閉幕 暁人の覚悟

 大晦日の朝、暁人は座卓の一名——六座の一人、蛾王がおうというオシラ様が招かれている実家に呼び付けられた。

 暁人は供のものを一人つけていいと言われていたので、迷わず焜を指名していた。奥座敷に通された暁人は、周りに臥龍家親戚一同と、蛾王の護衛——中には御座七隊もいるだろう——がいる中、当主代理である明子の前で正座していた。


「影法師八懐、羅剛の祓葬おめでとう。焜殿の視覚情報を解析しましたが、確かにあれはヤマタノオロチでした。まさかこんなに早く使いこなすとは……」

「リスクがないわけじゃないです。あれから二日経ちますが、術式が使えません。そろそろ戻る頃だと、実感としてありますが」

「術式の焼き切れですね。通常は制限解放でも一日もすれば戻りますが」


 暁人は冷静だった。

 そして、ここに呼ばれた理由も察している。


「暁人様、臥龍家当主の座を継ぎなさい」

「大変ありがたく、名誉なご提案と思いますが、辞退します。俺は臥龍暁人個人として生きていきます」


 周りがざわつく。それを、蛾王が片手をあげ、制した。

 それ以上何をするでもないが、六座の動きに周りは黙り込み、重たい沈黙が降りる。


「理由だけ、はっきりさせていただきたいのですが」

「あなたたちは俺をヤマタノオロチとして見ている。けれど俺の家族や友人、相棒は、俺を臥龍暁人として見てくれている。充分な理由ではありませんか」


 しばらく、無言の睨み合いがあった。

 一分だったか、五分だったか、一時間か。あるいは、ほんの数呼吸ほどだったかもしれないが、暁人は暫時、その時ばかりは龍を自覚していた。明子もまた、龍として睨んでいたからだ。


「わかりました。こちらが当主兼放棄、それから譲渡の書類となります。署名と血判をお願いします」


 明子は諦め、しっかりとした書類を差し出した。おそらくこうなることがわかった上で、六座を見届け人に呼んだのだろう。

 暁人は油性のボールペンを握り、書類に己の名を書き込んだ。


×


 桜坂常闇之神社は沿岸部の小高い丘に建っている。暁人たちはそこに訪れ、大晦日のカウントダウンを行なっていた。


「三、二、一——」


 夜空に、花火が上がる。大きな破裂音がして、暁人は歓声を上げた。


「新年あけましておめでとう〜!」


 輝子と美琴がそう言って声を張り上げ、暁人と焜は笑いながら晴れ着で屋台を見て回った。健一郎はその様子を数歩後ろから眺め、嬉しそうな顔をしている。

 隣に立つ天城が健一郎に「もう父親の顔じゃないか」というと、「茶化すな」と笑った。禮子は天城の護衛として黙って寄り添いつつも、微笑んでいる。


 暁人はたこ焼きを食べながら、みんなに横から取られたりして結局二個しか食べられなかったが、なぜか満腹感は普段の数倍もあることに、喜んだ。


 遠くではようやく合流した梶原と井上が焼きそば片手に笑っていて、暁人たちは彼らに近づいていった。


 友がいて、仲間がいて、家族がいる。

 暁人は自分が欲しいものはきっと、強さだけじゃないと思った。

 欲しい強さは、守れる強さだ。命を投げ打ってでも守りたいと思える存在を、守り抜ける強さだと実感した。


 夜風が吹き抜ける。


 今宵もまた、何処かではワヰルドハントが繰り広げられている——。




     続く。

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