機能と美しさを両立した、顧客ニーズを満たす革新的デザインをめざして

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RE(※1)タイヤ開発部 商品開発グループで担当リーダーを務める佐藤。1992年の入社以来、タイヤのパターンデザイン開発に携わってきました。

「接地面の溝や側面といったタイヤの表面をデザインすることがデザインチームの仕事です。機能と外見上の美しさの両立を図ることをミッションに、構造設計の担当者と一体となって製品開発を進めています」

タイヤデザインはあくまで顧客起点。プロダクトデザイナーには、ドライバーが抱えている悩みを正確に把握・深掘りした上で課題を明らかにし、デザインを通じてそれらを解決することが求められます。

「『北米市場向けに、オフロードも走行できるピックアップトラックに装着するためのタイヤをつくってほしい』という具合に、まずは営業や企画部門から新しいタイヤづくりの要望が上がってきますので、それに適う商品コンセプトを検討します。

具体的には、お客様に対してどんなベネフィットが提供できるかをデザインと機能の両面から検討し、設計担当者と互いに意見を擦り合わせながらコンセプトを練り上げていくのが主な流れです」

タイヤに求められる性能はさまざまです。装着車両のボディタイプだけでなく、国によっても好まれるデザインは大きく違います。

「要求性能は道路事情などによっても大きく変わってきます。砂漠や砂利道と隣り合わせた広大な道路が延々と続く北米市場では、ピックアップトラックをはじめとする大型車種が人気です。

道路のコンディションは良好であるものの、住宅地が密集し信号機の数も多い日本国内市場では、タイヤに起因する騒音対策や、ストップ・アンド・ゴーに耐えられる高い耐摩耗性能へのニーズがあります。

また、速度無制限区間のあるアウトバーンに代表されるように、ヨーロッパでは日本と比べて制限速度が高く設定されています。タイヤと路面のあいだに水が入り込むことで摩擦力が失われ制御不能となるハイドロプレーニング現象を回避するための排水性やウェット性能など、安全機能が重視される傾向があります」

パターンデザインが性能に直結していることが、タイヤ設計開発の大きな特徴のひとつです。顧客の要望に応える難しさがある反面、そこに仕事のおもしろさがあると佐藤は言います。

「たとえば、溝をどんな角度に設定すれば静粛性や排水性が高まるかを突き詰めながら、デザイン性と折り合いをつけていくのは容易ではありません。デザインと性能の両立は頭を悩ませるところですが、一方で、自由な発想で試行錯誤できるのがパターンデザインのおもしろい点です。

たとえば、以前サメの皮膚表面の形状をヒントにしたオリンピック競泳水着が注目を集めた際、そのアイデアをタイヤの溝に応用しようと金型(※2)を試作したこともありました。製品化には至りませんでしたが、このように、トライアルアンドエラーを繰り返す過程でタイヤが予期せぬ性能や表情を見せてくれるところに、この仕事の醍醐味を感じます」

※1 Replace Equipment(リプレイス・イクイップメント)の社内略号。市販する補修・交換用タイヤのこと
※2 タイヤの加硫工程で使用する焼き型。加硫時にタイヤに模様がつく

深いコミットメントとクリエイティブなプロセス。舞台裏でほとばしるデザインへの情熱

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学生時代は美術大学でプロダクトデザインを学んだ佐藤。大学在学中に勧められたことをきっかけに、興味を持ったのがTOYO TIREでした。

「就職活動をしていた1990年代当時、業界は機能重視で、デザインに注力するタイヤメーカーは稀でした。そのような中、TOYO TIREでは、デザインの重要性を見据えていた当時の設計部門長がデザイナーの採用を積極的に進めていたんです。

『デザインが未開拓の領域で新しい世界を切り開くチャンスがある』と指導教官から勧められ、挑戦を決意しました」

佐藤が入社したのは、現在のように車種が多様化する前の時代。少品種大量生産から多品種少量生産へと移行する中、デザイナーとして成長を重ねてきました。

「車種の増加にともない、用途に応じたトレッドパターン(タイヤが接地する面の溝や切り込み)の需要が高まっていました。私にとって絶好のタイミング。時代と需要の後押しもあって、さまざまな仕事を経験できました」

そんな佐藤にとってとくに印象に残っていることがあります。高性能スポーツカーやラグジュアリーカー向けに設計され、現在も高い人気を誇る「INVO(インヴォ)」の開発を手がけた時のことです。

「当社では『TOYO TIRES』とは別に、よりデザイン性の高い商品群を扱うハウスブランド『NITTO』も擁しており、私はこのNITTOでのデザインを主に担当してきました。ファッショナブルなタイヤをめざして北米現地スタッフと共に開発したのが、INVO。オリジナルデザインがこれまでに例のない奇抜なものだったことから、完成させるまでに大変な苦労がありました。

デザイン画をもとに社内の職人がトレッドパターンを手彫りし、それを実車に装着してテストとモディファイを経て製品化に至りますが、通常はサイクルを数回重ねるとある程度の性能を確保できるようになります。ところが、INVOに関しては10回以上繰り返す必要がありました」

