7 熱い。。。。。 私はネクタイを緩め、テーブルの上のライトビールに口をつける。 口上を終えた男の手には、いつの間にか浅黒い鞭(ムチ)が握られている。 「山本、あの女 40過ぎやて・・俺等と同じ歳くらいやな・・・・・恵ちゃんともな」 塩田の目も、いつしか舞台に見入ってる目だ。 “ビシャン ビシャン・・” “ああん ああん・・” 鞭の音と女の声、2つの音が交互に空間に木霊(こだま)する。 本物なのか?。 私の一瞬の疑いを否定するかのように、鞭の音と女の悲鳴が激しくなっていく。 やがて女の悲鳴の中に、甘い響を感じ取ったのは私だけだろうか。 いや・・間違いなく隣の塩田も・・・そしてこの空間にいる何十人という男どもの五感が甘味の混じった叫びを聞き取ったに違いない。 作務衣(さむい)の男が、左手の人差し指と中指の腹を女の額にあてる。 指は眉間を通り鼻頭を抜け、上唇へとたどり着く。 そして下唇が弾かれた瞬間、女の口からぺロっと舌が伸びてくる。 男の指がそれを待ち構えていたかのように、そこで踊り出す。 女の舌が男の指に操られるように、それを舐め回す。 男はもったいぶりながら、徐々に女の口にその指を抜き差しする。 女は黒い目隠しに守られながら、洸物の表情をしているのに違いない。 ここにいる男達は、皆 そう思っているはずだ。 女の喜びに待ったをかけるように、鞭の柄の後先が乳房に押し当てられた。 女の口がその痛みに男の指を吐き出す。 「い・・いたい・・・」 微かに漏れる女の声・・。 男の左手が今度は、片方の捻(ねじ)り出された胸の膨らみの先の突起にたどり着く。 男の指が、それを握りつぶすように捻(ひね)りあげる。 「ヒィーーーーーー・・・」 今度は確かな悲鳴が女の口から上がった。 「ふっふっふ・・皆様 女の声に騙されてはいけませんよ。・・・よく見てください この女の表情を・・・・この女 悦(よろこ)んでるんですよ・・・感じてるんですよ」 男の口元がピクリと歪み、右手に持った鞭の柄が、股間の翳りを失くした女の一本筋へと向う。 「ふふ この人妻M子は、この舞台に上がる為 夫に内緒で自分で翳りを剃ったのです。・・・一ヶ月に一度だけのこの舞台・・・夫も子供も知らない本当の自分を曝け出せる唯一の場所・・・それがこの舞台なのです」 (・・・・・・・・) 「さあ 皆さん この女の “ココ” がどうなっているか? ・・さあ 確かめてみましょうか」 鞭の柄が、股間の一本筋をゆっくり押し拡げていく。 女の “ソコ” が別の生き物の口のように鞭の柄を飲み込んでいく。 女の眉間に皺(しわ)が寄り、上唇は震えながらゆっくり広がっていく。 そして歓喜の声が轟(とどろ)いた・・・・・・・・。 舞台は次ぎのショーへと変わっていた。 若い女がベリーダンスを披露し、もう一人の女が登場するとレズビアンショーが始まった。 「どうや 山本・・」 塩田とは学生時代から、一緒に女遊びもした仲だ。 それでも何処かで照れを感じるのは、先程見た恵に似た絵画のせいなのか。 それと最初に登場した女・・・・・。 40過ぎ・・・・人妻・・・・夫に内緒・・・・本当の自分・・・・。 「山本 女の匿名性って知ってるか?」 首を傾げる私の目を見ながら喋り始める。 「さっきの女も黒い目隠しをしてたやろ、女は素顔が隠れる事によって本当の自分を曝け出せるんや。仮面舞踏会の仮面なんかも、あれを着ける事によって大胆に振舞えるんやな」 「・・・・・・・・・」 「ところで山本・・さっきの絵の事やけど・・」 丁度 塩田がその話を持ち出そうとした時だった。 いつの間にか近づいていたダークスーツに身を包んだ黒い男・・・。 スッと屈むと塩田の耳元で囁いた。 舞台では仮面に守られた女が、もう一人の仮面に守られた女の尻を鞭で甚振っている。 「俺がさっき言った・・あの絵の出何処・・・その答えが聞けるかもよ」 言葉の終わらぬうちに塩田がノッソリ腰を上げる。 私もつられる様に腰を浮かし、歩き出した塩田の背中を追いかけた。 “Staff Only” 非常口の向こうにそのプレートのかけられた真っ白な扉があった。 「1ヶ月くらい前にいきなり電話があってな、その人が俺にこの店を教えてくれたんよ」 「それで あの絵を見たのか」 黙ったまま頷く塩田の後ろでガチャリと音がした。 扉がゆっくり開いた。 |