人の可能性を愛し、拡張する。ライター・オバラミツフミは、テキストで誰かの人生とともに生きる
Note

「言葉を扱う仕事は繊細で、ある意味で憂鬱が伴います。それでも僕はこれからも“テキスト”を軸にしていきたいです」

そう語るオバラミツフミ氏は、テキストを通じて、自分自身や他者と向き合い続けるライターだ。真正面からテキストと向き合い、思考・経験を積み上げてきたその横顔からは、仕事に対する覚悟と誇りが滲む。

学生時代からライターのキャリアをスタートした同氏は、学生時代に約2年間、編集者・長谷川リョー氏のアシスタントを経験。インタビュー・取材、執筆、編集などを学んだ。NewsPicksオリジナル特集「いま私が22歳だったら」の制作や、『転職と副業のかけ算』(moto)などの制作に携わった実績を持ち、現在は、フリーランスのライターとして書籍の構成や、Webメディアでのインタビュー・執筆・構成などを手がける。

「仕事の中でも、特にインタビューが好き」だと話す彼は、どのように人の「人生」や「言葉」と向き合うのだろうか。これまでのキャリアを振り返りつつ、その姿勢を探った。

インタビュー・執筆は、自己理解を深める行為

──オバラさんは、学生時代からライターとして活動されてきたと伺いました。そもそも、ライターを始めたきっかけ・背景を教えてください。

僕はもともと「バイネームで仕事をしたい」と考えてきたんです。そのための手段の一つとして、学生時代にライターを始めました。小中学生の頃から、自分自身に対して何らかのキャラクターを印象づけて、友達から珍しがられることが好きだったんです。バイネームで仕事をしたいと考えたのは、そんな性格が影響しているかもしれません。

──ライターを始めたのは、手段のひとつだったんですね。

そうですね。実は僕はライターを始めるまで、あらゆる事に挑戦しては辞めてしまう、ということを繰り返していました。ただ、ライターの仕事だけは学生時代から現在まで、熱量高く継続できているんです。

それはきっと、インタビューや執筆は自己理解を深められる行為だからだと考えています。ライターの仕事はインタビュー前に下調べを行ったり、執筆中に思考したりすることを通して、対象となる人物や物事について深く知り、考える必要がある。そのプロセスの中で、自分が何に興味があってどんなものが好きなのか、自己理解を深められる。行為そのものが非常に楽しいというか、自分自身にフィットする感覚があります。

現在は、自分の得意領域を定めて「この文脈といえばオバラくんだよね」と言ってもらえる人、つまり特定文脈で第一想起される人になりたいと考えるようになりました。

Note

──なぜ、「第一想起される人になりたい」と考えるようになったのでしょうか。

エゴだとも思うのですが、「オバラって人がいて、いい仕事してたな」とか「自分の人生の中に、オバラがいて本当に良かったな」と思ってくれる人を、たくさん増やしてから死にたいと思っていて。テキストや言葉に向き合えば向き合うほど、自己理解が深まりますし、自分自身の技術の向上も感じている。この仕事であれば、そう言わせる自信があるんです。

──誰かの人生に、インパクトを残したいと考えているんですね。オバラさんは一度、長谷川氏のアシスタントを離れ、2018年10月から長期インターンシップのプラットフォームなどを運営する株式会社Traimmuに入社。広報PRを担当されていました。ライターのお仕事から一旦距離をとったのは、なぜだったのでしょうか。

自分のキャリアの可能性を探りたかったんです。ライターとして働く中で、ジャンルを問わずさまざまな原稿を執筆してきました。その中で、最も自分が評価されて楽しいと感じる文脈が「人生」や「意思決定」にまつわるものだったんです。

また、僕自身が誰かの人生や意思決定の側で仕事することに魅力を感じるとも知りました。

そんな時、もともとクライアントだったTraimmuから広報PRとして働かないかと、お声かけいただいただいたんです。ここでなら誰かの人生や意思決定に関わり、応援する仕事ができる。そう考え、社員としてジョインしました。

ただ、ライターの仕事から離れてみると、書くことが自分にとってどれだけ大事な行為なのかを思い知りました。人間ってただ「思考する」ことは難しく、何かしらの刺激や行為を通して「思考させられる」ものだと思うんです。

僕は書くという行為を通して思考させられていたのだと、書く機会を失って気づきました。書かなくなると、思考をすることが減っていき、仕事をする意味も考えなくなってしまって、そういう自分になったことが息苦しくなってしまったんです。書くという行為が自分の人生の中でどれだけのウエイトを持つか再認識したことで、ライターに戻ろうと考えました。

「感動した」で終わらせない。ファンであり、ライターだからこそできた作品づくり

──書くことは手段だと思っていたが、オバラさんにとって書くことは目的でもあると気づいたんですね。これまでライターとしてお仕事してきた中で、印象に残っているものをひとつ教えていただけますか?

