「イムジン河」50年目の真実

(2)「将軍サマ」は不満だった?

金正日総書記(左)と会見したキム・ヨンジャさん=2001年4月(李●(=吉を2つヨコに並べる)雨氏提供)
金正日総書記(左)と会見したキム・ヨンジャさん=2001年4月(李●(=吉を2つヨコに並べる)雨氏提供)

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「日本語で(一節を)歌える曲はありますか?」

2001年4月、訪朝公演を行った韓国の歌手、キム・ヨンジャに、北朝鮮の最高権力者(総書記)金正日は、そう問いかけた。

とっさにヨンジャが挙げた3曲の中に「イムジン河」が入っていた。作詞家の吉岡治(おさむ)が新たな日本語の詞をつけ、北朝鮮オリジナルの詞をミックスした「イムジン河(リムジン江)」をCDに吹き込んだばかりだったからである。

ヨンジャの訪朝公演は金正日の別荘(招待所)で開いた特別コンサートをはじめ、いずれも大人気を博す。ところが、自信を持って歌った「イムジン河」への反応がよくない。

「会場がシーンとなっちゃって、『北の歌』なのになぜかな…と。歌詞がよくなかったのかも。南(韓国)の故郷を思う内容が入っていますからね」。金正日とは何度か話す機会があったものの、同曲へのコメントは一切なかった。

ただし、関係者によれば金正日は、この曲が北の歌であることを知らなかったらしい。同曲は南から北へ行った作者が1957年に作った歌だが、北では人気が出ず、すぐに忘れ去られてしまったのだ。

ヨンジャは翌2002年にも訪朝公演を行う。電撃的な小泉訪朝直前の時期。日本との国交正常化を確信していたのか、金正日からは「この次は(日本から)直行便で来られますよ」との言葉も飛び出したが、そのときを最後に北で「イムジン河」を歌う機会はなくなる。拉致問題で日本の世論が一気に硬化したからだ。

当時、韓国でも「イムジン河」を歌うと、「なぜ『北の歌』を歌うのか」とブーイングを浴びた…。

訪朝公演から15年。今では日、韓、朝の歌手が好んでこの曲を取り上げる。ヨンジャも昨年秋、韓国テレビの人気歌謡番組で伝統音楽を伴奏につけて久々に歌い、大評判を呼んだ。

「北でも南でも歓迎されなかったのがウソみたい。改めて歌ってみたら、ホントにいい曲だと思う。歌に国境や政治は関係ない、と言い続けたことが分かってもらえた。これからイムジン河はもっと歌われるでしょう。もちろん私も」

(喜多由浩)

=敬称略

キム・ヨンジャ

1959年、韓国・光州生まれ、57歳。平成13年暮れのNHK紅白歌合戦で「イムジン河」を歌う。新曲は『情恋歌』『こころ花』

(3)北ではウケなかった「イムジン河」

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