働き方改革の鍵は現場の主体性。社員それぞれが課題解決するためのきっかけづくりを

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働き方改革グループが発足したのは、2022年の4月。2020年に田辺三菱製薬株式会社(以下、MTPC)の完全子会社化にともない、MTPCと当時の株式会社三菱ケミカルホールディングス(現在の三菱ケミカルグループ株式会社。以下、個社で使用する場合はMCG、グループ全体を指す場合はMCGグループ)がそれぞれ進めてきた取り組みの統一化を図る目的で立ち上げられました。

岡部 「2021年、社員一人ひとりが『ひらめき』と『きらめき』を生み出し、変化に対応できる個人と組織をめざしてMTPCの総務部に作られた働き方改革推進室が、2022年にMCGグループの働き方改革を推進する組織として再編されました。

同推進室の立ち上げに関わった松村 太輔がグループ長となり、三菱ケミカル株式会社出身の杣がチームリーダーに就任。それに私を加えた3名を中心にして、各部署との兼務というかたちで参加するメンバーと一緒に総勢7名で働き方改革を進めています」

人事部や経営企画部が主導して働き方改革に取り組む企業が多い中、MCGグループの働き方改革は総務部が中心。その背景について杣はこう説明します。

「働き方改革で解決すべき課題は社内の広い範囲に点在しています。所管を特定できないケースも多く、またそうした縦割り視点からこぼれ落ちるものこそが重要との考えから、組織のあらゆる事務業務をつかさどる総務部内に置かれることになりました。

風土や文化といった、各部署が個別にはなかなか手を出しにくいところや、どこかの部署が取りまとめて手を出した方が良いところにわれわれが関与し、課題解決のための種をまいていきたいと考えています」

組織が刷新されたことで、MCGグループの課題となっていたのが社員のエンゲージメントの向上。社員一人ひとりが会社に愛着を感じ、やりがいを持って仕事に取り組んでいけるような素地を築くために、“One Company, One Team”というスローガンのもと立ち上げられたのが、働き方改革プロジェクト、“プロジェクトForging the work style”でした。

「働き方改革を進めていく上でわれわれが最も重要視しているのが、われわれも含めた社員の主体性です。社員それぞれが自ら考え、自分なりに働き方改革をしていくことが大切で、会社の取り組みはあくまできっかけだと考えています。

社内の文化や風土を変えていくためには、トップダウンとボトムアップ両方からのアプローチが欠かせませんが、とくに後者の動きを強化するためにこのプロジェクトが立ち上げられました」

MCGグループの働き方改革がめざす方向性は、“推進力UP・求心力UP・MCGグループの成長”です。

「まずは業務を効率化すること。デジタル技術などを活用して余力を生み出してよりクリエイティブ・イノベーティブな業務に充当したり、自己研鑽したりして、社員それぞれの成果を最大化することをめざしています。

社員一人ひとりの活動範囲が広がり社内外へのアクセスが増加すれば、人や組織に対する理解がおのずと深まるはず。『この会社で働きたい』『この会社で成長していきたい』との想いが醸成され、求心力UPにつながると考えています。

そして最終的にめざすのが、社員の創造性・生産性・実効性の向上です。それがMCGグループの成長を促し、より社会に貢献できる組織づくりができればと考えています」

こうした流れを具現化するためにも、“社員一人ひとりが「ひらめき」と「きらめき」を生み出し、変化に対応できる「個人」と「組織」へ”と様変わりすること、すなわち、ワークライフインテグレーションの実現が不可欠だと杣は言います。

「現時点では、イノベーティブワークよりもオペレーションワークの比率が多いのが現状です。主体的な学びによって人にしか出せない成果を出したり、自身の成長のために社内外のネットワークやコミュニケーションを活性化させたりして、生産性につなげていき、会社に関するステークホルダーの幸せを実現することが働き方改革のゴール。仕事とプライベートを分けて考えるのではなく、どちらも充実させる働き方をめざしています」

現場の声をもとに抽出した5つの課題。世代交代しながら各社・各部署に変革の種まきを

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▲プロジェクトを盛り上げる会での一コマ

プロジェクトを始めるにあたって、現場の課題を拾い上げようと働き方改革グループがまず実施したのがアンケートでした。寄せられた意見は約200件。世界およそ7万人、国内だけでも2万人という社員数を考えれば、決して満足できる回答率ではありませんでしたが、課題を絞り込むには十分な数でした。

