好きで、恋しくてたまらなくて、賢也さんの背中のパジャマを握りしめて強く引き寄せた。 賢也さんも俺の身体に腕をまわして、右手で俺の髪を混ぜながら後頭部を覆い、左手で腕と肩をさすりつつ、右側の頬や首筋や肩にキスをくり返してくれる。 風呂あがりの彼の熱くて大きな身体が自分の胸や腹に隙間なく重なって、耳もとで、はあ、と吐息をこぼしながらくちづけてくれるから、自分の肌も彼の熱さと昂奮で火照っていくのがわかった。 右頬が、賢也さんの唾液で濡れている。 吸われて噛まれて、ちょっと鈍痛も感じる。 右耳たぶも、ふくらみをふるっと舐められてからしゃぶられた。 舌の感触がぬるぬる滑って、羞恥心と快感が胸をつきんと刺激する。 耳の端も、奥も、上のほうも、全体を舌でなぞって囓られていると、賢也さんの口のなかで温かくなっていくのを感じて、耳先が冷えていたことを知った。 唾液の水音や、賢也さんの呼吸がすぐ傍で響いて耳朶を震わせる。 唇が発する音まで快感にすりかわってしまって、賢也さんにこんなところをしゃぶられてる、と頭で理解して自覚すると余計に昂ぶった。 右顎も噛まれて、すぐに〝ごめんね〟みたいに甘く舐められたあと、首筋にまで顔を埋められてそこも甘噛みされる。 「ゃ、はっ……ン、」 舌と唾液で濡らされるだけで快感がぶわっとひろがって心臓まで突き刺してくるのに、噛まれてしまうと刺激が強すぎて声もでる。 噛まれる鈍痛と、吸われる痛みはまた全然別物で、どう違うんだろう、なんでこんなにどちらも気持ちいいんだろう、と不思議に思うのに解明する余裕もなく、思考力ごと食べられる。 「ひ、ゃ……賢、也……さ、」 顎先と、喉にも、彼の唇が移動してきた。 なんで、そんなとこ、と顎を舌でねぶられながら朦朧と考えるんだけど、疑問を抱く前に、すでに舌が這うじりじりした痺れが気持ちいい、と肌が学んでいる。 皮膚が薄いのかなんなのか、顎から喉のあたりはすごくくすぐったくて気持ちよくて、「ゃ、ンんっ、」と首をふりながら竦んでしまった。 すこし笑った賢也さんが、喉の愛撫を諦めて鎖骨のあいだの胸骨柄のあたりを吸ってくれる。 右頬に残った唾液が冷えるのもやっぱり快感を誘発して、顎の下で揺れる賢也さんの髪や、シャンプーの匂いもあいまって、些細な彼の気配すべてが理性を蕩けさせてくる。 右側の鎖骨を、内側から外側まで囓ったり、舌で舐めあげたりされながら味わわれて、肩先まで到達するとそこを吸われた。 「ゃ、ふっ、ン……」 肩をたどってゆっくり戻ってくる唇が、くすぐったい快感を刻みながらまた首筋にたどり着き、思いきり吸われる。 彼の右手に頭を覆われて、撫でられながら頬から鎖骨まで全体をくちづけられているものだから、おたがいの吐息も絡みあって、上半身の体温も上昇して、頭皮までヘッドスパを受けているみたいに心地よくて……陶然とする。 左側の、まだ乾いている首筋も賢也さんの唇と舌がついて侵された。 なめらかに首筋をさがっていって、肩先まで丁寧に吸ったり、舐めたりしつつ唾液を塗られていく。 「や、ぅ……賢也、さ……なん、」 なんで首ばかりするの、と言おうとしたら、また小さく笑った彼に唇を塞がれた。 上唇の表面を舐められてすぐ、半分ひらいていた俺の口の奥の、舌をあっさり掬われる。 舌先もまたするする巧みに動いて、俺の舌の横側から表、裏、とアイスキャンディみたいにしゃぶり尽くしてくるから、おたがいの唾液が混ざって、口端からこぼれていく。でもそんなの気にしていられないぐらい、温かくてやわらかで気持ちいい。 舌にも愛撫って、できるんだ……。 水餅みたいにしっとりやわい賢也さんの舌は、自分もずっと味わっていたくなってやわやわしゃぶって吸い返した。 上顎や、歯列の内側もさっきみたいに舌先でなぞられて、恥ずかしくて「ンン」と肩を竦めるけど、自分の隅々まで賢也さんの感触が残るのは嬉しい。 全部触ってほしくて、全部賢也さんに染められて、賢也さんだけの自分になりたい。 