【同人女の戯言】上を見たら死ぬ
同人活動とは、趣味である。私は趣味で小説っぽいものを書いているだけのごく普通のOLで、別に文学を専門に勉強したこともないし、きっと自分の文章で飯を食うような身分にはなれない。専門は薬学だし、得意科目は有機化学だし、持ってる資格は普通自動車免許とTOEICと薬剤師免許だ。でもって、趣味で同人誌を書いている。職場でぼーっとデスクワークをしながら、思いついた短歌をノートにしたためる、そしてSNSにぽいっと投稿して、ちょっぴり2〜3のいいねを貰ってニッコリする、そういうささやかな趣味人である。
ささやかな趣味人であるが、このたび、ここ1年くらいの同人活動の再録本を出そうかな〜と思ったら、1000ページのクソ鈍器の発行が約束されてしまい、マジかよ……と思っている。誰やねん、1年で68万文字も男の子と男の子がいちゃいちゃちゅっちゅしてるBL小説てんこもり書きくさったのは。印刷代が2ヶ月分の給料超えるんだけど。手取りだったら3ヶ月分なんだけど。
婚約指輪かよ。私が貰った婚約指輪より印刷代の方が遥かに高いわ。
私はオタクなので、友人は結構な割合で同人活動をしている。友人たちの中では、私は極めてアクティブな方だ。まあ1年で1000ページ書いてるし。「すごいねー」ってニコニコ見守ってもらっているし、実際そうかもしれないな……って思う。というか給料の3ヶ月分印刷代に突っ込んでるあたりで立派な同人モンスターだし狂人だ。
でも、上を見たらきりがない。
ちょっと「1年で1000ページだぜハハッ」て思ったとしても、私のフォロワーには「次(※2〜3ヶ月後)の新刊は300ページ超えます!」なんて予告してる人はザラにいるし、いやまあ文字数いっぱい書けば偉いってもんじゃないんだけど、でも私は小説が大好きな人間なのでやっぱり「300ページの新刊!? やったー!!!!」って飛び上がって喜ぶ気持ちは抑えきれない。わたしは2〜3ヶ月で300ページなんて速度では書けないし、そもそもひとつの話は10万字くらいに収まってしまいがちなので300ページの本は時間的にも技術的にも精神的にも無理だ。
私が軽々と書く「2ヶ月10万字」という単位に対して同じことを思う人も世の中には沢山いるし、っていうか2ヶ月で10万字書ければそこそこ立派な方になるんだろうと、理性ではわかっている。でもわたしは「1ヶ月に20万字、30万字」という単位の作家を見上げて同じように溜息をついている。どうやればいいんだろう。どうやったら早く、長く、いい話を、かけるんだ。上を見れば同人モンスターはいくらでもいる。だんだん、別に給料3ヶ月分くらい大した問題じゃない気がしてくる。1000ページなんてフォロワーのKさんやSさんなら半年で書くからな……とか思う。趣味だろうが何だろうが、この世は怪物の巣窟だ。
怪物になりたいか、と問われると、べつにそんなに興味はない。私の周囲にはいわゆる大手サークルのフォロワーもいる。粘着されたりネトストされたり、トレパクされたり盗作されたり、SNSの投稿ひとつとっても気を遣わなくてはいけないと苦労する姿を舞台裏からチラチラ見ているので、全然羨ましいとは思わない。いや、まあカッコイイなとは思うんだけど、「そう」なるだけの才能と魅力と熱量がある人は、異世界人みたいなもんだ。平々凡々な趣味人たる私にはそんな魅力はないし、あったとしてもうまいこと活用できないだろう。私はマイペースに好きなように好きな話を書いて、気に入ってくれる人に本をお渡しして、たのしく活動できればそれでいいのだ。
でも、パワーがあるフォロワーを見ると「私も……!」みたいな、なんだろうこの気持ち、向上心? 虚栄心? そういうのがむくむくと湧いてしまう。別に怪物になりたいわけではないのに、つい視線が上に行ってしまう。私に力があれば、私に才能があれば、私に根性があれば、次はもっといい本を出したい、次はもっと、次は、もっと、もっと、……(己の虚栄心に針が突き刺さり破裂音と共に萎む絵文字)
強くなりたい。目標があるわけではない、ただ、強くなるために強くなりたい。私も誰かの目には怪物に見えているのだろうか。


コメント
1初めまして、こんにちは。見知らぬ同人村のなれ果てではありますがコメント失礼致します。
1000頁のパワー鈍器発行に漕ぎ着けておられるそめちゃんさんのコンスタントな創作ペースにめちゃくちゃガッツリ“上”を見ておりますが、島配置の安心感やら、まさに“上”は危険地帯である事など共感の嵐で愉しく(!?)読ませて頂きました!怪物になりたいわけでもなれる気もしませんが怪物の強さは純粋にイイナ〜と私も思います。
個人的には2ヶ月10万字はだいぶパワー創作者に分類されると思いますが(とても憧れます)、これからもそめちゃんさんのペースでゆるりと活動されるのを陰ながら応援しております。