔をだした。

「紺、虹だ!」

 花壇に向けている水が角度によって虹色にきらめいているのを、朱理が指をさして笑顔で教えてくれる。

「うん、虹だね」

 俺も笑って虹が綺麗に大きくひろがるよう空に水を放った。陽光に向けて、眩しくひろく。

「あー……紺も虹も綺麗だな」

 朱理が誰より美しくて綺麗な薄茶色の瞳をうっとりにじませ、蕩けた声を洩らした。

「朱理がそうやってうっとりするのは本能に影響ないの?」

「ないよ。俺がひとりで勝手に昂奮するのは俺の問題で、バース性は関係ない」

「朱理が朱理自身でαの本能を増幅させちゃうってことはないんだ」

「ないね。紺のフェロモンしか俺のαの本能は狂わせられないよ」

 ならやっぱり、俺が感情や距離感を慎重に加減すれば、朱理を守ることはできるんだ。

「自分に合った抑制剤で、フェロモンのなかの媚薬分も減らせたらいいのにな……」

 隠れてため息をつき、ホースを引っ張りながら花壇の端まで水をまんべんなくかけていく。

「紺、今度は淋しい気持ちになってくれた……?」

 背後から朱理が想いやりに満ちた声音で気づかってくれる。

「淋しいっていうか、困ったっていうか……そんな気持ちまで伝わる?」

「なんとなくね。媚薬っぽさが消えて、柑橘系の匂いのほうが澄んで香ってくるから」

「朱理ばっかり心が読めるのも狡いなあ……」

 カメの水槽の横で頬杖をついて俺を眺めている朱理が、「ははは」と爽やかに笑った。

「俺も紺に言えないことはないよ。なんでも話しあおうって約束したでしょ?」

 じぃ、と睨むふりをしてから校庭側の花壇の端まで移動して、名前を知らない黄色い花にも水をあげた。朱理とは五メートル以上離れている。

「これぐらい離れてると俺の匂い感じない?」

「風も吹いてるから正確な検証はできないな。ふわっと匂う気もする」

「そっか……花の匂いもしてるし、外だと難しいか」

 虹色の光の雨を浴びながら花がいきいきと揺れて、土がしっとり色づいていく。

 また朱理の傍へ戻ってくると、浮かれた話より真面目な話をしよう、と話題を探した。

「あ、そういえばね、さっき家を出てくるとき、初めて両親の馴れ初めを聞かされたんだよ」

「紺のご両親の、恋の話?」

「そう。父さんは母さんの親友のΩの子が好きだったんだって。三角関係だったらしい。でも転入してきたαの子と一瞬で結ばれて、父さん失恋しちゃったって」

「お父さんはαの人とかなり揉めたの?」

「全然。父さんは告白もしないで、ただ見送ったみたい。それで、父さんに片想いしてた母さんは〝父さんが結婚してくれた〟って苦笑いしてた」

「ふうん……」

 朱理は瞼を細めてやや冷たげな表情になる。
 優しい朱理がこういう反応をするのは珍しい。

「なにか思うところあった?」

 訊ねてみたら、朱理は視線を横に流した。

「〝結婚してもらって生まれた息子〟って紺に言うのはどうかと思うな」

 あ。

「俺のこと気づかってくれたの? べつに俺は気にしてないよ。ふたりに愛情が芽生えたから自分はここにいるんだ、ってちゃんと思ってるし。馴れ初めは過去のことで、母さんが当時、〝自分を選んでもらった〟っていう負い目を持っただけって解釈したから平気」

 朱理は唇をまげて二度うなずいた。
 不満は解消されていなそうだったけど、胸にとどめてくれたんだろうなと察する。

「紺が傷ついていないならいいよ。でももうひとつ疑問があるかな」

「疑問ですか」

「〝Ωの子〟〝αの人〟って言うからインパクトあるけど、俺はバース性で恋愛語りたくないから。お父さんは優しいのか度胸がないのか、あるいはたいして好きじゃなかったのか、どうだったんだろうなと思って。自分を好いてくれるお母さんにしかたなく落ちた、っていうなら軽蔑する」

 ノズルの水を止めて、「ああ……」と相づちを打った。

 朱理の言うこともわかる。αとΩって括ってしまうと、βは割って入っちゃいけないような印象が発生してしまう。でもバース性を無視して見渡せば、父さんは告白もせずに好きな人をあっさり奪われて、自分に片想いしてくれていた母さんに落ちたへたれ男子だ。

