お声がけをいただいたとき、「らんまん」「ブギウギ」が決まっていた。さらにその次の朝ドラも、実在の人物をモデルとした戦前戦後の話になると聞いた。そうなると時代物でモデルがいる作品が続く。ならば現代劇でオリジナル作品がいいのではないかと思っていたのだが、こんなことガイドブックで言うのも大変憚られるが、昨今の朝ドラのオリジナル現代劇は良くも悪くも、いろいろな意味で注目される。そのため正直オリジナルを描くことを躊躇した。それでも描くべきだと強く思ったのはオンエア中に2025年を迎えること。その年は阪神・淡路大震災から年目の節目の年になる。そして制作するのはNHK大阪。ならばその出来事としっかり向き合うべきではないか。そう思い、改めて1995年1月17日について詳しく調べ直し、やがてあるエピソードに出会った。震源地から少し離れ、比較的被害が少なかった兵庫県の丹波(たんば)地域に住む女性たちがおむすびを握って、被災地に届けたという話だ。涙をこらえながらおむすびを握ったという女性のインタビュー動画を見て、描くべきことが見えてきた。
私は脚本を描く際、必ず登場人物が何かを食べるシーンを意図的に出す。なぜならそこにキャラクターがにじみ出るから。というのも、両親が焼き鳥店をやっていて、子どものころから店を手伝っていた。学生になっても、それは続き、何だかんだで調理師の免許まで取らせてもらった。働きながら、お客さんがおいしそうに焼き鳥を食べたり、ビールを飲んだりしているのを見るのが好きだった。そして何かを食べるという行為は、その人の性格や人生が出ると強く感じていた。この原体験から脚本を描く際、食にこだわるのだと思う。なのでこのお話をいただく前から、もし自分が朝ドラを描くとしたらテーマは「食」だと漠然と考えていた。ただ過去、朝ドラで食をテーマにしたすばらしい作品が数多くある。食という切り口で新しく何ができるのか? そう考えているうちに栄養士さんの仕事に辿り着いた。栄養士さんは、オギャーと生まれたあとの離乳食、小学校・中学校の学校給食、高校・大学の学食、会社に入れば社員食堂、そして入院すれば病院食と、まさしく赤ん坊から高齢者まで、人生に長く深く関わる稀有な職業だ。またコロナ禍のとき、自宅から動けない患者さんのために、配給の献立を考えたのも栄養士さんだった。またその発展に大きく関係しているのが阪神・淡路大震災や東日本大震災などの災害だと知った。
徐々にテーマとモチーフの方向性が見えてきたころ、もう一人の制作統括である真鍋 斎(まなべいつき)さんが合流した。真鍋さんは今までNHKを代表する数多のドラマに携わってきた方だ。企画メモを客観的に見ていただき、フワッとしていた部分に芯を注入してもらい、どんどんやるべき道筋が明確になっていった。そんな中で特に意識したのは平成という時代について。平成史をひもとくと必ず「失われた30年」という言葉がしきりに使われている。確かにあのころ、経済が低迷し、社会全体が暗かった。しかしそんな中でも逞しく、軽やかに肩で風を切って歩いていた女性たちがいた。それがギャルだった。ギャルが朝ドラのヒロインをやったらどうなるのだろう。いろんな意味でハレーションが起きそうな予感もあったが、それ以上にギャルという存在にはワクワクする何かが備わっている気がした。それが確信に変わったのは、朝ドラ史上最強のヒロインだと私が勝手に言っている橋本環奈さんにヒロインを務めていただけることになったからだ。ただ単に明るいギャルではなく、さまざまな葛藤を抱え、それでも前を向いて、しっかりとひたむきに生きる。そんなヒロインを橋本さんに演じていただければ、今までにない朝ドラヒロインになるはずだ。そんな思いを抱きながら、さらにキャラクター造形を深めていった。