47 『~続けてくれ』 私の声に頷き、恵が口を開く。 「その頃はモデルのギャラを頂いてそれを返済にあてる事より、出来上がった自分自身の“絵”を見る事も楽しみでした。いつの間にか織田さんの前で裸を晒す事は自然な事でした・・・・・・すいません」 「い・・いや・・・・」 「でもある時 織田さんが言ったんです 『佳恵さん もう少し大人向けのものに・・・・エロチックなものに挑戦してみよう』 って・・・・」 (・・・・・・・・・) 「それは・・・SMチックなものでした・・・・織田さんが縄を持ち出したのを見た時は、さすがに恐怖が走りました・・・。でも 強引に縄を掛けられた時・・・・・わたし・・・わたし・・・・か 感じてしまったんです・・」 !! ・・・ 頭の中にキーーーーーン と言う音が鳴り響いた。 それまで凜(りん)としていた恵の瞳が、一気に震え始めた。 「織田さんは・・・私を不自由な形に縛り上げた後、私の前に大きな姿見を持ってきたんです。今まで見た事もないような大きな鏡でした・・・。目を開けれない私でしたが、耳元で織田さんが言ったんです・・。今でも覚えています 『鏡の中に本当の自分がいるよ・・エロチックで美しいマ マゾの佳恵が』って・・・それまで聞いた事のなかった響きでした・・・・私・・・薄っすら目を開けて・・・鏡の中の自分を見た時・・・・また・・・・もう一度 感じてしまったんです・・・・・・・ゴメンナサイ・・・・あなた・・ごめんな・・・」 恵が涙腺の爆発を我慢しているのが良く分かった。 私は子供をあやす様に、ゆっくり何度も頷いて見せた。 (・・・・・・・・・・・) (・・・・・・・・・・・) 「すいませんでした・・・・・続けます」 「・・・・・・・・・うん」 「それから私は色んな形で縛られ絵を描かれました・・・・。調子の乗らない時はムチで打たれたり・・・・その・・・その・・・・オモチャなんかも使われました・・・・」 ハッ!・・・ 一瞬 息が止まる。 「・・・・はい、 それで打たれたり、逝かされた後の姿を絵に描かれました・・」 「・・・・・・・恵・・・・・一つ・・・・一つ聞いていいかい?」 震える声・・・初めて私からの質問だった。 「はい・・・」 「その・・・正直に答えて欲しい・・・織田とは・・その・・・・身体の関係は無かったのか?」 「・・・・すいません 織田さんには・・・2度ほど・・抱かれ・・・まし・・た・・」 「・・・・・そうか」 私は小さく頷いた。 「それと・・・・その頃描かれた“絵”は、今 どこにあるんだ?」 「・・・織田さんは時々 個展を開いてました。そこで 買い手が付いて人様に譲った事もあったみたいですし・・・私も何枚か頂きましたが、あなたと結婚する時に処分しました。・・・・それと 何枚かは織田さんが道尾に・・・道尾にプレゼントしていました」 「そうか・・・・」 「はい・・・・」 「それから道尾と出会うのか?」 「は・・い」 『私は病んでいた』 いよいよその核心の部分に入ろうとしていた。 ブルッと背筋に武者震いが走った。 「恵・・・続けてくれ・・・」 可愛らしい口元がコクリと頷く。 「ある日の事でした。いつものアトリエで裸で縛られました・・・。『今日はいつも以上にハードなやつでいくよ』 織田さんがそんな事を言ったのを覚えています」 いつしか恵の口調も心なしか滑らかになっている。 やはり 恵にも魔の力が潜んでいるのか・・・。 それとも身体に流れるMの血が、恵と言う女を操っているのか・ 「蛙(かえる)のように足をMの字に開いたまま、太ももから背中を太い竹の棒のようなものにくくり付けられました・・・・。そして クサリを引っ張ると滑車が揺れて私の身体が浮かび始めるんです・・」 (・・・・・・・・・) 「身体が止まると目の前の鏡の中に、惨めな女の姿がありました・・・・。でも 織田さんが・・・言葉を吐き出すと・・・・私の・・・私の理性がどこかに飛んで行くんです・・・・・・・・。その時 更に驚く事がありました」 (ゴクリ・・・・) 「織田さんが 『今日は僕の友人が遊びに来てるんだ』って言って、目の前に道尾が現れたんです・・・・」 !! 頭の中に再びキーーーーーン と言う音が鳴り響いた。 まさか 婚姻を誓う事になる男との初めての出会いが・・・・・。 まさか・・・・・。 そんな場面とは・・・・。 |