 それで母さんにいまだ〝結婚してくれた〟って言わせているのは……なるほど、俺の恋人である朱理にとっては不愉快な話になるわけか。

「ふふ……ありがとうね、朱理。まあ、父さんと母さんにはふたりの事情があるんだろうけど……朱理はもし三角関係になっても、積極的に落としにいくタイプってこと?」

「かもね。紺しか好きになったことないからわからないけど、俺はもう絶対に紺を放さない」

 朱理の薄茶色の瞳が鋭くきらめいて研ぎ澄まされていくのを見つめ返しながら、すすす、とまた校庭側の花壇の端まで移動した。

「遠いよ紺」

「だって……」

「無理、そこまで行ってもいま紺が〝嬉しい、朱理好き、抱いて!〟って想ってるのは濃厚に伝わってくるから」

「駄目じゃんかっ」

 ちょっとでも匂いが薄くなれ、と願いながらまたホースを上向けて火を消すみたいに周囲に水をばらまいた。

「ははははっ」

 朱理がお腹を抱えて大笑いしてもこっちは必死だ。

 美しく旺盛に咲きほこる花々が、水を受けて合唱しているみたいに揺らぎ、踊っている。

 太陽光に透けた透明な水の虹越しに、朱理も華やかで幸福そうな笑顔の花を咲かせている。

 この人が好きだな、と羨望を抱きつつ想う。朱理の勇ましい想いを嬉しく感じる反面、俺は父さんの弱さも理解できなくもないや、と。

 もし自分が父さんの立場だったら、べつの誰かを想う朱理をふりむかせる自信など持てない。

 朱理がこれだけまっすぐで一途な人だと知ってしまうと、告白も、フラれて自分の気持ちに踏ん切りをつけるためだけの行動ってわかるし。

〝俺のほうが幸せにできる、俺と生きるのが幸福な人生だ〟と朱理は好きな人に胸を張って言えるんだよね。それだけいままで努力して、自分の人生の足場をかためて堅実に生きてきた人だから。

 父さんのライバルが朱理みたいな男だったとしたら……俺は諦める気持ち、わかってしまうよ。

「紺、今度はなにか悩んでる?」

 はーあ、と肩を竦めてノズルの設定を変え、朱理のほうに一直線に水を伸ばしてやった。

「あああ、なんだよ紺っ、駄目、部室が水浸しになるって! はははっ」

 また二歩ほど朱理から距離をおいて、自分が朱理と恋人になれたのは幸せすぎる奇跡なんだ、と、噛みしめつつ朱理を想った。



 部室へ戻って朱理とふたりでおにぎりを食べていると、朱理が「一緒にいられるのは一時間半ぐらいが限界かもしれない」と辛そうに苦笑したので、勉強するのはやめて帰ることにした。

「充分だよ。カメたちと花にもご飯をあげられたし、朱理とも会えて嬉しかった。勉強はまた家でビデオ通話しながらしよう」

「ン、ありがとう紺。帰りに砂賀先生のところに寄るから、家に着いたら連絡するよ。αの薬ってΩと違って三種類ぐらいしかないんだけど、今回いままでと薬を変えてみたんだ。今日の検証結果とあわせて、先生にももう一度相談してみる」

「……わかった。また俺が知らない間に先生と会うこと決めて……朱理に我慢させてたかな」

 愛しさと申しわけなさが溢れて、再び自分の匂いに媚薬が混ざったのもわかったから、朱理の頬に触りたい衝動を堪えた。

 朱理は全部察してくれているかのように、嬉しそうに、苦しげに眉をゆがめて微笑む。

「我慢じゃないよ。俺が詳しい報告をしなかっただけで紺は悪くない。ごめんね。それに薬は効いてて、今日はとっても楽だったんだよ。夜も約束どおり紺のご両親と話したいから、連絡待っててね」

「……うん。ありがとう朱理」

 食事をしたあと「お金が平気ならここからタクシーで病院に行くのはどう?」と提案して、朱理も「それいいね」とうなずいてくれたので、学校の前でタクシーを拾って朱理を見送り、安心して自分も帰路へ着いた。

 俺といて本能に多少なりとも影響を受けた朱理が、病院へ向かう途中でほかのΩにまで刺激されたら大変だし、想像するだけで不安になるからよかった。

 朱理を守りながら一緒に病院へ行って砂賀先生に挨拶し、俺も自分の身体について直接相談したいとも考えた。でも守るどころか今日は限界時間を超えていた。日を改めるしかない。

 帰宅して母さんにも「無事に朱理と過ごせたよ」と報告を済ませると、シャワーを浴びて部屋で勉強をしつつ朱理の連絡を待った。

 相変わらず困難はたくさんあれど、朱理と会えて、細かな検証ができたのは前進だ。

 感情までダダ漏れっていうのはすこし……結構厄介で、ほんと、いったいなんなんだろう。
 人間の身体のことだからバース性の症状にも個人差があるとはいえ、俺みたいに検査結果がブレていて、変なフェロモンの発しかたをしている人ってほかにもいるんだろうか。

 そうだ、と左横に起動していたパソコンをこちらに向けて、検索画面で〝Ω性〟〝フェロモン〟〝不安定〟とキーワードに入れてエンターを押してみた。

 画面上にたくさんの記事が表示されて医学系の論文みたいなのまで現れ、目が滑る。
 そのなかに病院のお医者さんがつづっているブログを発見した。〝こんな症状があったら、これらの病気が疑わしいかもしれません〟と優しい言葉で、怖がらせないように教えてくれている。

【――Ωの発情期間以外にも、αが発情性の強いフェロモンを察知することはあります。その場合、Ωがまだバース性の定まっていない十代後半であったり、発情期間の前後であったり、あるいは、運命のつがいであったりする可能性も極めて高いと言えます】

 ……え。

 運命の、つがい……――。






















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