「すべては患者さんのため」会社の軸となる、医薬品の安全管理を手掛ける
田辺三菱製薬は、医薬品の提供などで多くの患者の健康を支えています。前川 素子と上場 理江が所属しているのは、QV本部グローバルPV部。PVは「ファーマコビジランス」という用語で、医薬品の安全監視活動を指します。
中でも前川は、現在グローバルPV部のマネジャーとして活躍しています。
前川 「私たちグローバルPV部は、薬が安全に使われているかどうか確認し、より安全に使うにはどうしたら良いのかを考えるのが主な業務。情報を集めて解析し、皆さんが当社の薬を安心して使えるように発信をする毎日です」
現在、前川と上場を含めて、グループのメンバーは8名。新卒で入社した20代の社員もいれば、以前からファーマコビジランスの領域で経験を積んで転職してきたというメンバーもいます。上場は、経験者として転職した一人です。
上場 「薬を飲んでくださる方に安心と安全を、という思いで、日々の業務に取り組んでいます。副作用が起こらないようにするために、どんな患者さんに使ってもらうものか、どんな対策を取ればいいかを伝えていくのです」
すべては、患者の安心と安全のため。まっすぐな思いで医薬品の品質を守り続けているのです。
上場 「私たちの仕事は会社の根幹の部分を扱っている──そんな意識を常に持ちながらやっています。もし仮にここが杜撰であれば、業務停止もあり得るほど会社の信用に関わる話になるからです。当然スケジュールも厳守。もし破ってしまったら、会社規模の重大な事象につながりかねません。時間に追われる中で、スピードと質を両方求めながら妥協せずに働いています」
突然の出社制限。チームの空気を変えた毎朝15分のチーム会
田辺三菱製薬において重要な役割を担っているグローバルPV部で、2019年10月にマネジャーになった前川。しかし、彼女はすぐに大きな壁にぶつかることになりました。新型コロナウイルス感染症の拡大です。
前川 「マネジャーになったとき、新規医薬品の承認取得という、私たちにとってかなり大きなプロジェクトの真っ最中でした。そんなときに、コロナ禍になりまして。医薬品承認取得に時間を取られ、まだグループ全体を見られていない状態のまま、全員でのテレワークが始まってしまったのです」
マネジャーとしてグループ内をしっかり理解する前に突然出社制限が始まり、前川は徐々に焦りを感じはじめます。
前川 「皆さん優秀だったので、安心して任せてしまえたんですよね。でも反省しました。テレワークという環境なので、皆さんが何をやっているのか把握しにくいんですよ。もちろん、プロジェクトごとに都度コミュニケーションはとっていたのですが、出社しているときみたいに隣の席の人の仕事がわかることがなくなったんです」
前川だけでなく、グループ内からも、互いの業務状況が見えにくいことに不安の声は出ていました。上場は当時の様子を次のように振り返ります。
上場 「他のメンバーの忙しさがわからないので、助けてあげたいけれど、どうしたらいいかわからない。私が知っていることがあれば役に立ちたいけれど、まわりの状況がわからず、やきもきしていました」
こういった声が寄せられ、前川が最初に取り組んだのは1人ひとりと対話をすることでした。
前川 「状況の把握と、それぞれが孤独にならないように気持ちの面でフォローしたいという思いから、最初は1人ずつ電話をして対話の時間を作りました。そうすると、予想していたよりも話が長引くのです。それぞれ抱えていることがあるのだとわかりました」
個別に話をするよりも、メンバーに共有することで解決できる部分があるのではないか──そう考えた前川は、オンラインでチーム会を行うことを提案します。
前川 「毎朝15分、みんなで一回だけ集まれる場所を作ろうと思ったのです。こうして、今の『チーム会』がスタートしました。初回は2020年8月でした」
上場 「最初にチーム会を始めると言われたときは、正直身構えました(笑)。実際、雰囲気が定まるまでは割とかっちりと、プロジェクトの近況報告などをしていましたね。
でもある日、子どものころの話で盛り上がりましたよね。あれをきっかけに、雑談もしていいんだ、という空気感ができて。雰囲気が変わった感じがします」
前川 「そうですね、あれは大きかった(笑)。あるとき、自分が子どものころの原点に帰ってみて、何にワクワクしていたのかを話してもらったんですよ。皆さんの意外な一面が見えて、かなりおもしろかったですね」
その日をきっかけにチーム会に、なんでも話しやすいやわらかい雰囲気が生まれました。チーム内に温かな空気が流れ始めたのです。
みんなが隣にいる──テレワークになって増した親密度
