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『 【1巻発売記念SS】怠惰の魔女スピーシィ『菜園騎士クロ』/あかのまに』のエピソード「菜園騎士クロ」の下書きプレビュー

【1巻発売記念SS】怠惰の魔女スピーシィ『菜園騎士クロ』/あかのまに

菜園騎士クロ

作者
MFブックス
このエピソードの文字数
2,520文字
このエピソードの最終更新日時
2024年12月23日 17:26

 怠惰たいだの魔女、スピーシィに仕える“騎士きし”となったクロ。

 もちろんその言葉のとおり、いさましい騎士として彼女に仕えることになる――などとは、まったく思ってはいなかった。

 短い付き合いであるが、彼女がそういう人間ではないことはよく分かっている。

 騎士というよりは従者として、雑務をこなすことになるだろうということは想像がついていた。

 しかし、まあ、


「まさか、菜園を手伝うことになるとは……」

「正確に言えば実験所ですけどね」


 さすがに、農作物の世話までやることになるのは予想外だった。

 クロはスピーシィと並んで、エプロンに小さなシャベルを握りながら、とうの屋上に並ぶ小型の菜園を前に、複雑そうな表情を浮かべていた。


「でも、大事なことですよ? この島の食糧しょくりょう事情がかかってますからね」

「軽く見ているつもりはないですが……そうなんですか?」

「この島、がありますからねー。それにあった作物の改良が必須なんです」

「なるほど」


 確かにそれは、決して甘く見てはいけない仕事のようだ。

 この追放島という背景がある以上、おおっぴらに取引もできない。

 自分で食料を確保出来ないと死活問題だろう。

 クロは自分の仕事の重要さを認識した。


「気を引き締めます。俺はどう手伝っていけばいいでしょうか?」


 塔の屋上、その一角を埋め尽くす菜園には様々な種類の植物たちが育成されたはちが並んでいた。


「そうですね、右端の赤い実がなっているのは、メルトという食物です。ちょっと育ちが悪いんですよね、小さい実を取り除いてもらえますか?」

「なるほど、こちらは?」

「ポルモ豆ですね。育成事態は悪くないんですが……少し魔力の影響を受けて、変色してるんですよね。実そのものまで変質していないか、確認のため幾つか採取しておいてください」

「承知しました。こちらは?」

「アカコンですね。最近、西から仕入れた種を試しているんですが……ちょっとまだ動かさないようにしてください。経過を確認したいです」

「わかりました。ではこちらは?」

「マンドラゴラですね、引き抜くと死にます」

「わかりまし――――死?」


 クロは動きを止めた。


「後は、細かい雑草を引き抜いておいてください。防虫用の魔術符まじゅつふもあるので貼り直しも――」

「待ってください、スピーシィ様」

「なんです?」


 クロの制止に、スピーシィは不思議そうに聞き直す。

 クロは複雑そうな表情でうなった。


「……もう一度確認しますね。こちらは?」

「メルトの実ですね。うまく出来れば果汁たっぷりで、生でも食べられます」

「なるほど確かに美味しそうですね。それではこちらは?」

「ポルモ豆ですね。こちらは栄養たっぷりで、スープに使うとほくほくとして美味しいです」

「それはなかなか楽しみですね。それではこちらは?」

「アカコンですね。西ではメジャーな食物なんですが、こちらの気候ではうまく育つか分からないんですよね。育てば、なかなか病気に強くて良い食料になりそうなんですが

「素晴らしいですね。それでこれが?」

「マンドラゴラです。叫び声を聞くと死にます」


 クロは天をあおぎ、そしてうなずいた。


「スピーシィ様。食物と食物の間に『死』を置かないでください

「詩的ですね。死だけに」

「スピーシィ様」


 クロがにらむと、スピーシィはわざとらしく口先をとがらせて「だって」と続けた。


「マンドラゴラは貴重きちょうな魔術実験の材料なんですけど、繊細せんさいで、育成場所が限られるんですよぉ」

「それはわかりますが、せめてもう少し場所、区切りましょうよ……」


 他の植物の世話の間にうっかりコレを引き抜いたら大惨事だいさんじだ。


「繊細なくせにさみしがり屋で、他の植物がいないと育たないんです」

「魔法植物は摩訶まか不思議ふしぎですね……」


 マンドラゴラの生態についてはクロはもちろん詳しくはないが、スピーシィがそう言うならそうなのだろう。

 しかし、最初気を引き締めたときとは別の緊張が走ることになるとは思わなかった。


「まあ、ちゃんとマンドラゴラの鉢は区切っているので、大丈夫だとは思います。クロくんはそれ以外の場所をお願いします」

「承知しました」

「ああ……それとアカコン、一本だけ収穫しといてもらえますか? 確認したいので」

「こちらですね、分かりました――」


 言われるまま、クロは地中に埋まるようなカタチで育っているアカコンの頭に手をかけて、それをゆっくりと引き抜いた。そしてその瞬間


『――――――!!!!!』


 凄まじい絶叫が、塔の屋上に響き渡った。


         ◆◆◆


「……びぃっくりしました」


 その声を離れた場所から聞いたスピーシィはまばたきする。

 魔術防壁を素早くかけたので問題はなかったが、それでもまだ耳がじんじんした。

 今のは間違いなくマンドラゴラの死の絶叫である。

 まあ、死の絶叫といっても、さすがに本当に死ぬわけではない。

 どこかの昔、その凄まじい声があまりに大きすぎて、イタズラでそれを引き抜いた犬が驚きショック死してしまったのがいわれらしい。

 ヘタすれば鼓膜が破けるような凄まじいショックなのは違いない。


 クロが引っ張ったそれは間違いなくアカコンだった。

 実際、彼がぶっ倒れた状態で握っているソレはアカコンの姿をしている……が、


「…………んん?」


 よく見れば、若干アカコンの胴体が変形している。

 そこには苦悶くもんの表情を浮かべた人間のような顔が浮き出ている。

 ――まるでマンドラゴラのように。


「まさか、異種交配……? マンドラゴラと?」


 近似種きんじしゅと掛け合わせて植物を改良していく手法はあるが、それがこの屋上で自然に発生したと言うことだろうか。

 しかし、アカコンとマンドラゴラが近似種だったと?


「これは新発見です。凄いですよクロくん! …………クロくん?」


 スピーシィは興奮しながら、ぶっ倒れたクロに呼びかける。

 だが、返事はなかった。

 しばらく彼の身体を揺すった後、スピーシィは口に手を当てて、おののくように言った。


「死んでる……」

「生きてます……」


 うめき声をあげながら、クロはアカコンを握りしめたまま顔を上げた。


 その後、食物用のアカコンを育てる傍ら、マンドラゴラとの交配でより効率よく、頑丈がんじょうなマンドラゴラを育てることができないかとスピーシィは実験を繰り返す事になる。

 その結果、とんでもない植物災害が塔で発生することになるのだが、それはまた別の話だ。

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小説情報

小説タイトル
【1巻発売記念SS】怠惰の魔女スピーシィ『菜園騎士クロ』/あかのまに
作者
MFブックス
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