上顎なんて、自分で舐めてもなんにも感じないのに、賢也さんの舌でなぞられるとぞくぞく気持ちいいのはなんでなんだろう。 深くまで舌を搦めあって、唾液で浸しあって、吸いあっているだけで恋しさも増してきて、彼の背中を何度も強く抱き寄せた。 けどそれで、はたと気がついた。 すこし正気を取り戻して、自分の手の力をゆるめ、そっと賢也さんの背中から腕をおろしていく。 「……ごめ、なさい……俺が、しがみついてたから、……賢也さ、ん、首とかしか、……できなかったん、ですね」 朦朧としつつ息を整えて切れ切れに謝ったら、賢也さんも俺の目を覗いて、ふふ、と苦笑した。 「……いいんだよ、べつに。なおの身体を全部、時間をかけて愛していきたいから」 時間を、かけて……そうか、これが本物のセックス……。 「愛撫、って……すごく、気持ちいいです……」 寒い雪の夜にゆっくり浸かったお風呂みたい……熱い賢也さんの両腕と胸にすっぽり包まれて、あったかくて、口のなかも首もとも、あちこち気持ちよくて、賢也さんの想いも胸のなかに押し寄せてきて、賢也さんの感触と愛情が身体に沁み渡って自分の奥に浸透していく。 こんなセックス、知らない。 「なおのことを愛して、撫でさせてもらってる俺も、気持ちよくて幸せなんだよ」 「そう……なん、ですか」 「もちろん」 ……じゃあ昭之も、俺とのセックスでは本当の幸せを感じられなかったんだな。 賢也さんが身体を起こしてパジャマの上着を脱ぎ、枕もとに置いて俺の上に戻ってくる。 「す……すごく、きれい……賢也さんの、身体」 男性って中年を過ぎると胸がたるんでお腹も出てくるはずなのに、しっかり引き締まっていて腕や胸に適度に筋肉がついている。 「ジムに通いました」 賢也さんがちょっと照れくさそうに言って笑う。 「え……ほんとですか?」 「ひさびさなうえに最後の恋だから、恥ずかしくない身体でなおに会いたいと思って長いあいだサボってたジム通いを再開したんだよ。二ヶ月ぐらいだけど見られる身体にはなったかな」 二ヶ月……両手で賢也さんの肩や、胸もとをさわさわ撫でた。 マッチョほどではないにしろ胸もすこしふくらんで腹もうっすら割れている。 「格好いい細マッチョです……すごい、こんな……ずるい」 「狡い?」 「賢也さんは高身長でハンサムで、性格も大人で優しくて、なにもかも完璧なのに、身体まで魅力的なんて……狡すぎます」 「完璧ではないからバツイチなんだよ」 「それも込みで完璧です。ちょっとぐらい嫌いにさせてくれないと、好きになるばっかりで、困る」 そうなんだよ。 昭之は常にちょっぴり嫌いでいさせてくれたからバランスよくつきあえた。 最後は嫌いのほうが増えて天秤が崩れちゃったけど、おかげで俺もあいつをすこし見下しながら対等でいられたんだ。 その反面賢也さんはすべてが揃っていて完璧すぎるから、こっちは素敵さを知れば知るほど圧されて縮こまって平伏して、崇めることしかできなくなってしまう。 好きの沼に足をすくわれて底まで溺れていってしまうよ。 「うん……でもすぐに嫌な面も知るだろうから困る必要ないんじゃない?」 「……たとえばどんなですか」 賢也さんが俺の喉仏を甘噛みしながら「うーん……」と考える。 「靴下を脱ぎっぱなしにするとか?」 「え、どんなふうに? あちこち?」 「ふふ。いや、冬場に部屋でも靴下を履いて過ごすようになると、脱ぎ忘れてベッドに入ったあと暑くなって、下にぽろっと落とす癖があるんだよ。だからベッドの足もとの下に靴下がたまるの」 「はあ? 可愛いんですけど」 布団にくるまって寝ぼけながら足をこすりあわせ、ベッドの下にぽとんと靴下を落とす賢也さん……? ばかじゃないの意味わからない、可愛すぎる。 彼の頭を抱いて右耳を噛んでやったら、「いたいいたい」と苦笑いが返ってきた。 「相手の怠惰さって、可愛く見える時期と、憎たらしくなるときがあるんだよね。でもまあ、そんな感じで、俺もべつに常に格好つけていられるわけじゃないんだよ」 俺も昭之と同居していたから賢也さんの言葉の意味もわかるけど……。 