「弱者男性」としてのバトーは、いかにしてその生をまっとうするのか──押井守『イノセンス』再考
2024.12.07
担当者によって対応にかなり差があったことは、複数の証言から推察できる。加えて、ひとつの案件の中で担当者が複数存在し、連絡経路がかなり煩雑になっていたという。以下はカバーとの取引実績がある、イラストレーターE氏の証言だ。
「イラストについての修正をくれるのはこの方、納期についての連絡をくれるのはこの方、支払いについてはこの方という感じで、ひとつの案件で3~4人とやりとりすることもありました。下請法違反になった案件は、そうした連絡の中で齟齬や混乱が生まれていたのかもしれません」(E氏)
ただし、取材を重ねる中で、複数のクリエイターはカバーの同業他社・Y社の発注条件についても指摘した。取材を重ねる中で明らかになったのは、むしろ相対的にはカバーは“マシな方”だったのではないか、ということだ。
Y社と仕事をしたことのあるイラストレーターは、こう語る。
「修正作業に対して金額交渉しても『キャラデザは一律この予算で決まってる』と突っぱねられてしまうんです。『それならもう修正には対応できません』と言える人なら良いですが、『自分の手しか入れたくない』という人だと、金額を超過しても対応せざるを得ません」(R氏)
今回の下請法違反が明らかになる前から、筆者の周囲では複数のクリエイターが「VTuberのイラスト仕事は割に合わない」と口にしていた。
例えばVTuberのLive2D用イラストの場合、それがキャラクターのモデルの元となるため、通常のイラスト仕事に比べてパーツ分け・レイヤー管理など作業内容が特殊である。そのため「工数が多いので大変」という意味かと思っていたが、それだけではないことが取材を通してわかった。
「Y社の仕事は、少なくとももう3倍いただかないと割に合わないと思います。気持ち良くやりたいのであれば、4倍は必要。あの金額で引き受けたとして、みんな何日で仕上げているのか謎です」(R氏)
「みんな相場を知りたいから、今どれぐらいの価格で引き受けてるのかクリエイター同士で結構話すんです。Y社が安すぎるという話はよく出ますね。似た内容の案件で、カバーとY社で数倍違うことがありました」(E氏)
カバーが相場より高く発注した可能性も想定できるが、いずれにしても業界の中でも値付けの基準がバラバラで、引き受ける人さえいればかなり安価で発注されることもあるようだ。
VTuberでは、デビュー以降の新衣装などは別のイラストレーターが担当するケースも多い。中には、「一度担当したら思ったより大変で、以降は引き受けないようにした人」もいるという。
前述のE氏はこう続ける。
「Y社の仕事を引き受けている友人を見ていると、安くても嬉しそうにやってるんですよね。クリエイターにはY社のタレントのファンも多くて、『希望額は通らなかったけどやりたいから受けちゃった』という声も聞きます。自分もそうですが、結局クリエイターは替えが利く存在なので、断ったら別の人がやるだけなんですよね」
引き受ける・引き受けないはクリエイター側の自由とはいえ、下請法には「買いたたきの禁止」の項目もある。

イラストレーターとして長く活躍するR氏は、同人文化との折り合いについても言及した。
「これまでのオタク業界だと、もし企業からの発注金額が安くても、その後同人活動で多少回収できるのが常だったんです。でも(自分が取引していた)VTuber企業はその同人活動でさえも『できればしないで』というスタンス。著作権は買い取られているわけですし、会社の取り分が減ってしまうから、という考えも理解はできます。ただ、そうなると余計に発注金額に対する不満は出てきてしまいますよね」
複数の企業や大手個人VTuberから業務を委託され、さらに個人の編集者に動画制作を発注している映像ディレクターのL氏は、制作の実態についてこう話す。
「『好きだからやる』が原動力の人が多い印象です。『推しを手伝えてお金ももらえるなんて嬉しい』と。特に切り抜き動画は、常に配信を追う必要があるからなおさら。発注側がそうした気持ちを利用して安くお願いするケースも、残念ながら存在していると思います」
VTuberに求心力があるからこそ、ともすれば「やりがい搾取」とも呼べる依頼が行われ、好きゆえに応えてしまう実態がある。こうした不健全な取引が、表からは見えないところで繰り広げられていることを考えると、今回のカバーの一件はあくまで氷山の一角だと言える。
※この記事は期間限定でプレミアムユーザー以外にも開放されています。
様々なジャンルの最前線で活躍するクリエイターや識者を中心に、思想や作品、実態に迫る取材をお届け
様々な記事の中から編集部で厳選したイチオシ作品をご紹介