北米全土の有力なショップを回って顧客の声を集めてきた現地スタッフらとも侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論を交わしながら、発売に漕ぎ着けた佐藤。大きな成果と自信を手にしました。

「試行錯誤のかいあって、北米最大のモーターショーで発表した際には当社のブースで世界のタイヤメーカーの担当者が人だかりをつくるなど、業界に対して大きなインパクトを与えることができました。

実は、車両などのマシンが変身して戦う某SFアクション大作で、とあるクルマを模したキャラクターにINVOが装着されるなど、ハリウッドデビューも果たしているんですよ(笑)」

その後も、TOYO TIREの看板商品を数多く手がけてきた佐藤。最近ではこんな出来事も。

「これまでずっと乗用車用のタイヤを担当してきましたが、7〜8年ほど前に初めて北米のSUV用タイヤを担当しました。市場やデザインについてイチから学び直して開発したのが『OPEN COUNTRY A/T Ⅲ』です。

北米では、サイドウォール、つまりタイヤ側面のデザインが華やかなものが好まれます。そのような市場のニーズに応えたく、50を超えるデザイン画を作成。これまで当社が長年にわたって培ってきた構造設計技術もデザインの実現に遺憾なく力を発揮し、無事に製品化に至りました。

日本国内ではグッドデザイン賞を受賞したほか、高い基本性能とアグレッシブなパターンデザインを兼ね備えた製品として、現在も当社の米国工場で最も多く生産されているタイヤのひとつとなっています」

スマホを置いて町へ出よう。30年以上のキャリアを経て見えたデザインの本質

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入社以来、一貫してデザイン開発に携わってきた佐藤。タイヤを取り巻く環境の変化をこう振り返ります。

「車種が増加してデザインが多様化するのと並行して、法規制が厳しくなってきました。耐雪や騒音、ウェット性能に対する規制が厳格化した結果、国内市場では乗用車用のタイヤはデザイン面においては控えめなものが主流になってきていると感じます。

一方、北米市場ではますます華やかになる傾向が見られます。とくに、SUVやピックアップトラックに装着されるライトトラック用タイヤには堅牢さが求められる反面、乗用車用ほどの静粛性や操縦安定性が要求されません。デザインの自由度はとても高いと言えます」

そして、情報化がますます加速するこれからの時代において、価値あるプロダクトデザインを創出していくため、情報を点ではなく面で捉えることの重要性を佐藤が力説します。

「デザインの世界でよく言われるのが、無から有は生まれないということ。デザインを通して未来を切り開くには、過去のことにも現在のことにも精通していなくてはなりません。

また、実際に見て、聞いて、触って、そして感じることも大切だと考えています。インターネットはとても有用な道具ですが、偏った情報しか入手できないのが難点です。特定の情報を点で掘り下げることはできても、広い視野での情報収集が困難なため、面として捉えることができません。

リアルを経験して、そこにあるさまざまなものを寄せ集めることが、新しいものを生み出す鍵になると考えています」

ベテランとなったいまでも、さまざまなところに足を運んで新しいものを見つけるとわくわくすると話す佐藤。プロダクトデザイナーとして30年以上のキャリアを経て、ようやくたどり着いた境地があると話します。

「デザインをストックするという考え方がありますが、デザインは生き物です。たとえば、3年前のデザインを見返すと、どこか陳腐化してしまった古さを感じてしまうもの。時代が刻々と進化する中、『いま』を捉えたデザインであることが決定的に重要だと思っています」

機能を美しい造形へと昇華し、持続可能なタイヤデザインの実現を

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「いま」を捉えたデザインを世に出し続けるため、チームリーダーとしてメンバーを率いる佐藤は、組織づくりにも意欲的です。

「新たな要望に柔軟に対応していくために、チームワークの強化にも取り組んでいくつもりです。ベテランと若手が互いに学び合い、それぞれの強みを尊重し合うことで知識と経験の共有を図り、全体としての成果を高められるような組織づくりを進めていきたいと考えています」

脱炭素社会をめざす動きを背景に、ガソリン車から電気自動車へとシフトする動きが活発化している昨今。持続可能なデザインの実現に向けて、佐藤は次なるモノづくりへと動き出しています。

「電気自動車の普及によって、高トルク・高荷重の車両が増え、タイヤの負荷がますます増加しているのが現状です。ところが、タイヤのデザイン性を向上させようとすると、ブロック剛性(タイヤの接地面の一部である凸部の硬さや、変形に対する抵抗力)に不均一がもたらされ、これが耐偏摩耗性に影響を与えることがあります。タイヤの剛性のバランスを均一に保ちつつ、同時に美しいデザインを実現することが目下の課題です。

また、電費(ガソリン車でいうところの燃費)の向上が要求される中、タイヤの空力性能にも注目が集まっています。空気抵抗を減少させる技術を、いかに美しいタイヤデザインに組み込むことができるか、新しい観点からのモノづくりが楽しみです」

※ 記載内容は2023年11月時点のものです