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  • 2024.12.13

カバー社の下請法違反報道への違和感──関係者やクリエイターらが語る、VTuber業界の“実態”

「報道のされ方が大げさ」元VTuber事務所スタッフの率直な胸の内

報道のされ方が大げさだと感じました。下請法違反はもちろん是正されるべきですが、経理処理以外、正直一つひとつの内容は驚くものではないというか。(11月からスタートした)フリーランス新法の見せしめ的側面もあったのだろうと思います」

逆にそう語るのは、元Y社社員のK氏だ。具体的な勤続年数などは伏せるが、VTuber業界の中ではかなり長いキャリアになる。

「会社の規模が大きくなっていく中で、体制はかなり改善されたと思います。発注フローも改善されていたと思いますし、社内のコンプライアンス体制も強化されました。カバーさんほどの業界大手企業であれば、同じようなフェーズがあったんじゃないでしょうか」

クリエイターから挙がっていた「Y社はキャラデザの価格が一律で決まっていると言われて、修正が発生しても追加料金が払われない」という話についてもこう話す。

「価格については発注内容や発注時の状況によって様々なケースがあったと思いますが、修正分が支払われないという話は把握していませんでした。会社としてそこをケチろうという空気感はもちろんなく、追加で発生した修正は当然対価を支払うというスタンスだったはずです」

その上で元社員のK氏は、「発注時に、修正に関する取り決めがちゃんとされておらず、現場担当者の独断で、そういう回答をしてしまった可能性はあり得る」とコメント。

これは、一般企業でもよくある話だ。当初組まれていた予算を超えた場合、現場の担当者が自分で判断することはできず、一度、決裁権を持つ上長への確認が発生するケースが多い。しかし、その手間や予算をオーバーした責任を問われるリスクなどを厭い、現場判断で勝手に交渉や要求を拒絶するといったことが起こる。

「昨今は少し落ち着いたと思いますが、以前まで、VTuber業界は炎上含めいろんな問題が頻繁に起きていました。そうするとスタッフは、本来の業務にプラスして緊急対応に追われる。否が応でもそちらに注力せざるを得ない状況で、クリエイターさんとのコミュニケーションがおざなりになってしまうこともあったかもしれません」

「しっかりした上場企業」像と、「ベンチャー数年目」という実感とのズレ

一方で、クリエイター側に問題のあるケースも。

「クリエイターさんにもいろんな人がいて、中には制作途中で連絡が取れなくなってしまう人もいました。もちろん会社が意図的にクリエイターさんを虐げるようなことはありませんが、こうした不可抗力的な火種がたくさんあって、玉突き的にトラブルに発展したこともあります」

カバーをはじめ大規模なVTuber事業を展開する企業では、クリエイターとのコミュニケーション量も膨大になる。それぞれの間に担当者が入ることで、齟齬やノイズが発生するリスクも高まる。スピード感も求められる業界で、取引が煩雑になっていたことは容易に想像できる。

「実際類を見ないスピードで成長していますし、知名度もあるので、世の中からは『しっかりした会社なんだ』と見られていると思います。実際はまだまだ設立して数年のベンチャーで、体制の不備や手が回っていないところが多分にあったのでしょう」

上場企業として、背負うべき期待や責任は大きい。そうした世間からの目と、とは言え「ベンチャー企業数年目に過ぎない」という実感で動いている現場の実情やスタッフの意識との間には、大きな乖離があるのだろう。

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そのギャップこそが、今回の下請法違反やそこから起きるバッシングと、K氏の「報道のされ方が大げさだと感じる」という受け止め方の落差を生んでいるのかもしれない。

なお2023年に東証グロース市場へ上場したカバーは、さらにプライム市場への変更申請に向け、準備を行っていることを今年5月に発表した。

演者にも大きく左右されるVTuber案件

ここまでの証言で見えてきたのは、カバーに象徴されるVTuber業界の急成長・急拡大、その犠牲となった部分である。

今回カバーは「業界をけん引する企業」としての責任も問われたわけだが、それ以外についても、おそらく現在大急ぎで体制整備に着手している企業はあるはずだ。

また前編では取引が各担当者に属人化している点を取り上げたが、制作がスムーズに進むかどうかは、演者によってもかなり変わるという。演者の姿そのものとなるアバター制作は、その最たるものだ。続く後編ではそんなLive2Dを巡る受発注の現場、そして演者のハンドリングについての証言を追いかける。

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