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PROJECT 03化学の力で実現する浮かぶディスプレイ
〜エネハイド開発プロジェクト〜

ふたつの大きな課題を乗り越えて、
新時代を拓く新素材の開発・量産化へ。

ポリイミドは繰り返し単位にイミド結合を有する高分子の総称で、全ての高分子中で最高レベルの耐熱性、強度(機械物性)、耐薬品性を有する。スーパーエンジニアリングプラスチックの1つでもある。しかし黄褐色を帯びることから、その用途は限定されていた。もし無色透明なポリイミドが登場すればその用途は無限に広がる。ENEOSは石油化学品事業で培ったノウハウをもとに、2009年から独自の分子構造を有する透明ポリイミド用原料の開発に着手。数々の試行錯誤を経て、脂環式構造を導入した新規モノマー「エネハイド®CpODAグレード」の開発に成功、2018年12月に上市した。これにより従来のポリイミドの優れた特性を維持しつつ、無色透明性を備えたポリイミドの製造が可能となり、次世代ディスプレイ用材料(TFT基板やウィンドウフィルムなど)への応用が進められている。現在もエネハイド®CpODAに続く新グレード開発は続いており、今後の透明ポリイミド市場への適用が期待されている。

PROJECT MEMBER

  • 渡部 大輔
    WATANABE DAISUKE
    機能材カンパニー 機能材研究開発部 
    機能化学品グループ 担当マネージャー(チームリーダー)
    工学系研究科修了
    2007年入社
    ※会社名・組織名・所属名・インタビュー内容等は取材当時のもの
  • 長谷川 貴大
    HASEGAWA TAKAHIRO
    機能材カンパニー 機能材研究開発部 
    機能化学品グループ
    化学・生命化学科修了
    2016年入社
    ※会社名・組織名・所属名・インタビュー内容等は取材当時のもの
  • 後藤 純也
    GOTO JUNYA
    機能材カンパニー 機能材研究開発部 
    機能材生産技術グループ 担当マネージャー
    工学研究科修了
    2016年キャリア入社
    ※会社名・組織名・所属名・インタビュー内容等は取材当時のもの

エネハイド開発の経緯と、プロジェクトにおける各自の役割を教えてください。

渡部
発端は2009年まで遡ります。ENEOSは石油化学品事業で培ったさまざまな独自技術を保有していますが、そのひとつに、分子内に橋架け構造を持つノルボルネン化合物の製造技術があります。ノルボルネン化合物は他の炭化水素化合物には見られない特徴を製品に付与できることから、前任者がこの技術を応用して開発した新規モノマーを大学に持ち込んだことがはじめの一歩でした。大学でポリイミドの原料として期待できるのではないかという評価を得た前任者は、2011年にサンプルをポリイミドメーカーに提供し、ここでも非常に高い評価を得ることができました。これを受けて2012年にプロジェクトは本格稼働し、私もそのメンバーの一人として参画しました。
長谷川
当時、エネハイドの製造は技術的には完成していたんですか?
渡部
ラボスケールでは問題なく。ただ、問題はスケールアップ。チームメンバーの大半は量産化検討を担当していたのですが、それを横で見つつ私はコスト削減につながる新製法の開発を担当していました。その後、2015年からはエネハイド®CpODAに続く新しい素材の開発担当となり、2017年頃から、全体をマネジメントする立場になりました。プロジェクトは発足以来、いくつかの課題に四苦八苦しながらも順調に進んでいたのですが、2016年頃から大きな問題がふたつ持ち上がりました。
後藤
ひとつは量産化に伴う品質の安定化に関する問題ですね。原因不明の品質のブレがあり、そこをブレイクスルーする必要がありました。
長谷川
もうひとつは、臨床技術開発。簡単に言ってしまうとお客さまへの技術サポートの強化ですね。というのも、お客さまからのサンプル要求数は多く、内何社かは評価も進んでいたのですが、具体的な採用の話にはなかなか至りませんでした。量産化のステージが進んでも、売れなければ元も子もありません。お客さまにとってどんな価値を提供できるのか、こちらから働きかける必要がありました。
渡部
エネハイド®CpODAを市場に送り出すためには、このふたつの課題はどうしても乗り越えなければいけない壁でした。

量産化の問題点はどこにあったのでしょうか?

長谷川
一般に、量産体制を確立するためにはラボスケールからパイロットスケール、実機スケールへとスケールアップするごとに検証が必要です。スケールが大きくなるとラボ検討では見られなかった安全上の課題や品質異常が生じることもあります。その際には研究所で基礎データを取得し、開発部門と協議しながら改善案を構築していくのですが、後藤さんが取り組んだ課題は、そうした一般論とはレベルの違う難題でした。
後藤
私がプロジェクトに参加したのが2017年の春です。すでに量産化に向けた検討は終了し、製造段階に移行していたのですが、なぜか製造ごとに品質が変動するという奇妙な現象が続きました。品質が原因不明の下振れをする。もちろん不明なだけで原因は必ず存在します。私はもともと量産化、スケールアップを専門とする技術者で、原因特定のノウハウは持っていたのですが、それを実行するのはかなり大変でした。
渡部
生産に必要な要因系として4M、つまりMan(人)、Machine(設備・機械)、Method(方法)、Material(原材料)があるのですが、その4Mを工程ごとに切り分け、それぞれの組み合せごとに仮説を立て、検証するという、気の遠くなるような作業でしたね。
後藤
原因となる可能性のある組み合わせは無数にありますから。実験しては検証の繰り返し。最終的に原因を突き止めるまでに半年の時間を要しました。何が原因だったかは機密に属するので具体的には話せませんが、間接的・複合的な問題でした。この品質下振れ問題を解決したことで、安定的な量産体制への道筋がつきました。

