新たなコミュニケーションとコラボレーションを生み出す場「C&Cラボ」

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「C&Cラボ(Communication & Collaboration Lab)」は、三菱ケミカルグループ株式会社(以下、三菱ケミカル)の有志社員による自主的なコミュニティ。平出は、メンバーがつながり学び合うことで三菱ケミカル内のコミュニケーションとコラボレーションを豊かにすることをめざし、活動してきました。

「C&Cラボの最大の特徴は、有志による活動である点です。それぞれがWill(意志)を持ち寄って集まり、本業とは違う文脈で活動することで、会社に新たな化学変化を起こすことを目的としています。

C&Cラボの基本思想は『自由参加制・公正性・互いに学ぶ姿勢』の三つ。三菱ケミカルの社員であればいつでも、誰でも自由に参加でき、普段の役職や上下関係にはとらわれないフラットな関係で、常に互いが学び合う姿勢が持てる場とすることを心がけています。

場所にとらわれずにあらゆる拠点の社員とつながりたいという考えから、すべての活動をTeamsなどのオンラインツールで実施してきました。具体的な活動としては、トークイベント、スキルを学ぶワークショップ、読書会などのイベントを月1回以上の頻度で開催しているほか、Teamsのチャットによる意見交換も活発で、日々交流を深めています」

2023年7月時点でC&Cラボの参加者は約400名。部門・役職・場所に関係なく、さまざまなメンバーが集まっています。

「2022年の夏に社内SNSを通じて参加を呼びかけたところ、最初の1週間で一気に100名ほどの社員の参加があり、それから約1年で今の規模まで育ってくれました。社内のコミュニケーションやコラボレーションへの関心の高さのあらわれなのかなと思っています。

コミュニティのコンセプトから、人事系の職種の方の割合が高くなるかと思っていましたが、ふたを開けてみると製造現場、研究開発、営業、さらにはマネジメント層まで実にさまざまな職種の方が参加してくれています。基本思想に共鳴してくれた方が社内のさまざまな層にまたがっていたのは、うれしい驚きでした」

メンバーの参加動機もさまざま。大きく三つに分けられると言います。

「一番わかりやすいのが、組織内のコミュニケーションになんらかの課題を持たれている方。部署内、チーム内でのやりとりなどになんらかの課題意識があって参加している方が多いように感じています。

他には、社内の新しいつながりを求めている方も多いです。コロナの影響によって部署内外の関係性が希薄化したことを受け、新たなつながりの場を潜在的に求めているというケースも少なくなさそうです。

そして、意外にもモチベーションが高かったのは、自主活動というアプローチ自体に興味を持っている方。当社では、全社的な規模で展開している社員の自主活動がそれほど多くありません。『何かおもしろいことがしたい!』という気持ちがある方も結構いると感じています」

基本思想にある通り、C&Cラボではフラットなコミュニケーションが生まれています。互いに学び合う文化が醸成されつつあると平出は話します。

「当社で行われたエンゲージメントサーベイの結果について意見交換しようとTeamsでメンバーに投げかけたところ、2〜3日の間に40件を超える意見が寄せられて、最終的には『C&Cラボでマネジメント層と対話してみたらおもしろそう』『C&Cラボで提言書を書いてみたら?』という具体的なアイディアまで生まれました。

また、本を推薦し合う読書会の活動では、取り上げられた本をC&Cメンバーの方が社内図書室に推薦したことで図書の追加がされました。また、図書室担当の方が『電子版の貸し出しを始めました!』とC&Cラボ内で共有したことで、社内図書室の存在を知るきっかけとなったと話すメンバーもいました。

このようなやり取りによって、規模の大小問わず『変化』が起こることを目にすると、このコミュニティが生きていることを実感します」

C&Cラボの成り立ちと進化。Willが形となる場所をメンバーと一緒に創り上げる

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▲C&Cラボの基本思想

コミュニケーションに関する個人的な想いからC&Cラボを立ち上げるに至った平出。その経緯をこう振り返ります。

「自身がコーチングやカウンセリングに助けられた経験があり、それから自分自身がコーチングをする側となるべく養成機関でのトレーニングを経て資格を得ました。

現在は、社外副業でコーチングの仕事をしています。コーチとしてのスキルやマインドセットは、三菱ケミカルでの自身の日々の業務に大きなインパクトがあると感じていますが、これを自分だけに留めておかず、社内にもっと広く還元する方法がないかと考えていました。

そんなとき、他の企業での社員の有志自主活動に関する事例を、たまたま友人から聞く機会がありました。自分が社内に広めたいと思っていることと有志自主活動というアプローチを掛け合わせたらおもしろいことができるかもと閃いたのが、C&Cラボを立ち上げたきっかけでした」

立ち上げ当初から、個人のWill(意思)に基づいて活動することを重視してきたと言う平出。自身のバックグラウンドであるコーチとしてのマインドセットに基づき、メンバーと一緒に創りあげていく感覚を大切にしてきたと言います。

「コンセプトと基本思想は最初に私から示しましたが、その後の具体的な活動はメンバーと一緒に創り上げるプロセスを大切にしました。

たとえば、キックオフイベントはデザイン思考的なアプローチを取り、ワークショップスタイルで行いました。そして、オンラインホワイトボードを用いて『こんなスキルを学びたい』『こんな専門家をトークイベントに呼びたい』『過去の社内イベントでこれが良かった』といった具合にアイディア出しをして、具体化までつなげていきました。