「……それはたぶん、おたがいの心の底に愛してるって想いが根づいていれば、文句を言いながらも許せることなんだと思います。家族ってそうじゃないですか。だから俺のなかで賢也さんは、きっとずっと、格好よくて可愛いです」 顔をあげて俺を見つめてくれる賢也さんの瞳が細くにじんで、甘くたわんでいる。 「……家族にしてくれるの?」 訊きながら右手で前髪を撫でられた。 「ぁ、う……と、……いきなり、大胆なこと言いましたけど……賢也さんが嫌じゃなければ、いつか、そう言えるぐらいの関係に……なりたい、です」 下唇を軽く噛まれて、やんわり吸われながらふるんと放された。 「プロポーズされたのは初めてだよ」 幸せそうな彼の笑顔が近すぎて、意識が吸いとられる。 「……賢也さんも、最後の恋とか、いろいろ……言ってくれたから」 「うん、そうだね。……もちろん俺もおなじ気持ちでいるよ」 左頬を吸われながら、賢也さんの左手がタンクトップをたくしあげていくのを察知して緊張した。 彼の首にしがみついて背中をあげ、手伝いはするんだけど、どうしてもすこし怖い。 「賢也さん……っ」 上半身があらわになって夜気に晒された。 賢也さんの大きな左手はそのまま俺の胴体をたどって腰までさがっていき、腹を覆ってゆっくりのぼってくる。 目をとじて彼の手の動きを見つめながら、息を止めていた。 ゆるやかに腹を撫でてくれていた掌が、やがて、とうとう胸まで到達して、人さし指と中指が乳首を掠め、最後に親指が先を押さえるようにして止まった。 「あ、ぅ……」 「……胸は恥ずかしいの?」 耳もとで囁くように訊かれて、頭をふってこたえた。 「……怖いです。女っぽいってばかにされてたけど、でもやっぱり俺も……男の身体だから」 胸から賢也さんの手が離れて背中にまわり、撫でてなだめてくれる。 「……いいよ。じゃあ俺がなおのことも、なおの身体も、ちゃんと心から愛して欲しがってるって教えてあげるから、俺を見ててごらん」 え……どうやって? と疑問に思って腕の力をゆるめ、すこしずつ身体を離して賢也さんの目を見あげると、先ほどまでと変わらずに幸せそうに微笑んでくれている。 唇に音つきの一瞬のキスをくれると、子どもっぽい無邪気な笑顔も見せてくれた。 そして眼球がす、す、と胸もとへさがって……眉間に、しわが寄る。 薄暗いけど、彼の瞳には俺の胸がうつっているはずで、それは女性とは違う、真っ平らの、板みたいなもので。 「……なおが愛撫を知らないって言ってたのがわかるな」 「ぇ……」 賢也さんの両手が俺の胴体を左右から押さえるみたいに支えて、左の親指がまた乳首をふにと下から押しあげて撫でた。 「ンっ……」 「こんなに綺麗な桃色で……誰も触らなかったのが一目瞭然だ」 色……。 「乳首の、色って……生まれつきのものじゃ、ないんですか。触るかどうかで、そんなに違うもの……?」 「服がこすれるだけでも影響はあるんだよ。だから一概にセックスのせいで黒ずんだとは判断できないけど、なおの胸は生まれたままの姿で大事にされていたのがよくわかるかな」 じっと見つめられて、親指と人さし指で乳暈と乳首を優しく摘ままれた。 賢也さんの視線まで刺激になって、乳首の先がじりっと痺れる。 「ぅっ……ふくらんで、なくても……平気、ですか」 「女性の胸とは違うけど……なおの胸は乳輪がふっくらしてていやらしいね」 「え」 「なおが男性なのを理解したうえで好きになったんだから女性的な身体を求めたりしないよ。もっと雄々しくてもよかったのに、中性的っていうのかな……細身で健康的で、色っぽくて、ちょっと戸惑う」 賢也さんの眼差しが、真剣ながらもどことなくうっとりした溶けかたで自分の身体を眺めてくれているから緊張した。 「色っぽい……ですか」 「がりがりで不健康だったら心配だなと想像してたけど、結構筋肉もついてるよね」 「あ……それは、はい。畑仕事とか、雪かきを毎日してるから」 「ああ、なるほど」 ちびで細身なのは自覚しているものの、胸や腹がぺらぺらではないのは自慢だ。 