2‐7

 瑠奈が一番手、次に奏真、陽子と秋良の順で飛び出す。


「『血装:雹牙ひょうが』」


 秋良が血装を出現させる。ずるり、と腕から現れたそれは、青い長大な狙撃銃――というより、


「対戦車ライフル!?」


「今時風に言うなら、対物アンチマテリアルライフルだね」


 五〇口径、十二・七ミリ弾を撃ち出す馬鹿げた威力を持つ狙撃銃。銃身下部には銃を安定させるバイポッドが折り畳まれており、上部レールにはスコープ。


 弾倉もあるが、恐らくあれは飾りだろう。銃系の血装は、ソウルアーツを弾丸とする。物理的な弾はソウルアーツを持たない段階でしか使わない。


 万が一ソウルアーツに目覚めなかった場合は、己の血を銃弾に塗布して対ヴァンパイア用の殺傷弾とするらしい。


 しかし車内での会話から、秋良は既にソウルアーツに目覚めていることがわかる。


「じゃあ僕は先に狙撃地点につくね」


 重そうな銃を肩に担ぎ、秋良は蛙のように飛び跳ね半壊したビルの屋上まで一気に上りつめた。


 あんな芸当、奏真にはまだできない。ポテンシャルはあると思うのだが、まだそれを引き出せるほど経験を積んでいないのだ。


 やろうと思えばできるかもしれないが、失敗したときのことを考えると無理はできない。


 というか、そもそも自分は狙撃などできないから、高い場所に位置を取る意味がない。


 右耳にはめた通信機からくぐもった女性の声。


「奏真さん、初めまして。私は榎本久留巳えのもとくるみです。特務分遣隊ヘルシングのナビゲーターを務めさせていただきます」


「あ、ああ。よろしく」


「今回の作戦は陽子さんが最前線に斬りこみ、撃ち漏らしを奏真さんと瑠奈さん、秋良さんが対処するというものですね」


 久留巳ははきはきと喋る女性だった。ナビゲーターという仕事柄、滑舌の良いきっぱりものを言える人材が必要なのだろう。


「特に奏真さんは多数戦は初めてなので、瑠奈さんと秋良さんが群がる雑魚を掃討するという役目を持っています」


「避難民は?」


 瑠奈が訊くと、久留巳は間を置かず即座に答えた。


「安全圏に退避してもらっています。ですが旧世代のガソリン車なので移動音でグールに気付かれる可能性があるので、足止め状態です」


「じゃあ、その人たちが襲われないためにも俺たちが早く決着をつけないと……」


「ええ。ですので皆さんには早急にグールを討伐していただきますが……奏真さんは無理をせず、できる範囲で戦ってください。大切なのは勝つことではなく死なないことです」


「わかった。サポート、頼む」


 ぶん、と腕を振るい、掌から『血装:紫雷』を出現させる。鍔元から切っ先にかけて走る紫の脈が黒い刀身にエネルギーを送るように、ドクンと脈動する。


 刃の紫がバチ、と電気を放った。


「『血装:白夜』」


「『血装:緑華』っ!」


 瑠奈と陽子が血装を顕現させる。ブラッドアームズの血の具現。


 ここではじめて気づく。秋良と陽子の血装には、脈や紋様がない。


 自分と瑠奈の血装にはあるのに。これが第三世代ダンピールの特徴の一つか。


 片側一車線の道路を曲がり、目抜き通りに出る。


 目の前のスクランブル交差点に、グールの群れがいた。一体のグールロードを守るように布陣する二体のグールロードが指揮を取っているようだ。


 百体のグールはバラバラにではなく、指向性を持って動いていた。グールおよそ百体に、グールロードが三体。


 はっきりと、獲物を探している。


 ヴァンパイアは吸血を行うが、一方で腹が満たされると『輸血』を行う。輸血された人間はヴァンパイアと化し、異形へと成り果てる。ヴァンパイアはそうやって数を増やす。


 人類の敵性生命体とはいえ、自分が狩るヴァンパイアは元を辿れば人間だったかもしれないのだ。それを思うと、黒い礼服で『葬る』という行いの意味が、少しはわかる気がした。


「全員に通達。こちら秋良。狙撃ポイントについた。みんな、準備は」


 隣に立つ瑠奈が頷く。


「私は問題ない」


 戦意が溢れ出さんばかりの陽子が笑う。


「さっさと斬ろう」


 意を決した奏真が言う。


「大丈夫だ、問題ない」


「滅葬開始」


 祝砲のような轟音が、空から響き渡った。


 目に追えない速度で飛翔する氷の弾丸がリーダー格のグールロードの首から上を吹き飛ばした。


 銃声が嚆矢となる。


 陽子が高笑いと共に踏み込む。


 一塊ひとかたまりになったグールのど真ん中に飛び込み剣を横薙ぎに回転。文字通りグールたちを吹き飛ばす。


 群れからあぶれた一体に狙いを定め、奏真は紫雷を突き出した。


 心臓を貫き、刃を捻って傷を抉る。引き抜き、黒い血を零すグールを蹴飛ばして距離を取らせた。


 人間もそうだが、心臓を潰されたからといってすぐ死ぬわけではない。長ければ十数秒、生き続けることがある。最後っ屁で傷つけられる可能性もゼロではない。


 地面に転がったグールは心臓に空いた穴を掻き毟り、絶命。


 次なる一体。


 でたらめに見える軌道で爪を振るい、奏真を斬り裂かんとするそいつからバックステップで距離を置きつつ、隙を窺う。


 どんな生きものも、無限に体力が続くわけじゃない。必ず疲労する。焦って功を急ぐよりも果報は寝て待てだ。


 奏真は虎視眈々と、機を待った。


 攻撃するだけが戦いではない。じっくり、待つ。それも戦いだ。

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