これは、もちろんメンバーのニーズやアイデアを集める目的もありましたが、コミュニティの一員として参画している感覚を持ってもらうためにも大切なプロセスだと捉えていました。それを積み重ねることで、C&Cラボは個人の意思を自由に表現でき、そしてそれを聞いてもらえる場所なんだと実感してもらいたいという思いがあります」

個人のWillに基づき実現したイベントの一つが、『心理的安全性をつくる3ステップワークショップ』。全4回で延べ100名が参加する、C&Cラボを代表するイベントシリーズとなりました。

「『心理的安全性』は最近よく耳にする言葉ですし、その重要性は誰も否定はしないですが、いざ実際に取り組もうとすると簡単にはいきません。そんな心理的安全性をワークショップのスタイルで学び、実践してみようという企画です。

C&Cラボ内で、心理的安全性についてとても詳しいメンバーの方とつながることができて、その方との会話の中でこのイベントが形作られました。ワークショップのコンテンツは完全にその方にお任せだったのですが、ボランティアで内容の濃いワークショップを企画いただき、まさに個人の“Will”が形となってメンバーに伝わっていくダイナミックスを目の当たりにしたと感じています」

一方、C&Cラボの活動が広がるにつれて、社内の既存の部署とのコラボレーションも増えてきています。

「C&Cラボの活動を通してさまざまなネットワークができることで、社内の既存部署からイベントのコラボレーションで声をかけてもらう機会も増えてきました。

具体的には、人材組織開発系の部署から、社内展開を考えているファシリテーションのスキルセットをワークショップで試してみたいといった提案や、新規事業開発系の部署から、イノベーター人材の教育と発掘の視点でイベントをやりたいといった提案などがありました。既存の組織内ではできないような実験をする場として、C&Cラボが会社全体に良いインパクトを与えられればと思っています」

大規模イベントの企画を通じて感じた、チームの力とC&Cラボの可能性

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▲C&Cラボによるイベント開催時の一場面

C&Cラボのこれまでの活動の中で、平出にとってとくに印象に残っていることがあります。

「2023年初めに外部のスピーカーを招いて、アートの視点から考えるコミュニケーションというお題目でオンライントークイベントを実施しました。C&Cラボ以外の社員も参加できるオープンイベントとしたのですが、約200名の方に参加いただきました」

このイベントの運営を通じて、メンバーや自分自身が学んだことも多かったと話します。

「イベントの運営チームはC&Cラボ内で募集をして、8名の方から挙手がありました。皆さんボランティアで、本業のかたわら一緒にイベントを作り上げていきました。

C&Cラボでこの規模のイベント運営は初めてだったので、告知用ビラ作りや社内広報活動の進め方、当日の運営方法など手探りなことだらけ。ただ、チームの中にはビラのデザインに強い方や社内広報に強い方など、多様な経験やスキルを持っている方たちが集まっていたので、チームとして学び合いながら進められました。

また、有志活動だからこそ個人のモチベーションやWillは一番重要なので、イベント運営がやりがいと学びのある場だという雰囲気をつくることを心がけました」

結果として、このイベントを通じてC&Cラボの新たな可能性について確かな手ごたえを感じたと平出は言います。

「予想以上の参加者が集まったことはさることながら、事後アンケートでも好意的な反応が多く、イベント後はC&Cラボのメンバー数も数十人単位で増えました。

イベント運営は自分自身も試行錯誤の連続でしたが、運営メンバーからは学びの多い実りのある機会だったというフィードバックをもらいました。また、イベント後の達成感と心地良い疲労感は、さながら学生時代の部活の大会後のようで。チームの力を合わせれば有志活動でもここまでのことができることを示せて、C&Cラボの今後の可能性の広がりを感じることができました」

社内のサード・プレイスとしての自主社内活動。めざすは、組織を変える「実験室」

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これまで約1年にわたって平出はC&Cラボの活動に力を注いできました。本業と並行して自主社内活動に取り組むことの意義についてこう話します。

「あくまでも会社の中の活動だけど、メンバー各々が本業とは違うアイデンティティやネットワークを持てる点に大きな意義があると感じています。

C&Cラボは誰に強制されるわけではない、各自の自由意志に基づく活動です。そういった意味では、『学びたい』や『つながりたい』といった、個人の純粋なWillの集合体と言えると思います。

家庭でも職場でもない空間のことが『サード・プレイス』と表現され、そのような場においてコミュニティとつながって自己を見つめ直すことで、Well-Beingやエンゲージメントが高まるというコンセプトがあります。自分にとってC&Cラボはすでにそういう場所ですし、他のメンバーにとってもそのように思える場所であれたら大変うれしく思います」

C&Cラボの次の目標は「自走する組織」になることだと話す平出。見据えるのは、三菱ケミカルの未来です。

「今、C&Cラボの中で実験的に行っている取り組みで、メンバーが自身のWillに基づいてプロジェクトを自発的に立ち上げ育てることをサポートする仕組み作りを検討しています。個人のワクワクをインキュベーションする循環ができれば、C&Cラボは『自走する組織』となり、サステイナブルに生きるコミュニティとなるのではと思っています。

また、こういったアプローチが実証できれば、三菱ケミカルにとってのイノベーションや事業開発の在り方の一つの事例を示せるのではないかと思っています。C&Cラボはその名前が表す通り『ラボ=実験室』なので、新しい試みをいろいろ試していけるようなおもしろいコミュニティとして、今後もC&Cラボの活動を楽しんでいければと思っています」

※ 取材内容は2023年6月時点のものです