羽田航空機衝突事故 海保機の機長“ナンバーワンで許可認識”

2024年1月に羽田空港で起きた航空機の衝突事故について、国の運輸安全委員会が調査の途中経過を公表しました。このなかで新たに、海上保安庁の航空機の機長が、管制官から滑走路手前までの走行の指示と離陸の順番を意味する「ナンバーワン」ということばを伝えられたとき、滑走路に入るよう言われたと思ったと話していることがわかりました。

記事後半では運輸安全委員会の公表内容や、海上保安庁機から回収されたボイスレコーダーなどから判明した操縦室内での主なやりとりについて、詳しくお伝えしています。

運輸安全委が調査の途中経過を公表

2024年1月に、羽田空港の滑走路上にいた海上保安庁の航空機と着陸してきた日本航空の旅客機が衝突して炎上した事故では、保安官5人が死亡、1人が大けがをしたほか、旅客機の乗客17人が医療機関を受診しました。

この事故について、運輸安全委員会は25日、調査の途中経過を公表しました。

それによりますと、海上保安庁機の機長が聞き取りに対し、管制官から滑走路手前までの走行の指示と離陸の順番を意味する「ナンバーワン」ということばを伝えられたとき、「『滑走路に入って待機してください。離陸順位は1番です』と言われたと思った」などと話しているということです。

管制官からの指示のあと機長と副機長はともに指示の内容を復唱したうえ、互いに「問題なし」と確認しあっていました。

こうしたことに加え、管制官と日本航空機がともに海上保安庁機の動きを認識していなかった3つの要因が重なって事故が起きたと考えられるとしています。

そのうえで、事故に関係した可能性があることを挙げていて、海上保安庁機については、任務後の乗組員の帰宅時間を考慮して出発を急いでいたことや、管制官とのやりとりのほかに事故の直前、基地との間でも会話をしていたことなどとしています。

日航機からの見え方をシミュレーターで検証した画像

管制官については、事故直前に海上保安庁機が滑走路に進入したように画面上で見えた管制官が、担当の管制官に問い合わせたものの意図が伝わらずそのままになったことなど、日本航空機については、海上保安庁機の衝突防止灯などの明かりが滑走路上に設置されたほかの明かりと同じような白色だったことなどとしています。

こうしたことを踏まえ、運輸安全委員会はさらに調査を進めるとしています。

【調査 途中経過の詳細】

◆海上保安庁の航空機への指摘

運輸安全委員会は海上保安庁の航空機について、管制官から滑走路への進入許可が出ていないのに許可を得たと認識したことが事故の要因の1つだと考えられると指摘しています。

≪許可を得たと認識したとする根拠は≫
海上保安庁機の機長が運輸安全委員会の聞き取りに対し、管制官から滑走路手前の停止位置までの走行の指示と、離陸の順番が1番目だということを意味する「ナンバーワン」ということばを伝えられたとき、「『滑走路に入って待機してください。あなたの離陸順位は1番です』と言われたと思った」と話したということで、これを根拠に挙げています。
また、本来は滑走路への進入許可を受けたあとに行う離陸前点検を離陸の順番を伝えられた直後に機長が行うよう指示し、副機長が実施していたことも理由に挙げています。
一方、管制官から海上保安庁機に進入許可が出た記録はないということです。

≪事故に関係した可能性があると指摘したことは≫
出発が遅れたことに加え、任務後の乗組員の帰宅時間を考慮して出発を急いでいたこと、離陸の順番が1番になったことについて震災の支援物資の空輸のため優先してくれたと認識していたこと、管制官から滑走路に途中から入って離陸するための指示を出され、離陸準備を急ぐ必要があったこととしています。
また、管制官からの指示を機長と副機長で確認しあう際、機長が指示の内容を省略して「ナンバーワン」など単語で伝えていたこと、管制官とのやりとりのほかに羽田航空基地との間でも会話をしていたことなどとしています。
基地とのやりとりはその日の能登半島地震の任務に関することで、通信士が会話していましたが機長もこの内容を聞いていたということです。
機長は聞き取りに対し、基地とのやりとりに一部が重なるタイミングで、管制官から離陸の許可が出たと話しているということです。
さらに、滑走路手前の停止位置を通過する際のことについては、副機長とともに「滑走路に入って待機」と復唱し、左右を確認して進入したと話しているということです。

