1‐5
「ええと……」
外に出たはいいが、どの車に乗ればいいのかわからず、奏真は困り果てた。
「あっ、君は……」
助け舟というべきか、さっきぶつかってしまった少女が出てきた。
先ほどは施設内に向かって歩いていたが、あの緊急放送で神代瑠奈という人物が呼ばれていたので、このタイミングで出てくるということは彼女が神代瑠奈で間違いないのだろう。
身長は奏真より頭一つは小さいが、纏う気配は剣呑で少し近寄りがたい。しかし顔は童顔で幼く、目つきは鋭かったが奏真よりも一つか二つ年下だろう、と思えた。
リリアが教育係は瑠奈、と言っていたから、彼女が瑠奈であれば、ついていけばいい。
「あなたは……さっきの」
「さっきはごめん。ほんと、歩きながらよそ見なんてするもんじゃないよな。俺、獅童奏真っていうんだけど、君は?」
「……獅童奏真。そう、あなたが第七位始祖の適合者ね。こっち」
瑠奈は奏真と目を合わせようともせず、緩やかな、けれど素早い歩みで装甲車の後部ハッチから内部に乗り込んだ。奏真も後に続く。
対面に座り――さすがにいきなり隣に座る勇気はなかった――、改めて少女を見る。
白い髪は背中を覆うように垂れており、前髪は目を覆わない程度に切られている。サイドは内巻きになっていて、少女の小顔を助長していた。
眉もまつげも――動画でしか見たことはないが――雪のように白く、瞳が黄金のような色をしているのが印象的だった。
彼女もまた奏真と同じく、喪服のような恰好をしている。黒いドレスにフリルのついたスカート、漆黒のケープ。
スカートから覗く足には肌に吸着する黒っぽいマットな艶のボディスーツに包んでいて、それはつま先から首筋までを覆っていて素肌は顔以外に出ていない。
瑠奈は携帯端末を取り出すと、そちらに目を落とし、奏真には一瞥もくれない。
「……なあ、君って、神代瑠奈でいいんだよな?」
「ええ」
冷たい響きだった。他人が心に入ってくることを拒むような声音。
奏真は、そんな声を知っている。孤児院に来たばかりの子供――特に家族や友だちを失ったばかりの子供の声にそっくりだからだ。
そういう子とは、できるだけ時間をかけてゆっくり付き合っていくのが良いことを経験則で知っている奏真は、瑠奈を刺激しないように言葉を選ぶ。
「俺さ、さっき目が覚めたばっかで……その、けっそう? とかソウルアーツ? っていうのもわからないんだ。教えてくれるといいんだけど、リリアって人が君が教えてくれるって」
「血装っていうのは、武器のこと。ブラッドアームズの血の具現。もっともダンピール自体が血の具現だから、ダンピールでさえあればグール程度の雑魚、殴るだけで殺すこともできる」
「へ、へぇ。けどさ、ヴァンパイアって通常兵器が効かないんだろ? なんでダンピールになるとダメージが通るんだ?」
「いろんな人は血の力だ、と言ってるけど、詳しいことは私も知らない。博士に至っては魂の結晶だから、魂が変質しているヴァンパイアにも通じるのだと言ってる」
「知らないって……」
「けど、それがなんだっていうの? あなたは自分を構成する六十兆の細胞の全てを把握していて、全身の内臓の位置を把握してどれがどんな風に働いているかを知っているとでも?」
「それは……」
「ならいいじゃない。私たちはヴァンパイアを殺すだけ。滅葬さえできればいい」
「めっそう?」
「滅ぼして葬ること。ヴァンパイア殺しの意味よ」
冷たいが、訊いたことには答えてくれる。
「俺さ、昨日学校で急に呼び出されてダンピールになって……知らないことだらけでさ。君に教えてほしいことがいっぱいあるんだけど……」
「無駄話は嫌い。けど、必要なことなら教えてあげる。その分の給料ももらってるし。で、まずはなにから聞きたいの?」
いざそう言われると、わからないことだらけで、どれから訊けばいいのかさえわからなくなる。少しずつ考え、まずは興味の赴くままに訊いてみた。
「外の世界って、やっぱり危険なのか?」
「そんなこと、学校で習うでしょう」
「いや、そうだけど……実際に目で見るのと話しで聞くのとじゃ全然違うだろ?」
「あと十分もしないうちにあなたは外を見ることになるわ」
「事前に知っておきたいんだ」
瑠奈は端末をスカートに巻き付けたポーチの一つにしまい、
「外は危険だらけよ。いつどこでどんな建物が崩落するかわからないし、どこでヴァンパイアと出くわすかわからない」
「それは……確かに危ないな」
我ながら間の抜けた感想だと思う。そんな言葉しか出てこない自分に呆れる。
「それどころか盗賊まがいの人間と遭遇することもある。そうね、知っておいて損はないから教えてあげるけど、人間は殺しちゃ駄目」
「流石に人殺しをする勇気はないけど……」
「そう……。たとえ武装していて、敵意をむき出しにしていたとしても、駄目」
「じゃあ、襲われたときはどうするんだ?」
「殺さないように加減して倒すしかない。その盗賊が、もしかしたら始祖への適合を持っている可能性もあるんだから」
「始祖への適合……始祖って、そんな大切なのか?」
「とても大切よ。始祖の力は並みのヴァンパイアを遥かに凌ぐ。始祖の血に適合した私たちも同様。一人で何十人分、下手をしたら何百人分ものダンピールを凌ぐ力になる」
「そんなにか?」
「あなた、『パンドラ計画』は知ってる?」
「いや……」
「パンドラ計画は、始祖に適合する第三世代ダンピールを創りだす計画。いつ始まったかは知らないけど、少なくとも四年前にはスタートしてた」
「どうしてわかる?」
「最初の適合者……つまり私が四年前に適合したから」
なるほどな、と奏真は思った。
彼女自身が、パンドラ計画の始まりであったわけだ。
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