こっちでは力仕事もたくさんするし、動いた分、食べもする。 「腹まで抉れてるようなひょろっちい都会の男とは違うって、自負はあります」 右手でぐっと拳をつくってうなずいたら、賢也さんもふっと吹いて笑ってくれた。 「うん……本当に綺麗だよ。同性だからこそ余計に魅力がわかるんだろうな……逞しさのなかに未成熟な隙があるんだよね。こんなエロチックな身体を愛撫しなかった前の人の神経が理解できない」 「え……えろちっく」 賢也さんが顔を伏せて、俺の右胸の、乳暈の下を吸った。 「ぁっ、」 「あの前の男って、照れてただけじゃないの……? 小学生と一緒だよ。本当はなおの身体が触りたくて仕方なかったのに、勇気がなくてできないから照れ隠しで〝女みたい〟って罵っていたんだよ。そして徒に、なおの心に深い傷とコンプレックスまで植えつけた」 「賢也、さ……ンっ、」 「もう全部忘れてほしい。俺の言葉と想いだけを信じて、なお」 乳首を唇で覆われて、口内でねぶられた。 下から上へ舐めあげられたり、突起を舌先で撫でられたりして、乳首が、賢也さんの舌に搦めとられているみたいな錯覚をして、そのあまりの快感に思いきり身を竦めてしまった。 「ぅ、う、っ……けん、やさ……だめ、強、っ……」 唇で挟まれて吸いあげられた先端を甘噛みされると、後頭部と、足の裏にまで快感がひりっと発生してひろがった。 腹の下にも欲求が重たく蓄積して疼いて息苦しい。 左側の胸は指先で摘ままれて丁寧にほぐされていく。 舌は強引なぐらい乳首をしゃぶり続けているのに、指はやんわり緩急をつけて巧みに愛撫してくれる。 賢也さんって両手で違う動きをしながら音を奏でるピアニストなんじゃないかな、と快楽に翻弄される頭で変な感心をしてしまうほど彼の愛撫は巧みで、息が切れた。 「け、や……賢也、さ……ふ、ンぅっ、」 劣情が爆ぜそうになった絶妙な刹那に賢也さんの舌が離れて、今度は左の乳首を食べられる。 右側は湿ったまま指に捕まって、唾液の余韻を利用して滑らせながら全体を撫でつつ摘まみあげられ、「はぁっ」と悲鳴みたいな声がでた。 さっきまで舌で散々しゃぶられた刺激も残っていたから、快感が何倍にもふくれあがって辛い。 「だめ……だめ、」 左側の乳首も賢也さんの舌に撫でまわされて、生きものみたいにのたうちながら俺に快感をじんじん与えてくる。 ちょっと落ちついて、と心のなかで懇願しても届くはずもなく、賢也さんが執拗に吸いあげてくれるたび、胸も健気に反応して、じわじわ快感をひろげ続ける。 下半身まで反応するぐらい気持ちよすぎて、足を擦りあわせて、腰を捩って、自分の左指を噛んで、力んで耐えた。 受けとめたいのに快感ってどんどん生まれて、俺が取りこぼしてもどうどう溢れていく。 「うぅ、あぁっ……」 そのもどかしさとどうしようもなさが、悲鳴にかわる。 「も、やぁ……むね、ぃやっ……」 頭が情欲に巻かれて顔が熱くて全身が燃えて疼いて、気持ちよさのあまり涙までこぼしていたら、右胸から賢也さんの手が離れて、うずうず捩っていた腰を覆い撫でてくれた。 左側の胸をしゃぶっていた舌も先端からほどけて、乳暈の部分を優しく舐め始める。 「……すこし舐めただけなのに泣いちゃうんだね」 懸命に息を吸っているせいで大きく上下する胸の真んなかも、賢也さんがなだめるように舐めて、くちづけてくれた。 「泣、きます……だって、……気持ち、よすぎて、苦し……」 「感じてくれてありがとう。……でももうすこし抑えないと一緒に幸せになれなそうだね」 身体を起こして、右手で俺の前髪をよけながら撫でてくれる賢也さんが嬉しそうに苦笑している。 それから「ズボンもいい?」と俺が穿いていたパジャマのズボンと下着に手をかけて、優しく訊いてくれた。 「……はい」とうなずくいて腰を浮かし、俺も彼の手にあわせて両脚もあげて脱ぐのを手伝う。 膝を折って、そこを隠すように腿を擦り寄せていたら、賢也さんもズボンをおろして一緒に裸になってくれた。 