3月の、終わり
「明日わたしが死んだら、誰か後悔してくれるかな」
鼻先を刺すような3月のベランダで、あの子はわたしにそう言った。
夜は随分と深いはずなのに、未だ街は活気に満ちていて、あの子の細い言葉を無かったことにしているかのようで少し苛々した。
あの時、わたしはなんて答えれば良かったんだろうか。
あの子の選んだ言葉は「悲しみ」や「同情」ではなく「後悔」で、それが妙に生々しく思ったことを覚えている。
あの時、わたしはなんて答えたんだろうか。
あの子の横顔も、誤魔化すような微笑みも、3月の寒気も全て覚えているのに、それだけがずっと思い出せなかった。
桜が咲いた。
目が眩むくらい白くて、風に揺らされ落ちてゆく欠片が綺麗で綺麗で何故か途方もなく悲しかった。
それから夏になって秋になっても眼に映る季節はまるで変わらなくて、何もかも茹だるようなこの暑さはあの3月をどこかへと置き去りにした代償のように何一つとして私たちを変えてはくれなかった。
この街にもう君はいない
もう君は泣いたりしない
君の温度が何処を探しても見つからない
あの日、君の求めた後悔が今も私の心を侵食している
君は今どこにいるんだろうか
もう二度と、という言葉や距離や残像が永遠と私を追いかけてくる
あの日のコートを引っ張りだして思い出した
あの日私は、「一緒に死ぬ?」って言ったんだ
君は笑って「死なないよ」って言ったはずだった
わたしを包む上皮の隅々までを刺すような12月が、君の求めた後悔やら赤らめた柔らかい頬やら全てを鮮明に思い出させてしまう
わたしは君が嫌いだ
心底嫌いであの日以来ずっと苛々している
目に映るもの肌に触れるもの全てに手放されることをあんなに怯えていたのに、1番優しいわたしにすら嫌われちゃって散々だね本当に
わたしがあの3月を終わらせられたら、今度新しい3月がきたら、今年わたしが使い倒したマフラーを君にあげる
もう君が1人にならないように
君の身体や心がこれ以上冷たくなんないように


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