上場 「チーム会のおかげで、他のメンバーが何をやっているのか把握できるようになりました。ありがたい限りでしたね。それまでは、正直もどかしかったんです。困っているメンバーがいれば教えてあげたいし、何より若手のことが気がかりで……」
上場が心配していたのは、経験の浅いメンバーたちのこと。
上場 「若い人が今どう感じているのか気になっていたのですが、チーム会のおかげで様子をうかがうことができ、かなり助かっています。
それに私自身も、うまくいかないことがあったときに、チームのみんなに聞いてもらっていて。吐き出す場所があるというのは、精神衛生上いいことですね。それから、毎日実施されるというのもいいところ。何か小さなことでも『これは明日のチーム会で聞こう』と思えるので、安心感があります」
前川 「私が今すごく嬉しいのは、年次に関わらず、みんなが思ったことをポンと言ってくれることですね。ちょうど今朝も、ある問題が発生してその原因について話をしまして。すると、若手からベテランまでいろんなメンバーが、『それってこうしたらいいんじゃない?』ってアイデアをくれたんです。
こんな風に、打ち合わせではなく、気楽に会話をしたり、相談し合ったりする“雑相”というのは、すごくいいなと思っています。若手自身も、自分が役に立てているという感覚を得られやすいかもしれないですね」
チーム会は、何らかの数字をめざすような、実利的なもののためにできたのではありません。メンバーが精神的に安定した状態で、距離を縮められたらという思いで始まったもの。だからこそ、前川はマネジャーとして今の環境を誇らしく思っているのです。
前川 「何かあったときのみんなのレスポンスが、早くなったと感じます。みんな、悩まずに自分の意見を出しやすくなったのかもしれません。チームとしての動きがスピーディーになりましたね」
上場 「レスポンス、早くなりましたよね。もはやチーム会のおかげで、テレワークになってから親密度が増したのではないかと思っています。というのも、出社していたときは、席の近い人とは話をすることが多かったのですが、席が遠いとそんなに喋るタイミングもなかったので。でも今は、みんなが隣の席にいる感覚があるんです。これはオンラインならではだと思いますね」
これからも、変わりゆく働き方に合わせたチームビルディングをしていきたい
テレワークという環境を、見事プラスに転じさせた『チーム会』の存在。仕掛け人として前川は「とりあえずやってみるといい」と話します。
前川 「最初に仕掛ける立場ってとても怖いんです。盛り上がらなかったり、続かなかったりしたら……。と考えてしまう。でも、もしダメだったら、自分のチームには合っていなかったというだけなので、やれるのであればやってみたらいいのではないかと思います」
メンバーが反応してくれるという自信を持って、最初の仕掛けをすることが肝心だと前川は考えているのです。
前川 「もちろん私たちのようなチーム会は一つの選択肢に過ぎません。大事なのは、メンバーが本音を言ってみたいと思うような場所を作ること。業務の話だけではなく、みんなで感情を共有できる空間が必要なんだと思います」
上場 「オンライン上で、雰囲気で相手の感情を察するのって、絶対に難しいことですしね。だからこそ、困っているときに声を上げられる場所が必要だと私も思います」
話しかけやすい雰囲気作りを確立してきた前川と上場。最後に、それぞれのキャリアプランを聞きました。
上場 「私は、今の業務領域に20年以上在籍しているので、昔のことも知っているし、幅広い経験があります。それが自分の強みだと思うので、うまく後輩につなげていきたいです。
そのためにも、話しかけにくい雰囲気は絶対に出さないようにしています。『何でも上場さんに聞けばわかるんじゃない?』と思ってもらえるポジションになれたらいいなと思っています」
前川 「私は、引き続きチームのあり方を模索していきたいです。今回のチーム会は、コロナ禍で全員がテレワークになり、離れ離れになったことへのサバイバル的処置でもありました。状況が変わると、日常的に出社する可能性も高まります。そのときにどんなやり方がいいのか、次のステップを考えなくてはいけませんね。状況を見ながらうまく形を変えていければいいなと思います。
チーム会によって作り上げてきたチームワークの強さは武器になります。これからより一層タフに、どんな環境にあってもどんな課題も解決できるようなチームになっていきたいです。全員が経験豊富な百戦錬磨のメンバーとして活躍できるように、みんなで支えあっていきます」
環境変化を、チャンスに変えてきた前川と上場。ここで培ったコミュニケーションの濃度が、チームをさらなる高みへと連れていってくれることでしょう。