◆管制官への指摘

運輸安全委員会は管制官について海上保安庁機が滑走路に進入し、そのまま停止していたことを認識していなかったことが事故の要因の1つだと考えられると指摘しています。

≪海保機の動きを認識していなかったとする根拠は≫
海上保安庁機が滑走路に向かうための誘導路に入ったのを目視で確認してから事故までの間、指示を出していないこと、目視での確認から事故までの間、ほかの管制官と海上保安庁機の動きについて会話していないことなどを理由に挙げています。

≪事故に関係した可能性があると指摘したことは≫
当時、7機を目視の監視対象としていたこと、視線を外の監視から卓上の画面に移した間に海上保安庁機が滑走路に進入したこと、日本航空機の着陸後速やかに海上保安庁機に指示を出す必要があったため、日本航空機を監視していたこととしています。
また、事故の15秒前に、海上保安庁機が滑走路に進入したように画面上で見えた管制官が、担当の管制官に日本航空機の動きをスピーカーを通して問い合わせたものの意図が伝わらず海上保安庁機への対応は特段行われなかったこと、航空機が滑走路に誤進入した場合などに画面上の色が変わる注意喚起システムが作動していたものの、その表示を認識していなかったことなどとしています。

◆日本航空機への指摘

運輸安全委員会は日本航空機について滑走路上に止まっていた海上保安庁機を衝突の直前まで認識していなかったことが事故の要因の1つだと考えられると指摘しています。

≪海保機を認識していなかったとする根拠は≫
日本航空機が着陸のやり直しを行わなかったことや、高度150メートル以下でパイロットは特段の会話をしておらず、異常を感じさせるような状況がなかったことを理由に挙げています。

≪事故に関係した可能性があると指摘したことは≫
事故は日没後で月も出ていない状況だったことや、海上保安庁機の衝突防止灯などの明かりが滑走路上に設置されたほかの明かりと同じような白色だったこととしています。
また、社内の副操縦士の資格を取るため訓練生が操縦し機長は指導を行っていたこと、管制官から入った情報と機上の風向きに違いがあり、パイロットが風向きの変化を予想し、これに伴う速度の急な変化を懸念していたこと、機長と訓練生が計器の情報をパイロットの顔の前の透明なガラス板に映し出すヘッドアップディスプレイを使っていたことなどとしています。

◆日本航空機からの緊急脱出について

運輸安全委員会は日本航空機からの緊急脱出について、判明した内容をまとめています。

≪被害低減のため分析するとしたことは≫
右のエンジンが作動したままの状態で緊急脱出が行われたこと、脱出指示装置や機内放送が使えず、機長の脱出指示は当初、肉声で一部の客室乗務員にだけ伝えられたこと、乗客への指示もほとんど肉声で行われたこととしています。
脱出の出口については、使われたのは左右4つずつあるうちの3つだったこと、左側の一番後ろの出口を担当する客室乗務員は機長などから脱出開始の情報を受けることができず、煙が迫ってきたため自分の判断でドアを開けて脱出を開始したこと、脱出に使われなかった出口では、担当の客室乗務員が外の火災を確認し誤ってドアが開かれないよう離れずに監視していたこととしています。
乗客の動きなどについては、一部の乗客は乗員からの指示を直接認識できずに周囲の動きに追従したり自分の席付近にとどまったりしていたこと、席の付近にとどまっていた乗客は脱出開始に気づかず、次の指示を待っていたこと、脱出後の乗客の人数確認を現場で行わず、待機場所への移動後に全員の確認を行ったことなどとしています。