外の外灯と雪の光のせいでぼんやり薄暗い室内に、賢也さんの逞しい引き締まった身体が、幻みたいに揺らいでいる。 全身にまだ快感が疼いている。 けど俺のズボンをたたんでくれる賢也さんを見ているうちに、無気力に寝転がっているのが嫌になって起きあがったら、彼が、おや、と小さく目を見開いた。 両腕を賢也さんの背中にまわしてしがみつく。 「どうしたの」 「……服までたたんでくれて、賢也さんが優しくて、好きで、胸が苦しいの」 雪の降る音をくゆらすように、賢也さんが喉で笑う。 「……このあとローションを使うから、汚さないようによけておこうと思っただけだよ」 こたえを聞いたら、俺もふふっと笑ってしまって、ふたりでくすくす笑いあった。 それで、俺も賢也さんのズボンをとってたたんだ。 自分の服よりサイズの大きなズボンは、手になじんでいる癖が通用しなくて、両腕をいつも以上に伸ばす必要があった。 ……こういうところも昭之と違うから、いま自分の恋人は賢也さんなんだな……、と発見が実感に変わる。 「……身体、すこし落ちついた?」 脱いだ服を隣のベッドに置くと、賢也さんが俺の腰を抱き寄せて、膝の上に招いてくれた。 賢也さんの腿の上にむかいあって座って、俺だけタンクトップを着ているけどほぼおたがい裸で、近すぎて、心臓がどきどき鼓動する。 「はい……気持ちいいのは、だいぶ落ちつきました」 「よかった。……なおはかなり敏感みたいだから慣れるまでゆっくりしていこうね」 右腕で腰を支えてくれながら、賢也さんがまたタンクトップをめくって左手で俺の右胸を撫でて、唇と舌で、左胸を吸ってくれる。 「ぁ、ン……」 でも賢也さんの手も唇も舌も、あわく撫でで慰めてくれるみたいなやわらかさで、さっきの強烈な快感とは違うから、刺激に心地よく酔う余裕も保てた。 「賢也、さん……これ、は……ちょう、ど、いぃ……ン、うっ、」 「ン……わかった」 両方の乳首を優しく甘やかに吸って、撫でて、俺の底にある劣情を呼び起こしながら、時折唇にキスもしてくれる。 抱きしめあって、ふんわりした唇でおたがいを食みあって、心から溢れていく熱情と快感を一緒に分かちあって、再び愛情の波に呑まれていく。 賢也さんは俺の感情も無視しないでくれる。 抱きあううえで、おたがいに気持ちいいと想えることが大事だと、努めてくれる。 本当は賢也さんは、さっきみたいに獰猛に欲望をぶつけられないと不満かもしれないのに、俺がついていけるようになるのを待ってくれているんだ。 「賢也、さん……ごめんね。でも想いやって、くれるの……嬉し、です。身体だけ、じゃなくて……心でも、ちゃんと、結ばれようって、してくれるセックス……嬉しい、」 胸をねぶってくれる賢也さんの頭を抱いて、自分も彼のこめかみや頭にくちづけて、舐めて、吐息を洩らしながら鈍い快楽に揺さぶられていると、彼も俺の胸から唇を放して小さく笑った。 「最初に会った日、なおが教えてくれたんだよ。……これがセックスだって」 首筋と鎖骨も、また吸って、噛んでくれた。 頬も舐めて「……愛してる」と囁いてくれる。 背筋をぞくぞく、と愛しさが駆けあがっていって、背中と、両腕と、胸と……あちこちがひりひり痺れた。 言葉でも愛撫をしてくる彼の巧みさに、うち震えながら戦慄する。 「……本当はもっとなおの身体を触りたいんだけど、なおはどう?」 ぼんやり朦朧としながら賢也さんを見返して、言葉を咀嚼した。……どう、って。 おたがいの腹のあいだで、ふたりして充分に猛っているのも明らかなのに、まだなにかするの……? 「触る、って……どんなところ?」 「腕もお腹も、背中も腿も、手足の指の一本一本も、こことここも」 左掌でお尻を覆って引き寄せられ、おたがいの性器が擦れた。 顔面が一瞬で燃え盛る。 「も、もちろん……嬉しい、です、けど……明日にすこし、分けてもらって……いいですか」 「ふふ。