【同人女の戯言】コロナ禍私はビッグサイトにいた

 こんにちわ、同人女です。
 今回の小ネタは、なんかこう、ちょっと社会的な内容を含むので、書くことをすげ~迷った話なのですが、でもあの光景を見た同人女はきっとごくわずかなので、記録の意味を込めて、記憶が残っているうちに書き留めておこうと思った次第です。

 コロナ禍での同人活動の話です。

 なお、先回りして言っておきますが、私はマジで狂人(くるんちゅ)です。同人モンスターです。趣味に命懸けで生きています。
 正しいことをしたとは思っていませんし、賛同が得られる話でもないと思います。「つらかった」とは書きますが、当時「活動しない」という選択をした人を咎める意図はありませんので、よろしくお願い致します。

 COVID-19の名前を最初に聞いたのは、2019年の年末頃だったと記憶しています。当時は未知のウィルスということで、社会が緊張に包まれたことを覚えています。

 私は、翌年に「推しCPの個人主催プチオンリー」を控えている、ごく普通の同人女でした。主催者さんにお声掛け頂いて記念アンソロジーにも寄稿させて頂くことが決まっており、唯一無二の機会に胸を躍らせていました。
 しかし、お察しの通り、プチオンリーは開催されませんでした。
 感染予防のために、主催様のご判断で延期となったのです。2020年の5月のことでした。

 ほんとに、ガチ泣きしました。推しが死んだときと同じくらい泣きました。ひとまず延期になるというお話だったのですが、主催様の都合で最終的には中止の決定が下ります。2020年は開いて赤ブーという企画が生まれた年ですが、まだ当時企画の全容がよくわかっておらず、また小規模なカップリングだったために投票もあまり見込めないという事情もあり、私は唯一にして最大の機会を失ったのだと絶望しました。アンソロジーはエアブーで発行されたものの、郵送で届いたアンソロジーを見てまた泣きました。
 つらすぎてツイッターのアカウントを見ることもできませんでした。推しカプを見るのも無理になりました。アンソロジーも、読まずに本棚にしまいました。

 自慢じゃないですが、私は同人活動のために生きていました。同人誌を出す以外の趣味もなく、生き甲斐もなく、職場さえ「原稿の妨げにならない」という条件で選んでいたレベルです。
 イベントは中止になり、社会には自粛ムードが漂い、推しを見る気力もなく、私は文字通り、何もかもを失い、途方に暮れました。

 そんな折、ただベッドの上で大の字になって日々を浪費していた私に、友人がメッセージをくれました。「面白いソシャゲあるんだけどやらん?」みたいな内容でした。私はソシャゲをやったことがほとんどなく、大して興味もなかったのですが、あまりにも無気力かつ暇だったので、友人の口車に乗せられてぽちっとダウンロードしました。

 で、想像に難くないと思いますが、そのソシャゲは、虚無の生活を送っていた私の心の隙間にクリティカルヒットしました。

 気がついた時には、ツイッターのアカウントを作り、ひたすら淡々黙々と二次創作を書いていました。リリースされたばかりのソシャゲは一世を風靡し、ファン数も多く、作ったばかりの新垢にもあっという間にフォロワーが増え、書いた作品には(私としては)びっくりするくらいブックマークが入りました。
 といっても、私の心の中にはまだ、中止になったプチオンリーのカップリングが住んでいました。だから、流行りのソシャゲに対して私は「避難所」とか「出稼ぎ」のイメージを抱いていたと思います。本命じゃない。本妻は別にいる。でもちょっと、寂しさを埋めるために愛人を作ってみたんだよ、みたいな。だから、わざわざ同人誌を出そうとは思いませんでした。pixivにちょちょいと投稿して、半年くらいしたら垢消ししてまた本妻のところに戻ろう。そう思っていました。

 しかし、2021年5月のGW、イベント中止が相次いでいるにもかかわらず、赤ブーはそのソシャゲのオンリーイベントの開催をアナウンスします。スパコミ内のプチオンリーとかじゃないです。ビッグサイト貸し切りの単一イベントです。そのくらい爆発的なブームだったんです。これ書くと、どこジャンルの話かわかっちゃった人も普通にいると思うんだけど、とりあえずここでは「ソシャゲ」という名前で呼ばさせてくださいね。この頑なな「ソシャゲ」呼称がもう答えみたいなもんですが(わかる人にはわかるやつ)