≪重大な人的被害が出なかったことに関係した可能性のあることは≫
火災が客室内に延焼するまでおよそ10分あったこと、客室乗務員の指示で乗客が通路や出口に殺到する状況が起きなかったこと、脱出に使ったスライドの着地点の周辺に火災が延焼しなかったこととしています。
さらに、今回の乗員が事故の1年以内に会社の定期救難訓練を受講し、緊急脱出に関する訓練を受けていたことなどとしています。

◆消火や捜索などについて

運輸安全委員会は消火や捜索などについて教訓を導き出すために分析する内容をまとめています。

≪消火と捜索について≫
空港消防が日本航空機に到着したとき乗客の脱出の最中だったこと、東京消防庁の車両が日本航空機に到着したときにはすでに胴体全体に火災が延焼した状態だったこと、日本航空機からの緊急脱出が完了するまでの間、消火活動では機体の胴体部分を中心に冷却し、脱出の時間を確保することを優先していたこと、などとしています。

≪緊急脱出後の乗客の誘導について≫
日本航空機から緊急脱出した乗客が機体周辺に滞留していたため、空港消防の職員と脱出した乗員が機体から離れるよう誘導したこと、乗客の中に日本航空のグループ会社の社員が2人いて、訓練にもとづいて自分の座席周辺で乗客に指示を出していたことなどとしています。

≪機体炎上時の粉じん対策≫
消火活動にあたった空港消防と東京消防庁の消防士は、機体に使われている炭素繊維強化プラスチックの燃えかすから出る粉じんに対する危険性を認識していなかったこととしています。
運輸安全委員会では教育はしていたものの装備が十分ではなく、事故当日に現場に入った調査官は十分な対策を行っていなかったとしています。
今回の日本航空機はエアバスA350型機で、胴体や主翼、尾翼などの主な構造が炭素繊維強化プラスチックでできている新型機だということです。
炭素繊維は燃えた場合、粉じんとなって飛散しやすく、その繊維は皮膚や粘膜に突き刺さりやすく痛みやかゆみを引き起こすほか、目やのどに障害を与えることがあるということです。

《海上保安庁機 操縦室内での主なやりとり》

海上保安庁機から回収されたボイスレコーダーなどから判明した操縦室内での主なやりとりです。

[午後5時45分10秒]
海上保安庁機は管制官に対し誘導路上にいることを伝えました。

[午後5時45分14秒]
管制官「JA722A(海上保安庁機)、東京タワー、こんばんは。ナンバーワン。C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」

[午後5時45分18秒]
海保機副機長「滑走路停止位置C5に向かいます。ナンバーワン。ありがとう」
海上保安庁機の機長が、副機長が行った復唱にあわせてみずからも復唱します。