「多かったのは、グループ内の他社や他部署、経営側の考え・価値観がわからないという声。コロナ禍でコミュニケーションが減少したことで近しいところで仕事が完結しがちになり、グループ内のつながりが希薄になっていることがわかりました。

そこで、集計結果から、テーマ1:One Companyでの新たな社風をつくりあげたい(縦割り文化と仕事のサイロ化の解消)、テーマ2:会社が好きな人を増やしたい(帰属意識を高めたい)という2つのテーマを抽出。さらに、前者を3つの課題、後者を2つの課題へとそれぞれ落とし込んでいきました。

テーマ1の軸となっているのは横のコミュニケーション。これをさらに“人と組織のつながりをつくる・人と組織のつながりを広げる・人と組織がつながるベースを整える”の3つの課題にまとめています。

テーマ2が扱うのは、縦のコミュニケーションです。“発信情報を整える・情報受信する心理を整える”の2つに分割し、ディスコミュニケーションの解消に向けて、経営側/社員側それぞれの課題としてまとめました」

岡部 「テーマ1に関して言うと、MCGグループは、素材から機能商品、医薬品、ガスなどさまざまな事業を展開しています。一つの事業所内に何社もあって、会社や部署ごとの文化、ビジネス、価値観が異なっていて、隣の人が何をしているのかさえわからないケースも少なくありません。グループ化したメリットを活かし切れていないのはわかっているけれど、どのようにつながればいいのかがわからないというジレンマを抱えています。

一方のテーマ2がめざすのは、MCGグループへの帰属意識のさらなる醸成です。事業が多岐にわたっているため、どうしてもMCGグループ全体ではなく、グループ各社への帰属意識が強いんです。社内に情報を発信しても、どうしても自分が所属している会社・ビジネス・製品に関することにしか興味が持てないという意見が多く見られます」

働き方改革プロジェクトは、MCGグループすべての人・働き方を変えようとする大掛かりな取り組みです。各テーマを解決するにあたっては、ボトムアップ型のプロジェクトの特性を活かし、MCGグループ内からプロジェクトメンバーの参加を募りました。この呼びかけに集まったのは約70名。確かな手ごたえを感じたと言います。

岡部 「すべての業務時間のうち、10%をプロジェクトに割くことを上長に承諾してもらうことが参加の条件でした。当初はかなりハードルの高い条件だと思っていましたが、想定していた以上に多くの人に集まってもらえたと思っています。

逆に課題の数は全部で5つしかなく、各チームのメンバーの定数が決まっていたので、各課題に5名ずつ計25名しかチームメンバーとして選任できませんでした。通常であれば残りのみなさんにはプロジェクト参画を諦めてもらわないといけないところですが、今回のプロジェクトではチームメンバーから漏れたみなさんにもサポーターというかたちでプロジェクトに参加してもらうことにしました。

サポーターのみなさんには、プロジェクトメンバーが考えた施策案に対する意見を出してもらったり、施策のパイロットスケールでの実施に協力してもらったりと、事務局としてもこの体制には好感触を抱いています」

「メンバーを決めるにあたって指標にしたのが多様性でした。MCGグループが掲げるスローガン“One Company, One Team”を縮図化したような構成にしたいという想いから、出身会社はもちろん、職種も年齢も異なるメンバーを選んでいます」

また、当プロジェクトは半年間を1タームとして、メンバーを入れ替えながら進められる世代交代制。働き方改革を推進する鍵となる人材を育成しようという狙いがあると言います。

「プロジェクトでは働き方改革を進めるための手法やコミュニケーションスキル、ロジカルシンキングなどについての講習会を用意していて、メンバーにはそこで学んだ知見を所属する部署に持ち帰ってほしいと考えています。グループ内の各社・各部署に変革の種がまかれ、育っていくことを期待しています」

第1世代のプロジェクトがキックオフされたのは2022年10月。2023年1月に中間報告会が実施され、3月末には成果報告会を行う予定ですが、MCGグループの働き方改革はこれからが正念場です。

岡部 「当グループとしてめざす大まかな理想像はありますが、会社としてありたい姿を描くのは各チームのメンバーたちの仕事。各世代が担う役割を決めたり、成果を判断するための指標を策定したりするのもメンバーたちです。