なお、初々しいね」 「経験、不足なのも……自覚、してますけど、でも……初心者の俺に、賢也さんは……だいぶ上級者すぎます」 「そこまでかな」 「はい……こうして抱きしめてもらってるだけで、腕と掌の力加減とか……もう、気持ちいいんですよ。賢也さんは、わからないだろうけど」 「抱きしめてるだけで感じてくれてるの?」 賢也さんの顔がすごく驚いている。 「うん……賢也さん大きくて温かいから」 「まいったな……」 苦笑しながら賢也さんが俺をいま一度ベッドの上へ横たえてくれて、枕にきちんと頭をのせて仰向けに寝かせてくれる。 呆れて、抱きしめるの嫌になったのかな、と不安に思っていると、ナイトテーブルからローションボトルを取り、俺の右足を持って膝を折りつつ内腿にくちづけてくれた。 「……まあ、あとすこしで日づけが変われば〝明日〟だよね」 「え」 「我慢してあげられそうにないから、朝までかけてゆっくりしていこうか」 ローションを右掌にとろりとだした賢也さんが、俺の脇腹に舌をつけてねぶりながら奥に指を忍ばせてそっと塗りつけていく。 「は、ぅあっ……」 窄まりを賢也さんの指でなぞられて、さすがに緊張して上半身が強張るのに、脇腹はくすぐったくて気持ちよくて、羞恥心と快感が混乱した。 だけどわかる。 賢也さんが、男を……俺を、抱くことに、躊躇いを感じていないこと。 女性器とは違う場所に挿入するのに、指先の凜としたしぐさだけで、怯えも迷いも一切ないって、伝わってくる。 お腹もおざなりにしたりせず丁寧に愛おしげに味わってくれて、おへその周辺と、奥も舌先でくすぐってくれる。 そうしながらローションを塗りつけた窄まりにすこしずつ指を挿入れてくれるから、やっぱりピアニストみたい……、と当惑して震えた。 どうしてどっちも気持ちよくしてくれるの。できるの。 「ゃ、ンっ……賢也、さンっ……」 はあはあ、と息が荒くなると胸やお腹もまた大きく上下してしまう。 賢也さんはそれすら愛おしむみたいに、お腹と腰を撫でつつ左側の脇腹も舌でたどって、吸いあげてくれる。 お腹まで性感帯なのかな。 賢也さんが触ってくれるところ、全部がどんどん、知らなかった快感を覚えて開花していく。 乳首みたいにわかりやすくかたくなるわけでもないのに、賢也さんも俺のおへその縁を舌でなぞりながら熱い吐息をこぼしてくれる。 賢也さんが愛おしんで、慈しんでくれるから、自分の身体の他愛ない箇所にも意味が生まれるんだ、とわかる。 「……辛くない?」 右足の内腿を囓りながら訊かれた。 「ぅ、は、い……嬉し、くて、気持ちいい、です……賢也さんこそ、大丈、夫……ですか」 「まだ不安なの」 賢也さんの気持ちを疑うわけではない。けど、考えないようにしていても、賢也さんがいるお腹の、そこのところに、俺のも……あって、濡れているのも隠しきれないから。どうしても羞恥心はある。 「……恥ずかしい、のは……ゆるして」 ただでさえ裸の自分の股のあいだに賢也さんがいるっていう体勢を耐えながら理性を保っているんだもの、恥ずかしくて震えるのは、許されたい。 「かわいい」 呟いて微笑んだ賢也さんが、左手で俺の性器を押さえてゆっくり顔をおろしていき、口に含んだ。 雪明かりのさす薄暗いベッドの上で、スローモーションの幻みたいにその光景を眺めていた。 息も止まっていた。 思考力なんて無論死んでいた。 なにも理解できないのに、じん、じわ、と気持ちのいい疼きだけは生々しく生まれて、自分がいま幻でも理想でもない現実に居るんだ、と教えてくれる。 「は、ぅンっ……けん、やさっ……」 舌が……賢也さんの、舌が、根もとから先端まで舐めあげながら、舌のかたさというか……力加減を、巧みに変えてくれるから、敏感な箇所以外も、全部が、気持ちいいっ……。 「だめ、賢也、さ……んぅンンっ、……」 「こういうことも初めてなの」 舌先だけで裏側の根もとから先まで、つつ、と線を描くみたいに舐めあげられて背中から足裏まで快感の電流が走り抜け、気絶しそうになった。 「は、はじめて……に、決まって、ます、」 「……そうか」 カリの部分をちゅと吸われて、ぞわっと快感が走り抜けて肩が震えた。 