職場環境の整備が進み、見えた課題。個人や会社がより成長できる仕組み作りを目指して

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2019年に田辺三菱製薬における働き方改革の中期計画の立案に携わった松村。いったんは取り組みから離れましたが、2022年4月に働き方改革グループが新設されるのに伴い、グループ長として着任し、再び働き方改革に関わる方針・施策の展開に関わっています。

松村 「計画立案時は田辺三菱製薬での取り組みでしたが、2022年の4月から三菱ケミカルグループとしての取り組みとなりました。以前は5,000人ほどだった対象人数が、グローバルまで入れると約7万人に。非常に大きなグループとなり、業界も製薬からケミカルへと拡大しています。

また、少子高齢化と人口減少が進むとともに、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた方針が策定されるなど、グループの事業構造が大きく転換するような変化もありました。そこにコロナ禍が重なったことで、継続的なソリューションの提供が求められるなど、ますます働き方の変革へのニーズが高まっていると感じています」

特に時を同じくして起こったコロナ禍のインパクトは大きく、社内の制度面の改革が飛躍的に進んだと松村は話します。

松村 「働く場所など職場環境の整備を進める動きは中長期計画を立てた当初からありましたが、コロナ禍の影響でそれが一気に進みました。もっとも影響が大きいときで出社率は3割程度まで低下し、約7割がテレワークという状況に。

テレワークや、ソロブース、コミュニケーションゾーン、リフレッシュゾーン、会議スペース、サテライトオフィスの活用、ペーパーレス化や脱ハンコ化など……。この先、数年はかかると見積もっていた新たな制度の定着が、3カ月ほどで進められたのは非常に大きな成果でした」

職場環境の整備が進んだことで、次の新たな課題も浮かび上がってきています。

松村 「まず、出社しなくなったことで、コミュニケーション不足に陥る懸念があります。それと関連して、チームの連帯感や会社の求心力など、社員のエンゲージメントを向上させる必要も出てきました。

また、通勤時間がなくなり、RPAなどツールの導入が進んだことで生まれた時間を何に充当させていくのかという点も重要です。イノベーティブな企画を生み出すことでも、それを生み出すための原動力となるプライベートの充実でもいいのですが、それらをどう有効活用し個人や会社の成長につなげていくかが大きな課題だと思っています。

さらに現状の課題として、仕事が部署内で完結してしまっているケースも多くあります。これからは “One Company, One Team”というスローガンのもと、部署間の垣根を超えて社内社外の知見をフルに活用できるようにしたいと考え、2022年9月現在仕組み作りを進めているところです」

まずは人と人とをつなげる場から。トップダウンとボトムアップ、両軸での働き方改革を

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働き方改革では、これまでさまざまな施策を実施してきましたが、中でも最新の取り組みのひとつが、会社の枠を超えたミーティング企画、“ワイガヤ”です。

松村 「まずはシンプルに、グループの中で人と人とをつなげる場を創出したいという想いがありました。社員数が7万もいれば、社内にどんな仕事があるのかさえわからず、連携しようにもできないのが現状ですから、まずは特定の課題を設定するというよりは、他の人の仕事を知り、自分の仕事を知ってもらうための機会という位置づけで開催しています。

7月に募集したところ、120人ほどの社員が参加を希望しました。非常に興味を持ってもらっていると感じていて、つながりを深めていくよりも、まずはこうした新たなつながりを増やしていくような取り組みをどんどん実施していきたいと思っています。

本来であれば、実際に顔を合わせてやりたいところでしたが、今後、テレワーク業務が中心となっていく現状を踏まえ、オンラインで意思の疎通を図るためのトレーニングも兼ねて、オンラインで実施することにしました」

また、社内イントラに意見箱を設置し、働き方に関する声を収集。短期間のあいだに、100を超える意見が集まっているといいます。

松村 「組織が縦割り化していること、テレワークが進む中でコミュニケーションが不足している傾向があること、会議の効率化をはじめ仕事のプロセスやシステムの改善に関することなど、内容は実にさまざま。このうち、影響力の大きさや緊急度の高さなどを基準に選定し、5つぐらいにテーマを絞って、課題を解決するためのプロジェクト化を進めているところです。