これだけ大きなテーマですから、長期的な視点で、半期ごとにバトンをつないでゴールまで持っていかなくてはなりません。3年後くらいにありたい姿が実現できていることをイメージしながら取り組んでいます」

「どうせ変わらない」を「変えられるかも」に。まずは一人ひとりの意識改革を

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働き方改革の取り組みが、MCGグループ全体の人・働き方に関わる課題解決のきっかけになればと話す岡部。当プロジェクトの意義についてこう述べます。

岡部 「今は事務局が中心になってテーマを設定したりメンバーを集めたりと段取りを組んでいますが、このプロジェクトが呼び水となって意識改革が進んで新しい価値観が浸透していけば、会社あるいは部署単位で同様の取り組みが自然発生的に生まれていくと思っています。改革を自ら進めていくような人材を多く輩出することで、われわれがいなくても改革が普及していくような土台づくりに貢献していきたいですね。

また、人脈形成も力を入れていきたいことの一つ。テーマ1で取り組む課題そのものでもありますが、プロジェクトを通じて、網の目が広がっていくように社内の人同士がつながっていく姿を思い描いています。

われわれがめざすのは、“働かせ方改革”ではなく、“働き方改革”です。そうやって社員が自主的につながったり、相互理解に努めたりすることが、仕事の可能性を拡張し、誰もがいきいきと働ける職場づくりにつながっていくと考えています」

組織が変わるために必要なのは、まず人が変わること。それぞれの働き方を、会社を変えていこうという気持ちを社員一人ひとりが持ってほしいと2人は声を揃えます。

「働く人の意識が変わらなければ、働き方改革は実現しません。大切なのは、会社に対して何を期待し、会社をどう変えていきたいか、そしてそのために何ができるのかと、社員それぞれが働き方や組織のあり方を自分ごととして考えること。少しずつでもみんなの意識が変わっていけば、やがて大きな波になると信じています」

岡部 「本来、社員が7万人いれば、働き方は7万通りあるはずですので、働き方改革を自分ごととして考えてもらわないといけないんです。ところが、『自分が何かしたところで会社は変わらない』と思っている人は少なくありません。

われわれがまず変えようとしているのはそこ。もちろん、社内のルールなど、社員一人の力で変えられない部分があることも事実ですので、『自分たちなら変われる、変えられるかも』と社員に思ってもらうために、働き方改革グループが社内の調整役となって後押しをしていきたいですね」

MCGグループ内の隅々にまで活動を広げ、社外にも積極的な情報発信を

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働き方改革グループが立ち上がって約1年。大きな期待を込めながら、プロジェクトの未来を2人は次のように展望します。

「プロジェクトの輪がどんどん広がって、プロジェクトを通じてできることが増えたり、価値観や考え方が変わったりする人が増えていけばと思っています。とくに第1世代、第2世代、第3世代としてプロジェクトに深く関わってもらっている人には、事務局を離れたあとも、働き方改革に取り組み続け、周囲に波を伝播させていってほしいですね」

岡部 「プロジェクトには工場で働く人も参加していますが、製造現場に立っている人の中には、こういったプロジェクトが進められていることを知らない人も多いはずです。

それはわれわれ働き方改革グループが解決すべき課題。『変えられるかも』と思う人が一人でも増えるように、またそう思い立った人が、何者にも妨げられることなく実際に働き方を変えていけるように、MCGグループ内の隅々にまで活動を広げていかなければと思っています」

MCGグループとしての働き方改革はまだ始まったばかり。これからも活動の手を緩めるつもりはありません。

「働き方改革プロジェクトは長く継続してこそ意味があるものです。成果を出しながら活動を続けられるだけの基盤をつくるのがわれわれの役目。『MCGグループは良い会社だね』と一人でも多くの人に思ってもらえるようこれからも尽力していきたいですね」

岡部 「今後は社内だけでなく、社外に対しても積極的に情報発信していく予定です。お客様や知人など、社外からの情報を通じてプロジェクトの存在に気づき、それが意識改革のきっかけになることもあるだろうと思うからです。

同様のプロジェクトに取り組む他社の方との交流会に積極的に参加したいとも考えています。働き方改革に正解はありません。高くアンテナを張って、社外との連携も深めて情報収集や意見交換しながら、成功事例を増やしていきたいです」