もうなにを、どこをどうされても感じる。自分の細胞まで全部が性感帯になってる、と思ったら怖くなった。 でも怖くても、恥ずかしくても、賢也さんが求めてくれるならもらってほしいし、俺も、賢也さんを感じたい。 たくさん欲しい。 こんなことまでしてもらって、一生の想い出だよ。 「ふ、ぅっ……賢也、さん……っ」 賢也さんの口に性器を先端からしっかりと含まれて、裏側を舌で撫でながら吸いあげられた。 おまけに指先で窄まりの奥まで擦られて、そこがすごく気持ちよくて、「あぁっ」と声がでる。 枕を掴んで身を捩って、タンクトップの裾を噛んで、腕も脚も強張って力んで気持ちよさを受けとめながら懸命に抗った。 「は、……むり……だめ、ぅ、……はぁ、」 賢也さんの唾液が摩擦も滑らかにさせて、やわやわしゃぶりあげられるたびに腹の奥までぞわぞわ快感が蠢いてひろがる。 じっとしていられなくて足をじたばた動かしている自覚はあるけど、もう、迷惑とか気づかいとかそういうの、考えられない。 わかんない。 「きもち、い……とこ、……ぜんぶ、しちゃ……だめ、……ゃ、」 お尻も、気持ちいいって知らなかった。正直、昭之とのセックスでは達したこともなければ勃ったこともほぼない。 挿入されているあいだ痛みと違和感があるだけで終始萎えていたし、はやく終わってほしいといつも思っていた。 「こんな、……むり、」 抗いきれずに身を縮めて力みながら達してしまった。 心地よすぎて不快ですらあった快感が爆ぜて解放された瞬間に、ようやく腹の底に溜まっていた欲望が消えて途方もない絶頂を味わい……ゆるゆると、働きだした頭で、賢也さんの口に出してしまったんだ、とわかってきた。 「賢、也、さ……、」 目をひらいたら涙だらけで、ぼやけて見えなかった。 枕から右手を放すと、力みすぎたせいか指が痛くてひりひりする。どうにか持ちあげて甲で涙を拭い、見おろすと、賢也さんが俺の上に戻ってくるところだった。 「……大丈夫?」 肩のうしろに両腕を通して抱き竦められながら、右頬を吸われた。 「う、ん……賢也さん、は……口のなか、気持ち悪く、ないですか。水……飲んだ、ほうが」 「なおの味を知られて嬉しいよ」 ぞくぞく、とまた背筋が震えた。 「自分で、言ったくせに……俺、賢也さんに、……愛するためだけの行為って、意味……教えてもらってます」 自分がしてもらうと申しわけなさもあるけど、賢也さんのは俺も身体のなかに溶かしこんで自分の一部にしたいって想えてしまう。 義務とか我慢の行為ではない。 自ら欲しいって想う。 朦朧として息を整えながら、賢也さんの首に腕をまわして「……俺も、賢也さんの、舐めて、飲みたい」と伝えたら、こたえるみたいに賢也さんも強く抱き返してくれた。 「……嬉しいけど、なおが可愛すぎて俺もそろそろ限界だから先に挿入れさせて」 甘えるように首筋を噛まれて、「ンっ、」と喉が鳴った。 「はい……それは、俺もです。……賢也さんが、触ってくれてから……奥が、変で、」 「変? 痛かった?」 「ううん……気持ち、よくて、おかしくて……止まらなくて」 賢也さんの指の感触がまだ奥に残っていて、気持ちいい箇所をくすぐられているみたいに疼いている。 このもどかしい疼きをどうしたらいいのか……自分では、わからない。 「おかしいことはないでしょう」 賢也さんが身体を起こしてナイトテーブルからゴムを取り、苦笑しつつ準備してくれる。 俺も起きて、胸を押さえて呼吸しつつ、グラスの水をもらった。 「……おかしいです。慣れればお尻も気持ちよくなれるって、知識はあったけど……こんなの未経験だから。まだ奥がぐずぐずして……賢也さんの指は、ほんとに、……すごいです」 「……。そう」 抱き寄せてベッドへ横たえてくれた賢也さんのしぐさが、お姫さまを寝かせてくれる王子さまみたいで胸まできゅとときめいてしまう。 ほのかに微笑む王子さまは、俺の脚を持ちあげてお尻に腰を寄せる所作までなぜか上品で、まだ快楽の残り香に包まれて意識が蕩けているのもあいまって、うっとり惚けてしまう。 