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日常というセピア
よく通った居酒屋のシャッターが上がらなくなってから、私と君はめっきり会わなくなった。
いつだって空席が目立ったこの店の経営難なんて、私たちには何の関係もないことのように思えていたけど、今となればそれが私と君の全てだったように思えてしまう。
私たちが求めたのは煙い空気と、ゆるいお酒、そして週末限定の地鶏のたたき、それだけだったんだと思う。
そんな私と君の都合が都合良く合致して、日常となっただけだった。
だからこれはサヨウナラにも満たないし、悲しみになんて縁もない、食後には思い出せもしない空腹みたいなものなんだと思う。
私はこの街を出ることにしたけど、
君はまだ此処にいるんだろうか。
店長が1番音の反響のいい奥の部屋を占領して、扉を叩くとギター抱えて気怠げに出てくるあのカラオケも薄暗いまま開かないし、この街の好きだったところが、そろそろ何も思い出せなくなりそうだ。
私が欲しかったのは君がくれる平穏。
それ以外でも以上でもなくて、だからそれらに名前をつけずにいてくれた君が残したサヨウナラ以外の何かが、身体じゃないどこかに漠然と残った温かさが、今はただ愛しい。
私はもうそろそろこの街を出るよ。
君はまだこの街のどこかに生きているんだろうか。
今でもあの居酒屋の扉を開いた時の鈴の音と、髭も剃らない店長の小気味よいギターのリズムが聞こえてくるね。
サヨウナラでも、またねでもない。
君がどこかで生きてるならそれでいいやと思えるこの温もりが愛しくて、私もまだ生きていけそうだよ。


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