株式会社ONE MEDIAが運営する動画シリーズで担当させていただいた、ヒューマンビートボクサーDaichiさんのインタビュー動画です。編集者・長谷川リョーさんのアシスタント時代に初めて主担当として任せてもらったお仕事でした。企画からインタビュー、構成、テロップ文言の作成まで担当しています。

──企画としてDaichiさんを提案したのはなぜだったのでしょうか。

企画の枠組みとしては「Do what you can't」というシリーズで、「挫折や困難をどのように乗り越えてきたか」をテーマにインタビュー動画にして若者に発信するものでした。このテーマで浮かんだのがDaichiさんだったんです。

僕は昔からDaichiさんの大ファンで、アカペラ日本一を決めるテレビ番組『ハモネプリーグ』に出演されていた2008年頃からずっと見てきました。Daichiさんはボイスパーカッションで一躍時の人になりましたが、その後しばらくメディアでは見なくなったんです。

ただ、現在はYouTubeで活躍していて、チャンネル登録者数は120万人以上。メディアに出ていない時期の活動も含め、きっとさまざまな苦悩を乗り越えてきているのではないかと考え、Daichiさんを提案しました。

──ずっと見続けてきたからこそ、提案できた企画だったんですね。インタビューや制作にあたっては、どのような工夫や意識をされましたか?

取材準備では、Web上の記事やYouTubeでの発信のほぼすべてに目を通し、ネット上では見られないハモネプ時代の姿も記憶をたどって振り返りました。

インタビューでは、まず僕がどれくらいファンかということをまずDaichiさんに伝えました。印象に残っているシーンや、Daichiさんに影響されてボイスパーカッションの練習をした話などをお伝えし、一気に打ち解けていただけました。

それもあって、他のメディアではお話しされていない、アルバイトをしながら活動していた時代の葛藤などのエピソードを深く聞かせてもらえています。これだけ準備してきて、本当に良かったなと感じた取材でした。

構成やテロップのテキスト作成では、彼が感じてきた苦悩を、視聴者がありありと感じ取れるように意識しました。もちろん、彼が感じた苦悩は、彼にしか感じられない——。しかし、テキストや動画を通し追体験してもらうことはできる。

Daichiさんの動画を観た人が、単に「Daichiさん、すごいな」とか「感動したな」と感じるだけでは物足りないと思っています。彼がどのような景色を見てきて、どのように苦悩し、どうやって乗り越えたのか。視聴者も一緒になって彼の人生を振り返ることができる作品づくりを心がけましたね。

今までさまざまなインタビュー・執筆を行なってきましたが、この仕事は僕にしかできなかったと考えています。

Note

──大ファンであり、ライターであるオバラさんだからこそできたお仕事なんですね。

「人の経験や想いを伝える仕事」は、その人が持っているストーリーに感情移入して、誰よりもその価値を感じていることが大切になる。Daichiさんのインタビューでは、そんな当たり前を再認識でき、僕自身も深く学ぶ機会になりました。

「人生」や「意思決定」のそばで、テキストを紡ぐ

──ここまでお話を伺う中で、オバラさんは自らの興味や欲求に、非常に素直な方なのだと感じました。2019年9月からフリーランスのライターに戻られましたが、それも興味・欲求に従った結果なのでしょうか。

そうですね。欲求に素直になれないと、仕事がうまくいかないんです。インタビュー対象となる人や事柄にしっかりと感情移入ができることも、僕にとって重要なこと。自分がその仕事を担当する意味を考え、「オバラミツフミという役割が必要である」と明確に感じられる仕事を求め続けていきたいんです。

今後は人の「人生」や「意思決定」に寄り添い、彼らが持つ可能性を感じ、テキストで拡張する仕事をしていきたいと思っています。

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──今後、具体的にどのようなお仕事をされたいと考えていますか?

今、挑戦したいと考えている仕事は、ブックライターやスピーチライターです。僕は長谷川リョーさんのアシスタント時代、書籍のライティングを経験しました。1冊の書籍を作り上げるには多くの時間が必要です。書き手としては、制作期間も長くなるため、1つのテーマにより熱中できる。一方、書籍は多くのWeb記事と異なり、お金を払って買ってもらうので、求められるハードルも必然的に上がります。一つひとつに魂を込めて仕事をしたいと考えているので、ブックライティングは挑戦のしがいがあるフォーマットだと感じていますね。

一方、スピーチライターの仕事は企業の発信や政治家の声明などを作成する仕事というイメージがありますが、例えば結婚式で新郎新婦が親御さんに宛てる手紙の代筆なども、考えられると思っています。

結婚式という、ひょっとすると一生に一回の記念日に、その人が持っている想いを引き出して、テキストにする。親子の関係性の中で紡がれてきた言葉にできない想いを、しっかりテキストに落とし込むことで、誰かの人生のサポートをする。そういう仕事をやってみたいと思っています。

──最後に、オバラさんにとって「テキストを仕事にする」とは何でしょうか。

「人の可能性を愛し、拡張する」仕事だと考えています。テキストで誰かの人生をよりよく表現していくためには、自らの思考を積み重ねたり、新たな語彙を獲得したりすることを、続けていかなければなりません。やればやるほど大変な仕事だなと思いますが、それでも僕はこれからも、人・テキストを軸に仕事をしていきたいと考えています。

Text: Yuka Sato / Photograph: Shunsuke Imai

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