「裏アカ」調査で学生の本音は見えない 「就活の教科書」社長
従業員を採用する際、入社希望者が匿名で使うSNSの投稿内容を調べる動きが広がっている。「裏アカウント」の調査をする企業の本音は何なのか。就職活動中の学生はどう反応するのか。就活支援サイト「就活の教科書」を運営する岡本恵典社長(30)に聞いた。
――「裏アカ」調査が就活業界で話題になったのはいつごろでしょうか。
1年くらい前にSNSで話題になり、就活生の間で広がっていきました。とはいえ、調査が行われているのを知っているのはせいぜい2、3割くらい。まだ知らない人が多いでしょう。
――企業は何を求めて調査するのでしょうか。
うそをつかない人物かどうか
SNS投稿のマナーを確認しているのもあるけれど、一番の狙いは、うそをつかない人物かどうかを見ることです。
コロナ禍で対面の面接が減り、エントリーシートやオンライン面接から受けた印象が本当なのか、企業側には不安が残っています。安心材料が欲しいから、裏アカまで調べているのです。
――オンライン面接では本来の性質が見抜きにくいのでしょうか。
そうです。あいさつ慣れしているかとか、歩く姿勢とか、にじんでくる普段の言葉遣いとか、会ったら色々分かることが多い。オンラインだとそれが分かりにくいし、会話に間ができるから長く続けるのがしんどくなる。面接担当者も「もうこの辺でいいか」という気持ちになります。
私が知っている男子学生は、居酒屋の呼び込みのアルバイトをしたことを売りにして、多くの企業の内定をもらいました。企業はコミュニケーション能力やストレス耐性を買った。
彼は、本当は呼び込みのバイトをした経験はありませんでした。架空の経験を作り上げ、採用試験を通ったのです。
オンライン中心だからこそ、うそが見抜けなかった面もある。私が受け持った学生ではなく、全てが終わってから本人から聞き、驚きました。
調査をしていること自体、格好悪い
サークルの副リーダーを自称したり、主催したイベントの参加人数を水増ししたりするケースが多いようです。リーダーだとばれるかもしれないが、副リーダーだと確認がしにくい。イベントの人数も裏の取りようがない場合が多い。私が事前に聞いていれば「盛るのはやめよう」と言いますが、受けがいいと思ってやってしまう人がいるようです。
――企業は裏アカ調査をしていることをオープンにしているのでしょうか。
企業は言いません。そういう調査をしていること自体、格好悪い。企業のイメージが落ちると考えている。こっそりやっている感じだから、ほとんどの就活生は調べられているという認識がありません。
――就活生はSNS投稿でどんな注意が必要なのでしょうか。
当たり前ですが、特定の企業や面接担当者の悪口をつぶやくべきではない。これは調べられたら明らかにマイナスです。
学生らはサービスを受けることに慣れすぎていて、採用面接を受ける際も「お客さん」という感覚です。深く考えず、「面接担当者うざかった」とか書き込んでしまう。飲食店のメニューへの感想と一緒、くらいに思っています。
極端に言えば、SNSマナーや投稿内容に自信が持てなければ、発信しないのが一番安全です。
――なぜ、限られた範囲の人だけが見られる「鍵」をかけないまま、SNSで私的なつぶやきをする若者が多いのでしょうか。
露骨に「私の意見をどう思うか」とは聞きたくない。それだと反論されるかもしれないから。だから、誰かに向けて言うのではなく、自分で勝手に愚痴る。それでいて、「いいね」やリツイートが増えるとうれしい。
企業は面接で本音を見抜くことに力を
リスクを負わず、共感を求めています。そのちょうどいいところにツイッターがあるのです。
――企業側からすると、裏アカ調査で就活生の本音は見えるのでしょうか。
それは疑問です。本当に分かるのか、と思います。人種差別発言や反社会勢力との付き合いとか、明らかにアウトなごく一部は別ですが。
調査は疑いの目を持ってあら探しをしている感じだが、やるなら長所発見を目的にしてほしいです。できれば若気の至りでつぶやいたことに、あまり目くじらを立てないでほしいと思います。
裏アカまで調べる必要はない。企業は面接で本音を見抜くことにこそ、力を入れて欲しいです。
おかもと・けいすけ 就活支援サイト「就活の教科書」を運営する「Synergy Career」(大阪市北区)の社長。同サイトは多い月は約220万回のアクセスがある。大阪府立大の大学院修士課程を修了後、IT関連企業に就職したが営業職に向かず、9カ月で退職。経験をもとに就活生の支援を始めた。内定を得て活動を終えた直後の学生や就活中の学生ら約20人を雇う。ユーチューブチャンネルなどでも情報発信している。
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