 その告知を見て、私は「出よう」と思いました。
 単一イベントだぞ? こんな機会、同人人生で二度とないかもしれない。同人誌も、気付けば1年以上書いてない。
 イベントがなくなって、推しのプチオンリーを失って、1年経っていました。屍のように生きるのは限界でした。COVIDだか何だか知らんが、感染して死んだら死んだとき、親兄弟に迷惑をかけたらかけた時、私は自分の命より公共の福祉の感染防御より今この一瞬の同人活動の方が大事だ。
 2021年当時は、まだワクチンも治療薬もありませんでした。
 緊急事態宣言が発出され、会社は一斉に在宅勤務になり、電車はがらんどう、新宿の地下道も銀座の大通りも一切無人、そんな社会でした。
 その状況で、何言ってんだ正気かお前って感じですが、そもそも最初から正気だったら同人活動を10年もやっていません。私は、私の意思で、私の判断で「狂う」ことを決めました。コロナ禍、緊急事態宣言が発出される社会で自粛「しない」という決断をした瞬間です。

 もちろん、私がどう狂おうが、事実として2021年のGWの東京は緊急事態宣言が出ていました。
 ビッグサイトは使用不可になり、赤ブーの公式で「イベント延期」のアナウンスが出ます。
 しかし私は一切心乱されず、四ヵ月かけて約16万字、文庫本二冊分の原稿を書き、表紙を神絵師に依頼し、印刷会社に入稿し、という手順を淡々となぞるのみでした。
 「イベントの開催は絶望的ですが、でも私は新刊を出します、そしてどこかで頒布します。必ず会場に行きます」とpixivに告知しました。さすがに怒られるかと思いましたが、苦言マシュマロなどは来ませんでした。
 そして、GW明けの土曜日だったか日曜日だったか、ちょっと記憶が曖昧なんですが、緊急事態宣言が明けた直後の週末、赤ブーはイベントの振り替え開催をアナウンスします。
 日程が急だったこと、緊急事態宣言直後の東京でのイベント開催、当然ほとんどのサークルが「参加を自粛する」という判断を下しました。

 しかし私はビッグサイトに行きました。サークルチケット握り締めて行きました。何が私を突き動かしていたのかわかりません。推しへの愛だったかもしれませんが、違ったかもしれません。何故なら本命ジャンルが別にあって、そのソシャゲは私にとってただの「現地妻」だったから。赤ブーという企業さんが頑張ってくれることに対するリスペクトだったのかもしれない、今を精一杯生きたいという刹那主義的な感覚だったのかもしれない、あるいは社会に対する反発感情だったのかもしれません。

 足を踏み入れたビッグサイトは、びっくりするくらい、無人でした。
 同人誌即売会のイベント会場に足を運んだことがある方ならわかると思うのですが、同人イベントには「島」というものが無数にあります。40~50個くらいかな? 長机がぐるっと長方形に並べてあって、それぞれの座席に出品者が座ります。
 ひとつの島に、出席者が1サークルいるか、いないかでした。
「こんだけ誰もいなけりゃ、感染もなにもあったもんじゃねえな」と思うくらい無人でした。ここまで来といて感染が怖いとかそんな感情ありゃしないんですが、まあそれでも「大丈夫だな」って思いました。歩くと足音がビッグサイトのホールに響き渡ります。私は隣席に挨拶することもなく、っていうかたぶん同じカップリングでの参加者はひとりもいなかった気がするので、ほんとにひとり、淡々とテーブルクロスを広げ、本を並べました。

 開場前に、赤ブーのアナウンスが流れます。サークル参加者さんには馴染み深い「おはよーーーーございます!」から始まるアナウンスです。
 そのアナウンスは、オリジナル版でした。ビッグサイトを埋め尽くす、流行りのソシャゲサークル達のために台本が書き下ろされ、収録されたのでしょう。
 誰も聞いてないけど、欠席者さんの分まで私が聞こう、と思いました。
 アナウンスが終わってからですが、同カプの方がひとり、16スペースくらい向こうだったかな、隣の島に座るのが見えました。知らない方だったので挨拶はしませんでしたが、ちょっと寂しさが紛れたのを覚えています。