残るもうひとつの課題は「なかなか売れない問題」ですね。

渡部
どちらが先というより、同時並行的な問題ですが、売れない理由はおおよそ見当がついていました。私たち素材屋は、これまでずっと「いいモノをつくれば売れる」という製造者目線で開発してきました。実際、エネハイド®CpODAはお客さまから高く評価されていたので、私たちがきちんと作れれば、売れると考えていました。そのため、当初はCpODAを「製造する」ことに専念していて、「どのように使われているのか」を深く考えていなかったのです。とくに今回のような新素材の場合、ポリイミドメーカーの評価がいくら高くても、実際に利用するのはポリイミドメーカーの先にいる電子機器などのメーカーです。そこで「お客さまの想定用途」の勉強をし、チームメンバーと実験に取り組みました。それが臨床技術開発です。
長谷川
臨床技術開発は、営業部門とも緊密に連携しながら現在も進めています。営業部門を交えて定期的に技術的な議論を行い、面談時にお客さまが抱えている課題への改善案を提供できるように準備をしています。お客さまの考えをより理解するために、「お客さまのお客さま」に相当する電子機器メーカーに足を運び、ニーズの発掘や分析を行うこともありました。当然、お客さまによって求めるスペックが異なるので、それぞれに合わせた提案が必要となります。そのためCpODAの性能を引き出すための重合検討や物性データの取得など、より川下の評価も行いました。いわば、お客さまごとのレシピづくりですね。
渡部
その取り組みを重ねるごとで、少しずつ知見が蓄積され、今ではお客さまのコメントの裏にどのような考えが潜んでいるかを考察できるようになったと思います。当社から「ポリイミド組成の提案」もできるようになりました。
長谷川
製品の評価については当社の結果とお客さまでの結果に差異が生じることもあり、その場合も迅速な原因究明と解決策の提案を心がけています。当部署ではカンパニー制度という組織体制をとっており、常日頃から研究部門、開発部門、営業部門が三位一体となってプロジェクトを遂行しています。課題が生じた際には各部門のプロフェッショナル性を存分に発揮し、密接な連携をとることで早期解決に努めています。
渡部
こうした臨床技術開発の甲斐あって、お客さまからの引き合いはぐんぐん増加し、2018年の販売開始に大きな弾みをつけました。いずれにしても、こうしたお客さま視点に立った技術サービスというものは、これまでの素材開発にはなかったものだけに、今後さらなるノウハウの蓄積が必要だと考えています。

このプロジェクトを通して、どんなところにやりがいや喜びを感じましたか。

渡部
このプロジェクトに参画した当時、ポリイミドの知識はゼロでした。本プロジェクトで研鑽を積んだおかげで、今では自分が得意とする専門分野のひとつになりました。臨床技術開発を通して、つねにお客さま目線を意識できるようになったことも大きな収穫です。また、機能化学品の量産化にも初めて携わることができ、多くを学びました。CpODAの見た目はただの白い粉ですが、多くのお客さまから未来を拓く素晴らしい原料との評価をいただいています。研究段階からその仕事に携わり、世に送り出せたということは大きな喜びであり、誇りです。
長谷川
自分が携わった製品がお客さまを満足させたとき、技術的なサポートを行うことによってお客さまの抱える課題を解決することができたときに、やりがいを感じました。また製品として上市するまでの過程で、社内外のさまざまな分野の方と議論させていただく機会がありました。自分の専門以外の分野の方と議論することはとても刺激的なことであり、自身の成長にも繋がったと思います。
後藤
どのような研究開発にも共通することですが、新しいことに挑戦すると、未知の課題が出てきます。この未知の課題を解決することが、困難なことであり、かつ、醍醐味だと思います。困難を乗り越えるには、自分自身で考え抜くことが必要ですが、同時に社内外の知識や経験を活かしていくことが大切です。一方で、万が一乗り越えられなくとも、別の手段で何とかなると開き直るくらいの度胸も必要でしょう。お客さまがお金を払ってでも購入したい製品を量産化することは、それだけ求められる要求も厳しくなります。その高い要求に応えていくことは、技術者にとって大きな喜びです。こうした経験は、若い世代にもぜひ伝承していきたいですね。
長谷川
このプロジェクトでは、量産体制の知見や技術サポートのノウハウが多く蓄積されました。世の中のトレンドの変化に伴って、お客さまが材料に求めるスペックも大きく変わっていくでしょうが、その際に用途に合った製品を素早く提供できるよう、本プロジェクトを通じて得られたノウハウを活用していきたいですね。
後藤
本プロジェクトは、ひとつの区切りを迎えましたが、大きなビジネス・事業に成長させるためには品質、コスト、生産能力の全てで、さらなるレベルアップに挑戦していかなければなりません。また、CpODA以外の開発品の量産化にも挑戦して、ビジネスや事業に結びつけられる生産技術の基盤を固めていきたいと考えています。
渡部
そうですね。エネハイド事業は始まったばかりです。事業として独り立ちするためには、CpODAに続く「新グレード」の早期立ち上げが必要で、現在もプロジェクトメンバーのそれぞれが研究開発に邁進しています。満足するのはまだ早いです。

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