働き方改革を進める方法としては、トップダウンとボトムアップの二通りあると考えていて、組織として『こういう働き方でいこう』と社員の背中を押しつつ、それぞれのプロジェクトメンバーが『こういう課題があるから、こう変えていきたいね』と主導して進めていく。その両軸で回してくのが理想ですね」

社員一人ひとりが主体的に行動に移すことが、真の働き方改革を実現するための鍵

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創造性・生産性・実効性の向上を目指し、働き方改革に取り組んできた三菱ケミカルグループ。その効果が少しずつ見え始めていると松村はいいます。

松村 「RPAなどの導入により田辺三菱製薬単体で約6万時間の削減ができたというデータが出ています。その点でいえば、生産性はかなり上がってきているといえそうです。

また、社内アンケートを実施したところ、自己研鑽のための時間が増えたという声がたくさんありました。今後も自分の成長のためにますます時間を使ってもらいたいと思いますし、いずれは仕事の主軸が単純作業からクリエイティブでイノベーティブなものへとシフトし、会社の成長につながるところが目に見えるかたちで示せればと思っています」

職場環境の整備が進み、時間の使い方が変わったことで、松村自身も変化の兆しを感じているといいます。

松村 「業務関係でいうと通勤時間が減った分、自己練磨に当てる時間が増えたと感じています。仕事に関係する書籍を読む時間は確実に増えていると感じますし、今後はさらなる自己研鑽にも挑戦したいなと。

また、プライベートでは、テレワーク時の夕食の支度を担当するようになりました。料理をしていると違った頭の使い方をしているためか、デスクワークだけをしているときとは違ったアイデアが出てくることがあるんです。ワークライフインテグレーションというのでしょうか、仕事とプライベートの両方に役立っていると思います」

真の働き方改革を実現するために必要なのは、社員自らが主体的に行動に移すことだという松村。部分最適に陥らないためにも、各部署のあるべき姿についてこう話します。

松村 「部署が10あるとすれば、働き方も10通りです。現場の状況を知らないまま『こうやっていこう』と上から押し付けるのは現実的ではありません。われわれが提案する施策は、あくまで共通部分。方針は出しますが、さらに深いところは各部署で考えてもらうしかないと考えています。

昨年、各部署にお願いして、これからの働き方について話し合う場を設けてもらっていますので、働き方改革グループとして今後もサポートをしていく計画です」

働き方改革によって新しい価値を生み出し、個人の力・組織の力を、社会の力に

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働き方改革を、新たな価値の創出にどのように結びつけていくかが課題だという松村。今後も引き続き、さまざまな施策を講じ、トライ・アンド・エラーを繰り返していきたいといいます。

松村 「三菱ケミカルグループとなってまだ1年目。2023年度くらいから、少しずつ新たな働き方の効果が得られるところをイメージしています。創造性や生産性、実効性の向上につなげていくことを念頭におきながら、今はいろいろな施策の種をまく時期だと考えています」

働き方改革を会社の成長につなげていくためには、社員のエンゲージメント向上が欠かせません。松村は次のように続けます。

松村 「社員が会社を好きになるためには、縦横斜めの人間関係の距離感を縮め、一体感を醸成していくことが必要です。ただ居心地が良いだけではなく、社員一人ひとりが『この会社を皆で一緒に成長させたい』と思えるようになるための施策も打ち出していきたいですね。

田辺三菱製薬に限っていえば、福利厚生をはじめとするハード面を高く評価する社内アンケート結果に基づいて、今後は、チャレンジする風土など、ソフト的な充実を図っていく予定です」

そして、最終的な目標は、働き方改革を社内の取り組みとして終わらせるのではなく、社会へと広く還元していくこと。

松村 「働き方改革の効果がさらに伝播し、社員と家族、会社の関係性がより良いものとなる。それが社会にも還元されて、業績の向上にもつながっていく——そんな未来を想い描いています」