 開場時刻になります。開場の拍手をしながら、「そういや誰か来るのかな」と思いました。サークルがこんだけスッカラカンなんだから、一般参加者も来ないやろ、ということに今更気付いたのでした。私は別に人気作家ではないし、ツイッターアカウントもあるけど誰もフォローしてないし。
 そう思ってぼーっとしていると、誰かが私のスペースに向かってくるのが見えました。
 私はちょっと嬉しい気持ちで、いそいそと本を用意し、年齢確認をし、お金を受け取りました。実に1年ぶりだったので、手際は悪かったかもしれません。顔を上げると、2人くらい待っている人が見えました。次の人にも本を渡します。列が4人になってました。焦り始めますが、年齢確認をすっ飛ばすわけにもいきません。列は最終的に3スペース分(たぶん3メートルくらい)になりました。
 もちろんこれは、参加サークルが少ないから、目当てのサークルも少なく、人が集中するので列ができた、という現象です。
 でも、自サークルにこんなに長い列ができたのは人生ではじめてでした。
 隣も隣もその隣も、みんな欠席でよかったな、と思いました。欠席じゃなかったら大層迷惑をかけていただろうから。まあ、みんないたら列なんかできなかったと思うけど。
 そうこうしているうちに、用意した本がなくなったために、私は昼前には会場を後にしました。

 満足感は、なかったです。
 無人のビッグサイトを振り返り、しんどいなあと思って、ひとりで泣きました。来てくれた人の目的は、私の本を買うためだけだったかもしれません。それくらいサークルが少なかったので、マジであり得る話です。

 でも、このイベントは、本当はもっと盛り上がるイベントで
 みんながオリジナルの赤ブーアナウンスを聞いて大喜びして
 私のサークルには列なんかできなくて

 それが正しい姿だったはずだと思うと、悲しくて悲しくて、敢えて自粛せずにサークル参加したことで、余計に傷ついたのではないかと思ったほどでした。無人のビッグサイトはそれくらいトラウマになりました。だから、私は今日まであのイベントの出来事について誰にも話しませんでした。どのジャンルの話か、わかる人にはバレてると思うけど、たぶん同人アカウントで、ソシャゲジャンルの女として言及することは、今後も一切ないと思います。

 その後も私は、ひたすらサークル参加を続けました。
 三か月後には大阪に遠征します。秋も、冬も、翌春も、ひたすら新刊を書き続け、サークル参加をやめませんでした。ワクチンや治療薬が世に放たれ、自粛ムードが少しずつやわらいで、欠席するサークルが少なくなり、イベントが元の活気を取り戻したような気がする、その過程をひたすら見守りました。
 今が2023年だから、もう年単位で「狂い続けて」いることになります。まあ、今となっては「狂って」いる扱いもされないかな、多分。

 リリース3周年を控えているソシャゲは、流行りも落ち着き、サークル数も流行りのコミックやゲームに劣るようになり、きっと二度とジャンルオンリーが開かれる規模になることはないでしょうし、あの赤ブーのアナウンスを聞くこともないでしょう。あの時会場にいた、ほんのわずかなサークルだけが耳にしたまぼろしみたいな「ジャンルの最盛期」の思い出です。
 気付いたら同じジャンルに3年居座り、個人誌につけているナンバリングは先日13になりました。アンソロジーを主催したり、再録出したら1000ページになったり、「こんなに熱心に同人活動したジャンルって過去にひとつでもあったっけ?」となるレベルになっています。
 もうさすがに現地妻だから、いつか別れて本妻のところに帰るつもり、なんて言えない感じになっています。むしろ本妻のプチオンリーがなくなって傷心で倒れていたところを、時間をかけて優しく癒してくれた恩人みたいになってきてる。今ソシャゲちゃんに「本妻と離婚してくれないの?」って言われたら俺はどうすればいいんだ。やらかしたクズ男の気持ちが今ならわかる。

 益体ないダラダラしたお話なので、特にオチというか、締めることができるようなかっこいいセリフはないんですが、たかが同人活動してる女でさえこんな悲喜こもごもがあったんだから、この数年間は世間の人にとっていっぱいいろんなことがあったと思います。私も同人活動以外のフィールドでは、職場が倒産寸前までいって首を切られることになったり、結婚したり妊娠したりライフイベント目白押しで、都度社会を恨みました。
 みんな、後悔がないように、つよくいきようね。

おしまい。

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コメント

1
件の本屋さん
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👏伝わってくる虚無感に卒倒しそうになりました……

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