どんなにいやらしい行為も、賢也さんとしていると愛しさと至福感に覆われていくから不思議だ。 賢也さんが俺のはだけていたタンクトップを胸が出る位置まで整えながらたくしあげてくれて、また右の乳首を銜えてくれる。 「ン、ぁっ……」 そして見えていないはずなのに、器用に指で確認してひろげつつ、性器を俺の奥へそっと、優しく沈めていく。 なんでこんなに優しく、上手にできるの……、と翻弄されているうちに、俺の羞恥心を押しひろげて奥まで身をあわせ、快楽と至福一色に包みこんでくれる。 賢也さんの想いに襲われている、と想った。 顔から髪の先まで熱くて、全身が賢也さんの熱に巻きとられて縛りあげられて、気が狂う。ばかになる。 「けん、やさっ……」 賢也さんの腰が上下して、一緒に揺れているのすら、すごく官能的でいやらしく感じた。 嬉しい、幸せ、いやらしい、と想ってしまうと、その思考も自分を昂ぶらせて、余計に昂奮して「は、ぁあっ、」と千切れそうな引きつった声がでる。 しかも信じられないぐらい気持ちいい。 賢也さんが押しあげてくれるたび、奥で燻っていた疼きが痺れて、ひろがって、大きくふくらんで、溢れて破裂しそうになる。 「なん、で……こんな、……知らな、いやっ……きもち、すぎ、ぅっ……」 「なお」 賢也さんの背中に縋りついて、彼と自分の腹のあいだでこすれる性器にまで刺激が加わって、たまらなくて、息ができなくて、悲鳴ばかりが出て喉が痛い。 賢也さんはゆっくり腰を進めながらも、俺の耳や頬を噛んで、乳首にまで指で愛撫を与えてくれるから、どこもかしこも休まる場所がなくて、全部気持ちよくて、息が切れて死にそう。 気持ちよすぎても辛い。 でも幸せで、幸せだと想うとそれも息苦しくて、涙も止まらなくなる。 「賢也、さ、や……好き、……大好きっ……」 「うん……俺も愛してるよなお」 賢也さんが穏やかな声音で囁きながら、奥深くまでぐうっと求めてくれる。 賢也さんの熱情を限界まで俺のなかに刻みつけてくれる。 「ゃ、ンはぁっ……」 気持ちよくて苦しくて辛いのに、やめてほしくない。 一生こうしていたい。 身体の表面だけじゃなくてなかまで全部賢也さんのものになりたい。 触っていてほしい。 抱きしめていてほしい。 支配されたい。 ずっとこのままでいい。 離れたら死ぬ。 「ふ、ンっ、……ぁあっ、」 ゆるく達し続けていた果てに、大きな絶頂がやってきて昇りつめ、思いきり劣情を吐きだして賢也さんに縋りついたまま出し切って震えて脱力した。 俺の耳たぶを吸い、唇に噛みついて舌を吸いあげながら、賢也さんも腰でしずかにリズムを刻みつつうち震えて、俺を追いかけるように達してくれる。 自分のなかで賢也さんがふくらんで、欲望と愛情を満たしてくれたのがちゃんとわかって、泣いて悶えながら、抱えきれないほど膨大な幸福感に浸った。 「なお……」 好きだよ、と賢也さんが雪音の傍らで囁いて、ついばむようなくちづけを続けてくれる。 「……賢也さんは、……王子さまみたい」 陶然として陽だまりのような至福に浸かりながらやっと言葉にできたのが、そんなおかしな想いだった。 賢也さんが喉で笑う。 「……なおもすごく初々しくて可愛い王子さまだよ」 こんなおかしな妄想の例え話ですら、この人は俺を女の子にしない。 お姫さまじゃなくて男なんだって、ごまかさずに見つめて、認めて愛して、抱き竦めてキスをしてくれる。 「……王子さまが、王子さまに恋する話なんて……俺、知らないよ」 涙を拭いながら苦笑いしたら、すこし強引に舌を吸って言葉を飲まれてしまった。 「……じゃあふたりでつくろう。俺となおで」 汗ばむ身体を賢也さんが両腕で包みこんでくれながら、甘えるように俺の胸に顔をこすりつけてくる。 誰も知らなくていい。俺たちふたりだけが知っていて、大事に育んでいく物語だよ――と、雪も、冬風にも届かないぐらい小さな甘やかな声で、告白をくれる。 ←BACK//TOP//NEXT→ |