[午後5時45分21秒]
海保機機長「ナンバーワン」

[午後5時45分22秒]
海保機機長「C5」

[午後5時45分23秒]
海保機機長「問題なしね」

[午後5時45分24秒]
海保機副機長「はい、問題なしでーす」

[午後5時45分25秒]
海保機機長「はい、じゃあ、離陸前点検」
点検を指示します。

[午後5時45分30秒ごろ]
海保機副機長が離陸前点検を開始します。

[午後5時45分41秒]
海保機副機長「衝突防止灯、白色」
防止灯を白灯にします。

[午後5時45分51秒]
海上保安庁の羽田航空基地の通信士から海上保安庁機に呼びかけがあります。

[午後5時45分54秒]
海保機副機長が離陸前点検の一部の項目を記入したと発言。
本来、滑走路進入許可が出てから行うものでした。

[午後5時45分58秒]
海保機機長「操縦系統のロック機能を外し、作動を確認」
操縦かんの作動確認の指示を出します。

[午後5時45分59秒]
海保機副機長「はい、操縦系統のロック機能解除」

[午後5時46分5秒]
副機長はロックを外し、操縦系統の作動確認を行います。
海保機副機長「チェックした」

[午後5時46分8秒]
海保機機長「はい」

[午後5時46分11秒]
海保機副機長「防氷装置は入れときますね」

[午後5時46分13秒]
海保機機長「はい」
このとき海上保安庁機が滑走路停止位置C5を通過。

[午後5時46分26秒]
羽田航空基地通信士「小松での電源車の借用の調整はつきそうにありません。ここまでいかが」
基地から海上保安庁機に通信が入ります。

[午後5時46分35秒]
海保機機上通信員「はい、どうぞ」

[午後5時46分37秒から49秒]
羽田航空基地通信士「はい、小松で、えー、1発のみエンジン、カットした状態でSRTおよび資機材の搭載について可能かどうか(以後、不明瞭)」※SRTは羽田特殊救難基地特殊救難隊。

能登半島地震に関するその日の任務についての内容でした。
このあたりで、滑走路上で停止します。

[午後5時46分47秒]

海保機機長「私が操縦かんを持っています」
海保機副機長「はいー、あなたが操縦かんを持っています」

このときの機長と副機長の発言は基地との交信と時間的に重なっています。

[午後5時46分55秒]
海保機機上通信員「機長、今よろしいですか」

機上通信員は任務に関する基地からの問い合わせを機長に尋ねようとします。

[午後5時46分56秒]
海保機副機長「あー、後の方が良い」

[午後5時46分57秒]
海保機機上通信員「了解です」
海保機機長「うん、ちょっと後で」

[午後5時46分58秒]
海保機機上通信員「はーい」

[午後5時46分59秒]
海保機副機長「きょうはやるやろ」

[午後5時47分2秒]
海保機機長か副機長 発言不明瞭
このあと午後5時47分3秒から26秒まで操縦室内は無音の状態が続きます。
その後、日本航空機と衝突し、午後5時47分27秒でボイスレコーダーの記録が終了しています。

専門家「悪条件が重なって起きた事故」

全日空の元機長で航空評論家の井上伸一さんは公表された調査の途中経過について「機長と副機長の2人の認識が管制の指示と異なることは過去にもあったが、その時は管制や着陸機が気づいて事故にならずにすんでいる。今回は悪条件が重なって起きた事故だと感じた」と話しました。

今回の途中経過では、海上保安庁機から回収されたボイスレコーダーなどから操縦室内の詳しい状況が明らかになりました。これについて井上さんは滑走路に進入する際に機長と副機長が進入許可が出ているかなどを声に出して確認していない点に注目したということです。

井上さんは「事故が起きた滑走路に入る前にも2つの滑走路を横断していて、そのときは声に出して確認していたのに、最後だけ、声に出して確認していないことが気になった。視線を合わせるなど長年一緒にやってきた人どうしのあうんの呼吸のようなもので確認したのではないか」としたうえで、ひとつひとつ声に出して確認することがミスを防ぐ手だてになると指摘しています。

そして「海上保安庁は今後、組織的に研究し、パイロットへの教育や訓練を充実させていくべきだ」と話しました。

また
▽海上保安庁機が滑走路に入ったように見えた管制官の1人が、担当の管制官に問い合わせた際、意図が伝わらなかったことや
▽日本航空機の機長らが計器の情報を顔の前のガラス板に映し出すヘッドアップディスプレイを使っていた影響についても注目したということです。こうした点についてもさらなる調査を行い、再発防止策を検討していくことが必要だと指摘しました。

林官房長官「再発防止に向けて対策 着実に進めていきたい」

林官房長官は25日の記者会見で「今後、運輸安全委員会でさらなる調査や分析が実施される。国土交通省で再発防止に向けて滑走路への誤進入に関する注意喚起システムや、管制業務の実施体制の強化などの対策が進められており、引き続き着実に進めていきたい」と述べました。

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