【悠脹】もちろんです愛してますよ【期間限定全文公開】
最終巻発売を祝して、期間限定で悠脹本を全文公開いたします。
未来IF。戦闘や超回復を続けた結果、異様に早い速度で老化するようになった虎杖悠仁と、不老の脹相による、しあわせな生活を書きました。ラブラブしています。
作中では誰も死にませんが、一部死を連想させる描写があります。
20240630初出。通販在庫、あります。
とらのあな https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031154831/
追記:
たくさん見てくださってありがとうございます!
20241231夜になったら非公開にもどします。よろしくお願いします。
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▼1 プロローグ
公園を散歩していた。娘が風船を手放してしまって、あわてているうちに自分も風船を取り逃がしてしまった。あきらめるしかない、娘をどう慰めるか、とまで考えた。うしろでだれかが「脹相」「わかった」のやりとりをして、脇をおおきな影が駆け抜け跳んで、近くの街路灯を蹴って──音もなく風船を手にして、これまた音を立てずに着地した。
驚きのあまり、娘ともども固まってしまう。「間に合ってよかったねえ」と、おじいさんに声を掛けられた。
「風船、手首にひも巻いとくといいよ。──脹相、ありがとな」
「ああ。──女、もう離すなよ」
「そこは『女』じゃなくて『お嬢ちゃん』な。ほら、風船。無事だったよ」
ぶっきらぼうに風船を差しだす青年をかるく諫めて、おじいさんはしゃがんで娘と目線を合わせ、笑ってくれた。なのに、当の娘は私のうしろにまわって隠れてしまう。ハッとして「こら。ありがとうございましたは?」と言ったが娘は首を振って、青年からもおじいさんからも隠れ、その身を縮めた。
人見知りな子ではあったが、ここまで怯えた反応するのを初めて見る。
「びっくりさせちゃったかな」
「おん……お嬢ちゃん、怖がらんでいい。今はもう、俺も悠仁も怖くないぞ」
「あの、ありがとうございました。うちの子がごめんなさい」
「いい。オマエもその子どもも、風も風船もひもも何も、悪くはない」
不思議なフォローだな、と思いつつも礼を言って、娘の代わりに風船を受け取る。娘はますます縮こまってしまっていた。青年から悠仁、と呼ばれていたおじいさんが「よっこいせ」と立ち上がる。これだけ年配の方だから、腰やひざを痛めていてもおかしくない。改めて、わざわざ娘と目線を合わせてくれたのに、と申し訳なくなってくる。
もう一度、お礼を言いなさいとうながそうとしたら、娘が「……ありがとう、ございました……」とぽそぽそ言う。腰を手でとんとん叩きながらも、おじいさんは顔をしわくちゃにして破顔した。
「どーいたしまして。よかったなぁ、脹相」
「そうだな。風船が割れなくてよかった」
「そっちか~」
カラカラ笑うおじいさんに、青年が手を貸した。おじいさんもごく自然にその手を取っている。
彼らの『いつも』がその距離感なのだと伝わってくる。お孫さんと仲が良いのだな、と思ったが、そう言い切ってしまうにはなんだか近い距離だった。おかあさん、とちいさく呼ばれて、しゃがんだ。うしろに隠れていた娘と向かい合う。
「どうしたの? おじいさんたち、もう行っちゃったよ。びっくりしちゃった?」
「こわかった」
「え? ……ああ、たしかにあまり愛想のないお兄さんではあったけど……」
優しくしてくれたじゃない、と言おうとしたが、娘がまた、ふるふる首を振る。
「いっぱいいた」
「……だれが?」
「なんか……いっぱい。つれてた……」
娘は時々、不思議なことを言う子だった。何も無いところなのに顔を背けて絶対に見ようとしない、初めて会うひとにすぐ懐いたかと思うととつぜん泣きだしたり。この子にも視えているのかもしれないなぁ。以前、夫がつぶやいたことがある。
風船のひもを娘の手首にゆるく巻いて、端っこを握らせた。
「怖かったんだね。いっぱい連れてて。お礼をちゃんと言えてえらかったね。でもそんなふうに隠れちゃったら、お兄さんもおじいさんも、びっくりしちゃうよ。今度はお兄さんたちのお顔をみて、ありがとうをしなくちゃね」
すこし躊躇いつつも、うん、とうなずいたので娘の頭を撫でる。風船が揺れた。
ふたりは遠くへ行ってしまって、もう後ろ姿も見えなくなっている。
◆◆◆
「視えてたねえ、あの子」
「そうみたいだな」
「怖がらせちゃったな~悪いことしたね」
「悠仁は悪くない」
「でもお嬢ちゃんも悪くないよ?」
「ああ。だが、悠仁も絶対、悪くない」
「あんがと。優しいオニーチャンだな~」
「そうだぞ。お兄ちゃんは弟には優しいんだ」
「……あんがと!」