3‐6
「僕がチェック。奏真、チェックメイトは任せるよ」
秋良の狙撃。超音速の氷の大口径弾が右の鋏を粉々に砕いた。
弱点を守るものは、もうない。動きも陽子が封じている。
「うぅらぁあっ!」
奏真の咆哮を上書きするように、紫雷が吠えた。
落下の衝撃でズン、とスコルピスの足が折れ、胴が氷海に沈む。頭部に押し込まれた紫雷は既に半ばまで埋まり、黒い血煙を舞わせていた。
振り抜いた。
足下の氷までも砕いた紫雷を抜くと、スコルピスの目から光が消えた。
「滅葬終了……」
刃の回転数を落とし、停止させる。するとタイミングを見計らったように、チェーンソードは元の直刀に戻った。
しかし、不思議だ。
自分で発現しておいてなんだが、チェーンソードの方が本来の姿であるように思える。直刀状態は、まるで殻を被っている脱皮前の状態とでも言えばいいだろうか。
まあ、ともかくこれで仕事は終わりだ。
「お前がうちのエースっての、あながち間違いじゃないんじゃないの」
「え?」
ヘリが待つ場所に向かう間、ブラッドバーストを解除した陽子にそんなことを言われた。
「今後もお前らと組むかどうかはまだわからないけど、私は認めてもいい。奏真、お前がこの隊のエースだ」
「私も異論はない。始祖を倒せるかどうかは別として、奏真の実力はかなりのものだと思う」
「僕も同感だね。適合して初陣でグールロードを、二度目の任務でサイクロプスを、間を置かずギガダイナスやなんかも倒したし、今回はスコルピス。自信を持っていいと思うよ」
「そうかな……買い被られても困るけど」
陽子が笑った。
「謙遜するなよ。戦闘技術がどうとかじゃない。なんかわからないけど、お前は強いんだ」
「ああ、僕もそう感じる。なんていうか、人間の根本的な部分が強いって言えばいいのかな」
「博士的に言うなら、奏真、あなたは魂が強いんだと思う。血は肉体と魂を繋ぎ、ブラッドアームズは魂を具現化させる。あなたの魂は強いから、それが血装にも出てるんだと思う」
「魂が強い、か……わかんないな」
よくわからない、というのが素直な感想だが、しかし昔からよく孤児院や学校で『お前は少し頑固なところがあるな』などと言われたことがある。
意思が強いことが、魂の強さなのだろうか。
わからない。
考えても無駄なことだろう……という気がして、奏真は思考そのものをやめた。
◆
黒い少女が地下洞窟を走っている。辺りには赤く流れる大地の血流――溶岩。
気温はすこぶる高いが、黒いゴスロリドレスに身を包んだその少女の額には汗すらない。帽子を目深に被り、リボンで顎と結んで固定している。
体は、ふわりと地面から一メートルほどのところで浮遊していた。
黒いボブカットの髪の向こうにある、黒い瞳が、そいつを睨んでいる。
顔は存外に幼く、まだ十五にも届かぬあどけない表情をしていたが、能面のようなその顔つきは並大抵の大人を凌駕する老熟した雰囲気を湛えていた。
「『血装:
空間から六枚の大剣がずるりとフェードインする。それは百五十八センチの少女と同程度か少し大きいくらいの剣で、いかな理由か鍔も柄もなく刃だけ。それがどんな奇術を用いているのか、宙にふわりと浮いている。
切っ先を十メートル先のそいつに向けると、ソウルアーツを解放した。剣が変形し大砲に変わり、砲口から黒い渦が放たれる。一応闇属性というカテゴリだが、その能力は特殊だった。
突如、岩を穿つ轟音がした。
ドカン、ドカン、と杭を打たれたように地面が陥没していき、そいつを追い詰める。
そいつ――第十一位始祖『闇統のゾーク』は地面を蹴って走り、目に見えない鉄槌を回避していく。
「正直、あなたの身柄はどうでもいいの。血盟騎士団が殺そうが私“たち”が殺そうが、そのサンプルは血盟騎士団に流すつもり。だって、適合者がそちらの手中にあるんだもの」
ゾークは目に見えない攻撃を食らい、吹っ飛んだ。三メートル近い巨体が茶色の岩肌を擦過し、立ち上がろうとしたところに見えない鉄槌に襲われた。そのまま地面に縫い付けられる。
「いくら空間を捻じ曲げる能力を持っていても、見えなければどうすることもできないのね」
ゾークの黒い闇が渦を巻き、空間を捻じ曲げた。
早く、早くあいつを殺さなければ、自分が殺される。
「あなたに殺させるわけにはいかない。彼は選ばれた存在。この世界を救世する存在。第一位始祖『魂魄のアルカード』を……
とぐろを巻いていた闇がゾークを包んだ。殺すなら、今しかない。その焦りと共にゾークは闇の中に逃れる。
「ちっ」
少女は舌を打って、血装を体内に戻した。しかしソウルアーツはそのままで、少女の体はふわりふわりと浮かんでいる。
ゾークは間違いなく彼を――獅童奏真を殺すつもりだ。彼を殺せば全てが終わる。自分たちがゾークを追う理由が喪失し、そして耀介の邪悪な計画が世界を滅ぼすだろう。
それだけはなんとしても防がねばならない。
いざとなれば支部に入り込んででもゾークを止めなければならないが、しかし同時にこれも試練であるように思え、少女はこの件に関しては傍観でいいではないだろうかと考えていた。
奏真は世界を救う存在だ。それほどの存在がゾーク“程度”にやられるのなら、世界を救うことなど到底不可能だ。
彼がゾークを討ち、今後も強敵を打ち負かし、彼自身が成長していかねば意味がない。どれだけ力を与えようとも、それに見合う土台と骨組みがなければたちまち自壊する。
具申すべきかもしれない。この戦いに関しては、見ているべきだと。
少女は天井に空いた穴から外に出た。空は晴れ渡っていて、蒲郡方面に滞る重そうな雲と東海支部を目にすることができる。
少女に、この世界は守るに足るものなのか、それがわからない。ただ恩ある人の命令だから従っているだけだ。
結局のところ、この少女も奏真たちと変わらない。
自分の生まれた意味を探し求める、か弱い人間なのだ。
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